津波防災とハザードマップについて静岡大・牛山素行教授が警鐘!能登半島地震から学ぶ、命を守る一番の手段とは?
今回は津波防災とハザードマップというテーマについて、静岡大防災総合センター教授で副センター長の牛山素行教授(災害情報学)にSBSアナウンサー牧野克彦が話を聞きました。
おすすめは国交省の「重ねるハザードマップ」
牧野:ハザードマップがひとつテーマですが、改めてハザードマップから何が分かるんでしょうか。
牛山:大雨に伴う洪水の浸水範囲やその深さ、土砂災害の危険性のある場所、津波の到達範囲、様々な避難場所などが掲載され、分かるものがあります。市町村が作るハザードマップもあるのですが、市町村ごとに色の使い方や名称が違ったりして、バラバラな場合があります。
特定の市町村だけ見続けるのであればいいのですが、外出先や自分が住んでいない地域の危険性を確認するには、国土交通省作成の「重ねるハザードマップ」が最もおすすめです。
市町村のハザードマップに比べて情報の更新は遅いのですが、全国一律の見え方で情報を確認することができます。
広範囲で見て、相対的な危険性を把握しよう
牧野:いま手元で検索し、「重ねるハザードマップ」のサイトを開いていますが、洪水や土砂災害、高潮などのボタンがあって、それぞれのボタンを押すとくわしい情報が表示されて分かりやすいですね。見方の注意点はありますか。
牛山:厳格に読み込まないことが重要です。「自宅の危険性を確認しましょう!」というと、自宅だけを見てしまいがちですが、ハザードマップで示される情報は計算の前提になるデータによって大きく異なります。そのため「自宅は何分後に浸水するんだ」などあまり細かなところを見てもしょうがないんです。
つまり、家1軒を見るのではなく、地図を広い範囲で見て、どの辺りが相対的に危険あるいは安全なのかを把握しておくことが適切だと思います。
牧野:参考にしつつも想定を超えてくることもあることを意識したほうが良さそうですね。
牛山:想定より被害が大きいことも小さいこともあるので、ぜひピンポイントに見るのではなくて広範囲で見てください。
避難経路を固定的に考えるとパニックに陥る危険も
牧野:とはいえ先生、赤いエリアに自宅が入っていると相当気になってしまいます。避難指示を待たずに逃げることを意識した方がいいですか。
牛山:まず場所のことで言うと、避難場所が示されていることが多いと思いますが、これもあまりこだわりすぎない方がいいです。特に津波の場合、避難場所であろうとなかろうとどうでもいいわけです。
基本は少しでも高く少しでも早く海岸から速やかに移動することが重要です。決められた避難場所はここなんだと固定的に考える方が弊害があります。
「避難経路を考えましょう!」とよくやりますが、あまり細かく覚えても仕方がないと思うんです。東日本大震災の時はあまり建物が倒壊しなかったため「道がふさがって避難が難しかった」とはほとんど聞きませんでした。
ですが今回の能登半島地震は、建物が大量に倒壊し、通れない道だらけなんですよ。そうなると「ここに避難しよう!」と決め込んでしまうとそこでパニックになって打つ手なしになってしまうかもしれません。
海岸付近で揺れを感じたら、すぐ避難が大原則
牛山:なので、ハザードマップと同じであまり細かく考えずに、どっちが安全性が高い方向なのか、付近一帯の地形を大まかに頭に入れておくことが重要です。
また、避難指示や津波警報を待たずに海岸付近にいて強い揺れを感じたらすぐに移動するのが大原則です。
牧野:能登半島地震の津波被害はどのような規模でしたか。
牛山:今まさに調査中ですが、津波で流されたり、津波による被害を受けたりした家で亡くなった人は、おそらく少なくとも4人くらいはいらっしゃると思います。
今回は揺れによる倒壊規模が非常に大きく、揺れによる倒壊と津波の影響が混ざり合っている部分はかなり多いと思います。海岸付近でも多くの建物が倒壊してしまいました。改めて津波は注意しないといけないと思いました。
今回、津波の規模は、海岸付近で高い所で地面から3メートル前後くらいで極端には大きくはなかったです。集落に到達した時間も30分くらい後だと思います。あくまで結果論ですのでもっと早くもっと大きな津波が到達していたら、さらに大きな被害があったかもしれません。
「住み替える」ことも対策のひとつ
牧野:改めて静岡県に住む私たちが津波に備えて意識しておくべきことは。
牛山:1にも2にも耐震化しかないと痛感しています。現場を見ると道幅5〜6メートルで車がすれ違える道路も完全に倒壊した建物に閉塞(へいそく)されているのが珍しくありません。
こんな状態ではいくら避難経路の確認や訓練をしていても意味がなく、建物が壊れてしまっては何にもならないと感じました。
そういった点を踏まえて、「建物を建て替える」、「耐震化を進める」、「住み替える」というのも対策だと思います。
今回も高齢の方が亡くなっているケースが多いですが、条件が許せば、高齢者施設に移り住むのも住み替えのひとつかと思います。いずれにせよ「壊れにくい町」を作っていかないとどうしようもないなと痛感しました。
牧野:分かりました。皆さん、まずは「ハザードマップを大きく捉えて傾向をつかむ」、「耐震化」や「住み替える」ということも備えとして考えてください。
※2024年3月7日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。今回お話をうかがったのは……牛山素行先生長野県生まれ。信州大卒業。京都大防災研究所助手、東北大災害制御研究センター講師、岩手県立大准教授などを経て2009年に静岡大着任。内閣府、気象庁、自治体などの公的委員を歴任。日本自然災害学会副会長。専門は風水害を主対象とした災害情報学。