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活気あるアジアの市場を感じたアートフェア『UNKNOWN ASIA 2024』醍醐味は作家との対話、今後の活動が楽しみな5アーティストを紹介

SPICE

『UNKNOWN ASIA 2024』

紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2024 2024.12.6(FRI) 梅田サウスホール

アジアのアーティストが大阪に集結する国際アートフェア『紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2024』。今年は2015年の初開催から10回目を迎え、気持ちを新たに梅田サウスホールに場所を移して12月6日(金)から8日(日)までの3日間開催された。6日(金)のVIPプレビューでは、イープラスとSPICEのアカウントでインスタライブを実施。ライブではわたし井川茉代が進行を務め、SPICE編集部が気になるアーティストをピックアップし紹介した。ここでは熱気溢れる会場の模様と、イープラス賞を受賞したアーティストを含むライブで紹介したアーティストへのインタビューをお届けする。

『UNKNOWN ASIA 2024』

進化を続けるUNKNOWN ASIA

日本をはじめ韓国、タイ、インドネシア、マレーシアといったアジアの国と地域から、120組以上のアーティストとギャラリーが出展し、3日間で延べ9,084名が来場。今年は、アーティスト主体のフェアであることはもちろん、アジアの食、音楽などを紹介することで様々なアジアを体感できるイベントを目指し、いくつかの新たな取り組みがスタートした。

『UNKNOWN ASIA 2024』

公式アンバサダーにFM802のDJ土井コマキと心斎橋パルコ地下にあるTANK酒場のマスター・フルタニタカハルを任命。土井はアワード表彰式の司会を務め、場内で流れるBGMの一部をセレクト。フルタニはトークショーに登壇するなど、会場を盛り上げていた。

coffee halo

また、今回からフード&ドリンク エリアも登場した。coffee haloは『UNKNOWN ASIA』オリジナルブレンドコーヒー、コブラ堂は台湾の胡椒餅、おにぎりとおしるは奈良県産のお米で握り方までこだわったおにぎりを提供。食でもアジアを体感しながら、ホッと一息ついて再びアートと向き合うエネルギーが補給できる、嬉しいコーナーだ。

会場入り口すぐのところにあるTrue Colorsブースでは、簡易型色覚補助レンズ「Reading Colors AD」が無償で貸し出されていた。見え方少数派と多数派、どちらの体験もできるという試み。アートの多様性をさらに広げてくれるアイテムだと感じる。

『UNKNOWN ASIA 2024』

メイン会場であるホール内は迷路のようにブースが並んでおり、活気あるアジアの市場を思わせる雰囲気。初日のVIPプレビューでは、スポンサー、審査員、レビュアーによる投票が行われた。それぞれにレコメンドシールが託され、良いと思ったブースに貼り付けていく。また、審査員それぞれが賞を用意。数多くのブースの中から1組を選ぶのは楽しくも難しい作業だ。各審査員は、アーティストたちと会話をしながら作品をじっくりと見て回り、授与するアーティストを選んでいた。

ここからは、インスタライブで紹介したアーティスト5人をご紹介しよう。その中から1人がイープラス賞に選ばれた。

Chilipepper's Painting by Yasuyo Corbett (A Little Spice For You)

Chilipepper's Painting by Yasuyo Corbett

会場に入ってまず目に飛び込んできたのはChilipepper's Painting by Yasuyo Corbett (A Little Spice For You)の描く「くまさん」たちだ。なぜクマなのかというと、Yasuyo Corbettは現在、アメリカ合衆国のカリフォルニア州とネバダ州の州境にある自然豊かなレイクタホの側に住んでいて、家の近くによくクマが現れること。そして、アメリカ人の旦那さんがクマに似ているからだそう。クマと聞くと、日本では近くにいると危険なイメージだが、彼女が住んでいる地域ではおっとりしていて人間を襲ったりしないのだとか。アメリカの雄大な自然を感じさせる色調も魅力だ。

Chilipepper's Painting by Yasuyo Corbett

クマがかぶっている王冠には「頑張っている自分、すごいやん」と自分に王冠を与えるイメージで描いている。目の表現も大切にしていて、「あなたを見守っているよ」との思いが、反対にサングラスが描かれている作品には「見えるものがすべてじゃない」というメッセージが込められている。また、「私の絵があなたにとってスパイスになるように」という思いから、名前の後ろに(A Little Spice For You)のフレーズも付けているそうだ。

Yasuyo Corbett

もともとビジュアルマーチャンダイザーの仕事をしていたYasuyo Corbettが本格的に絵画を描き始めたのは5~6年前。地元関西に帰省した際、甥が通っていた絵画教室に足を運んだのがキッカケだという。初めて描いた絵の画像をインスタグラムに投稿したところ、購入したいという人が現れたそう。「関西人なので調子に乗ってしまって(笑)。作品を通して感動や気持ちをシェアできることに魅力を感じました」と笑顔で話してくれた。

ごまん

ごまん

動物モチーフの立体的な作品が目を引いたごまんのワイヤーアート。繊細さと力強さが同居する作品だ。太さの違う6種類の針金で作られる作品は光を当てると影にも奥行きがあり、特有の存在感を持っている。動物モチーフが多いのは、山梨にある実家ではシカの存在が身近で、そのカッコ良さに魅了され、動物の生命やエネルギーを表現したいと感じたから。「無骨な針金なんだけど、生命の力強さや命の残り香みたいなものを感じてもらえる作品を作りたい」と語る。

ごまん

以前は飲食の仕事に従事していて、独学でワイヤーアートを始めたというごまん。驚くことに作品に設計図はない。モチーフを決めると、写真や資料などで情報をインプットし、頭の中でイメージを膨らませ、手を動かしながら形にしていくのだ。

ごまん

よく見ると、シマウマやヒョウの柄も細いワイヤーで編み込んで表現している。柔らかそうに思える素材だが、実は硬い鉄のワイヤーでできていて、制作にはかなりの力が必要。その証拠にごまんの手には、硬いワイヤーを扱う際にできたマメがあった。そこには「お客さまの手元に届いたときに、形がくずれてがっかりさせたくない」という心遣いがあり、同じ理由で作品の梱包材もお手製だそうだ。写真では伝わりきらない動物たちの存在感を機会があればぜひ間近で感じてみてほしい。

andart315

andart315

家で育てているキングマハラジャと呼ばれるインドの植物、ユーフォルビア・ラクテアがモチーフ。アクリル絵の具をキャンバスに重ね、息を吹きかけて描いていく偶然性を生かしたandart315の作品作りには、「見えていない部分にもいろんなものがあるんだよ」という意味が込められている。小さめの作品はレジンコーティングが施され、メタリックな質感がより強調されて美しい。

andart315

長くグラフィックデザインの仕事をしていたandart315。コロナ禍で在宅で仕事をするようになった際、趣味の一環で植物の写真を撮って家族のためにTシャツを作るなどしていたが、仕事でも趣味でもずっとパソコンを使っていることに飽きてしまい、アナログで何か作りたくなったという。かつて美術の学校に通っていたので、絵の具に挑戦してみようと思い立ち、YouTubeの動画などで吹き流しの方法を学び、ネットで画材を購入。「家から一歩も出ずに作品を作り始めた」と当時を振り返る。

andart315

初期のころは植物らしく緑色を基調とした作品が中心だったが、お題に沿って色を決めていくスタイルに発展した。例えば、横浜高島屋65周年を記念する石鹸のパッケージデザインとして製作した「YOKOHAMA CLASSICAL BLUE」は、「横浜の青」をテーマに何種類ものブルーやゴールドといった横浜の歴史を感じさせる色合いで仕上げている。

大阪のアートフェアは初めてというandart315 は、「『UNKNOWN ASIA』の審査員の方は、立ち止まってお話を聞いてくださるので新鮮で楽しい」と関西ならではの雰囲気を肌で感じたようだ。

shibao minatsu

shibao minatsu

「わたしは結構怠惰な性格で、ダラダラするのが好き」というshibao minatsuの作品の主人公は、自分の分身として描いているというポテトちゃん。ソファーなどに寝ころび、ポテトチップスを食べながら動画など見ることを指すスラング「カウチポテト」という言葉に共感を覚えたことから生まれたキャラクターだ。

バンタンデザイン研究所に在学中のshibao minatsu。飼っている犬や友だちなど、身近な存在が作品に投影されているが、「小さいころからアメリカのカートゥーン ネットワークの作品をよく見ていたので、そういうテイストが好き」と話し、どこかアメリカぽい雰囲気を感じさせる作風だ。なかでもキャラクターたちの背中を丸めた姿勢が目を引く。「猫背っぽい感じやだるそうにしている姿が個人的にかわいいと感じる」という独特の感性も光る。

絵だけでなく、文字を描くのも好きだといい、「わたしは思ったことをはっきり言えないタイプなので、こういうかわいいイラストに言わせたら嫌味にならないのではないか」と、自分が感じている言葉をポップなテイストで書き込んでいる。

shibao minatsu

「Problem」は、あるCMからヒントを得て、悩みや問題というテーマで描いた作品。悩みの重さを岩のようにごつごつしたダンベルで表している。その重いダンベルを人差し指で持ち上げるように、悩みも「ひょいっと」持ち上げられたらいいなという願望を表現した。ありのままでいいんだよ、とシャキッとしていない自分を否定せず、明るく安心させてくれる作品たちだった。

tama

tama

イープラス賞に選ばれたのはtama。「おまぬけ」がテーマのポップな作品の前で多くの人が足を止めていた。tama本人を体現したネコのキャラクターtamanekoは、この子がいると何かが起きるという存在だ。「私自身が人目を気にして、小さなことで悩んでしまう性格。おまぬけな出来事のほうが記憶に残りがちなんです。それをアートとして表現できたら、楽しかったという思い出に変えられるのではと思い、タイトルにしました」という彼女の作品は誰にでもある「おまぬけ」な瞬間をポジティブに変換してくれる力を持っている。カラフルだが統一感のある配色も魅力だ。

tama

元々デザインの仕事をしていたtamaは、コロナ禍で作ったLINEスタンプの絵をほめられたことをキッカケに、やりたいことから逃げず行動に移してみようとアーティスト活動をスタートした。今回が初めてのアートフェアだったが、「お客さんからリアクションをいただけて出てみてよかったなと思いましたし、他のアーティストの皆さんの作品を観て、表現ってもっと自由でいいんだなと感じました。おまぬけというテーマからさらに広げて飛躍していきたい」と生き生きした表情で話してくれた。

tama

これまで『UNKNOWN ASIA』から大きく羽ばたいたアーティストは多く、登竜門ともいえるフェア。周りから刺激を受けたという彼女の今後の作品の進化にも注目したい。

なお、グランプリは昨年オーディエンス賞を受賞した大阪芸術大学卒のクリエイティブユニットTRIGGERが、一般来場者が選ぶオーディエンス賞は広島県生まれで東京を拠点に俳優としての修行を積みながらアートを発信しているReijiが受賞した。

記念すべき10回目の開催を迎えた『UNKNOWN ASIA』はコロナ禍を経て、多様な経歴やキャリアを持つアーティストの存在が目立ったように感じた。アートとデザイン、ファインアートとイラストレーション、デジタルとアナログなど、既存の境界を超えるような活動や表現が今後ますます私たちを楽しませてくれるのだろうと期待が高まる。

『UNKNOWN ASIA 2024』

また、作る側と観る側のコミュニケーションが盛んなのも『UNKNOWN ASIA』の魅力の一つだと感じる場面が多かった。関西人として、関西で行われるアートフェアならではの特色を誇らしく感じた。インスタライブの模様はアーカイブで観ることができる。会場の雰囲気やアーティストの生の声をぜひ映像でも楽しんでほしい。

世界が注目するアジアのアートマーケットを大阪らしく盛り上げる『UNKNOWN ASIA』。来年はどんなアーティストや作品と出逢えるのだろう。今からとても楽しみにしている。

取材・文=井川茉代 撮影=SPICE編集(川井美波)

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