大きく深い呼吸が「よい呼吸」?【内田恭子さんとはじめる「マインドフルネス」】
内田恭子さんの「ここからはじめるマインドフルネス」
NHK『すてきにハンドメイド』テキストでは、フリーアナウンサーとして活躍を続ける内田恭子さんによる「マインドフルネス」エッセイを連載中。
コロナ禍でマインドフルネスに出会い、その魅力を伝えたいと、2023年にマインドフルネストレーナーとしての活動をスタートした内田さん。暮らしにマインドフルネスを取り入れて、いつも頑張る頭や心、そして体を少し休めたい。そんな方たちに、連載を通じて、役立つ気軽なスキルをお届けします。
今回は連載第3回をWEB特別版として公開します。
#3 たかが呼吸、されど呼吸
人って気持ちが落ち込むとどうして海に行きたくなるんでしょう。私も20代の頃、“私の人生はもう終わった”くらいの失意のどん底にいたときがありました。今振り返ると甘いわね、の一言ですが(笑)。そのときにたまたま友人と行ったハワイの海で、波が押し寄せては引いていく様子を見ていたら、心の中のモヤモヤや悲しみがふわっと晴れていった瞬間をいまだに思い出します。
世界はこんなに広いのに、なんで私はこんなに小さいことにとらわれているんだろう。自然は雄大ですね。私たちにいろんなことを気づかせてくれます。
そしてもうひとつ。マインドフルネスを始めて、海と人との密接な関係を体感したことがありました。それが呼吸です。私たちは生まれたときから肺呼吸を始めます。それから休むことなく呼吸を続けているわけですが、そのほとんどを無意識に行なっています。
マインドフルネスのベーシックな瞑想(めいそう)のひとつ「呼吸瞑想」があります。呼吸をするとき、体のどこでその空気の出入りを感じているかに意識を向けていくのです。息を吸うとおなかが膨らみ、へこむ感覚、胸や肋(ろっ)骨が広がり、閉じる感覚、のど元を空気が通る感覚などを体で感じます。その中で、自分が安定して、感じ取りやすい感覚を見つけていきます。そしてその感覚にアンカー(錨(いかり))をおろします。
船は海に停泊したときに流されないように、海底にしっかりとアンカーをおろします。そのイメージで、呼吸の感覚にもしっかりと意識を向けます。この呼吸のアンカーを意識する練習をしていくと、感情が揺さぶられたときや思考で頭がいっぱいになってしまったときに、意識をそこから呼吸へと戻せるようになります。そうやって意識のフォーカス(焦点)を感情や思考から離すと、それらに振り回されることが軽減されます。
この落ち着いた呼吸には、リラックスの副交感神経*を優位にする働きもあります。感情的になり思わずキーッとなってしまうこと、ありますよね(笑)。そんなときも、ふだんから落ち着いた呼吸を意識することを覚えておくと、活発に働く交感神経*からリラックスの副交感神経へと、切り替えられるようになります。
また呼吸というと、私たちは“大きくて深い呼吸がよい”と思いがちです。けれども呼吸のペースというのは性格と同じように一人一人違うものだと思います。自分にとって心地よい呼吸、それがその人の呼吸のリズムなのです。私はふだんはあまり呼吸が深いほうではありません。ヨガで 「吸って、吐いて」とガイドされると、すぐに苦しくなってしまいます。何秒間で吸って、何秒間で吐く、というメソッドも苦手。それくらい、人の呼吸のペースに合わせるって難しい。呼吸くらい自分の好きなペースでやらせてって思うのです(笑)。
なので、私はみなさんに、自分の心地よいペースで呼吸をしてくださいと言います。アンカーを意識して自分が心地よいと思えるペースで呼吸を続けていると、不思議と落ち着いた静かな呼吸へとたどり着いていくのです。
自然界にはたくさんのリズムが存在します。潮の満ち引き、太陽や月の動き、鳥のさえず りや木々を揺らす風、動物の息づかい。私たち人間だって自然の一部ですから、呼吸も自然のリズムのひとつです。波が打ち寄せるペースと呼吸のペースは似ているとも言われています。だから 海に行くと、私たちは自然と同調し、人間社会でのしがらみや枠組みから解き放されて、本来の自分のペースに戻ることができるのかもしれませんね。
たかが呼吸、されど呼吸。皆さんも自分のペースの呼吸を見つけてみてはいかがでしょう。
(用語解説)
副交感神経と交感神経
副交感神経は、睡眠時など休息やリラックスしたときに優位に働く自律神経。交感神経は日中の活動時や緊張下にあるときに優位となる自律神経。両方がバランスよく機能することが大切といわれている。
◆トップ写真・プロフィール写真提供/内田恭子
◆バナーイラスト/山本祐布子
プロフィール
内田恭子(うちだ・きょうこ)
フリーアナウンサー、マインドフルネストレーナー。慶應義塾大学を卒業後、フジテレビアナウンス室に入社。退職後、フリーアナウンサーとして活躍するかたわら、マインドフルネスに出会う。ヨーロッパ最古のマインドフルネスセンターであり国際基準となっているIMA(Institute for Mindfulness-Based Approaches)認定MBSR・MBCT-L(Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Life)講師。日本マインドフルネス学会正会員。
内田さんが主宰する「kikimindfulness」
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