原作を大切にした舞台に感動!&臨場感あふれる圧巻の野球シーン! 舞台『忘却バッテリー』で2.5次元舞台を初めて生観劇した原作ファンのライターが感想を綴ってみた
マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」にて連載中の漫画『忘却バッテリー』(著・みかわ絵子先生)。天才投手・清峰葉流火と記憶喪失となった捕手・要圭を中心に、一度野球を辞めた球児たちが高校での出会いをきっかけに再び野球に向き合う物語です。
2018年4月に連載が始まり、2024年春にはアニメ化もされた本作。今年10月には舞台『忘却バッテリー』となって10月10日から19日にかけて東京で、10月25日と26日には大阪で、全17公演が上演されました。
原作の大ファンである筆者。これまで配信やBlu-rayなどで2.5次元の舞台を見たことはあったのですが、大好きな『忘却バッテリー』が舞台化されるならば……と初めて現地で観劇することを決意。
初めての体験を前に胸を高鳴らしながら会場に足を運んだのですが、およそ3時間半に及ぶハイクオリティの舞台に、終演後の数日間は興奮がなかなか収まりませんでした。
というわけで、この熱い胸の高鳴りをレビューという形で綴らせてもらうことに。初めての生観劇を舞台『忘却バッテリー』に捧げられて良かったと心底思った原作ファンライターの感想をお聞きいただけると幸いです。
どこまでも原作を大切にした舞台に感動&感謝
公演を見終えた私が最も強く感じたのは、原作を本当に大切にして作られた舞台なのだということ。原作が大好きな筆者としては、そのことが本当にうれしく、心から感謝したい気持ちでいっぱいになりました。
まず、一貫して『忘却バッテリー』そのままの世界観が作り上げられていること。おちゃらけキャラの要圭を中心に、ギャグシーンでは終始ワイワイと賑やかな雰囲気で、時には声をあげて笑ってしまうようなこともしばしば。
私は原作でもギャグシーンが大好きなのですが、漫画やアニメ以上にギャグを盛り上げている演出も多く、要の一発芸「パイ毛~!」ではバックにプロジェクションマッピングが投影され、やたらと豪華になっていましたし、要がチームメイトを無理やり家に招くためにAVをチラつかせるシーンではゴージャス過ぎる演出が施されていました。
「あれ?私ってコント見に来たんだっけ?」キャラたちの軽妙なやりとりは本当にそう思わせられるほどに面白かったです。
しかし、『忘却バッテリー』といえばそんなギャグシーンとシリアスシーンの温度差が魅力。観客を大笑いさせたところで待ってましたと言わんばかりに、シリアスシーンが展開。数分前とは一転して重々しい空気に息をのむほどの緊張を覚えました。
特に印象に残ったのは、イップスで苦しむ遊撃手・藤堂葵と恵まれないフィジカルにコンプレックスを持つ二塁手・千早瞬平の背中に番号が刻まれるシーン。
原作では扉絵として描かれるのですが、キャラクターの過去が語られる重々しい回として知られ、ファンからは「背番号回」と呼ばれる本作ならではの描写です。
まさかこの背番号の演出を舞台で見られるとは思っていなかった私は、見た瞬間度肝を抜かれてしまいました。ここまで原作に忠実に作ってくれるものなのか、と。
少し余談となりますが、背番号が重々しいものとして描かれる理由は、チームの中で選ばれた人間しかつけることができないものであること、つまり選ばれなかったチームメイトの思いや、背番号を付けてくれた人(監督やコーチ、チームメイトなど)の期待やそれに伴った責任を背番号という形で背負うからだと私は思っています。
ゆえに、その期待に応えられなかったとき、挫折したとき、一層重く感じられるという意味で「背番号回」なのでしょう。
舞台上で一人スポットライトを当てられた藤堂や千早。暗く静まり返った劇場内で聞く彼らの独白はまるで心の中を覗いているような感覚に。光と音、そして俳優陣の鬼気迫る演技で伝えられる彼らの苦しみはこれほどまでにリアルに感じられるものなんですね。
原作同様、感情をジェットコースターのように揺さぶる舞台。この感覚こそ『忘却バッテリー』の真髄なのだなと再認識しました。
生の人間が演じるからこその臨場感
私が一番楽しみにしていたのは、スペースの限られた舞台上でどうやって野球を表現するのかという点ですが、私の期待の遥か上を行く、本物の野球さながらの臨場感に溢れていました。
投げる、打つ、走るといった野球のプレーを目の前で生身の人間が演じているため、足を踏み込んだときの音や布の擦れる音、力強いスイングの音などを耳で捉えられる他、キャラクターたちの細かい動きを肌で感じられ、リアリティは増し増し。
実際の野球観戦ですら、こんな至近距離でプレーを見ることはありませんし、こんなに臨場感や迫力を出せるのは生身の人間が演じる2.5次元の舞台ならではだと思いました。
個人的にとても好きだったのは、千早のスライディング。素人目ではありますが、とても綺麗で無駄のないスライディングで、俊足を生かした盗塁技術を持つ千早らしさが存分に発揮されていました。ずっと観ていたいと思うほど格好良かったです。
そして何よりも驚いたのは、実際に球を用いてのシーンがあったことです。基本的にはボールは使われていなかったのですが、藤堂がイップスを克服するためワンバウンド送球を試すシーンと、ラストの清峰と要が2人だけでキャッチボールをするシーンではなんと本物の球が使われていました。
ワンバウンド送球は、実際にボールを使って見せないと原作やアニメを知らない観客には想像が付きにくいという理由で本物のボールが使われたのかなと推測しているのですが、それにしてもワンバウンドさせなければならないため、真っ直ぐ投げるよりも狙ったところに投げづらく、捕る方も難しいでしょう。それでも逸らさず見事に捕球できており、目を見張りました。
ラストの清峰と要のキャッチボールシーンは、夜の公園で2人だけでボールを投げ合い、心の内を明かし合うという重要な場面。劇場内は本当に夜の公園のように静寂に包まれ、余計な音は一切なし。キャッチングの心地よい音と2人の言葉だけが響くという物語の最後にふさわしい最高のシーンでした。
キャラが生きてる……! そう思わせる俳優陣のお芝居
「清峰が、要が、藤堂が、千早が、山田が、その他のキャラクターたちが、みんな生きてる!」観劇の最中、私はずっとそう感じ続けていました。
なぜなら、原作やアニメではコマやカットの中に描かれているキャラクターしか見ることができませんが、舞台はそれ以外のキャラクターもずっとステージの上に立っており、その間、俳優陣は全力でそのキャラを演じているからです。
千早や山田が冷静に話している間も小競り合いを続けている要と藤堂、土屋先輩を勧誘する際に「清峰くんはあっちで筋トレしててください」と言われて本当にずっと腕立て伏せをしていた清峰……。
注目されないシーンであっても、全力でそのキャラクターを演じる姿はもはやキャラクターが乗り移っているかのよう。キャラクターとして生まれてきたかのようにすら感じるほどでした。
ここからは主要キャラクターの5人について個別に綴らせていただきます。
清峰葉流火役・田中涼星さん
清峰は主人公ながら表情は乏しく、台詞もそう多くないキャラクターですが、黙って立っているだけで存在感がある独特なキャラクターを田中さんは見事に演じ切っていました。
清峰の身長は185cmですが、田中さんは188cmとまさかの清峰越えで、その抜群のスタイルもまさに清峰葉流火そのもの。長い手足から繰り出される投球フォームは何度見ても美しく、目を奪われてしまいました。
要圭役・荒牧慶彦さん
要はアホの人格と智将の人格を、荒牧さんがはっきりと演じ分けられていたのですが、違う人格であると感じさせる一方、同じ“要圭”という人物である事も同時に感じられるという不思議な体験をさせてもらいました。もっと荒牧さんの智将モードが見てみたかったです。
藤堂葵役・上山航平さん
藤堂は豪快なバッティングや粗野な言動と、中学時代の先輩・高須とバッティングセンターで再会した時の繊細な涙のギャップがとても印象に残りました。席が前方だったこともあり、落ちた雫が照明に反射して光る瞬間が見え、こちらも涙してしまうほど心を打たれました。力強いフルスイングが武器の葵様の男泣き、格好良すぎました。
千早瞬平役・大見拓土さん
千早はスライディングが格好良すぎて、オープニングで最初に登場した瞬間から心を奪われることに……。立ち姿もとてもスタイリッシュで、盗塁の動作を見ただけで「千早だ!」とわかるほど大見さんの仕上がりは完璧。きっとずっと見ていられます、大見千早のスライディング。
山田太郎役・納谷健さん
一番に舞台に登場し、観客に対し「こんにちはー!」と挨拶をしてくれた山田。作品世界と私たち観客(読者)を繋ぐような役割を担う彼だからこそできることで、可愛らしい笑顔と観客に話しかけるフランクな姿勢にヤマちゃんらしさがたっぷり詰まっていました。
おそらくアドリブと思われる他キャストのボケにもひとつひとつ突っ込んでおり、そんなところもさすがヤマちゃん! 彼は今後の展開で選手としてより活躍するので、ぜひ続編も舞台化してほしいと思いました。
舞台独自の音と光を使った演出
今回のストーリーでは、野球グラウンド、学校校舎内、部員の自宅など、様々な場面が登場します。
その場面全てをバックネットを模したような5枚のついたてを駆使して表現していたことも面白かったです。
ついたてにはプロジェクションマッピングで映像や台詞を投影することもあったのですが、中でも印象に残ったのはキャッチャーマスクを被ったような映像が映し出される演出。
智将と呼ばれていた頃の要がキャッチャーマスクを被った時の視点が映し出され、観客も要の視点を擬似体験できると言うものでした。
マスク越しの視線の先にいるのはもちろん清峰。要は小学生の頃からずっとこんな風に自分に向かって投げる清峰を見続けてきたのか……とリアルに感じることができました。
光を使った演出でユニークだったのは、藤堂のバッティング。バットが球を捕らえた瞬間、舞台上の藤堂は動きを止め、バットが球と接触しただろう位置にスポットライトを当てるというもの。周囲の照明は暗く落とされていて迫力が増し、観客が打撃の強さを感じられる演出となっていました。
限られた空間で、漫画やアニメの世界観を演出する舞台。演出家の方のアイディアや工夫も舞台の大きな魅力のひとつだと感じました。
原作ファンほど観に行ってほしい2.5次元の舞台
舞台『忘却バッテリー』の生観劇を終え、キャストを含めたスタッフの皆さんが原作を大切に舞台を作ってくださったことが本当に嬉しく、それと同時に改めて原作への愛を強く認識することになりました。
初めて見る生の舞台は想像以上の迫力とリアリティがあり、作品世界が3次元で目の前に広がる時間はこの上ない幸せなひと時でした。見逃したという原作ファンの方は、ぜひぜひBlu-ray等を手に取ってみてください。
様々な作品が舞台化されている昨今。原作を愛する方ほど、2.5次元の舞台をぜひ観に行っていただきたいです! 私は舞台『忘却バッテリー』の続編を切望しながら他の舞台にも足を運んでみたいと思っています。