【政府が備蓄米放出へ】長引くコメ価格の高騰は解消できるのか!?。3月下旬にも店頭に。「対症療法」との指摘もあり、日本のコメ政策は抜本的な転換を迫られている。
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「政府が備蓄米放出へ」。先生役は静岡新聞の川内十郎論説委員です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2025年2月25日放送
(山田)先週末にスーパーに行ったらお米売り場の棚がスカスカでした。
(川内)去年8月、このコーナーで「猛暑でコメに異変」という話をしました。農林水産省は新米が出回れば流通量が増え、価格も落ち着くと言っていましたが、まったくそうなっていません。
(山田)静岡新聞にも出ていましたが、国が備蓄米を放出し、3月下旬にも店頭に並ぶそうですね。
(川内)コメの高値が続く中、政府は供給不足の解消に向け備蓄米の放出を決めました。最大21万トンを予定しています。現在の極端な高値は、コメ離れを加速させるとの判断です。
流通関係者には価格が下がるとの予測が多く、高止まりの解消に期待がかかりますが、効果は限定的との見方もあります。農家からは「下がりすぎ」を心配する声も出ています。
(山田)農家の方の心配は当然ですね。
「令和の米騒動」は現在進行形
(川内)これまでの経緯を振り返ってみます。一昨年夏の猛暑によるコメの品薄や南海トラフ地震臨時情報による買いだめ、インバウンド(訪日客)需要による消費増加などが重なり、昨年夏ごろ店頭からコメが消えました。「令和の米騒動」とも言われる中、備蓄米放出を求める声が相次ぎましたが、農水省は秋に新米が出回れば事態は収まるとして動きませんでした。
しかし、買い付け合戦もあって見通しは外れ、その後も米価は高止まりしたまま今日に至っています。今月上旬に全国のスーパーで販売されたコメ5キロ当たりの平均価格は3829円。前年同期より9割高でした。「令和の米騒動」は現在進行形です。
(山田)うーん、9割高か。
(川内)ほぼ倍。消費者にとっては厳しい状況です。
備蓄米とは
(川内)著しい不作である「大凶作」など緊急時に備えて国が保有しているコメで、備蓄量の目安は100万トン。日本の主食用のコメ消費量は年間約700万トンで、その約7分の1。昨年6月末時点で91万トンを全国の民間倉庫300カ所に保管しています。
1993年の冷夏による「平成の米騒動」を契機に、95年から運用が始まりました。東日本大震災や熊本地震などで活用されましたが、今回のようにコメ流通の円滑化を目的に放出するのは初めてです。毎年10万~20万トンを買い入れ、5年程度保有した後、飼料用などで販売し、一部ずつ入れ替えをしています。
(山田)「平成の米騒動」は小学生の時。タイ米を食べた記憶がある。
(川内)私は駆け出し記者の時代。「タイ米のおいしい食べ方教室」などの記事が紙面をにぎわせていました。
(山田)本来は凶作の時のためなんですね。
(川内)そこを今回、規定を改めて対応することになりました。
高値続きの背景に何が
(川内)2024年産米の生産量は前年比で18万トン増えましたが、農水省が把握する業者の集荷量は24年末時点で21万トン減りました。これがいわゆる「消えたコメ」です。21万トンはお茶わん32億杯分。生産量は増えたのに、市場に出てこない状況です。農水省は値上がりを見込んで一部の集荷業者や農家が在庫を抱え込んでいる影響が大きいとみています。
(山田)32億杯。さすがに僕もおかわりできません。
(川内)ちょっと無理ですね。
放出で市場はどうなるか
(川内)今回の放出は、大胆な量を市場に流し、抱え込んでいるコメを早く売り出さざるを得ない状況を作るのが目的です。いわば、「売り渋り」のメリットをなくすということです。政府は初回分として24年産米を中心に15万トンを放出し、JA全農など約90の大手集荷業者に売り渡す予定です。
2回目以降は流通状況を調査して数量や時期を判断し、21万トンの放出で流通状況が改善しない場合、さらに追加を検討します。値崩れを防ぐため、原則1年以内に同量を買い戻す条件も付けました。ただ、この買い戻しによって再びコメ不足になり、価格が高騰するという予測もあります。そこを見込んでの抱え込みも懸念されます。
(山田)買い戻してまた不足では、意味がないようにも見える。
(川内)確かにそういう指摘もあります。
(山田)そうなんだ。
(川内)農水省は1月末、凶作などではない「円滑な流通に支障が生じる場合」も備蓄米を放出できるように改め、アナウンスしました。この時点で具体的な放出量や時期は明示せず、いわゆる「口先介入」での呼び水的な効果を狙いました。
(山田)実際に放出しなくても済むと思ったのかな。
(川内)しかし事態は沈静化せず、2月中旬に放出することを公表しました。農水省は消費者の不満に押されて「最後のカード」を切った形です。「無策だ」という声も上がり、夏の参院選への影響も気がかりになってきました。
「市場価格に国が介入することは正しくない」という考えや農家への配慮もあったでしょうが、対応が後手に回ったと言わざるを得ません。共同通信の世論調査では81%が「対応が遅かった」と回答しました。
(山田)いろんな事情があるんだ。
(川内)政局も含めた判断と言えます。
コメが投機対象に
(川内)今回の米価高騰から見えるのは、日本の主食であるコメが投機対象となりマネーゲームの波に翻弄されているということです。これまでコメの流通に関わっていなかった異業種の業者が、転売目的で参入しているという情報もあります。農水省は放出と併せ、在庫量の正確な把握を目的に、調査対象を農家や小規模卸売業者にも広げるとのことです。
(山田)マネーゲームか。高騰を利用してもうけようというわけだ。
(川内)備蓄米の放出は、あくまでも緊急的な「対症療法」との指摘も根強いです。コメの高値は資機材価格の高騰に苦しむ生産者には歓迎すべき状況でもあり、備蓄米の放出は生産意欲をそぐ可能性もあります。農水省が重い腰をなかなか上げなかった理由の一つです。
(山田)意欲がそがれては困る。
(川内)だから難しい。
抜本改革が求められる日本のコメ政策
(川内)政府はコメの需要が減る中で、価格の下落を防ぐために減反政策を続けてきました。「令和の米騒動」は、生産抑制一辺倒の政策により国内需要と生産量が拮抗している状況が、少しの波乱要素で価格急騰を招くことを露呈しました。
ギリギリの調整ではなく、輸出用米や備蓄米の拡大などにより余裕を持たせ、減反政策で弱体化した生産現場の足腰を強くするなど、主食の価格安定に向けコメ政策の抜本的な見直しが迫られています。「待ったなし」であると同時に「好機」とも言えます。
(山田)一番困るのは、コメ作りの衰退だ。
(川内)まさにその通りです。ここに来て、ようやくコメからの転作支援制度の見直しの動きなどが出てきました。コメはほぼ100%国内で自給できる唯一の穀物で、食料安全保障の柱です。生産者の高齢化や急減、気候変動のリスクもあり、手を打たないとコメ不足が常態化することにもなりかねません。稲作奨励の方向へかじを切るべきではないでしょうか。
輸出という点では、海外での日本食ブームやグルテンフリー指向での米粉人気などは追い風です。水田の多くが地方にあることを考えれば、米作振興は地方創生にもつながります。
(山田)収益を上げるにはどんな方法が考えられますか。
(川内)例えば集約による大規模化。低農薬や無農薬などで付加価値を高める方向性もあるでしょう。IT化や外国人材の活用などもクローズアップされてくると思います。
消費者も米作りに関心を
(山田)現状のコメ価格は高過ぎますが、生産者に一定の利益を出すにはある程度の高値は仕方ない気もします。
(川内)持続可能な米作につながる価格帯を、安定的に実現しなくてはなりません。
(山田)リスナーからは「(備蓄米放出は)場当たり的だと感じてしまいます」「飼料米に転作した人も多いと聞きました」などのメッセージが届いています。
(川内)私たち消費者も米作の現場やコメ政策、流通に関心を持ち、価格に一喜一憂するだけでなく、冷静に対応したい。
(山田)小学校の時、「田植え遠足」に行ったことを思い出しました。
(川内)子どものころから現場に触れたり、実際にコメを作ったりする体験は大切ではないでしょうか
(山田)本当にそうですね。備蓄米放出の効果に注目したいと思います。今日の勉強はこれでおしまい!