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クリエーティブ県あおもり❶ 「青森でしか体験できない“最高”のクリエーティブ」ねぷた表現師・忠汰さん

まるごと青森

クリエーティブ県あおもり❶ 「青森でしか体験できない“最高”のクリエーティブ」ねぷた表現師・忠汰さん

青森だけのクリエーティブを探せ

はじめまして、クリエーティブ・ディレクターの嶋野と申します。
普段は広告づくりやブランディングの設計を行なっています。
わたしは青森が大好きで、多分30回以上は訪れていると思います。
外の人間だからこそ感じるのが「青森はクリエーティブアイデアの宝庫」だということ。
太宰治さん、奈良美智さん、寺山修司さん、シソンヌじろうさんなど数多く&多ジャンルなアーティストを輩出する一方で、三内丸山遺跡、ねぶた・ねぷた祭りなど歴史的文化遺産も豊富に存在。いまもその伝統は進化し続けていて、青森では「ここにしかないもの(Uniqueness)」が生まれ続けています。
そんな「青森にしかない」ものを生み出している最先端のクリエイターにインタビューを行い、青森が誇るクリエーティブ・マインドの秘密を探ります。

「ねぷた表現師・忠汰」さん

立佞武多の館にて、ねぷた表現師の忠汰さん。

みなさん、そもそも五所川原立佞武多(ごしょがわらたちねぷた)ってご存知ですか?
同じ青森でも青森市の「ねぶた」とはちょっと違います。
最大の違いはその大きさ。23メートル前後ある巨大なねぷたが主役のお祭りです。
建築界でも「Bigness」はそれだけでユニークさを表しますが、忠汰さんの立佞武多は青森で最も“高さ”を感じられ、クオリティも最高だと私は思っています。
20 代の頃から作品作りに携わり、今年の新作「閻魔(えんま) 」も担当している忠太汰さんから、青森ならではのクリエーティブを生み出す秘訣を探ります。

「閻魔」

嶋野:まずは今年の「閻魔」お疲れ様でした。 2台続けていた、独創的な女性モチーフから、今回はガラッと変えたものになりました。見どころを教えてください。

2024年の立佞武多「閻魔(えんま)」。立佞武多の館にて撮影。

ねぷた表現師・忠汰さん(以下、忠汰):市役所を退職してフリーになったタイミングでちょうど世界的にコロナがはじまって、生活様式がガラっと変わる中で頭の中に浮かんできたのが地獄の閻魔大王でした。いまって戦争が起きたり、大人たちが平気で嘘をつき合っているじゃないですか。同時に、 以前なら表に出なかったこともどんどん世の中で出て騒がれる時代になって。 だから、大人もそうですし、そういうニュースを見ている子供たちにも「悪いことをすると、 見ている人がいるぞ」というメッセージを、25 台目という区切りに原点回帰したものをつくろうと思いました。

嶋野:忠汰さんの立佞武多は他の作品よりさらに立体的に感じます。 普通はお客さんの方向(下側)に見栄を切るものが多いですが、今回の閻魔は、お客さん側ではなく、上に掲げた左手の「亡者」 の方を見上げています。だから見る角度や位置によって見え方が全然変わりますね。あと、後ろの見送り絵もとってもチャーミングです。

忠汰:立佞武多には背面に「見送り絵」という、作品のモチーフにちなんだ絵をつける文化がありまして、私も他の方の立佞武多の見送り絵を描かせてもらったりしています。
今回は京都の絵描きユニットの「だるま商店」さんにお願いして、昔実際にいたという「地獄太夫」を描いてもらいました。だるま商店さんの絵はユーモアと強さのバランスがすごくよくて、毒っ気がとてもチャーミングだと思います。

見送り絵「地獄太夫」。絵の中にもたくさんの仕掛けがあるので、ぜひ現地で見つけてください。

土台側面の鬼。実は赤黄青で信号カラーに。忠汰さんのねぷたは面白い要素がたくさん隠されています。

ジョジョと立佞武多

嶋野:ここから、忠汰さんについてお伺いしていきます。
幼少期はどんなお子さんでしたか?

忠汰:作ったり、描いたり、工作がとにかく好きな子供でした。牛乳パックで工作して、宇宙戦艦をつくったりも。 実は子供の頃はねぷたに興味なかったんですよ。 ちゃんと見たのも大人になってからで。昔から好きだったのはなんだろう・・・ジョジョかな。

嶋野:奇妙な冒険の?

忠汰:もう、本当に大好きで。いまでも若い子に「どうすればいいデザインできますか?」と聞かれたら「ジョジョ読め」っていってます(笑)。色使いとか構図も完璧です!実は仙台の専門学校を選んだ理由も、荒木飛呂彦先生が通ってたからなんです。

嶋野:そう言われると、忠汰さんの立佞武多って等身のバランスが美しかったり、 立ち姿のフォルムがどことなく似てる気がします。立体物なのに1枚絵としても美しいです。

忠汰:仙台でデザインを学んだ後、本当は絵描きになりたかったんです。 専門学校でいろんな資格を取ってたので結構なんでも作れるようになっていたので、東京の舞台美術の会社に採用されて働いてました。 当時はファッションショーから演劇、お芝居、歌舞伎やアミューズメントパークまで本当にいろいろなものをつくっていて。 青森に帰郷した際に、 しばらくボーッとしようと思ってたのですが、ちょうど立佞武多の館の開館に向けての制作ボランティア募集をしているとのことで、母からの勧めで参加したのがキッカケです。

嶋野:それまで学んできたことや、タイミングが運命的に重なったんですね。

忠汰 :当時は役所のみなさんも手が空いた人が代わる代わる手伝ってるって状態で。私だけがちょうど仕事もないからずっと参加しているうちに、立佞武多制作のあらゆる所に声が掛かるようになって、気づいたらそれが本業になってました。

五所川原の歴史から発想したアイデア

嶋野:忠汰さんがはじめてコンセプトから作ったのが「杙(くい)」ですよね。
五所川原の歴史に残る、護岸工事から発想したモチーフを、立佞武多の館が開館するタイミングのねぷたで採用するという歴史文脈の活用が素晴らしいと思いました。
一方で、立佞武多の歴史の中ではかなり異質なテーマのようにも感じました。
「杙」を選んだ理由は?

画像は一般社団法人 五所川原市観光協会のWebサイトからお借りしました

忠汰:立佞武多らしくないから選んだんです(笑)。
当時、この五所川原に立佞武多の歴史といまを残す記念館ができると聞いて、まず真っ先に図書館に行ってこの土地の歴史を調べることにしました。そこで分かったのは、この土地は川の氾濫を治めるために、本当に数多くの無名の作業員の人たちの汗と努力で護られた場所だってわかったんですよね。 いまでも記念碑とか残っていて。でも 「杙」 のモチーフには、特定の名前の残っている人ではなく、一作業員というか、その場を支えた無名の人を描くことにしました。

嶋野:土地の歴史を紐解いた作品というのが素晴らしいと思いました。
その後もいくつかの立佞武多をつくられていますが、ご自身的にはいかがですか?

忠汰:いま振り返ると、いいものもありますが、納得いっていないものもありますね。
例えば 「芽吹き心荒ぶる」 の頃は自分的に未熟だったなぁと。自分がなんでもできるという傲慢さが作品にでてる気がします。 この立佞武多に、自分自身を気づかせてもらいました。
何作品か作っていくなかで、女性の立佞武多を作ってみたいと思い始め、完成したのが「出雲の阿国」です。これは今見てもよくできていると思います。

嶋野:首輪や足の上がり方など、立体感がすごくいいですよね。背面の傘と、そこから覗く男性の表情まで含めて、360度楽しめるねぷただと思いました。

「すごいものを作ってしまった」 – かぐや

嶋野:女性のねぷたと言えばもう一つ。名作「かぐや」ですね。
あの時なぜ「かぐや」を選ばれたのですか?

忠汰:制作の順番が回ってくる前から、 女性ねぷたを極めたいと思っていたんです。 偶然も重なって、年号が令和に改元されるタイミングの立佞武多を作らせていただくことになって。そのタイミングに相応しいものにしたいと思って調べているうちに、 「令和」という言葉の出典元である万葉集を読み始めました。そこにあった日本最古の物語といわれる 「竹取物語」と出会ってしまって。正直、作品としては出雲阿国の方が好きなんです。
でも、 かぐやが完成した瞬間に「なんてものを作ってしまったんだ」とハッとしたのています。ある意味で、一つの理想形というか・・・

嶋野:わかります。私も「かぐや」を生で見た時に震えました。圧倒されて。
かぐやって、他の立佞武多よりもっと大きく感じるんです。
なぜかというと、女性のねぷたゆえに顔の面積が小さく、また空に上がっていくというモチーフだから顔の位置が上にあって。そのため遠近法が効いて、現場で見ていると他のねぷたよりもさらに高く見えます。
あと、 周囲に浮かぶ球が不思議な浮遊感を生み出していて、 ファイナルファンタジー (ゲーム)のラスボスみたいにも見えました。

ビルの谷間に抜けていく後ろ姿も神秘的でした(2023 年撮影)

忠汰:今までのねぷたの男とは真逆で、 歴代もっとも顔を小さくして、さらに月に帰る悲しみとして涙を流しました。立佞武多では初めてだと思います。 一方でねぷたのダイナミックさを表現するために、フラメンコやダンサー、フィギュアスケート選手の動きを参考に、観客席から見た時にどうするとわかりやすいか、オーバー表現を研究しました。 360度の見られ方を考えるというのは、 舞台美術の仕事していたのがここで役立ってます。あとは、もしかしたらジョジョのスタンドの影響もあったかもしれません(笑)。

次はなにをつくる?

嶋野:忠汰さんが、今後作りたいものってありますか??

忠汰:私がやりたいことって実は「ねぷたを作ること」自体ではないんですよね。
立佞武多のもつ魅力や文化をもっと外に広げていく仕事をしたいと考えています。
だからあえて伝統に縛られず、たとえば宙に浮かしたり、100m ぐらいの巨大なものをつくってみたり、全く別のことにもトライしてみたいです。
あ、あとはジョジョの奇妙な冒険。ジョジョの仕事ならぜひぜひやってみたいです(笑)

ねぷた表現師・忠汰さん。立佞武多の館にて。

– 取材後記
忠汰さんのすごいところは、時代の本質と、 土地の歴史をまっすぐ掴むところだと思います。
初作品の「杙」から「かぐや」、最新作「閻魔」まで、常に「そこしかないタイミング」 「その場所だからつくれるもの」を世に発信されています。
でもそれは時代に合わせて当てにいったわけではないと思います。常に本質だけを考え続ける人だからこそ、結果的に時代のど真ん中を作り続けているように感じました。
忠汰さんがこれから立佞武多以外でも何をつくるかが楽しみです!
(とにかく謙虚な方でした。お仕事も相談しやすいと思います。 )

Written by 嶋野裕介

【profile】
クリエーティブディレクター/ブランディングディレクター
東京大学経済学部卒。マーケティングプランナー、営業職を経て現職。国内外で 100 以上のアワードを受賞。著書「なぜウチより、あの店が知られているのか? ちいさなお店のブランド学」。奈良美智さんとホタテが好きで青森にハマり、30 回以上訪れています。青森最高です。

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