山へ移住を考えている人へのアドバイス【穴澤賢の犬のはなし】
先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、
数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで
感じた何気ないことを語ります。
現在、犬と暮らしていて、この連載を読んでくれている読者の中には、山への移住、もしくはセカンドハウスを真剣に考えはじめている人も多いのではないだろうか。なぜなら、今年の夏が暑すぎたからだ(9月になってもまだ暑い)。
住む前に短期滞在のススメ
こうも暑いと毎朝5時、もしかしたら4時代に起きて散歩に行かないといけない。夜は夜でなかなか気温が下がらない。早起きしているから、お昼をすぎた頃、妙に眠くなる。そんな毎日にうんざりしている。さらに、来年の夏はもっと暑くなるかもしれない。少なくとも、涼しくなる要素は見当たらない。再来年の夏は、いったいどうなるんだ?
というのは、昨年の夏の終わりに私が感じていたことだ。それで移住を決断した。今はどうかというと、朝7時に散歩に行っても問題ない、朝晩は13〜15℃くらいだから。日中でも晴れると暑いが、それでも28℃くらい。湿度も低いので、日陰だったら昼でも犬と出歩ける。信じられないかもしれないが、それが標高1400メートルの山の暮らしだ。
わが家の前は幹線道路ではないから車はほとんど通らない。昼間は鳥がさえずり、夜はうるさくない程度に虫の鳴き声が聞こえる。何より、大吉と福助がとても快適そうだ。だから移住して正解だったと思っている。
いいなぁと思うかもしれないが、移住するのは本当に色々大変だったんだよ。そんな私から、真剣に山へ移住、またはセカンドハウスを考えている人に、経験者としてアドバイスしてみようかと思う。参考になれば。
まずは、考えているだけではなく、実際に来てみることが大切だと思う。最初は1泊でもいいけれど、できることなら1週間くらい滞在してみることをオススメしたい。理由は1泊なら旅行気分だが、少しでも長くいると、そこで暮らすイメージが湧いてくるからだ。
私が暮らす原村には『 MIC HOUSE 』という犬OK格安ペンションもあるし、隣の富士見町には犬OKの『 富士見高原別荘地』もある(実際に私も物件探しをしているときは貸別荘に泊まったりしていた)。
連泊して自炊すると、車を運転してスーパーへ食材を買い出しに行く必要が出てくるので、なんとなく距離感が分かる。都会で暮らす人の多くは歩いてスーパーへ行くのが日常だと思うが、山だとそうはいかない。といってもそんなに山奥ではない。わが家から一番近いスーパーまで車で10分ほど、ちょっと大きなスーパーまでが25分くらい。30分も行けば茅野市内に出る。
その他、暮らすと郵便局やホームセンターへも行く必要があるので、そのあたりも車で回ってみるのがいいと思う。私の場合、5年ほど鎌倉と八ヶ岳の2拠点生活だったため、周囲の道と店は頭に入っていたので、その点では楽だった。
実際に住んでみて感じる苦労
そして、別荘地はたくさんあるので、実際に見て回ってみるといい。距離感が分かってくると、暮らすうえで不便かどうか分かるし、別荘地それぞれ雰囲気が違うから物件を探すときはあちこち見たほうがいい。
ひとつ注意点があるとしたら、標高1200メートル以上にした方がいいということ。1000メートルくらいだと犬にとっては暑いからだ。
土地や中古物件の相場には詳しくないが、私がボロ小屋を買った2017年よりは高くなっているらしい。それでも安い中古物件だと500万円くらいであるのではないだろうか。それで最低150坪、たいてい250〜300坪が一区画なので、新車を買うくらいで広い敷地と山の家が手に入る。
ただ、安い物件には必ず安いなりの理由があるから、後で補修費用などがかかると思っていた方がいい。わが家も格安だったが、雨漏りはするわ、隙間風はすごいわ、結構補修費用がかかったが、少しずつ自分でできることはやったりして今にいたる(未完成)。
次に、秋はもちろん冬の八ヶ岳も体験しておいた方がいいと思う。夏は涼しくて最高だが、その分冬は寒い。基本的に都心と比べると常に気温が10℃ほど低いので、都心で0℃だと山はマイナス10℃、ときにはマイナス15℃になる。
でも不思議なことに、それだけ気温が低くても、なぜかたまに行く横浜のビル風の方が寒く感じる。これは私だけではなく、近所の友人たちも口を揃えていうのでおそらく風が強くないからではないかと思う。それでも暖房は重要で灯油代なり薪代なり、冬は光熱費が高くなる。
サマーハウスとして考えるならいいが、移住を考えているなら、冬も知っておいた方がいいと思う。ただし、冬は4WDのスタッドレスタイヤが必須である。雪国ではないからそんなに積もらないが、夜の路面は凍結するから。
もう1つ、セカンドハウスにしても定住にしても、都会の暮らしでは無縁だったものをいろいろ買う必要が出てくる。たとえば、草刈り機、丸ノコ、チェーンソーなどなど。私もそうだったが、それは追々分かると思うからそんなに問題ではない。
あと、山に家があれば自然の中でのんびり過ごせると思っているとしたら、それは大きな間違いである。草刈りに始まり、テラスや外壁にオイルステインを毎年塗って劣化を防いだり、ドッグランを作るのに奔走したり、冬に使う薪の準備をしたり、次から次にやることが出てくる。もう肉体労働の連続である。ただ、それが苦痛かといえばそんなことはなく、自分でやらないといけないことだから仕方ないという感覚になる。
そして最後に、下見に来るなら、山での犬たちの様子をよく観察してみてほしい。本当に目をキラキラ輝かせて、足取りは軽く、心の底から嬉しそうにするはずだと思う。そんな姿を見ると、他の様々な問題はどうでもよくなる。現に私は大吉と福助、そして富士丸の存在がなければ、山へ移住なんてしていなかっただろう。参考になったかなぁ。
※コメント欄に質問をくれれば、私の知っている範囲で次回答える予定です
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。