【「文芸富士」第2号】 地方都市の文芸を支える尊い活動
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は3月8日発行(奥付)の「文芸富士」第2号を題材に。
富士市民を中心にした同人20人による「竹の会」による「文芸富士」は昨年1月に第1号が出た。小説、詩、短歌、随筆がそろった総合文芸同人誌の創刊は珍しく、静岡新聞紙上でもプッシュした。
第2号の巻末を見ると、2024年度の活動記録があり、毎月のように合評会や創作講座を実施しているのが分かる。地方都市の文芸を支える尊い活動だと思う。
第2号は小説、詩、短歌、エッセーなど延べ23人が原稿を寄せている。「文芸静岡」と同様に10~30代に誌面を提供する「招待席」の試みも続けられている。「文芸静岡」にも載っていた鈴木健斗さん(静岡市葵区、18歳)が、相変わらずサイコパス的な主人公の一人語りを書いている。
小説で目についたのは、密室型官能小説とも言うべき渡辺香代さん「甘くてあまくて、切ない。」。“第3の人物”とも言うべき者の性別が覆い隠されているため、物語が多角的に読める。蔵の天井裏から出てきた人形がまがまがしい事態を引き起こす渡邉健一さんのホラー「旧家の人形」、京都の夏の風物詩が甘く苦い記憶を呼び覚ます海野典子さん「送り火」も良かった。
「詩・短歌」部門では北かわ子さんの短歌連作「母」。手の内にあった命がついえ、心に移送されていく過程が過度にべたつきがないほど良い感傷とともに語られ、さわやかさを感じた。
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