不登校「逃げて幸せになっていい」子どもの成長に欠かせないものとは? 親が知るべき3つのポイント 専門家が解説
我が子が不登校になったとき親が知るべき「3つのポイント」とは? 子どもの成長に欠かせない「居場所」の重要性について不登校ジャーナリストの石井しこう氏が解説します。
【画像】「不登校生動画甲子園 2025」授賞式 ステージに立った子どもたち不登校の児童は文科省調査で過去最多の34万人超え。学校へ行けない・行かない子どもたちに、大人はどう対応すべきでしょうか。「不登校生動画甲子園」の発起人で、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた石井しこう氏が解説します。
表彰式から見えた子どもたちの「今」
8月24日に横浜市で開かれた「不登校生動画甲子園 2025」表彰式(主催:TikTok|不登校生動画甲子園事務局)では、432本の応募作品の中から8本のファイナリスト作品が上映されました。
ステージに立った子どもたちは「まわりと違うことは恥じることじゃない」「不登校で見つけたことは自分自身でした」といった言葉を語り、自らの思いをまっすぐに社会に投げかけてくれました。
最優秀作品賞に選ばれたのは、新潟県の中学3年生・ひなさん(15)の動画でした。
小学生のころ、容姿に関する悪口などいじめに苦しみ、不登校になった彼女。ベッドから起きられない日々が続くなかで支えとなったのは、幼いころから好きだった「絵」でした。
受賞後、ひなさんは「どうしても伝えたいのは、逃げて幸せになっていいんだ」と語りました。審査員のロバート・キャンベルさんも「完成度がとても高く、何度も見て魅力にハマり込んでいった」と評価しました。
大会を通じて私があらためて感じたのは、子どもには「出番」と「居場所」が必要だということ。そしてその「居場所」を支えるものこそ、家庭での親子のコミュニケーションだということです。
子どもの成長に欠かせない「出番」と「居場所」
「居場所」についてはなんとなくわかる人でも「出番」についてくわしい人は少ないでしょう。
「出番」とは、子どもが「今日は自分が主役になれる」と感じる瞬間のことです。
勉強が得意な子にとってはテストの日、スポーツが好きな子にとっては体育祭やクラブ活動の日。得意なことが活かされる場面において、子どもは驚くほどの集中力と吸収力を発揮します。
出番によって自己効力感が高まり、「困難な状況でも自分なら乗り越えられる」という、自分への信頼感のようなものが育まれるのです。
この「出番」は、リアルな場だけに限りません。動画制作や投稿といったデジタルの場でも、子どもたちは自分の出番を見出しています。
▲「不登校生動画甲子園 2025」授賞式
動画甲子園に参加した子どもたちは、動画制作を通じて、自分の思いを誰かに届ける喜びや、自分の声を聴いてくれる人がいるという実感を得ていたようです。
そしてなによりも「不登校をした私にしかできないことがある」と感じられたことが、大きなやりがいにつながったでしょう。
子どもが安心して過ごせる場所
一方、「居場所」とは、子どもが安心して過ごせる場所のことです。
失敗しても責められず、うまく言葉にできなくても、そっと見守ってくれる。そんな無条件で肯定される場所です。
居場所の代表格は、なんといっても家庭です。しかし、家庭が「安心の場」となるためには、親子のコミュニケーションのあり方がとても重要になります。
いま、自身のお子さんや周囲の子のなかで学校に行きしぶっていたり、不登校だったりする場合は、居場所をつくるための親子コミュニケーションを意識していただければと思います。それは「勉強」や「規則正しい生活」を強いるよりも、不登校の子にとっては効果的な対応になるはずです。
コミュニケーションのポイントを3つ挙げます。
親子コミュニケーション3つのポイント
【1】「好き」を大切にする
(写真:アフロ)
子どもが夢中になっていることが、親から見るとたとえ意味がわからなくても「否定しない」ことが何より大事です。
ゲームに熱中している子どもに「その力を勉強に向けたらもっといいのに」と言ってしまうと、子どもは自分を否定されたように感じます。
それは、ケーキを楽しみにしていた人に「太るよ?」と水を差すのと同じ。できれば「それ、おいしいよね」と共感してほしいでしょう。
「好き」を大切にすることは、本人自身の存在を大切にしてあげることと同じなのです。
【2】「聞く」を大切にする
(写真:アフロ)
相手を否定しないこと、そして相手の話に興味を持とうとすること。その2つを心に決めて、30秒間だけ子どもの話を聞くことをおすすめします。
よく「家庭では子どもと向き合う時間を充分にとりましょう」と言われますが、そんなに時間のある家庭は多くありません。
なので30秒間だけ、毎日でなくても結構ですので、気が向いた日に聞いてみてください。
聞く内容は本人の好きなこと、話したいことであるのがよいでしょう。ゲームが好きな子には「なんでこのゲームは人気があるの?」と聞いたり、アニメが好きな子には「今期は何がおもしろそうなの?」と聞いたり。
親が聞きたい将来のことや勉強のことではなく、子どもが話したいことを30秒だけでも聞く。いわば「雑談」によって、子どもの心身はぐっと安定してきます。
【3】「時間」を大切にする
子どもの傷や悩みが癒えるには、「時間」という薬が必要です。
親としては「早く元気になってほしい」「前を向いてほしい」と願うものですが、その焦りはときに、子どもに「私の苦しさをわかってくれない」と受け取られてしまいます。
心療内科医・明橋大二さんは「多くのことは時間が解決します」と話しています。子どもはゆっくりでも、ちゃんと前に進んでいきます。「時間」も忘れてはいけないポイントなのです。
上記のようなポイントに気をつけていると、子どもは家庭内に居場所を見つけ、元気を取り戻していくでしょう。勉強も学生生活も、すべては「元気」を取り戻してからのことです。あせらず、元気を貯めていくことが大事です。
ただし、「うちはもっと難しいんだよなあ」と思う方もいるでしょう。さらに困っている方のケースと対応策を2つ、挙げたいと思います。
子どもがまったく話さないケース
(写真:アフロ)
性差でわけるつもりはありませんが、男性のほうが「話さない」ことが多いです。まったく話さないと、親や周囲としては何を感じているのかわからず、手がかりもつかめません。
そんなときは「デート形式」が効くことがあります。面と向かって話すのではなく、親子2人で並んで散歩する、カフェに行く、買い物に行くなど。
とくに会話をしなくてもいいのですが、横並びになること、そして2人きりになることで心理的な安全性を感じやすくなります。
パニックになってしまうケース
(写真:アフロ)
家のなかで子どもが泣き出したり、荒れてしまうケースもあります。
心に強い傷があって不登校になった子どもは、その傷がいま表面化して、家庭が安心できる場所になったときに「パニック」として表れることがあります。
パニックになったときは、小学生ぐらいならば親が抱きしめてあげましょう。中学生以降は、親との関係にもよりますが、良好で同性であれば手を握るのも一つの方法です。
それが難しければ、「黙ってそばにいる」こと。本人が何か話したければ、それをただただ聞いてあげましょう。
親としてもつらいことですが、こうした行為は、どんな言葉よりも効果的です。
本人に強烈なストレスを与えていないという条件下であれば、しだいに落ち着いていきます。
親としても苦しい時間ですが、きっとよくなりますので、気持ちに寄り添ってあげてください。
主役になれる場と、安心できる関係を
居場所をつくるための親子コミュニケーションのポイント、そして困った際の対応策をお伝えしました。たとえ学校に行けなくても、子どもには「自分が主役になれる場=出番」と、「何があっても戻れる場所=居場所」が必要です。
そして、その居場所の中核になる家庭では、「否定しない」「聞く」「時間を与える」というシンプルなコミュニケーションが、子どもの心を守ってくれます。
「出番」と「居場所」のある子どもは、自分のペースで、ちゃんと育っていきます。ぜひ、参考にしてみてください。
文/不登校ジャーナリスト 石井しこう
▲石井しこう氏 「不登校生動画甲子園 2025」授賞式