「アレルギーの子でもおいしく食べられるお菓子を!」ヒアリングから作りあげる地域密着型洋菓子店「おかしランド」【沖縄県宜野湾市】
沖縄本島の真ん中あたりに位置する宜野湾市。
河川や海岸、民話、米軍基地など多彩な文化を持つこのエリアで営業する「おかしランド」は主力の「米粉クッキーシュークリーム」を始めとするアレルギー対応商品を展開し、我が子への食べ物に悩む親御さんから絶大な信頼を集めています。
また子どもたちの飢えを減らす取り組み「みらいチケット」施策への参加など行動は多岐に及びます。
「なぜ、そうなったのか?」これまでの経緯に湧き出る興味を抑えられず、おかしランド代表・名城功(なしろ・いさお)さんにお話を伺いました。
「ワクワク感を子どもたちに」コンセプトは現代の駄菓子屋
「おかしランド」は2021年8月に創業し、今年で4年目を迎えます。
代表の名城さんは、大学時代の自炊経験から料理に目覚め、県内ホテルや大手飲食業にて勤務し、修業の経験から「オードブル・パスタ・寿司・ピザ・ケーキ」など、幅広く料理をこなすようになりました。
その後スキルを生かし、「おかしランド」創業。
お店のコンセプトは自身の経験でもある「100円握りしめ駄菓子屋へ走るワクワク感」を現代の子どもたちにも味わってほしいという思いです。
当初は一般的な商品が並ぶケーキ屋さんでしたが、ある出来事をキッカケに起きた「自身に対する需要の変化」による経営方針の転換が大きなターニングポイントになりました。
具体的にはこれまでの「小麦粉メイン」から、「米粉メイン」の商品制作に加え「アレルギー対応商品」開発を進めます。
これまで培ったノウハウを封印し、ゼロから新たな分野の技術習得を始めた名城さん。
なぜ、そうなったのか?
お菓子作り素人の筆者でも、苦労することが想像できる道へ舵を切った経緯を尋ねてみました。
「みんなと同じものが食べられない」という悩み
アレルギー対応のお菓子をつくるキッカケはオープンから3カ月ごろ。アレルギー持ちの男の子が来店したことでした。
「僕も食べたいなー」とつぶやく男の子。名城さんは「アレルギー持ちかな」と予測しつつ話を続けます。
「何食べているの」と聞くと「蒸しパンみたいな何かよくわからないもの」と男の子。
彼が持つ「みんなと同じものが食べられない」寂しい思いをくみ取る名城さん。
この子が食べられるおいしいお菓子を作ろう!と商品開発を始め、やがて販売するとアレルギー持ちの子を持つ親の口コミで広がり始め、来客数が増え始めました。
食べられる喜びを教えてくれてありがとう!
筆者もアレルギー持ちの息子がおり(現在は回復)、食べ物はいつも家族と別メニューでした。誕生日ケーキも別で、アレルギー対応のケーキ屋へ走ったのは記憶にも新しく、満足げにケーキを頬張る息子を見て、感謝した思いは忘れません。
前述した「蒸しパンみたいな何かよくわからないもの」でも、親の精一杯の努力なんでしょう。「日々積み重ねた思い・食べられる喜び」を子どもたちが感じてくれたことに感極まり涙ながらに打ち明けられることもしばしばあると、名城さんは語ります。
「食べる喜びを教えてくれてありがとう!」としみじみ語る親たちの感想を受け、さらに責任感が増していくと同時に、アレルギーの子を持つ親が次々と現れ、喜びの輪は広がり地域の受け皿となりました。
課題を抽出し乗り越える思い。
商品を米粉メインに変えることで、今までの小麦粉スキルが使えなくなったため、新たなスキルの習得に情熱を注ぐ名城さん。
アレルギー持ちのお客様が安心して食べられることがわかると、予想していた通りクオリティーの向上が求められる事に。「限られた食材の中でおいしく食べられる工夫に全力を注ぐ」思いと強い信念が「お菓子ランド」の独自性に発展しうることは、もはや時間の問題でした。
また、アレルギー対応商品を求めるお客様が多くなることで、開業当初のこだわり商品が売れなくなりショーケースから追いやられていく状況に複雑な思いを持ちながらも、名城さんは自ら切り開いた道を突き進みます(一番のこだわりであるシュークリームは、当時は小麦粉使用のため、アレルギー対応商品を求めるお客さんから敬遠されるようになりました。現在は米粉クッキークリームシューへ改良済みです)。
それに加え、お小遣いで買えるホテルレベルのお菓子を出す理想「駄菓子屋だけどホテルレベル」も掲げており、果てない向上心にただただうなずくしかありませんでした。
話し込んでいると、外は暗く時刻は午後7時30分。
「こんばんは」の声と共に子どもたちが来店する。兄弟でしょうか?名城さんと話しながら、おやつをうれしそうにもらいながら何かカードに記入しています。
「みらいチケットを知っていますか?」名城さんに尋ねられました。
子供達の貧困問題を救う「みらいチケット」にも参加
4年前に始まった、沖縄県宜野湾市の飲食店「タコライスラバーズ」が展開する「みらいチケット」。貧困問題が多い沖縄において、大人が寄付したチケットを使い子どもたちに無料で食事を提供する取り組みです。食べ物と引き換えに、子どもたちはメッセージカードへ感謝の気持ちを記入します。みらいチケットは県内150以上の店舗に設置されており、支援に協力する名城さんからチケットについてお話ししていただきました。
「先ほどの子どもたちは、この時間になっても親が家にいなく、食べ物もないのでみらいチケットを利用しているんですよ。沖縄にはまだまだこのような子どもたち達は多いです」
表情を曇らせる名城さん。沖縄県全体においてこのような報道をよく耳にします。
みらいチケットの企画者は元警察官だそうで、「夜ご飯がなく、スーパーでミートボールなどの惣菜を万引きし、補導される子どもたちの多い沖縄の現状に、救いの手を差し伸べたかった」思いから始めたとの事。※タコライスラバーズHP参照https://www.tacorice-lovers.okinawa/about
身近にある社会問題に、ただただうなずくしかなかった次第でした。
私も参加し「おいしく食べてね」と記入。わずかでも役に立ってほしい思いと共に
大人たちが子どもたちを支援する施策にとても感動したものです。
地域と共にありたい「おかしランド」にできること
看板商品の一つ「米粉クッキーシュー」を一口かじります。
表面にまぶしたクッキーのサクサク感。程よい歯ごたえのシュー生地に詰まった心地よい甘さ。溢れ出るしっとりした食感の上質なクリーム。
シンプルな素材に独自のこだわりで改良に「改良」を重ねた看板商品です。
当初はシューを小麦粉で作っていましたが、アレルギー対応の需要が増えるにつれ米粉に方針転換。試行錯誤の末、ある程度納得できる配合にこぎ着けたので「米粉クッキーシュー」として売り出すことに。大変な努力が実を結んだ瞬間です。
名城さんの目標を尋ねると「ショーケースにあるものが全てアレルギー対応で作れたら貴重な店になりますね」とニヤリ…。続けて「最新作を開発しつつ、定番も作れる個人店の良さを発揮できるので、個人店こそ発展性はある。競合相手がいない部分で勝負!」と、熱く語る姿に彼の目が炎になっているような錯覚を感じました。尽きないエネルギー…。
最後に店名のこだわりを聞くと、意外な答えに驚きました。
おかしランドと名付けたのは、個人のお店というより、地域と共にありたいという思いであり、地域・お客様、すなわち「誰でも気軽に入れる駄菓子屋」が出発点なんです。私のお店というよりは、地域のお店でありたい。だから、「おかしランドなんです!」
止まることを知らない挑戦と向上心を持つ名城さん。本日も試行錯誤を重ね、新商品の開発に挑みます。
「全ての人においしく食べてもらう」ために!!
※写真は6枚目名城功さん提供のもの以外2024年7月に波名城優が撮影したものです。
情報
住所: 沖縄県宜野湾市真志喜3-8-15
電話 098-960-8910
営業時間 11:00~19:00
休日:不定休
SNS:Instagram https://www.instagram.com/okashiland_nashiroisao/