プロジェクト立ち上げから4年──「第1話は「これがアニメ『グノーシア』です」という宣言というか、自己紹介のようなものです」アニメ『グノーシア』リレーインタビュー第1回 プロデューサー対談 川勝徹さん(プチデポット)×木村吉隆さん(アニプレックス)
舞台は宇宙を漂う一隻の宇宙船、星間航行船D.Q.O.。人間に擬態した未知の存在「グノーシア」を排除するため、乗員たちは毎日1人ずつ、話し合いと投票によって“疑わしき者”をコールドスリープさせていきます。
しかし、主人公・ユーリは、どんな選択をしても“1日目”に戻ってしまう——そんなタイムリープの渦中にいました。
極限状況の中で交わされる会話を通じて、少しずつ明かされていく乗員たちの本音や秘密。信じるべき相手は誰なのか。何が正しい選択なのか。繰り返されるループの先に待つものとは——。
人狼ゲームをベースにしながらも、SF要素やキャラクタードラマを掛け合わせた独自の体験型ゲームとして熱狂的な支持を集めてきた『グノーシア』。その唯一無二の世界を映像として立ち上げるにあたり、制作陣はどのような試行錯誤を重ねてきたのでしょうか。
記念すべき第1回は、アニメ版『グノーシア』を共に手がけるプロデューサーの川勝徹さん(プチデポット)と木村吉隆さん(アニプレックス)に、制作の舞台裏や作品への想いを伺いました。
【写真】アニメ『グノーシア』リレーインタビュー第1回 川勝徹×木村吉隆
『グノーシア』は「カジュアル人狼」からはじまった
──2019年にPlayStation Vita向けソフトとして配信が始まった『グノーシア』ですが、そもそも企画を立ち上げたきっかけは何だったのでしょうか。当時の状況や思いを聞かせてください。
川勝徹さん(以下、川勝):その当時、非常に人狼ゲームが流行していたのですが、人を集めて時間を合わせるのは意外と大変ですし、「知らない人と推理し合う」というハードルも高そうだなという印象でした。
実際、プログラマー・しごと(『グノーシア』開発・シナリオ担当)くんが対面の人狼に挑戦したとき、初日に排除されてしまったことがあったそうで。人狼役でもないのに「役職カードをめくる手つきがプロっぽい」という理由で疑われ、発言を控えたら今度は「慎重すぎて怪しい」と吊るされた経験から、ゲーム自体は面白いのに対人相手との相性によって難易度が高いゲームだなと感じていました。
だからこそ、人狼の魅力を残しつつ、コンピュータゲームの特性を生かした一人用の仕組みで楽しめるゲームはできないかと思い、まずPlayStation Mobileで「カジュアル人狼」を開発していたのですが、途中で配信サービスが終了してしまって。そこで本格的にPlayStationVita版へ本格的なゲームとして参入することにしたんです。
──『グノーシア』の世界観や個性豊かなキャラクターたちは、どのような過程を経て形になっていったのでしょうか。
川勝:当初は議論パートだけで、キャラクターも3、4人くらいの「カジュアル人狼」だったので、本格的なゲームのボリュームにするため、キャラクターを14人に増やして推理の厚みを持たせようと考えました。
その過程は、まずビジュアル担当のことりが先行でキャラクターを描き、Q flavorも同じく音楽を用意しつつ、最後に物語を作っていくやり方です。クリアまでの展開をしっかり固めるのではなく、実際にプレイしながら、都度作って調整しながら積み上げるイメージですね。
例えば、作中で「ループを100回以上体験した」と文章で語るより、実際に膨大なループ体験をしてもらうことで得られる物語をいかに実現させるかに注力しました。
──木村さんが『グノーシア』という作品に出会ったのはどんなタイミングだったのでしょうか。最初に触れたときの印象も含めて教えてください。
木村吉隆さん(以下、木村):はじめて『グノーシア』に触れたのは2021年のことです。仕事柄、さまざまな作品を普段からリサーチしている中で、あるときパッケージのSQのビジュアルが目に入りました。
キャラクターがとてもビビッドで、魅力的で。最初は1人用の人狼ゲームという理解だったのですが、実際にプレイしてみるとキャラクターものとしての要素や、タイムリープものの魅力を感じて、この作品をアニメ化したい!と強く思ったことを覚えています。
その頃の自分はAP(アシスタントプロデューサー)として経験を積みながら、プロデューサーとして立ちあげる初めての企画を検討しているところでした。その中で、当時の上司の髙橋祐馬にアニメ『グノーシア』の企画書を見せたところ、「すぐ問い合わせた方がいい」と即答してくれたんです。
──提案時、他にも高橋さんの言葉で記憶に残っているやり取りはありますか?
木村:「これまでに木村が出してきた企画の中で、一番面白い」と(笑)。自分は自分の直感と同じくらい、客観的な意見を大事にするようにしています。なので、髙橋のコメントはすごく自信になりました。
──アニメ化のオファー時に木村さんが送ったメールが、公式HPの「航海日誌」で掲載されているのを拝見しました。川勝さんは、オファーを受けてどのように感じましたか?
川勝:とても丁寧でなにより原作愛に溢れたオファーでした。個人的にはアニメで動く乗員たちの姿を見たかったですし、経験したことのないプロジェクトだったので、とても興味が沸きました。
ただ『グノーシア』は「ゲームとして全力で作りきった完成された作品」だったので、これ以上のものは考えられなかった。ですので、アニメ化にあたっては、ありあえたかもしれない「別の新たな世界線」というアプローチでアニメの完成系を目指し、関わる方々のクリエイティブを最大限に発揮した『グノーシア』宇宙を作ろうと思いました。
そのために、アニメとゲームのプロデューサーがお互いに力を合わせて、これまで観たこともない面白い作品にしようと覚悟を決め、連名で決意表明をした次第です。
木村:アニメのクレジットを見慣れている方には伝わると思うのですが、アニプレックスのプロデューサーが『メインスタッフ』としてクレジットに名前を出すのはかなり稀です。でも、今回はあえて名前を出しました。
理由は、川勝さんが話されたとおりです。原作のプロデューサーと、アニプレックスのプロデューサーが、本気で一緒にものづくりをするという覚悟を、クレジットに込めたつもりです。
もちろんIP(作品)によっては「裏方が(表に)出ないほうがいい」というケースもあると思います。ただ『グノーシア』についてはインディーゲーム原作という作品性や、川勝さんをはじめとするスタッフ&キャストの想いを、至近距離で見てきた自分の立場から伝えていきたいという気持ちもあって。
──アニメ化にあたって「原作で大切にしてきたものをどう受け継ぐか」は大きなテーマだったと思います。あえて言葉にするなら、どんな点を大切にされたのでしょうか。
木村:一番はキャラクターです。ゲームからアニメにする以上、シナリオの調整は必要ですが、それは「ゲームと同じ読後感をどうアニメで再現するか」という調整。キャラクターの性格や性質を変えるべきではないし、原作を好きな方が見て楽しめるものにすることはマストでした。
もう一つは世界観や空気感です。ゲームとアニメでは表現のアプローチは違いますが、根底にある「これは『グノーシア』の世界だ」と感じられる空気を大切にすること。それがアニメ化における大きな指針だったと思います。
第1話は「この世界は何なのか?」というチュートリアル
──そしていよいよアニメ第1話の放送を迎えました。完成した映像をご覧になって、どんなことを感じられましたか。
川勝:アニメ版『グノーシア』の視聴体験とは何か、その"楽しみ方"を知っていただく大事な1話です。ゲームで表現しなかったところを新たな演出で実現し、世界観を知れる内容にとても満足しています。
木村:川勝さんのいう通り、第1話は「この世界は何なのか?」というチュートリアルであり、視聴者の皆さまにとっても“初日”の体験になります。ゲーム内では圧倒的なテキスト量を叩き込まれ、わけのわからないまま会議がはじまり……。誰を信じていいかわからない中で、選択肢によっては負けて、消滅することもある。
その体験をアニメでも再現したいというのは明確にありました。アニメ『グノーシア』をやるなら「第1話はこうだよね!」というイメージは、市川(量也)監督、シリーズ構成・脚本の花田(十輝)さんとも早々に一致していたので、それが形になっていることが感慨深いです。
川勝:視聴者に丁寧に説明するというより、ゲームと同じように主人公のユーリが何も分からないままその場に置かれ、いきなり「これから会う三人のうち、一人は人間じゃない」と言われて戸惑う。
その“訳の分からなさ”自体を体験としてしっかりと導入している点は、かなりゲーム的な要素に近いと思っています。
木村:まさにそこですよね。話数を重ねるごとにキャラクターが増えて、ゲームと同じように、主人公の体験を通して、理解を深めていける構造を目指しています。
川勝:混乱しているのはユーリだけでなく、視聴者も同じなので。観続けるうちに徐々にわかっていくカタルシスを味わって欲しかった。
──物語を導く存在として重要な役割を担う、アニメオリジナルの主人公・ユーリ。キャラクター像はどのように生まれていったのでしょうか。
川勝:性格も含めてユーリのキャラクター像は、木村さん、市川監督、そして花田さんを中心に皆さんでつくっていただきました。
原作サイドである私たちが担うべきは、原作『グノーシア』の14人に新しいオリジナルキャラクターを入れる際、その世界に違和感なく存在させること。それは原作のキャラクターを描いてきた、ことり(『グノーシア』開発・画像担当)の力が必要でした。
そこでことりにお願いし、アニプレックスの方々ともディスカッションして……。自由に新たなキャラクターを描いてもらうことにしたのです。
木村:ユーリについては、制作の順番がすこし特殊で。ことりさんに「アニメでは主人公を作りたい」という構想をお伝えするとともに、花田さんのシナリオ作業が平行で進んでいたんです。
花田さんがアニメ版の主人公として「こういう行動をして、こういう喋り方をする子」というものを作ってくれて、同時並行でことりさんがキャラクターの原案を描いてくださって、あるタイミングで両者をすりあわせて、現在のユーリというキャラクターが生まれました。
──まだ完全にユーリのキャラクターが定まっていない中、ブラッシュアップを重ねる際はアニメの主人公としてどんな要素を大切にしていたのでしょうか。
木村:一言で言えば「応援できる子」です。この物語の主人公は完璧な子ではないので、間違った選択をしてしまうことがあります。
そうなったときに「なにやってんだよ!」と思われる子ではなく「頑張って!」と思ってもらえる子にしたいと思って、スタッフ一同で知恵をしぼりました。
川勝:本当に、ユーリは本作に関わる原作・アニメ双方のスタッフで育てたキャラクターですね。
木村:そうですね。ゲームの宇宙がある中で、新たにアニメの宇宙を作り、その主人公の目を通して世界を見ていくとなったときに、どういう主人公が必要なのか。
市川監督と花田さん、川勝さんと僕……全員で考えて、この子しかないというところまで突きつめて。最終的にはすり合わせていった内容を、キャラクターデザインの松浦(有紗)さんにお渡しして、それらすべてを1人のキャラクターとして紡いでもらいました。
川勝:アニメで『グノーシア』を知っていただいた方はもちろん、長年作品を応援してくれた方々にも喜んでいただける作品にしたい気持ちが強くて。だからこそ、原作側のリーダーとしてアニプレックスさんと向き合い、一緒に進めることでアニメにふさわしい主人公を生み出すことができましたね。
木村:すでに超個性的な14人がいる世界に、新しいキャラクター……しかも主人公を立てるのは最大のハードルです。ただ僕の中では「いける」と思えたタイミングが2つあって。1つはことりさんが原案のイラストを描いてくださったとき。
もともと15人目の乗員のイメージがことりさんの中にあったのではないかと思えるほど、素晴らしい原案をいただいたので、1ファンとして「美しすぎてまぶしい……」とドキドキしながら、これはいけると思いました。
もう1つのタイミングは市川監督、花田さんとの打ち合わせの中で、「この子(主人公)を通して、他のキャラクターたちの魅力を惹き立たせていこう」という話が出たときです。
この子はできるだけ、他の乗員たちのリアクションを引きだせるキャラクターにしようと。この子を通して、他の乗員たちの魅力が強調されていく。アニメの宇宙に必要な主人公は、きっとそういう子に違いないと思いました。
二人から見た制作現場の雰囲気
──第1回ということで、連載共通の質問をさせてください。熱量の高いスタッフやキャストが集まるこの現場で、「刺激を受けたこと」は何でしょうか。
川勝:作品の作り方ですね。冒頭でも触れましたが、『グノーシア』のゲーム制作はライブ感のある積み上げ型で、一瞬一瞬のプレイ体験を重視する非効率な手作りゲームです。一方で、今回のアニメは脚本を何年もかけて練り、綿密な計算とスケジュールのもとに進んでいます。
この精度を実現するには作品への深い理解と熟練の経験が不可欠で、木村プロデューサーや監督をはじめ、制作陣の皆さんが『グノーシア』を熟知しているからこそ可能だと感じています。
──川勝さんから見て、アニメ『グノーシア』の制作チームはどんなチームですか?
川勝:精度の高い意思疎通と妥協なく理想を求める執着の塊のようなチームだと思います。だからこそ絶対に、アニメ『グノーシア』を成功させたい。アニメで思い描く理想をアニプレックスの皆さんは出来る限り実現してくださったので。
もし(アニメ『グノーシア』に)続きがあるなら、そのときもこのメンバーで挑みたいです。それくらい、現場全体に熱意が満ちていました。
木村:僕は川勝さんのプロデューサーとしての姿勢に強く刺激を受けました。魂を削るとはどういうことか、責任を取るとはどういうことかを、川勝さんと一緒に仕事をする中で、身をもって学んでいます。
作品に真剣に向き合う姿勢や、妥協を許さない覚悟は、常に背中を押される思いです。プロデューサーとして、そして職業人としてどうあるべきか。今も川勝さんから学んでいるところです。
第1話は、ゲーム原作をアニメにする翻案のエッセンスが詰めこまれていると思います。ゲームの会話劇を、アニメとしてどのように面白く見せるのか。よくアニメは総合芸術と言われますが、その「総合」が結実したのが第1話だと思います。
川勝さんをはじめ、プチデポット皆さま、そしてファンの皆さまが紡いできた『グノーシア』に応えられるように、スタッフ&キャスト一同、全力で臨みました。その力が重なっていく光景にも、本当に刺激を受けました。
──最後に、第1話をご覧になった皆さんへ向けてメッセージをお願いします。
木村:第1話は「これがアニメ『グノーシア』です」という宣言というか、自己紹介のようなものです。4年間、100人を超えるスタッフが作品に向きあい続けた答えが、ここに詰まっています。
原作ファンの皆さまも、アニメではじめて『グノーシア』に触れる方も、毎週楽しんでいただけるように全力で制作していますので、まずは純粋に「面白かった!」と思っていただければ、それが一番嬉しいです。
川勝:アニメもゲームと同じくプロジェクト立ち上げから約4年かけて制作していますが、ゲーム同様に血の通った“こだわりの手作り”を感じられる作品になっています。
プチデポット4人で作った『グノーシア』が、多くのクリエイターの力によって集結し、もう一つの『グノーシア』宇宙の軌跡を最後までぜひ見届けてください。応援よろしくお願いします。
【放送情報】
2025年10月11日(土) より放送中
TOKYO MX 毎週土曜 24:00~
BS11 毎週土曜 24:00~
とちぎテレビ 毎週土曜 24:00~
群馬テレビ 毎週土曜 24:00~
テレビ愛知 毎週土曜 25:45~
MBS 毎週土曜 26:08~
AT-X 毎週月曜 23:30~
【配信情報】
ABEMA・dアニメストアにて10月11日(土)より毎週土曜24:00~地上波同時配信
ほか、各配信プラットフォームにて10月14日より毎週火曜正午以降順次配信
※放送・配信日時は変更になる場合がございます