人吉『イスミ本店』~球磨川水害からいち早く復興。「ベーカリー感麦(カンバック)」でカムバック!~
2020年の夏、豪雨の影響による球磨川(くまがわ)の氾濫(はんらん)で、大きな被害を受けた熊本県人吉市。ご当地スーパー『イスミ本店』も、1階の天井まで水没してしまいました。しかし町の復興のため、翌年には新装開店を果たします。さらに「パンで元気にしよう」と製パン部を立ち上げ、現在、お店の顔になっているのが「劇場ベーカリー感麦(カンバック)」。パンに込められた、あつあつの情熱も感じたい!
今回のゴー!ゴー!
『イスミ本店』(熊本県人吉市)
熊本県南東部の山地に囲まれた盆地と、その中央を流れる球磨川。自然豊かな人吉球磨は、トレッキングやラフティングの拠点として便利です。一方で明治維新までの約700年間、相良(さがら)氏が平和的に統治し続け、いまも平安時代の神社仏閣などが数多く残る、歴史の里でもあります。
球磨川に並行して栄えた人吉の温泉街で、人々の生活を担ってきたご当地スーパーが『イスミ本店』です。この店が、1956年設立のイスミ商事が人吉球磨で4店舗展開するスーパー「イスミ」の本店となります。
以前は、通りに面した出入り口付近に、おしゃべりを楽しむおばあちゃんたちのためのイスがあるような、都会的な外観とは真逆の、なんとものんびりとした雰囲気の店でした。ところがその日常を襲ったのが、2020年夏の「令和2年7月豪雨」です。球磨川の氾濫により、『イスミ本店』は1階の天井まで完全に水没。その様子を捉えた衝撃的なニュース映像は、全国に伝えられました。
当時のことを「考える時間もなく、淡々と作業を進めました」と振り返る、髙見智喜(ともき)社長。商売、スタッフ、そして町の復興のために、早く再開しなければという一心で、即日で解体・再建を決断。仮店舗で営業しながら2021年12月、ついに新装開店を果たしたのです。
新しい外観は、歴史ある町にいっそうなじむ瓦色のデザインに。明るくなった店内で目立つのは「劇場ベーカリー感麦」。「パンで元気にしよう」と製パン部を立ち上げるため、担当者が修業に出て一から学んできたという、その熱さでパンが焼けそうな情熱です。さらに、伝統ある地元メーカー品も満載。特に味噌、醬油、球磨焼酎の醸造所は100年を超える老舗ばかり!
思えば人吉ではベーカリー、醸造業、そのほかおいしいものはみんな、地元のおいしい水で仕込まれています。町を壊した水が町を再生する水に——。球磨川の清らな流れを見つめながら食べる、イスミのパンは最高です。
オリジナル商品。『イスミ本店』の味
むかしから地域の水運や農業用水として利用されてきた球磨川によって、農産物や畜産物が育まれています。そんな豊かな地元原料を生かした、本店オリジナルの味をさまざまなスタイルで提供中。
個性強めな人吉球磨の地元食
人吉城跡や球磨川下りなど、観光やレジャーも楽しめる盆地、人吉球磨エリア。宮崎県と鹿児島県に隣接する山深い地形のため、平家の落人(おちうど)伝説が残っています。
「球磨焼酎」(小瓶)の棚に注目!
「繊月」に「白岳(はくたけ)」など、球磨を代表する焼酎がずらりと並んでいます。一升瓶に見えますが、実は100㎖のミニボトルで、いずれも297円とお手頃価格。人吉球磨で造られる、米を原料とした焼酎だけが「球磨焼酎」と認められています。
『イスミ本店』の詳細
イスミ本店
住所:熊本県人吉市九日町87
/営業時間:9:00~19:00
/定休日:無/アクセス:JR肥薩線人吉駅から徒歩15分
取材・文・撮影=菅原佳己
『旅の手帖』2024年5月号より
菅原佳己
スーパーマーケット研究家
執筆やテレビ出演、講演活動をこなしながら、全国のご当地スーパーを行脚。埋もれた日常食の発掘とその魅力を伝えている。著書に『47都道府県 日本全国地元食図鑑』(平凡社)など。