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女子柔道のオリンピック種目化に貢献したラスティ・カノコギ

文化放送

ニュースキャスターの長野智子がパーソナリティを務める「長野智子アップデート」(文化放送・月曜日~金曜日15時30分~17時)、7月31日の放送で、女子柔道をオリンピック種目にするために奮闘した女子柔道家、ラスティ・カノコギについて伝えた。解説に毎日新聞論説委員でノンフィクション作家、小倉孝保(著書『柔の恩人〜「女子柔道の母」ラスティ・カノコギが夢見た世界〜』で小学館ノンフィクション大賞も受賞)が登場した。

鈴木敏夫(文化放送解説委員)「女子柔道といえば今回(のパリオリンピック)、阿部詩選手の敗北と、場内に起きた詩コールが忘れられないシーンとなりました。きょうは小倉さんに阿部選手のルーツともいえる“柔の恩人”カノコギの話を中心に伺っていきます」

長野智子「実際にお会いして取材したということですけど、カノコギさんはどういう方なんですか?」

小倉孝保「彼女を知ったのはニューヨークに駐在していた2008年です。会うきっかけにもなったんですが彼女はちょうど、骨の癌が見つかって。余命があと1、2年、という感じでした。夫が鹿子木量平さんという日本人で、柔道家なんです。量平さんと出会ったからではなく、ラスティは10代から柔道に魅せられていて。自分で柔道をして、彼女、1962年に講道館へ稽古に来ているんですよ」

長野「ああ~!」

小倉「当時の講道館で戦う柔道は男性しか許されていなかった。女性の柔道家はいたけど形(かた)なんです。ラスティは戦いたい、と自ら乗り込み夏の合宿に参加しているんです」

長野「なんでアメリカの女性が柔道にのめりこんだんですか?」

小倉「彼女はユダヤ系で、しかも貧しくて。日本語でいうと非行少女のようでした。荒れていたんですけど、ある柔道家と知り合って。すごく体が大きいのに、小さな男性がラスティを軽々と投げる……格好してくれたらしいんです。『いまの何?』『柔道というものなんだよ』と。それで彼女はグッと入り込むんです。でも当時の柔道は男性がやるものだった。アメリカは柔道後進国だから柔道人口も少ないし、女性は彼女だけ、という世界でした」

長野「その時代はそうでしょうね」

小倉「1959年にニューヨークで柔道大会が開かれているんです。YMCAの大会で、地元の3つのクラブから。彼女も参加するんですけど、皆、男性しか参加しないと思っていたんですね。彼女は男性と戦って勝つんです。金メダルをもらうんですね」

長野「すごい!」

小倉「問題はそのあと。団体の中でラスティだけ呼びつけられて。『クレームがあったんだけど、あなた女性じゃないの?』と。そうですよ、と答えたら、じゃあその金メダルを返しなさい、と。男性しか出場はダメだ、とは書いていない。でも大前提として男性しか参加しないと思われている大会だと。彼女、返すんだけど、悔しく悔しくて仕方ない」

長野「それはそうでしょう」

小倉「でも団体のメンバーのもとへ帰ると、皆がすごく喜んでいる。『ラスティ、メダルどうしたの?』と聞かれると、軽い感じで『剥奪されちゃった』と。盛り上がっているのに水を差したくなかった。メンバーが『それならみんな返そうぜ』と。でもラスティは『あなたたちだけでもメダルをもらって』と自分だけ損をする。明るく振る舞ったけど心の中では『私みたいな思いは後輩の女の子たちにさせたくない』と。1959年に決意するんです」

長野「はい」

小倉「彼女は30、40年、戦い続けるわけです。選手としてもそうだけれど、女子柔道を認めてもらうため、女子選手が戦える環境をつくるため、IOCまで裁判で訴えています。彼女が言うには『最後に武器となるのは法律だから』。ニューヨークの法律ってあらゆる差別を禁じているから、この情報を使って戦う、と言ったら、いろんな弁護士が協力してくれる。そんな法律違反の大会だったらスポンサーにならないよ、という企業が出てくるなどして。それでどんどん、アメリカで女子柔道が広まってIOCまで動かしていくんです」

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