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初めての下駄にチャレンジ! 台と花緒を自由に選べる新馬場『丸屋履物店』で、足元から江戸時代の人になってみる【江戸文化を訪ねて】

さんたつ

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大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~ 』の人気もあり、今にわかに注目度が高まっている江戸文化。装いやカルチャーなど、江戸文化に、東京で気軽に触れられるスポットを紹介していく【江戸文化を訪ねて】シリーズ。今回は、旧東海道沿いに立つ新馬場『丸屋履物店』にて、「下駄」をオーダーしてみました!

丸屋履物店(まるやはきものてん)

自分だけの一足を作れる下駄屋さん

下駄に憧れを持つ人は多いのではないでしょうか。時代劇はもちろん、昭和の漫画のようなバンカラな世界に惹(ひ)かれたり。あるいは、お祭りや花火大会で浴衣に合わせて履いてみたいという人もいるかもしれません。

そんな人にぜひ訪れてほしいのが、旧東海道沿いに店を構える『丸屋履物店』。今回はこちらで、下駄ビギナーが初の下駄選びにチャレンジします。

慶応元年(1865)創業の『丸屋履物店』。旧東海道沿いの北品川商店街に立ち、明治時代の終わり頃に建てられたという風情ある建物が素敵です。江戸時代、この通りには品川宿の旅籠屋が並び、寺社や遊郭を訪れる人々も行き交いにぎわいを見せていたとか。街ゆく人々におしゃれな履物を提供していたそうで、ショーウィンドウには花魁が履いていた背の高い「道中下駄」もディスプレイされています。

店内には、台と花緒がズラリ。奥の小上がりは工場(こうば)になっており、自分の足に合わせて職人さんに花緒をすげてもらうことができます。好みのものをセレクトして、自分だけの下駄や雪駄などを作れるお店です。

今回は、6代目の榎本英臣さんにアドバイスをいただきながら、女性用の下駄をあつらえました!

まずは「台」をセレクト

店内には下駄、草履、雪駄の台が色とりどりに並びます。

──洋服に合わせて下駄を履いてみたいと思っています。靴のサイズは26.5cmなのですが、女性用もありますか?

いろいろな形のものがあるのですが、一番大きいLLサイズで用意があるのは、基本の「二枚歯」と「右近(うこん)」の2種類になります。あとは男性用の台に、女性の花緒をすげるパターンで作ることもできますね。

男性向けの台。

榎本さんが最初の一足としておすすめするのが、下駄の基本の形の「二枚歯」です。

榎本さん:下駄は前に倒れる動きをするので、倒れる幅があった方が意外と歩きやすいんです。

一見歩きやすそうなこちらの「右近」は倒れる動きが制限されるため、二枚歯のほうが実は歩きやすいのだとか。

女性向けの台。手前から「白木」、「焼き」、「塗り」。

同じ形でも、仕上げによって違いがあるのだそうです。

「白木(しらき)」は汗を吸うため素足で履いてもさらっとした足あたりになる反面、汚れを吸うため足跡がつきやすいというデメリットが。

「焼き」は汚れを気にせずに素足でガンガン履く普段履きのイメージ。

「塗り」は素足でも足袋でもいけるそうですが、ぶつけると塗りの欠けが気になることもあるそうです。「一長一短を考慮しながら楽しんでいただれば」と榎本さん。今回は、汚れが気にならず、足袋にも合わせやすいようにと黒塗りの台を選んでみました。

伝統的な形で最上級とされる「畳表(たたみおもて)」。

候補が決まったら、台のサイズをチェックしてもらいます。

花緒を合わせれば無限大!

続いて、花緒を選びます。「花緒を台にのせると仕上がりがイメージしやすいですよ」と榎本さん。いろいろなご当地の生地を買い集めてオリジナルの花緒も仕立てているのだそう。会津木綿、能登上布(のとじょうふ)、久留米絣(くるめかすり)といった色とりどりの生地の花緒を前に、台選び以上に胸が躍ります。

花緒は構造的に男女の区別はなく、好みで選んでよいのだそう。室内でも靴を履いたまま生活する国と違って、日本の履物は部屋に上がる時に脱ぎ、単体で人目に触れるため、履物単体で見たときに素敵だと思える組み合わせにするのがポイントなのだとか。

花緒の引き出しの中には、こんなかわいいものもあれば……、

こんな遊び心のあるものも。洋服だと取り入れるのが難しいような大胆な柄にも手を伸ばしてみたくなりますし、この花緒ならこんな服を着てみたい! という想像も膨らみます。

こんなふうに、家族や友達とペアで仕立ててもらうのも素敵ですね。

LLサイズの台5000円、遠州綿紬(えんしゅうめんつむぎ)の花緒3300円。合計8300円。

いろいろな柄にときめきつつも、やっぱり通年どんな服にでも合うように……と考えていたら、温かみのあるグリーンの「遠州綿紬」に目が留まりました。「無地なので割と使いやすく、上に着る服も選ばず履けると思いますよ」と榎本さん。

下駄が生まれる瞬間に立ち会う

組み合わせが決まったら、いよいよ花緒をすげてもらいます。

このとき使われるのが「クジリ」という道具です。

花緒の中の麻紐や綿を抜いたり、麻紐を結ぶときに空間を作ったり、長さを測るものさしにしたり、台に穴を開けたりと、さまざまに活躍します。

留め具は使わず、結ぶ工程のみで花緒をしっかりと固定。お客さんの足に合わせて微調整します。

片方があっという間に仕上がりました!

さっそく試し履きします。職人さんがしっかりとすげた花緒は、履いているうちに緩んでいくことはないのだそうです。心地よいフィット感だったので、この具合でもう片方も仕上げていただきます。

合計10分程度で、素敵な一足が仕上がりました!

下駄を履くと、姿勢も視界も変わる!

緊張しつつ、さっそくお店を出て履いてみます。

榎本さん:あまり意識しないで、普通に歩いて大丈夫です。

——驚きました! 下駄って痛くて苦しそうという印象があったのですが、こんなに気持ちよく歩けるんですね。台の硬さが気にならなくて、しっかり体重が支えられてシャキッと背筋が伸びる感覚もあります。

──こちらは旧東海道沿いということで、江戸時代には旅人が下駄を履いて歩いていたのでしょうか。

下駄は長い距離を歩くためのものではないんです。「遠足(とおあし)には草鞋(わらじ)」と言ったりするのですが、東海道を行くような人は下駄ではなく草鞋を履いていたので。

──そうなのですね! では、下駄はどのようなときに?

ご近所履きという感じだと思いますよ。

──ちなみに、庶民が普通に下駄を履いていたのはいつ頃だったのでしょうか。

下駄が一般に下りてきて履かれ始めるのは、江戸時代の中頃だとする資料が多いですね。戦時中や戦後すぐは下駄が一番多くなっていた時期だと思います。

──意外と最近なんですね! 室町時代とか平安時代にも履かれていたのかと思っていました。下駄はどのくらい長く履けるものなのでしょうか?

歯がすり減って鼻緒が地面に当たらないレベルまで履いていただけます。毎日履く人で3カ月くらいでしょうか。完全に擦り切れる前に花緒を外して台を交換することもできます。花緒が地面に当たると切れてしまうから、「花緒が切れて出会いがあった」という時代劇みたいな話があるんです。

──こうして台から下駄を仕上げる職人さんの技を目の当たりにすると、花緒が切れたときの不安や、花緒をすげてくれた人にときめく気持ちが想像できて面白いです! 下駄を購入する人は、どんな方が多いのでしょうか?

着物を着る方はもちろん、歩き方や体の作りが変わっていくのを目的として健康的な視点から履いてみようという方もいらっしゃいます。二枚歯の下駄を履いて歩くことで、昔の日本人の歩き方を少なからず体感できるんです。

そのお話を胸に、下駄デビューしてみました。洋服に下駄をあわせて、電車を乗り継ぎお出かけします。

下駄が前に倒れるのにつられて、勝手に次の足が前に出るので、靴よりも楽に歩ける感覚もあります。自然と歩幅が小さく、おしとやかな感じの歩き方になりました。カッコン、カッコンという優しい音が楽しいです。時代劇の中の人になったような気持ちに……!

普段よりも目線が上がっているような気もします。電車の乗り降りはさほど苦にならず、足もほとんど痛くなりませんでした。すり減らないように大切に履こうと意識して、いつもよりゆっくり丁寧に歩いたせいか、「まあ急がなくてもいいか〜」と気持ちまでゆったりしてきます。

帰宅後スニーカーに履き替えてみると、スニーカーってこんなにふにゃふにゃしていたのか! とびっくりしました。「昔の日本人の歩き方を少なからず体感できる」という榎本さんの言葉を一度で実感できたことに驚きました。

下駄を履いてみると、今まで意識していなかった時代劇の衣装や、浮世絵や漫画での履物の描かれ方にも目が向くようになってきました。履物を変えてみることで、文化を土台から捉え直せるといったら言い過ぎでしょうか。足元から江戸時代を味わうことで、昔の人のようなペースで過ごせたり、物語の見え方まで変わったりするかもしれません。今では貴重な職人さんの技を体感して、300年続く歩き方をぜひ感じてみてください!

丸屋履物店(まるやはきものてん)
住所:東京都品川区北品川2-3-7/営業時間:9:00〜19:00/定休日:日/アクセス:京浜急行電鉄本線新馬場駅から徒歩3分、JR品川駅から徒歩15分

取材・文・撮影=増山かおり

増山かおり
ライター
1984年青森県生まれ。かわいい・レトロ・人間の生きざまが守備範囲。道を極めている人を書くことで応援するのがモットー。著書『東京のちいさなアンティークさんぽレトロ雑貨と喫茶店』(エクスナレッジ)等。

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