A.ランゲ&ゾーネCEO ヴィルヘルム・シュミット氏インタビュー:ダトグラフ発売から四半世紀を経て
A.ランゲ&ゾーネがブランド初のクロノグラフ・ウォッチ「ダトグラフ」をリリースしてから四半世紀が経った。それを記念し、技術的にもデザイン的にも、圧倒的な存在感を放つふたつのニューモデルが発表された。
byjustin hurt
A.ランゲ&ゾーネは常にコレクターの憧れの的であった。伝統的には自らの知識を深く掘り下げて発見し、手に入れる必要があるブランドだった。しかし、2020年から21年にかけてのコロナ禍でそれが変わった。自宅で過ごす時間が増えたことで、愛好家たちは自分の趣味に没頭する機会を得たのだ。
このドイツのブランドは、品質と仕上げに対して非常にこだわっている。複雑時計からスポーティモデルまで、明確なラインナップを揃えている。その哲学は競争の激しい時計市場において、際立って独自のものだ。
A.ランゲ&ゾーネの名前は決して広く知られているわけではないが、ブランドは若いコレクター層の間で、新たな評判を築きつつある。
彼らのフィロソフィーを示すために、ランゲ&ゾーネは2023年、世界最大の時計ショーである「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」に、たったひとつの新作を携えて登場した。「オデュッセウス・クロノグラフ」である。
ランゲ初の自動巻きクロノグラフムーブメントを搭載し、センターに2本のクロノグラフ針を持ち、それらを同時にゼロにリセットできる仕組み「ダイナミックリセット機能」を備えている。おそらく、高級スポーツクロノグラフの唯一の存在だろう。
しかし、この複雑機構よりも興味深いのは、多くのブランドがウォッチズ&ワンダーズに5本から7本、場合によってはそれ以上の新作を持ち込む中、ランゲは1本だけで勝負したという事実だ。これこそがA. ランゲ&ゾーネというブランドの性格を物語っている。
そのため、2024年のウォッチズ&ワンダーズに対する期待は非常に高まっており、A.ランゲ&ゾーネがどのような新作を発表するのかが注目されていた。ブランドへの関心の高まりに加え、ランゲは今年「ダトグラフ」誕生25周年という節目の年でもあった。
ランゲは市場の期待に、ダトグラフの新作2本を発表することで応えた。それぞれ異なる素材、異なるコンプリケーションが使われていた。どちらもリミテッド・エディションであった。
ホワイトゴールドのケースにブルーダイヤルを備えた「ダトグラフ・アップ/ダウン」(世界限定125本)、そして「ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド“ルーメン”」(世界限定50本)である。
特に後者は、まさに技術の粋を集めた作品で、3つのコンプリケーションが組み合わされている。フライバック・クロノグラフには正確にジャンプするミニッツカウンターが搭載され、パーペチュアルカレンダーには瞬時に切り替わる大型の日付表示が備わり、トゥールビヨンには秒針停止機能が付いている。
半透明ダイヤルと夜光性コーティングにより、表示やメカニズムが発光し、暗闇における個性を際立たせている。さらに、ケースはランゲの独自素材、ハニーゴールドでできており、比類なき硬さと輝きを誇っている。他の素材にはない存在感を放っている。
1999年以来、クロノグラフはA.ランゲ&ゾーネの旗艦モデルのひとつとなっている。その礎となったのが、多くの賞を受賞した「ダトグラフ」だ。
ダトグラフの特徴は、ランゲ特有のアウトサイズデイト(大型日付表示)と、やや下に配置されたふたつのサブダイヤルが形成する、均整の取れた三角形のデザインにある。仕上げの美しさはどのメーカーの時計にも引けを取らず、完璧ともいえるものだった。
ブランドはクロノグラフにおける専門技術を追求し、これまでに13種類の革新的なクロノグラフモデルを開発してきた。
特に注目すべきは、2004年に登場した「ダブルスプリット」である。これは、精密時計製造の歴史において初めてダブルラトラパンテ機能を搭載したクロノグラフだった。また、2018年には「トリプルスプリット」を発表し、さらなる進化を遂げた。
1999年に発表されたダトグラフは、当初からランゲの志向を明確に表した特別なモデルだった。オリジナルの手巻きキャリバー「L951.1」は405個の部品で出来ており、ランゲ独自の仕上げを施してダトグラフに搭載された。1994年の再設立以来、このマニュファクチュールは独自の基準を確立しており、現在では70以上のムーブメントを社内で開発・製造している。
この度、A.ランゲ&ゾーネのCEO、ヴィルヘルム・シュミット氏と、ダトグラフ誕生25周年について話す機会があった。彼はこう言った。
「私にとっては明らかなことです。『ダトグラフ アップ/ダウン』は究極の時計です。もし私がひとつだけ時計を選ばなければならないとしたら、幸いその必要はありませんが……、もし選ばなければならないとしたら、それはダトグラフになるでしょう。アウトサイズデイト、自社製クロノグラフ、60時間のパワーリザーブ、そしてプラチナブラックのダイヤル――そうですね、私にとってはすべての条件を満たしています」と彼は語った。
シュミット氏はさらにこう付け加えた。
「私は2010年12月にこのビジネスに加わり、その6週間後に『ダトグラフ アップ/ダウン』が発表されました。このモデルは私の中で特別な存在なのです」
ハニーゴールド“ルーメン”についてはこう語った。
「複雑さや素材の点から見ても、おそらく究極のダトグラフでしょう。コレクターが私たちに求めるすべてを、ひとつの時計に詰め込んだものだと思います。ルーメンダイヤルからハニーゴールドのケース、そしてパーペチュアルカレンダー、トゥールビヨン、クロノグラフまで、すべてが揃っています。ハニーゴールドは加工が非常に難しい素材です。プラチナのように硬いため、工具に大きな負担がかかります」
ランゲのプロダクト開発ディレクター、アンソニー・デ・ハース氏は「機能性とデザインのバランスが完璧で、細部に至るまで精巧に仕上げられているダトグラフは、デビューから25年経った今でもクロノグラフのマスターピースとしての地位を保っています。ダイヤルやサファイアクリスタルのケースバック越しに見えるムーブメントの小宇宙のような美しさを見れば、なぜダトグラフが多くの時計愛好家だけでなく、時計職人にとっても夢の時計であるのかが理解できるでしょう」と胸を張った。
もしまだ実物を目にしたことがないなら、ぜひ見てみるべきだ。ダトグラフの記念すべき25周年と同時に、ランゲは再始動から30周年も祝っている。この稀有なブランドの今後の展開に注目していきたい。