ケーキの上に物語を作る…「映え」のない時代から25年以上貫くカラフルデコレーション 「唯一無二」を生み出してきた“生き様”
こんにちは。学生ライターのみっちゃんです。
最近、20歳になりました。
我が家では、もう20年も前からお祝い事のケーキといったらココ!と決めているお店があります。
「唯一無二」「世界にひとつ」そんなステキで特別なケーキを作ってもらえるからです。
今回のケーキがこちら。
鮮やかな色彩に、たくさんの素敵な装飾。
最初は目から幸せを感じました。
ひとくち口に入れた瞬間にふわっととろけるような甘さが口に広がり、次に味覚の幸せ。
あんなに幸せな瞬間、久しぶりでした。
今年はもう大学3年生となる私。
そろそろ自分の将来の計画を本格的に考える時期になってきました…。
私がしたいことってなんだろう。
私の好きなことってなんだろう。
人を幸せにできる仕事って、なんだろう。
ちょうどそんなことをぐるぐると考えていた私にとって、毎年楽しませてもらっていたこの誕生日のケーキの「人を幸せに出来る」魅力が、急に気になりだしました。
そこで今回は、私のケーキを作ってくれたお店、「スウィートレディージェーン」の馬越弘幸さんにお話を伺いにいきました。
「映え」がない時代から貫くカラフルケーキ
札幌ファクトリーの向かいにあるスウィートレディージェーンは、アメリカンスタイルのケーキ、パイ、タルトやクッキーなどを販売する洋菓子店です。
アンティークに囲まれたお洒落な店内にはカフェスペースもあり、ゆっくりとケーキを楽しむこともできます。
ですが、他のスイーツ店とは少し違った特色があります。
それはオーダーメードケーキ。
お客さんの希望に沿った、「世界にひとつだけ」の特別なケーキを作ってもらうことができます。
これは、私の17歳の誕生日に実際にお願いしたケーキ。
トトロの周りに粉砂糖がかかり、雪が降っているような場面になっています。
このケーキを作ってもらうときのオーダーは、
「持ち込んだトトロのフィギュア3つを使ってもらうこと」
「トトロがみんなで遊んでいるようなイメージで」
たった3つのフィギュアから、イメージを膨らませ、こんなケーキが出来上がるんです。
ケーキの上にひとつの物語を作り出される瞬間…。
今の時代、「映え」が重視され、こんなカラフルでたくさんの装飾があるケーキも増えてきているかもしれせん。
でも馬越さんがこんなケーキを作り始めたのは25年以上も前だったんです。
カラフルなオーダーケーキのルーツはどこにあるのか。
馬越さんに早速聞いてみると、それは馬越さんのルーツそのものでもありました。
同じモノ作りでも“モヤモヤ”が…
お店のオーナーシェフである馬越さんは、東京生まれ、東京育ち。2024年に古希を迎えるといいます。
実は、最初はCM制作会社に就職していました。
”物を作り上げる”仕事としてやりがいを感じてはいましたが、ある「モヤモヤ」が…。
「視聴率などの指標はあるけど、お客さんからの直の声がなかなか聞こえて来ない仕事だった」
そんな時、出会ったのがアメリカのド派手なデコレーションケーキ。
大きなケーキの上に沢山のフィギアが飾られていたり、バスケをしているシーンが再現されていたりする華やかなデコレーションを見て衝撃を受けました。
「面白い、これだ!と思った」と馬越さん。
その後仕事を辞め、26歳でフレンチの洋菓子店で、洋菓子を作る基本を学びました。
最初からアメリカに行かなかったのは、「おいしいスイーツといえばフランス」と基礎を学びたい気持ちからでした。
3年から4年修行した後、日本にはもう帰ってこないつもりでパリに行き、ひたすら現地で厨房を見て回りました。
そうして、ようやくアメリカにわたり13年。
衝撃を受けたあのデコレーションケーキだけでなく、クッキーやパンなどさまざまな菓子作りを学びながら過ごしたといいます。
「アメリカのデコレーションケーキは、ケーキの上に物語がある。それが面白い。ルールなんてなくて自由でケーキの上をキャンバスのようにして、表現できる」
経験すべてがケーキに生きる
馬越さんが日本に戻ってきたのは1996年。
妻の地元が札幌だったことから、この地にお店を構えました。
オーダーケーキを売り出した頃のキャッチコピーは、”あなたの思いをケーキにのせて”だったそうです。
馬越さんの作るオーダーケーキは、お客さんと直接コミュニケーションを取った後に作ることを基本としています。
色合いやシチュエーション等、決めることはたくさん。
お客さんそれぞれで、ケーキの上にどんな物語を表現するか…
実は、ケーキの構成を考えるときはすべて頭の中で完成させているのだそう!
設計するノートはなく、作りながら、直感でデコレーションをしているといいます。
ケーキの土台の色は、水色で塗ると空を感じさせるようなイメージが与えられると言います。
クッキーなどの製法や技術はアメリカで学んだものを生かします。
飾り付けるフィギュアも指定がなければ、アメリカで買いだめたものを使うことも少なくありません。
芝生を再現するためには、スポンジを細かくし緑色にしたものを使用しているそうです。
なんとこれは、アメリカにいたときに見た、インディアンの砂絵からアイディアを得たといいます。
一方で、バラの花をつくる作業である、“ローズアイシング”は、フランス料理店で学んだもの。
馬越さんにとっては、自身の見たもの、周りにあるもの全てがアイディアとなり、作品を生み出すヒントとなるそうです。
「最初は、ケーキ業界ではさんざん言われた、あんなのはケーキじゃないって。だけど、絶対うまくいくって思っていた。口コミでだんだん広がっていったんだ」
ポップで目を引く、アメリカで学んだノウハウに、ケーキとしての完成度を高めるフランス料理店で学んだ繊細な技術。
馬越さんのケーキは、自身の歩みのすべてが込められ、ここにしかないものになっているんですね。
誕生日以外にも、入学や卒業、合格のお祝い、ときにはプロポーズのお手伝いも。
ケーキの中に指輪を入れて…なんていう演出も過去にはあったそうです(プロポーズは無事成功されたそうです!おめでとうございます!)。
ケーキの写真を見るだけでお客さんを思い出すほど、大切に作っています。
お客さんのさまざまな節目に立ち合い、喜びの声を直接聞けることが何よりの喜びだと話してくれました。
「ネコの生きざまが好きなんだ」
お店にはケーキ以外に目立つものがあります。
それが、クッキーです。
特にネコの顔が大きく描かれたものがたくさん!
これらは、保護猫活動の募金のために作られています。
馬越さん夫婦は、北海道に来た頃から保護猫活動を積極的に関わっています。
このネコのクッキーの購入代金の一部は、保護猫団体に寄付するなどしています。
お店が元町にあった頃、店の隣に保護猫団体「ねこたまご」のカフェがあったことが、保護猫活動の始まり。
今も、馬越さん夫婦の自宅には2匹の保護猫がいます。
薄茶色のトビーと黒色の豆太です。
この2匹の猫は、ねこたまごから譲り受けた、馬越さん夫婦の大切な家族です。
馬越さんは「猫の、“自分の人生を生きている”感じが好きなんだ」と話します。
「自分の人生を生きる」
それは、馬越さんの今の人生にも通じています。
好きなことをできる自分でありたくて
馬越さんは、最初についた仕事を辞め、知識も経験もゼロのスイーツの道へと飛び込みました。
フランスやアメリカにわたり、当時の日本では「異端」だったカラフルなデコレーションケーキを信念をもって作ってきました。
その行動力や決断力は何を原動力にしていたのでしょうか。
「小さいときはとても気弱だったんですよ」と馬越さんは笑います。
小さいときから音楽が好きだった馬越さん。
始めはうまくできなくても、練習を重ねて「できる」経験を積み重ねていきました。
できるようになると、周りからも認められたり、任せられたり…
好きだから、やりたい。
努力し、継続し、結果を出す。
そんな経験が次の一歩のまた原動力になるのだといいます。
馬越さんがこれまでやってきたことは、全てが繋がり、ひとつも無駄がありません。
「音楽ができる」自分でありたいから。
「お客様を喜ばせることのできる」自分でありたいから。
そんな風に馬越さんは、”自分の生き方を考える”ことを軸に、言語の壁も、勇気の壁も乗り越えてきました。
目標を決めるのではなく、自分のあり方を決め、それを曲げない強さが、一番大切なことだったのです。
何ができるのか、何が好きなのかを”見つけよう”とするのではない。
”出会う”ために色々なことに挑戦して、生き方を曲げず、進んでいけば良いのだと、馬越さんのケーキをほおばりながら気付かせてもらったのでした。
文:学生ライター・後藤幸咲
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は取材時(2024年1月)の情報に基づきます。