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静岡県が浜松市で計画している新野球場。建設期成同盟会の集いで驚きの指摘を耳にしました。「ドーム球場は過去のもの」

アットエス


ちょっと意外な建設促進期成同盟会の集いでした。バブル崩壊と低成長時代を生き抜いてきた「アラ還」世代は大型公共施設の誘致合戦を目の当たりにし、期成同盟会といえば政治家や建設業界の関係者が不退転の決意を確認する場でした。ところが浜松市で開かれた「多目的ドーム型スタジアム建設促進期成同盟会」の集いでは、なんと「ドームは過去のもの」との指摘。施設のあるべき姿を巡り中身の濃い講演や討論が展開されました。

「施設ができればいいのではありません。大型スポーツ施設を核にこれからの時代に望まれるまちをつくっていきます」-。冒頭の中野祐介浜松市長のあいさつから、ちょっと違いました。公共事業のその先に何があるのか、自分たちが何を求めるのかを発信しなければならないと訴えたのです。事業主体となる静岡県は基本計画で「野球場の規模・構造」が異なる3案を示し県議会で意見集約を目指しています。パブリックコメント(意見公募)では建設コストや建設地そのものを疑問視する声がありました。一方、市と浜松商工会議所などがつくる期成同盟会のこの日の議論は、その論点や発想がそもそも異なったと言えましょう。

建設技術への期待が先行

ドーム球場が「過去のもの」との発言は3人の講師の1人、追手門学院大の上林功准教授から飛び出しました。上林准教授は西武プリンスドーム(当時)やZOZOマリンスタジアムの観客席改修などに携わってきた大型スポーツ施設の専門家です。

「怒られるのを覚悟に言いますが、建築業界的には従来型のドームは過去のもの。その先を目指さなければならない。大空間を価値共創の起点となるような、みんなと一緒に価値をつくり出せるような場所としてスポーツ施設を定義し直さないといけない。包摂的な社会、みんなの居場所の起点になれる」

上林准教授によると、「過去のドーム球場」は広い敷地にポンと建てられ、施設そのものの利活用で地域活性化などを期待する施設を指します。最先端の建設技術で実現する屋根がある大空間の誕生に人々が魅力を感じたのは事実です。しかし、こうした多目的ドームは2005年に青森県むつ市で建設された「しもきた克雪ドーム」以降は建てられていないそうです。建設構想の費用対効果に疑問符が付いたからです。

目指すべきは「スマート・べニュー」

ならば、次世代のドームはどうあるべきか。期成同盟会の講演やパネル討論は熱を帯びていきました。キーワードとして紹介されたのは多目的ドーム改め「スマート・べニュー」。スマートは賢さや高機能を、ベニューはイベントや会議などの開催地を意味します。スマート・べニューは生活に必要な官民の施設が適度に集約されたコンパクトシティーの核となる施設と位置付けられ、「周辺のエリアマネジメントを含む、複合的な機能を組み合わせたサステナブル(環境や社会、経済活動の中で持続可能なこと)な交流施設」と定義されています。日本政策投資銀行(DBJ)の登録商標です。

スマート・べニューを論じたDBJのリポート(2013年8月)は、冒頭から人口減少、高齢化社会における街づくりを論点に掲げていました。中心市街地の空洞化や大型商業施設などの撤退、防災減災対策、疲弊する地方財政などを克服するため「世代を超えて多くの地域住民が交流できる空間を創出することが求められている」と指摘しました。ポイントは「単独、公設公営、郊外、低収益」から「複合商業施設型、民間活力、街中立地、収益力」へ、です。「無いものねだり」や「誰かが(特に行政が)考えるべきこと」ではなく、老若男女の知恵と発想で官民が共創せよと言っているのです。もう10年も前に、浜松での多目的ドーム施設の課題を言い当てていました。

全国で100件もの構想

びわこ成蹊スポーツ大の間野義之学長は、全国では北海道から沖縄までスタジアム・球技場の構想が44件、アリーナ・体育館は50件が進展していると説明。背景に北海道、広島、長崎などでスマート・べニューが成果を上げている現実があります。

さて、県営野球場が構想されているのは遠州灘海浜公園篠原地区。現状で多目的ドームだけが建設されるなら、20年も前の「過去のドーム球場」が誕生することになりかねません。だから、中野市長は「これからの時代に望まれるまち」をつくっていくと宣言したわけです。言うは易しです。県と浜松市のみならず近隣市町の理解と協力、話し合いへの参画の機運を盛り上げていく必要がありましょう。

静岡ブルーレヴスの山谷拓志社長は音楽のまち浜松ならではの、野球以外のスポーツも楽しめる施設を提言しました。伝統的に市民スポーツやレクリエーションの場として利用が活発な浜松四ツ池公園運動施設や、袋井市の県小笠山運動公園エコパ、磐田市のヤマハスタジアムなどとの機能連携、役割分担の必要性に言及しました。大切な論点だと感じました。

静岡市ではアリーナ構想

静岡市のJR東静岡駅の隣接地では静岡市が多目的アリーナを構想しています。難波喬司市長は税金を投入し続ける「コストセンター」ではなく民間活力で利益を生み出す「プロフィットセンター」を目指すと訴え、市民の機運醸成に尽力しています。スマート・べニューに近い発想を感じ、浜松市の中野市長と基本的考え方が通底している印象です。

市長選に立候補した当時から難波市長は社会基盤をみんなの力で押し上げる「根拠と共感に基づく政策執行」を掲げてきました。石破茂首相も「納得と共感の政治」を所信表明で明らかにしました。ただ、国民、市民にとって「私たちは何を期待されているのか」について分かりにくさは否めません。浜松市の多目的ドームや静岡市のアリーナの構想が、地域住民が理解し共感して支える施設として結実していくなら新時代の大型公共施設の象徴となり、こうした理念は浸透していくでしょう。中野市長、難波市長にとって正念場です。中島 忠男(なかじま・ただお)=SBSプロモーション常務
1962年焼津市生まれ。86年静岡新聞入社。社会部で司法や教育委員会を取材。共同通信社に出向し文部科学省、総務省を担当。清水支局長を務め政治部へ。川勝平太知事を初当選時から取材し、政治部長、ニュースセンター長、論説委員長を経て定年を迎え、2023年6月から現職。

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