発達障害中3息子、高校受験は紆余曲折!内申点、学校見学、先生と意見の対立!?志望校の決め手は…
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
受験シーズンを迎えた今振り返る、志望校決定までのあれこれ
現在中学3年生のコウは先日私立高校の願書を提出しました。公立高校の願書提出期間は2月となり、現段階での志望校は決定しています。(※このコラムは1月に執筆しています)
コウは定期試験や模試の結果にムラがあるため、担任の先生ともよく話し合い、たくさん迷いつつの志望校選びとなりました。とはいえ、迷っていたのは主に周囲の大人たちで、コウ本人の基準は1年生の頃からハッキリしていたと思います。コウにとっての譲れない条件は以下の2つでした。
「僕は男友だちよりも女友だちのほうが多いから、共学がいいな。男子校はちょっと不安」
「僕は周囲の環境に流されやすいところがあるから、僕が行きたいA大学を選ぶ人が多い高校がいいと思う」
そんなコウでしたが、中学3年生の夏まで第一志望の学校は決めかねていました。
第一志望の候補は二校ありました。1年生の頃から志望していた公立A高校と、3年生から気になり始めた公立B高校です。どちらも条件はコウの希望に当てはまり、通学可能な距離です。
やがて夏休みに入り、A高校の学校説明会に行ったコウは、「やっぱりいい学校だったな~。雰囲気もいいし、先輩も気さくで高校生活が楽しそうだった。志望校、A高校がいいかも!」と満足気に帰ってきました。
このまま第一志望が決まるのかな?と思うほどA高校に好印象を持っていたコウでしたが、その後B高校を見学したところ、「ここは……凄くいい!生徒たちがキラキラしてる。絶対ここに入りたい!」と熱く語るようになりました。
学校見学に行くまでは「学校見学か~。もうほぼ志望校決まってるから、あとは3年2学期までの成績で決めるよ」と言って見学を渋っていたコウでしたが、実際に高校を見てみると、二校の違いを大きく感じたそうです。実際の空気を体感することは大切なのだなと改めて思いました。
第一志望は決定。では併願校は?
そうして公立B高校を第一志望に決めたため、私立高校は専願ではなく併願で受験することになりました。それにより、併願の私立高校は『偏差値に余裕のある安全校』を選ぶ必要が出てきました。
コウが志望している公立B高校は、偏差値的には少しだけ余裕がありますが、内申的には全く余裕がありません。やはり、提出物が十分に出せていなかったことが大きく影響してしまいました。
2年生の半ばからはコウなりによく頑張っていたとは思います。先生方もマメに声をかけてくださったおかげで、内申点は1年生の頃よりも10点近く上がっていました。それでも、合格者の平均よりも数点低い状態です。
そのため、私立高校は偏差値を大幅に下げて選ぶ必要があるのですが、コウは私立高校も「やりたい部活がある」「設備がいい」などの理由で選びたがりました。そんなコウの志望に対し、担任の先生はかなり難色を示されました。
先生は、希望を譲らないコウへの妥協案として「転コース受験でかなり安心して受けられる高校があります」と私立C高校を勧めてくださいました。自分が行きたい学校以外に全く興味のないコウでしたが、先生からの熱心なお勧めを受けて、「じゃぁ、受けておこうかな?」と言うようになりました。
私としては安全校を受けてくれた方が安心なのでコウの発言にホッとしました。とはいえ、コウが『どの集団でもそれなりにやっていけるタイプ』ではないことを知っている私は、「念のため学校見学に行かなくてよいのかな?」と気になりました。
それをコウに伝えてみると、「いや、第一志望の公立と第二志望の私立に落ちたら自動的にそこになるから、見学はしなくていいよ」とサラっとした返事が返って来るではありませんか。
「いやいやいや!そうかもしれないけれど、第一志望の公立高校も見学したら意見が変わったじゃない?」と見学を強く推し続けて数日……コウは不承不承「それもそうか。じゃぁ見学行くよ」言ってくれました。
こうしてC高校へ見学に行くと、コウからは予想外なくらい辛口の評価が出てきました。
「校風が自分には合っていない気がする」
「体験授業はよかったけど、この高校でなければ!という感じではなかった」
「進学実績を誇る割に具体的な数字が曖昧だから、実際は言うほどではないんだと思う」
コウとしては、安全校選びにおいて進学実績は諦めてもよい条件だそうで、それよりも「ごまかして勧誘してる感じが嫌」とのことでした。実際に、帰宅後高校の情報を調べてみたところ、進学実績は誇張して説明されているなと感じました。
無理強いされて気乗りしないまま来た学校説明会だったにも関わらず、コウはしっかり説明を聞き、学校の雰囲気を見ていたのだと驚き感心しました。それと同時に、「やっぱり、コウの場合、学校見学なしの志望校選びは危険だな~!」と冷や汗もかきました。
中学校の先生方とも何度も話し合い、ついに志望校決定!
そうして私立C高校は受験しないと決めたものの、コウは「ほかの安全校にはやはり興味が持てない」と言います。「コウが望んでいない高校を無理強いすると、あとでとんでもない揉め方をする可能性が高いだろうな」と思う一方、担任の先生の心配もよく分かります。
そこから1ヶ月程、進路担当の先生や担任の先生との進路相談を経て改めてコウと話し合った結果、何とか方針が決まりました。それは以下のようなものでした。
「私立は挑戦校と可能校の二校を受験して、どちらか受かれば公立は挑戦校の公立B高校を受験しよう」
「もしも私立が二校とも受からなかった場合はB高校は諦めて、安全校の公立D高校を受験しよう」
ここにきて選択肢として初登場した公立D高校は家から比較的近く、通うのが楽な学校です。コウの現在の偏差値よりも20程低いため、安全校と言うことができそうです。
私たちが現在住んでいる県では、『私立が第一志望の場合は推薦で出願し、公立が第一志望の場合は私立を安全校にする』という選択が一般的です。自分よりも偏差値が高めの公立高校にチャレンジすることは珍しくありませんが、公立高校の偏差値を大幅に下げて志望するパターンは聞いたことがありません。
そのため、コウの最終決定について中学校の先生方が首を縦に振ってくださるかドキドキでしたが、先生方はコウの選択を尊重してくださいました。
進路希望調査票を提出する3学期の個人懇談にて、担任の先生は「お母さんのおっしゃる通り、コウ君は自分が希望した学校を受験しなかった場合『あの時受験していれば……』と引きずると思います」と苦笑いで頷いていらっしゃいました。
『受験するのは本人だからね』という理由で、周りの大人たちが最終決定をコウにゆだねる形となった志望校選びでした。
執筆/丸山さとこ
(監修:新美先生より)
コウ君の受験校選びについて詳しく教えていただきありがとうございます。受験制度や受験可能校の校数などは、地域差が大きいですが、とっても丁寧な受験校選びをされていることが伝わってきました。
受験校は、最終的に本人が納得して受けないと、結局決まったところに進学しても、受験校選びの際の不満が残って、登校モチベーションが下がってしまうなんて言うこともよくあります。本人が納得して受験校を決めることが大事ですね。
とはいえ、納得までのプロセスが重要です。丸山さんが書かれていたように、めんどうでも候補の学校はできるだけ本人が見学に行くことが必要ですね。受験に興味が持てないお子さんだと、見学もめんどくさがってなかなか行けないことも多いですが、ここはなんとか励まして行ってもらいましょう。コウ君の場合は、見学はいいと言っていたのにもかかわらず、行ってみたらきちんとご本人の基準でよく観察して、分析していらっしゃって素晴らしいです。
受験の合格可能性についてシビアなところや、第一希望校と安全圏の学校も受けるのが一般的であるといった受験セオリーなどは、学校の先生からしっかり話してもらい、本人の希望とすり合わせて、折り合いをつけていくことが必要です。具体的に説明して、本人が「納得」して受験校を選べるようにするよう丁寧に段階を経ていきましょう。多少一般的じゃなかったとしても、本人が納得しないまま受験校を決めるよりは、最終決定を本人にゆだねたというのも、きっとあとで生きてくると思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。