マーキュロ[ライブレポート]狂気の世界を描きながら、果てしなく美しい希望を届けたZepp DiverCity公演「これから暗い世界でも一緒に生きてください!」
マーキュロが、6月24日(月)にZepp DiverCity(TOKYO)にて、主催5大都市ワンマンツアー<アナタの傷を魅せてください、共に生きよう>ファイナル公演を開催した。
グループ最大規模となる会場で2周年を迎えた7人は、生バンドとともに、圧巻のパフォーマンスを展開。絶望を歌いながら、美しい希望をステージ上で見事に描き切った。
本記事では、その模様をお伝えする。
取材&文:冬将軍
撮影:saru
ステージ上には配管剥き出しの廃墟——。電子音が蠢くSEで登場した7人を真っ赤な照明が照らし、芥タマキの怪しいビブラートによる歌い出しと狂気の叫びが轟いた。
“あなたの傷を癒すマーキュロクロム液の色、僕らの色だ!”
マーキュロ主催5大都市ワンマンツアー<アナタの傷を魅せてください、共に生きよう>ファイナル、2024年6月24日 Zepp DiverCity(TOKYO)公演はマーキュロの始まりの曲「RED」で幕開けた。グループ最大規模となる会場で2周年を迎えた本公演はソールドアウトという、大きな祝祭感に溢れた。それは従来のアイドル像とは異なる、負の感情を叩きつけるダークヒロインが今、大きく求められているという、現在のシーンを象徴するものでもあるだろう。
ニヒルな笑みを浮かべながら華麗に舞う我執キルも、マントを翻しながら“畳めぇ!!”と扇動する珖夜ゼラも、硬派にキメながらも眼前に広がる会場の光景をじっくり味わっているようにも見えた。妖艶に歌声を響かせる紫月レンゲのメロディに絡んでいくもう1つの旋律。今回から新たにマーキュロのバンドセットライブに加わった、サックスとトランペットの音色が楽曲に新たな息吹を与えている。バンドセットライブも完全に板についてきたマーキュロだが、ホーンならではの煌びやかな音色がヘヴィネスな演奏に鮮やかな彩を添えていく。
“それでは喜劇を始めよう! お手を拝借!”
藍咲ユウリの声で始まった「カラクリドラマ」。軍楽隊を彷彿とさせる楽曲は、谷口友朗(Tp)、安尾渉(Sax)というホーン2本により、これまで以上の陽気ながらも不気味な臨場感を生み出していく。くり返される呪文のような詞と円を描くフォーメーションが、暗黒典礼の雰囲気を醸す「神聖不可侵絶対領域」。taka(Gt/ex.ミオヤマザキ)とTANO(Gt)が創り出す重厚なディストーションギターの壁、極悪ヘヴィなパートから急変するメロディアスパートは生バンドならではのスリリングさだ。“この世のゴミども全員、ぶっ殺して行こうぜ”と冷淡な翠城ニアの言葉からの「制裁」。アイドルライブの定番、タオル回しもマーキュロの手にかかれば何か凶器を振り回しているように見える。ダークファンタジー全開の「逆夢ドール」。次々と目まぐるしく変化する楽曲展開を生演奏で堪能できるとは……。優一(Dr)の巧みなドラミングと今回ワンマン初参加となったYUCHI(Ba/sukekiyo)の変幻自在なグルーヴが猛り狂い、岡田基(Key)のピアノがダイナミックにドラマティックに狂気を彩っていく。そんな轟音爆音の渦中で、にこやかな笑顔を見せる雅楽代カミテは、煮えたぎる獰猛の中に落とした一滴の冷や水のようなクールな不気味さを光らせる。タマキが獣のごとく咆哮すれば、オーディエンスも負けじと頭を前後に振って応えていく。
“今日は1人も置いて行かねぇからな。マーキュロ、敬礼ッ!!”
ゼラの号令で、爆撃機のようなアンサンブルが襲いかかる「デイストオシオン」、そして史上最大規模の土下座の光景が広がった「ぬいぐるみ。」と続き、会場の熱気はぐいぐいと上がっていく。「人間卒業」で鬱屈としたルサンチマンなカオティックな奈落へ叩き込んだと思えば、「ケヰキ」ではファンタジックでノスタルジアな世界へ誘っていく。流れるようなピアノの旋律によるアコースティックアレンジの「私に鋭利な雨」は、しっとりと歌を聴かせるハイライトであり、こうした楽曲の振り幅も、2年という活動歴を重ねて大きくなったグループの懐の大きさを感じるところだ。MCでも語られていたが、メンバーの生誕祭で各々がプロデュースし、それぞれ個性が表れた楽曲が出揃ったことで、そうしたバリエーションが生まれたのである。
“お前らもっと声出せるよな? 絶望セカイ!!”
この世の終わりを告げるようなレンゲの叫びを合図に、叩き落とされた「絶望セカイ」。“過去イチのヘドバン見せてくれ!”と、ユウリの言葉に扇動されて、フロアから無数の頭が振り乱れた。ソリッドに攻め込むバンドアンサンブルとエッジィに攻め立てる7人の狂騒は「罰愛罰愛」の華麗なる演舞へと流れていく。
「喰ベタイ」「犯行声明」と、バンドだからこそのキレとパワーを発揮する楽曲を畳み掛け、邪悪なリフと言葉の羅列が強襲する「※毒」は、そのステージから放たれるすさまじいエネルギーから、もはやアイドルのライブなのか、ロックバンドのライブを観ているのかわからなくなるほどの様相を呈していた。
それをさらに感じたのは「性少年育成委員会」から始まったメドレーだ。もともとバンドサウンドが主体となっているマーキュロ楽曲を、生演奏のアレンジに落とし込んでいる。そんな楽曲が羅列されていく様に息つく暇などはない。「D.I.D」「自殺願書」という、本来であればライブにおける起爆剤になる楽曲をメドレーに組み込むという贅沢さに加え、「無稽の啼泣」「『明日も生きよう』」という、本来であればライブにおけるハイライトになる曲をメドレーに組み込むという豪胆さである。それだけ楽曲が増えた、充実したということではあるものの、何よりもマーキュロの音楽面におけるアイデンティティが完全に確立したことによる余裕でもあるだろう。アイドルとしての存在価値、表現者としての存在価値、Zeppを埋め尽くすほどのファンに求められている自分たちの存在を確かめるように、7人は「存在証明」を優しく、そして強く歌った。
3年目に向かって、会場全員で飛び跳ねた「ピエロ」。シニカルに、リリカルに、マーキュロは笑って見せた。
最後に送られた1人ひとりの挨拶。“僕たちはみんなの世界を生きやすくすることができましたか?”と問いかけたタマキの言葉。“マーキュロの音楽で少しでも生きてみようかなと思える活動をこれからもしていきたい”と語ったキル。そこにマーキュロが求められている理由がある。“自分の生きる存在価値がわからなくて病むこともあるけど、みんなのおかげで生きていていいんだ”とわかったというニア、“みんながたくさんの傷を見せてくれた”と涙ながらに口にしたユウリ。そこには逆に求められているからこそマーキュロが存在する理由がある。“僕たちに出会ってくれてありがとうございます。君たちに出会えてありがとうございます”と深く頭を下げたレンゲも、“3周年目も変わらず一緒にいてください”と屈託のない笑顔を見せたカミテも、偽りのない本心の言葉である。なによりも“今日は泣きませんよ”と豪語したそばから絵に描いたように嗚咽し、“僕はみんなに与えられているのかな、僕はみなさんに何かを与えられていましたか?”と問うゼラの表情は実直で、実は不器用で素直なマーキュロを表していた。誰かの偶像であることも、アイドルとして正しい姿だ。だが、マーキュロのように、素の自分を曝け出し、己の傷を見せながら相手の傷に寄り添ってくれる、それもまたアイドルの姿なのだ。
“あの日のために書かれた歌詞は、傷ついた分だけ大事な大事な僕たちの歌になりました”
そして、最後に送られたのは「傷」。1周年のライブのためだけに、バンドセットライブでやるためだけに、作られた曲だ。1周年のあとのインタビューでは音源化するつもりはないと語っていた。それがこの日、マーキュロ初のCD音源として来場者に配布された。それだけこの1年の活動が大きく、意味あるものであったかを物語っている。
美しいメロディと強い歌声に合わせて、客席から上がった両手が左右に揺れる。絶望を歌う彼女たちが歌う愛の歌は、何よりも美しく、誰よりも強い。
“これから暗い世界でも一緒に生きてください!”
涙ながらにタマキが叫んだ。
そして、バンドとともに最後の音を鳴らし切った7人は手を取り合って3年目へ向かってジャンプした。これからマーキュロはもっと多くの人の傷に寄り添い、多くの心の闇を照らしていく存在になっていくことだろう。
マーキュロ主催5大都市ワンマンツアー<アナタの傷を魅せてください、共に生きよう>ファイナル
2024年6月24日(月)
Zepp DiverCity(TOKYO)
SE
1.RED
2.カラクリドラマ
3.神聖不可侵絶対領域
4.制裁
5.逆夢ドール
6.デイストオシオン
7.ぬいぐるみ。
8.人間卒業
9.ケヰキ
10.私に鋭利な雨
11.絶望セカイ
12.罰愛罰愛
13.喰ベタイ
14.犯行声明
15.※毒
16.メドレー
〜性少年育成委員会
〜D.I.D
〜自殺願書
〜無稽の啼泣
〜『明日も生きよう』
17.存在証明
18.ピエロ
19.傷