「お金をかけず子どもの“非認知能力”を伸ばしたい!」親が“家庭で今日から”できること〔専門家が解説〕
家庭でできる非認知能力の伸ばし方とは? 民間学童や保育園を幅広く展開する東急キッズベースキャンプ代表取締役社長・島根太郎氏インタビュー第2回。全3回。
【画像】人間力を養う非認知能力「12の知恵」とはここ数年「非認知能力」という言葉を耳にする機会が増えました。そもそも非認知能力ってなに? 大切だとはわかるけれど、伸ばすためには具体的になにをすればいい? 習い事を増やすべき? 特別な体験をさせなければ? よく聞く「体験格差」も心配で……。
そんな保護者の不安に、非認知能力を重視した保育方針で注目される民間学童「キッズベースキャンプ」(KBC)の創業者で民間学童保育のパイオニア、島根太郎さんがお答えします。
そもそも「非認知能力」ってなんですか?
認知能力とは、数値で測れる能力のこと。代表例は学力で、算数も国語も社会も理科も英語もテストの点数で測ることができます。一方、認知能力に「あらず」をつける非認知能力とは……。島根太郎さんが2006年に創業した民間学童「キッズベースキャンプ」(KBC)では、なぜ非認知能力に注力しているのでしょうか。
「非認知能力とは、簡単に言うと点数化できない能力全般のことです。想像力、集中力、判断力、知的好奇心、やり抜く力といった内面的なもの、思いやりや公共心、コミュニケーション力などの他者との関わりを築いていく社会的なスキル。また、それらを含んだ人間性や人柄も非認知能力に含まれます。
例えば、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手。認知能力は当然ですが、どの人が見ても『大谷選手ってすばらしい人柄だよね』と思えてしまう非認知能力の高さが魅力ですよね」
島根さんの「キッズベースキャンプ」では、「社会につながる人間力=非認知能力」と考え、子どもたちの人間力を伸ばすよう放課後時間をデザインしていると言います。
「私たちは子どもたちの非認知能力を『自分軸』と『社会軸』の2つの軸で捉えています。
自分軸:自己肯定感、自立心、探究心、危険回避能力など、自分の考えを持ち、自立した個を確立していくための軸。社会軸:コミュニケーション力、共感、公共心など、他者と関わっていくための軸。
そして、それらの一番基礎になるのが、子どもが生まれたときから保護者の方に抱っこされ、慈しまれて大切にされることで育っていく自己肯定感です。その土台の上に、学童期にいろいろな体験活動や人との関わりを通して非認知能力が伸びていくと考えています」
キッズベースキャンプでは「自分軸」と「社会軸」の2軸からなる非認知能力を「12の知恵」としてまとめ、プログラムを通して体系的に育んでいるという。 提供:東急キッズベースキャンプ
非認知能力が伸びる体験は普段の生活にある
能力を伸ばす……と聞くと、ついつい思い浮かべてしまうのが習い事です。
公文で計算能力を伸ばす。英語塾で英語力を伸ばす。プログラミング教室でプログラミング力を伸ばす。体操教室で運動能力を伸ばす。このように目に見える効果があるものを選びがちですが、これらは認知能力の話。非認知能力については、日常生活の中にこそ伸ばしていくチャンスがあるようです。
「非認知能力は毎日のルーティーンの中でゆっくりと育まれていくもの。子ども同士のコミュニケーションや外遊び、大人とのやりとり、ボーッとしている時間。日常の中にとけ込んだ出来事もすべて、その子にとって大切な体験となります。
ポイントは強制的にやらされるのではなく、子どもが自由な選択の中から自分で決めて取り組むことです」
●家庭でできる非認知能力の伸ばし方【日常生活編】
・家事を一緒にやる
「子どもは大人への憧れを持っています。お料理、洗濯物のたたみ方、アイロンのかけ方など、『やりたい、やりたい』と言って興味を持ったときこそ、チャンスです」
思わず、『そうは言っても島根さん、やらせると時間がかかって大変です』という心の声がもれそうになりますが……。
「もちろん、その気持ちもよくわかります。ただ、長期的には子どもの自立につながりますから、『こっちがやったほうが早い』と思うところをちょっと我慢して、部分的にでもまかせてみましょう。
例えば、料理は創造性や集中力、判断力、時間管理する力など、『自分軸』の非認知能力を伸ばしてくれる絶好の体験です。実際、きょうだいがたくさんいて、下の子の面倒を見ながら保護者の手伝いをしているお子さんは、家事力がすごい。自立も早い。
料理教室などの習い事にお金を払って学ばなくても、子どもは普段の暮らしの経験の中でできるようになっていくのです」
民間学童のキッズベースキャンプでは創業時から勉強だけではない人間力、非認知能力を育むことをめざしてきたという。 写真提供:東急キッズベースキャンプ
・子どもに自分で計画を立てさせる
「普段の1日の計画、夏休みの計画など、子どもに決めてもらいましょう。大事なのは、自分で計画し、自分で約束したことを達成する経験。これがその子の自信を育みます。
親が『こうしろ、ああしろ』と言うのではなく、『自分で決めたことだよね』と言えるような環境を作ることが大切です」
家庭でできる非認知能力の伸ばし方【コミュニケーション編】
・身近な疑問から学びにつなげる
日常の中で、子どもたちが発する『なぜ?』を活用することも非認知能力の成長につながると島根さんは続けます。
「例えば、子どもと銭湯に行ったとき、コインランドリーが隣にあるのに気づいたとします。
そこで、『なんで、お風呂屋さんの隣にあるんだろう?』と質問。『脱いだらすぐ洗える!』『するどい! もう1つヒントを出すから、考えてみて。コインランドリーに来るお客さんとお風呂屋さんに来るお客さんは同じタイプの人なんだけど……、どんな人かわかるな?』『広いお風呂が好き!』『おお、それも正解』『ほかには……』と、そんなふうに会話を交わすこと自体が学びになります」
・日常生活をゲーム化する
「楽しいものと組み合わせることで、日常生活の中で子どもの興味を引きながら必要なことを身につけさせていきましょう。クイズにしてみたり、タイムトライアルにしてみたり、ゲーム要素を入れたりすることで、子どもの自発的な取り組みを促すことができます」
・ニュースを一緒に見て議論する
「テレビやネットでニュースを一緒に見て子どもがどう思ったかを聞いてみる。買い物に行った先でニュースを絡めてお金の話や経済のことを話し合ってみる。そんなことも子どもたちの非認知能力を伸ばす学びになります」
いつもより少しだけ子どもとのコミュニケーションの時間を長くしてみようと決めてのぞむと、心に余裕を持って一緒に考えることができます。
家庭でできる非認知能力の伸ばし方【学習】
・学校の勉強は「予習」で自信をつける
「復習も大事ですが、私は家庭学習では予習に多くの時間を使うことをオススメしています。というのは、授業のときに『俺、知ってるぞ』『私、わかる』と自信が持てるから。
すると、もっと頑張りたくなるので、学習意欲が高まります。なにより授業中に手を挙げて答えられたら、周りから『すごいね』とリスペクトされて、それがまた自信になりますよね」
・図書館を活用する
「図書館は本当に学びの宝庫です。読書によってさまざまな経験を疑似体験できますし、実際には出会うことができない昔の偉人と本を通して会話することもできます。
まさに想像力、知的好奇心、探究心を伸ばすにはうってつけ。無限にある本の中からいろんな世界を知ることができます。最初は漫画でもいいので、活字に慣れ親しむことが大切です」
学習において、認知能力と非認知能力はお互いに影響し合うと言います。非認知能力がベースとなって認知能力が伸びることはよく知られていますが、認知能力の高さが自信となって非認知能力の土台が厚みを増すこともある。つまり、どちらも子どもたちにとって重要な力なのです。
体験格差が心配? じつは日常にこそチャンスがある
近年、「体験格差」という言葉もよく耳にします。自然学習などの体験イベントでお金をかけなければ子どもに不利益になるのでしょうか。
「私たちキッズベースキャンプの夏イベント『サマーキャンプ』などを経験すると、子どもたちはぐんと伸びていきます。たしかに体験は大きな刺激になります。でも、ここまでお伝えしてきたように、非認知能力は日常生活の中の取り組みでゆっくりと確実に育まれていくもの。
体験格差を気にするよりも、日々のコミュニケーションを通じて本人が何を『おもしろい』と感じ、どういうものが『好き』なのかを改めて見出していきましょう。そこにお子さんの成長のチャンスが隠されているはずです」
次は、時間のない親でもできる「非認知能力」の伸ばし方について、引き続き島根太郎さんに伺います。
取材・文/佐口賢作
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●島根太郎(しまね・たろう) PROFILE
株式会社東急キッズベースキャンプ代表取締役社長 社長執行役員。2006年に日本初の民間学童保育施設「キッズベースキャンプ」を創業。2008年に東急グループ入り。民間学童保育のパイオニアとして業界を牽引している。2025年5月に初の著書『子どもの人生が変わる放課後時間の使い方』(講談社+α新書)を出版。
島根太郎氏が長年の学童現場でつちかった子育ての有意義な取り組みについて記した『子どもの人生が変わる放課後時間の使い方』(講談社+α新書)
連載は全3回 (※公開時よりリンク有効)