一夏の甘酸っぱい青春を濃密な空間で味わえる、ミュージカル『GIRLFRIEND』ゲネプロレポート(井澤巧麻×木原瑠生ver.)
ポップでロックなミュージカル『GIRLFRIEND』が、日比谷シアタークリエで絶賛上演中だ。
『GIRLFRIEND』はアメリカの90年代のパワーポップを代表するマシュー・スウィートの同名アルバムをベースに、二人の青年の甘酸っぱい恋愛模様を描くジュークボックス・ミュージカル。翻訳・演出に小山ゆうな、訳詞に上田一豪を迎え、今回初めて日本版の『GIRLFRIEND』が誕生した。
作品に息吹を吹き込むのは、ウィル役の高橋健介、島 太星(NORD)、井澤巧麻、マイク役の萩谷慧悟(7ORDER)、吉高志音、木原瑠生。オーディションで選ばれ、東宝ミュージカル初出演となる彼らがそれぞれの役にトリプルキャストで挑む。基本はペアを固定して上演されるが、ペアをシャッフルする公演も一部ある。
本記事では、6月18日(火)夜に開催された井澤巧麻×木原瑠生ver.のゲネプロの模様をレポートする。
1993年の夏、アメリカ・ネブラスカ州の小さな田舎町。まだインターネットも普及しておらず、LGBTQ+への理解も今ほど広まっていない時代の話。学校に馴染めないウィルと人気者のマイクという対照的な二人が、ミックステープをきっかけに少しずつ心の距離を近づけていく。しかし彼らには、周囲の目や高校卒業後の進路の違いといったどうしようもない壁が立ちはだかっていた——
開演前の舞台上には、全面に広がるスクリーンにモノクロのラジカセが大きく映し出されている。激しくギターをかき鳴らす音が響き渡ると、ラジカセの中のカセットテープ「GIRLFRIEND」がくるくると回り始める。本作がジュークボックス・ミュージカルであることを象徴するような幕開けだ。
舞台の作りは非常にシンプル。ステージ後方にバンドメンバーが並び、本作に欠かせないポップでロックなマシュー・スウィートの音楽を奏でている。大きなセットは、舞台中央に時計の針を彷彿とさせる傾斜のある可動式の床がひとつ。それを場面に合わせて役者自らが回転させることで、車、ベッド、ステージ、ベンチ、道へと形を変え、時にはウィルとマイクの心理的・物理的な距離をも表現する。舞台の上手と下手に二人の部屋のセットも登場するが、あとは最小限の小道具を駆使してシーンが作られている。舞台上がシンプルであるが故に、役者二人の繊細な芝居に集中することができた。
一方で映像演出が効果的に取り入れられており、満点の星空や夏の青空、映画のスクリーンなどによって、没入感のある印象的なシーンを作り出すことに成功していたように思う。舞台上のカメラを使い、役者がスクリーンにリアルタイムで映し出される仕掛けも臨場感があって面白い。
本作を通して切に感じたのは、時に沈黙はセリフ以上に意味を持つことがある、ということだ。高校卒業間近のウィルとマイクは、少年から大人へと成長していく多感な時期。まだまだ言葉足らずで、自分の想いをうまく相手に伝えることができない。言葉が出てこないときの視線、息遣い、手の動き、繊細な表情の変化などから二人の緊張感が伝わってきて、観ているこちらは何とももどかしい気持ちにさせられる。
沈黙を恐れてつい話し過ぎてしまうウィル、ぎこちない電話で次に会う約束をするマイク、電話を切ったあとにそれぞれが飛び上がって喜ぶ姿も微笑ましい。そんな彼らは一夏の間ドライブインシアターへと通い、同じ映画を何度も観る。運転席のマイクと助手席のウィル。同じ構図でスクリーンを見つめながら語り合う二人が繰り返し描かれることで、回を重ねる毎に心の距離が少しずつ近づいていることがはっきりと感じられる。
最初は自分が好きな音楽やガールフレンドのことなど他愛もない会話をしていた二人が、次第にプライベートな家庭のこと、本当は知られたくない恥ずかしい思い出などを話すようになっていく。それは相手が特別な存在へと変化していることを如実に表しているのだろう。お互い一緒にいることでありのままの自分でいられる存在となり、心を開放して無邪気にはしゃぐ二人の姿は眩しいほどに輝いていた。
そんなウィルとマイクをフレッシュな演技で魅せてくれたのが、井澤巧麻と木原瑠生だ。
井澤は冒頭から客席に語りかけ、舞台と客席の橋渡し的存在でもあるウィルを屈託のない笑顔で演じていた。さらに、母子家庭という複雑な家庭環境ながらも、感情表現豊かで素直な愛らしいウィルを瑞々しく体現。
木原が演じたマイクは少し大人びた青年のようにも感じられたが、実は誰よりもピュアでロマンチストな一面があり、そのギャップが魅力的。父からの圧力に耐えながら、自分の好きなものを見失わないよう必死に抗う姿に好感が持てた。
二人が生み出す絶妙なハーモニーも必聴だ。井澤の力強く温もりのある歌声には安定感があり、木原の甘く透明感のある歌声は本作の楽曲と非常にマッチしていた。マシュー・スウィートのどこかノスタルジックなサウンドと二人の歌声は、まるで穏やかな波のように劇場全体を包みこんでいく。
本公演ではカーテンコールで毎回ミニライブが行われ、本編の楽曲がメドレー形式で披露される。この時間はウィルとマイクと一緒になって音楽を楽しむことができ、最後には写真撮影可能な時間も設けられている。
上演時間は休憩なしの1時間50分。日比谷シアタークリエで7月3日(水)まで上演予定だ。一夏の甘酸っぱい青春を、濃密な空間の中でぜひ味わってみてほしい。
取材・文・撮影=松村蘭(らんねえ)