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紅白、ライブハウス武道館、アフターコロナ…… 2023年地下アイドルシーンあれこれ|「偶像音楽 斯斯然然」第120回

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紅白、ライブハウス武道館、アフターコロナ…… 2023年地下アイドルシーンあれこれ|「偶像音楽 斯斯然然」第120回

今回は、いくつかのトピックをもとに、2023年の地下アイドルシーンを分析。ブレイクを果たしたグループと、新たなファン層の特徴についても紐解いていく。

・FRUITS ZIPPERの写真 1枚

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週金曜日更新)。

第74回紅白歌合戦。誇張でもなんでもなく、1番のハイライトはYOASOBI「アイドル」。日本はもとより韓国グループまでも巻き込んだあの演出は、本当の意味での世界的ヒットというものをまざまざと見せつけられた事案。いくら演出とはいえ、アーティスト本人たちが、YOASOBIと「アイドル」という楽曲が好きではない限り、ああはならないだろう。

つい先日放送された、NHKスペシャル『世界に響く歌〜日韓POPS時代〜』を観たのだが、K-POPに関しては周知の通り国策に始まり、少女時代にBTS、ミン・ヒジンとNewJeansの革新性など、ロジカルな話に特化していたのに、J-POPは坂本九「Sukiyaki」に始まり、とにかくYOASOBIのセンスがすごい!という結論に至っていて、思わず笑ってしまった。いや、間違ってはいないのだが。

話は紅白「アイドル」に戻るが、地下アイドルヲタク的に見れば、橋本環奈とあのちゃんによる、あの演出にはいろいろな想いが駆け巡り、感慨深く思うこともしばし。言い方は悪いが、本来の地下アイドルとしての正攻法な売れ方ではなく、別のベクトルからブレイクを果たした2人が、アイドルではないアーティストが歌うアイドルの皮肉を綴った楽曲で、年末の国民的な歌番組を飾るというのは、いやはや、演出した人の思考は尋常ではない。いいぞ、もっとやれ。

改めて橋本環奈のブレイクを考えれば、ある意味、真摯なアイドル活動ではない突発的な瞬間最大風速的なバズりの強さを象徴したようなものでもあり。それは昨今のTikTokをはじめとしたSNSブレイクに繋がる。とはいえ、一発屋に収まらなかったのは本人のポテンシャルあってこそのものであることは言うまでもなく。そして、ソロ活動における別ベクトルからのブレイクはグループに還元されないことをまざまざと証明してしまったわけだ。そこは長年ヲタクをやっている者なら感じていたことではあったし、かくゆう私も嗣永桃子のブレイクがBerryz工房の救いになると信じてやまないベリヲタだったのだから。

プロモーションとマネジメントの重要性

さて、一方で『第65回 輝く!日本レコード大賞』最優秀新人賞を受賞したFRUITS ZIPPER。ステージデビューから2年足らずで受賞した快挙は、地下アイドルの快挙でもあるだろう。FRUITS ZIPPERのブレイクにおいてSNSバズりはあくまできっかけであり、「わたしの一番かわいいところ」という確実に需要のある曲を、広く長く売っていったというマーケティング戦略が功を奏した好例である。リリースに照準を合わせた短期集中型の日本古来のプロモーションではなく、売れるものをきっちり売っていく韓国的な長期プロモーションであることは、当コラムでも何度か触れてきたが、メジャー主導ではない固定観念にとらわれない地下アイドルならではの機動力の高さという部分も大きい。

FRUITS ZIPPERに関しては、事務所が強い云々という声もあるが、アソビシステムが過去にアイドルをブレイクさせた例はなく、FRUITS ZIPPERのKAWAII LAB.自体が新規プロジェクトであるため、アイドル事業としては新規参入組だろう。それはアイドルシーンに黒船のごとき襲来したゼロイチファミリアも同様である。

コロナ禍直撃や悪天候で中止となったTIFなど、前途多難な活動を余儀なくされてきた#ババババンビも、2023年はメジャーデビューに日本武道館公演決定発表など、ここに来て実を結んだ快進撃が目覚ましい。楽曲クオリティの高さと健気なアイドル姿勢は幾度もコラムで触れてきたが、コロナ禍でデビューライブが中止になってしまった、いわくつきの前体制デビュー日である3月27日の真反対にあたる、9月27日を現体制の新たなスタートとし、メジャーデビュー日とする粋な計らいであったり、マネジメントがマネジメントたる“いい話”エピソードには事欠かないので、人気が出るのは当然でもあるだろう。

ライブハウス武道館

過去にも述べたが、3月14日の#ババババンビの武道館公演と5月18日、19日のFRUITS ZIPPERの武道館2デイズがグループにとってはもちろんのこと、どことなく閉塞感漂う地下アイドルシーン全体においても大きな潮目になるのではないかと考えている。地下アイドルヲタク以外のファンを多く掴んでいるグループが、日本武道館でどういう景色を作り上げるのか期待したい。

(追記:1月11日に#ババババンビより予期せぬ発表。別の意味で大きな潮目になるのだろうか……)。

アイドルにおける日本武道館公演はかつて80年代のバンドブーム以上に、あの場所でライブを行なうこと自体に特化されており、そこに至るまでのサクセスストーリーが無視されている傾向にあるのが現状である。確実にファンを増やし、それに合わせたキャパシティの拡大、結果として日本武道館公演へ到達すべきであるのに、現状多くの場合は武道館でライブをやることを決めてから、その動員を集めるにはどうすればいいのか?……になってしまっている。目的と手段が混同され、時にすり替わっている気がしてならない。どちらが正しいというつもりもないのだが、“Live at Budokan”や“ライブハウス武道館へようこそ!”世代の私にとっては、正直複雑な気持ちであるのが本音だ。“ライブハウス武道館”が別の意味でライブハウス状態になってしまうのは悲しい。

武道館でライブを行なったアイドルグループのうち、何グループが2度目以降の武道館を開催できているのか。“武道館でライブをやる”ことと、“武道館アーティストになる”ことは似て非なるもの、まったく別なのである。

アフターコロナのライブ環境

2023年、もう1つの大きな動きはアフターコロナである。規制のあるライブの時代が終わり、再びあの頃の光景が戻ってきたのかと言えば、そうとも言えない。よくも悪くもライブに対する向き合い方が変わった。演者側も観客側もだ。

コロナ禍がもたらしたものは悪いことだけではなく、よかったこともいろいろある。演者側で1番大きい変化は、観客側のパワーに頼ることができなくなったため、“魅せる”ことに特化したパフォーマンスになっていったことだ。歌唱力やパフォーマンススキルの上がったグループは多いし、シーン全体的で見た時のレベルは間違いなく上がっている。そして、それを見る観客側もしっかりとライブを観る、聴く楽しさを覚えたということだ。わーっと騒ぐだけが楽しいライブではないし、演者から見ても歓声やコールの大きさがそのライブの良し悪しではないことも気づいたはずなのである。

そして制約のあるライブハウス環境下は新たなファン層への大きな呼び水になった。ライブハウスに行きづらさや怖さを感じていた層が地下アイドルライブに来るようになった。それは同じくコロナ禍によって拡がった“推し活”の流行も相まって、ライト感覚でライブに来る人が多くなった。数年前までは“軽装で参戦”するのが当たり前とされていたが、昨今では“正装で推しに会いに行く”スタイルも定着しつつある。女性客の増加もそれに拍車をかけている。

そうした中で、制約のないライブが戻ってきた。昔のような活気に溢れたフロアを求める声と引き続きソーシャルディスタンス状態でゆっくり観たい層、とで二極化されているところもある。コロナ禍以前から活動していたグループは以前の状態に戻っている場合と、新たなライブ環境に順応、もしくはベクトルを変えたところも気受けられる。コロナ禍以降に活動を開始したグループは制約あるライブから始まっているため、現在でも比較的ゆったりとしたライブ環境であることは多い。コロナ禍で増えた女性客層が活気に溢れすぎたフロアが戻ってきたことによって離れてしまう、という話も耳にするので、フロアの治安や民度という問題を含めて、ライブに何を求めるかという二極化と共存問題は1つの課題であるだろう。

コールにしてもミックスにしても、多くの場合は演者側の意図とは別のところで発生したものが一般的であり、それを新たに生み出す楽しさというのもアイドルヲタクの楽しみ方の1つだ。逆に、それを演者側から指定されると別のものになるというのはiLiFE!を観ていて感じることでもある。

iLiFE!「アイドルライフスターターパック」は今や、学園祭の出し物になるほど、Z世代に普及しているヲタ芸特化ソングであるが、そのファン層の多くが非アイドルヲタクである。盛り上がりはハンパないが、実に統制の取れた一体感が形成されている。もっともアイドルヲタクより先に一般層への訴求が大きかったことや、そもそも所属するHEROINES自体がそちらの層に強かった基盤はあるにせよ、別基軸での地下アイドルライブを形成している。

地下アイドルシーンをトータル的に考えると、何年も地道に活動してきたグループより、比較的新規参入の新しい感覚の成功が一気に加速した2023年であり、2024年もそれが顕著になっていくのだろうなと感じている。

さらに楽曲や音楽的な側面からシーンを斬っていこうと考えていたが、長くなってしまったので、それはまた次回にでも。

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