「スカッとする“リベンジ映画”じゃない」呂布カルマが語る『モンキーマン』の“痛みを伴う”魅力とは?【インタビュー後編】
呂布カルマが『モンキーマン』への共感を語る
あの『ジョン・ウィック』制作スタッフの参戦と、気鋭監督ジョーダン・ピール(『ゲット・アウト』『NOPE/ノープ』)のプロデュースでも大きな話題を呼んでいた映画『モンキーマン』が、8月23日(金)より全国公開中。深い映画愛に裏打ちされた激しいアクションだけでなく、格差や宗教など切実な社会問題をふんだんに盛り込んだストーリーなど、主演&初監督を務めたデヴ・パテルに絶賛の声が寄せられている超・注目作だ。
そんな『モンキーマン』を、プロのラッパーでありグラビアディガーとしても知られる<呂布カルマ>が語るインタビューの【後編】が到着。かつてプロの漫画家を志し、ラッパーとして“食える”ようになるまで様々な職種を経験してきたという呂布カルマは、己の拳一つで底辺から“闇の頂点”へと這い上がっていくバイオレンス劇を、どう観たのか?
作品の背景や人物描写など細部への考察から、リベンジの構図やバイオレンス描写への共感などなど……。すでに鑑賞済みの人はもう一度観たくなる、これから観る予定の人は“心の準備”ができる、非常に興味深いインタビューの後編をどうぞ。
※物語の内容に触れています。ご注意ください。
「デヴ・パテルのほうが、今のキアヌ・リーブスより動きにキレがある(笑)」
――幼少時代にブルース・リー映画に夢中になり、テコンドーの道場にも通っていたデヴ・パテルは、本作への直接的な影響としてパク・チャヌクの『オールド・ボーイ』なども挙げている。韓国の復讐アクションに魅せられ、その激しさを自身が演じる主人公キッドに乗り移らせたのだ。そんなキッドのアクションについて、呂布カルマはこう語る。
『オールド・ボーイ』感ありますね、確かに。個人的にあの作品にはちょっと違和感があって、いわゆる“外国人”がやっていればファンタジーとして受け入れられるんだけど、同じようなアクションでも東アジア人だと何かひっかかるというか。だから『モンキーマン』のほうが、すんなりと受け入れられました。少しずつフロアを上がっていくところなんかは、『ブルース・リー/死亡遊戯』感ありますよね。みんな正々堂々と待っててくれてるっていう(笑)。
僕は寡黙な主人公が好きなので、一つの目的に向けて黙々と努力している奴みたいな、そこも好きです。カンフー映画や『ジョン・ウィック』みたいなノリ、それに最近のインド映画っぽいリアルな肉体の「痛い!」という感じもいっぱいあって、“他とは違うな”という感じがしましたね。
あと、「めっちゃ『ジョン・ウィック』じゃん」と思って観てたら同じスタッフが関わってるって聞いて、なるほど! と。でも『モンキーマン』のアクションのほうが泥くさいというか、スタイリッシュさを狙ってはいないですね。ただ、パテルのほうが今のキアヌ・リーブスよりも動きのキレはあったかな(笑)。彼は手足が長くてすごくスタイルがいいし、細マッチョで見た目もカッコいいですよね。
「“リベンジもの”の中では、暴力も正当化される」
――ファンにとっては有名なエピソードだが、かつて呂布カルマはプロの漫画家を目指していた。「赤裸々な暴力性/バイオレンス」や「対決」の構図、そして「現実とは異なる世界観」を描きたかったそうだが、これらの要素は『モンキーマン』にも当てはまる。
僕は不良でもなかったんですけど、若いときの“加害欲求”ってあるじゃないですか、暴力的なモヤモヤとした欲求。それは誰しもあって、だから喧嘩したりもすると思うんですけど、僕はそれを“描く”っていう方向に持っていって。でも、いま思えば漫画家になりたいというより、ただ暴力を描きたかっただけなんだなって。ストーリーとかはどうでもよくて、とにかく戦っているところを描きたい、っていう。
『モンキーマン』も、もっと若い頃に観たらめちゃくちゃ影響を受けてたかもしれない。だからパテルがアクション映画を選んだ理由も分かる気がします。しかもリベンジものって、暴力が正当化されるじゃないですか。だからいいんですよね(笑)。でも、中には「そこまでされなくても……」っていう、巻添えで死んでる奴もいるよなと思いながら観てました。そういえばキッドに協力させられるあいつ(※ピトバッシュ演じるチンピラ、アルフォンソ)って最後、どうなりましたっけ? あいつクズっぽかったから別にいいですけど(笑)。 セコい感じがブリブリに出てて、でもいい奴でしたね。
地下格闘技場の試合とかも、民衆の愚かさ具合が出てて良かったです。最初はみんな(モンキーマンに対して)「負けろ!」みたいな感じだったのに、誰かが応援し始めたらすぐに手のひらを返す感じとか、「お前らに意志はないんか」っていう(笑)。でもリアルではありますよね。
映画全体の世界観(架空の都市ヤタナなど)に関しては、アメリカなんかと比べたらインドのことはあまり知られていないだろうから、みんな「まあこういうものか」と思うんじゃないかな(笑)。それこそゴッサムシティ(※「バットマン」の舞台)なんかよりも、意外とフィクションとして捉えないかもしれない。
「バイオレンス映画にはスッキリするタイプと、痛みが残るタイプがある」
――本作は「リベンジ」が大きなテーマとなっているが、呂布カルマ個人として「いつかリベンジしたい」と思っている相手はいるのだろうか……?
直接的な意味での“復讐願望”はないですけど、自分が活躍している姿を見せることで「どうだ、これだけ差がついたぞ」っていうのはありますね。それはリベンジというより、もっとポジティブなものかもしれない。恨みっていうほどでもないけど、そういう相手に時間や気持ちを割くのは無駄だなって。
でも『モンキーマン』のキッドは、そこに取り憑かれてるじゃないですか。「お前の人生を生きてくれよ!」って思いながら観てましたね(笑)。母親も本当にそれを望んでいるのか? って。だから最後は少し寂しい気持ちにもなりました。
恨みを持つ相手に復讐するっていうのは誰にでもありえることだと思うので、一定の気持ち良さみたいなものはあると思います。もっと普遍的なものというか。バイオレンス映画にはスッキリするタイプの映画と、痛みが残るタイプの映画があると思うんですけど、『モンキーマン』は後者。スッキリしたい人は「S」だけど、この映画は「M」の人向けかなと。
本来、暴力って後味の悪いものだと思うので、その暴力性がもたらす描写もリアルだと感じました。そんなの好む奴いるんか? って気もするけど(笑)、でも、いると思うんですよ。だから『モンキーマン』は、スカッとする映画ではない。観たあとにモヤッと残るんだけど、でも難しくはない、みたいな(笑)。
撮影:町田千秋
『モンキーマン』は2024年8月23日(金)より大ヒット公開中