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今年で1,274回目を迎える春を告げる行事「お水取り」~まもなく始まる東大寺修二会とは

草の実堂

今年で1,274回目を迎える春を告げる行事「お水取り」~まもなく始まる東大寺修二会とは

関西に春を告げる行事「お水取り」が近づいた

画像:東大寺お水取り。お松明を担ぎ、走る童子(撮影:高野晃彰)

今年も2ヶ月が経過し、昨今は厳しい寒さの合間に、ぽつぽつと春の気配を感じさせる日もみられるようになった。

2月も後半になり、3月が近づくと関西、特に奈良の人々が心待ちにしている行事が近づいてくる。

それが、奈良・東大寺二月堂で行われる「修二会(しゅにえ)・お水取り」だ。

奈良時代に始まり、今年で1,274回目を迎える。

この法会の由緒は、若狭国の神様・遠敷(おにう)明神が、東大寺二月堂に全国の神様が集まる予定であったのに遅れてしまい、その無礼を詫びるために、二月堂のほとりに水を湧き出させて堂内の観音様に奉ることになったとされる。

今回は、間もなく開催される東大寺二月堂の「修二会」を紹介しよう。

一度も絶えることなく継続してきた「不退の行法」

画像:大仏さんと呼ばれる東大寺盧舎那仏坐像(撮影:高野晃彰)

東大寺の「修二会」は、奈良時代の752(天平勝宝4)年に、東大寺開山良弁僧正の高弟・実忠和尚が創始した。

今年2025年には、1,274回を数える長い歴史を持つ。

東大寺は、聖武天皇が幼くして亡くなった皇太子基親王の菩提を追修するために、728(神亀5)年に創建した。

同寺は、その歴史の中で幾度も伽藍の大半を失う憂き目にあっている。
その代表的な事件が、平安時代中期の失火・落雷などによる諸堂の焼失・倒壊。また、平安末期の平重衡、室町末期の三好・松永の乱による兵火による大仏殿をはじめとする伽藍の大半の焼失だった。

しかし、そんな苦難の中でも「修二会」のみは「不退の行法」として一度も絶えることなく、連綿と今日にまで引き継がれてきた。

その理由は様々だが、「修二会」が始まった奈良時代は、地震などの天災・天然痘と思われる疫病に見舞われた。

さらに、藤原広嗣の乱・長屋王の変・橘奈良麻呂の変・恵美押勝の乱など、皇位継承に絡む、皇族・貴族間の血で血を洗う争いが頻繁に起こった時代だった。

当時、仏教は鎮護国家、すなわち国を守るための力を持つとされていた。

それ故に、こうした凶事は国家の病気と考えられ、「修二会」は、それを取り除くことにより、天下泰安・風雨順時・五穀豊穣・万民快楽など、世の中の幸福を願う宗教行事とされたのだ。

本行の前に行われる準備期間「試・総別火」

画像:お水取りの舞台・東大寺二月堂(撮影:高野晃彰)

「修二会」は、毎年3月1日から2週間にわたって本行である「お水取り」が行われる。

元々は旧暦の2月1日から行われていたので、二月に修する法会という意味で「修二会」と呼ばれるのだ。

しかし、前年の12月からその準備はすでに始まっている。良弁僧正の命日である12月16日の早朝、翌年の「修二会」を勤める11名の僧侶の任命が行われる。選ばれた11名は練行衆と呼ばれ、四職と呼ばれる上席4名と平衆と呼ばれる7名で構成される。

そして翌年、初めて練行衆となった者と、初めて大導師(総責任者)を任された者は2月15日から、その他の者は2月20日から本行が始まるまでの間、東大寺の「戒壇堂」にて身を清めるための前行「別火(べっか)」を行い、3月1日からの本行に備える。

「修二会」は練行衆が、人々の過ちを懺悔するという行事でもある。そのため、穢れが伝播しないよう、生活に用いる火を世間と分けて精進する。

画像:大松明は童子たちにより作られる(撮影:高野晃彰)

2月20日から26日までを「試(ころ)別火」といい、寝食をともにし、仏前に飾る造花の準備・声明の稽古に励む。

26日からは後半の「総別火」に入り、外出はおろか練行衆同士でも私語を控え、一層の精進潔斎に努める厳しい行を行う。

練行衆の厳しい行と大松明を担ぎ駆け抜ける童子

画像:大松明から激しい火の粉が降り注ぐ(撮影:高野晃彰)

そして「修二会」の本行が、3月1日から14日まで行われる。

毎夜19時(12日は19時30分・14日は18時30分)に大鐘が撞かれると、行を勤める練行衆の道明かりとして、童子が担ぐ大松明に火が灯される。これが、有名な「お松明(おたいまつ)」と呼ばれる行事だ。

童子とは、「お水取り」に携わる11人の僧侶・練行衆に付く身の回りの世話役で、大松明・籠松明なども彼らが手作りで製作する。
童子は「お松明」の際に、約40~70キロの大松明・籠松明を担ぎ、二月堂の欄干に突き出し、大きく振り回し勢いよく駆け抜ける。

「修二会」の本行が始まるとその期間、練行衆は毎日六時(ろくじ)の行を行う。

六時とは、1日を日中から夜明けまでの6つの時に分けたもので、日中、日没(もつ)、初夜、半夜、後夜、晨朝(じんじょう)と呼ばれる。
六時それぞれに悔過作法が勤められ、さらにその間に様々な法要や行事、作法が組み込まれる。

画像:練行衆が上堂する二月堂への階段(撮影:高野晃彰)

練行衆は、正午になると食堂において長い祈りの後に食事をとり、二月堂本堂に上堂する。

これ以降、日によっては翌日の午前4時頃の下堂時まで、食事はもちろん、水を飲むことさえ禁じられる。

そして、行中の3月12日深夜および13日の深夜1時半頃に、閼伽井屋(あかいや)内にある若狭井(わかさい)という井戸から、観音さまにお供えする「お香水(おこうずい)」を汲み上げる儀式「お水取り」が行われる。

本行の最終日の14日は、後の片付けなどのため、「お松明」は余り間隔を空けずに上堂する。
この日の晨朝の「時」のことを「名残り(なごり)の晨朝」と呼び、練行衆は一旦下堂した後、「破壇」のため上堂。早朝に下同して仮眠の後、15日の午前10時半頃、湯屋にて入浴。上堂して四座講・開山堂参拝の後、解散して満行となる。

関西に春の到来を告げる、東大寺「修二会・お水取り」は、奈良時代から続いてきた、闇と光が織り成す神秘的な行事だ。

二月堂に参詣して、頭上から降り注ぐ「お松明」の火の粉を浴びると、健康になり幸せになるとされる。

画像:夜空を焦がす大松明の炎と火の粉(撮影:高野晃彰)

コロナが一段落し国内旅行の需要増に加え、インバウンドの増加など昨今の奈良は、驚くほど多くの人々で賑わっている。

元々、大勢の人が訪れる人気行事の「お水取り」だけあって、今年はかなりの人出が予想されている。

東大寺はホームページで旅行会社に対して、「修二会行事は、イベントではありません。 松明を見るためだけのツアー企画ではなく、奈良国立博物館で開催される特別陳列・お水取り(毎年2月中旬~3月中旬開催)などで行事の意義を理解された上で、二月堂へお参りされることをお薦めします。」と告知している。

また、個人の旅行者に対しても、ホームページで「お水取り」開催期間の様々な「注意事項・お願い」を記載しているので熟読のうえ、宗教行事であるということを認識し、節度をもって見学することをおすすめしたい。

東大寺修二会サイト:https://www.todaiji.or.jp/annual/event/shunie/
文:写真 / 高野晃彰 校正 / 草の実堂編集部

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