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【細見美術館のコレクション展と堀文子展】静岡新聞教育文化部長のイチオシ作品を紹介!モチーフから感じ取れるものとは?

アットエス

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「細見美術館のコレクション展と堀文子展」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年4月24日放送)

(山田)今日は県内2カ所の美術館で始まった展覧会の話題ですね。

(橋爪)静岡新聞社・静岡放送主催の中部、東部の主催展が相次いで開幕したので、どんな展覧会なのか語りたいと思います。

よくある展覧会紹介はこれもあれもいい、といった総花的な話になりがちなので、今日は違うことをやろうと思います。私が記者として、あるいは一観客として会場を歩いて回った中で一番心を引かれた作品、1点だけを語ります。

リスナーの方々が会場に足を運んで作品を見たら、「ラジオで言ってた作品は絶賛されていただけのことはある」と思うかもしれないし、「この作品を褒めていた人は見る目がないな」と思うかもしれない。そうした語りのネタを提供したいので、今日は身を削る思いでお話します。

(山田)美術展を観に行った際に、「これが一番良かった」って作品を自分で決めるのも面白いですよね。

(橋爪)最初から「自分が何が一番良かったかを決めるぞ」と心に決めて行くのもいいと思います。目的があるのとないのとでは、全然違います。個人的にはいつもそうするようにしています。

(山田)どちらの展覧会からいきますか。

細見美術館のコレクションは「美術の教科書的」

(橋爪)まずは静岡市美術館の「京都 細見美術館の名品-琳派、若冲、ときめきの日本美術」展の説明をしますね。

細見美術館は京都市にあります。大阪で毛織物の製造会社をおこし、成功を収めた細見良さんから三代にわたって日本美術のコレクションを続けている細見家がつくりました。その中から、重要文化財8件を含む104件が静岡市美術館に展示されています。

(山田)重要文化財もあるんですね。

(橋爪)細見コレクションの特徴の一つは時代区分に「まんべんがない」ことです。どこかの時代に偏って何かを集めたというのではなく、幅広い時系列が感じられます。今回も古墳時代後期の須恵器が観られます。

(山田)そんな時代から!

(橋爪)飛鳥時代、奈良時代、平安時代、鎌倉時代、室町時代、桃山時代、江戸時代、明治時代、大正時代と、すべての時代の作品があります。

(山田)へぇー。すごい。

(橋爪)絵画や立体作品などバリエーションも豊富で、「美術の教科書的なコレクション」とも言われているそうです。それだけ俯瞰的な、美術史的な見方ができます。

(山田)僕は日本画のイメージがありましたが、違うんですね。

(橋爪)日本画が有名ですが、それはコレクションの一部というように考えた方がいいのかなと思いました。

(山田)なるほど。

推しは伊藤若冲の「鶏図押絵貼屏風」

(橋爪)さて、私の一点買いならぬ一点推しを紹介したいと思います。伊藤若冲の「鶏図押絵貼屏風(にわとりずおしえばりびょうぶ)」です!

これは六曲一双と言いまして、つまり六つの面に6枚の絵が描かれた屏風が二つセットになっています。それぞれに異なった鶏の絵が12枚ずらりと並んでいます。雄の鶏が中心なんですが、中には雌の鶏やひよこが配置された絵もあります。背景はなく、墨一色で鶏だけを描いています。

(山田)白黒ですか。

(橋爪)伊藤若冲のプロフィールを簡単に説明しておくと、江戸時代中期に京都で活躍した画家で、近年、世界中で支持されています。日本では2000年に京都国立博物館が没後200年の大回顧展を開催したことを契機に、大ブームとなり人気が続いています。2016年4月に東京都美術館で開催された「生誕300年記念 若冲展」は会期31日で総入場者数が約44万6千人!

(山田)めちゃくちゃ人気がありますね。

(橋爪)それで、ここが細見美術館のコレクションがすごいところなんですが、細見家の二代目、実さんはブームになる30年前から若冲の作品を集めていました。1960年代から収集していたと言われていて。独自の審美眼で、若冲の絵の価値を早くから見抜いていたんですね。今回の展覧会では若冲の作品が全部で19件見られます。

静岡でこれだけまとまった形で展示される機会はなかなかないんです。私の記憶している限り2011年に県立美術館で開かれた「帰ってきた江戸絵画  ニューオーリンズ/ギッターコレクション展」以来ではないでしょうか。

(山田)それこそ2016年の若冲展に行けなかった方も楽しめそうですね。

(橋爪)そうですね。話を作品に戻すと、鶏は伊藤若冲の最もよく知られたモチーフです。生涯を通じて鶏を描き続けました。この展覧会のチラシに使われている「雪中雄鶏図(せっちゅうゆうけいず)」は有名で、30代前半に描いたものとされています。

私が推す「鶏図押絵貼屏風」は80歳前後の作品なんです。つまり、「雪中雄鶏図」から半世紀ぐらいの時が流れています。「雪中雄鶏図」に比べて、「鶏図押絵貼屏風」はすごくシンプルです。もっと言うと、簡略化するところは大胆に簡略化しているんです。

「雪中雄鶏図」はカラーで、情報量としてはそちらのほうがすごく多いんです。一方、「鶏図押絵貼屏風」は本当に最低限の線、シンプルな画風で描いています。特に観てほしいのは尾羽です。絵画と言うより書作品のようです。柔らかくひらがなを書くかのように、すーっと迷いなく筆を運んでいます。

(山田)一筆みたいな感じですね。

(橋爪)こういう曲線を描く上でどれだけ鶏を見つめたのかという。

(山田)それかっこいいですよね。若冲は後期になればなるほどシンプルになっていくみたいな。

(橋爪)日本画、洋画を問わず、あらゆる画家の「到達点」みたいなものを感じました。

(山田)余計なものはいらなくなるということですね。

(橋爪)だんだんそうなっていくのかなと。そうあるべきなんだろうなと思わされたりしました。

(山田)それが「鶏図押絵貼屏風」ですね。

堀文子展のイチオシは「霧の野」

(橋爪)続いて、三島市の佐野美術館で20日に開幕した日本画家堀文子の回顧展「没後5年 いのちの鼓動を描く―日本画家・堀文子」です。今回の展覧会は堀さんの生涯を時系列にたどるような形で作品約60点を展示しています。こちらの一点推しは、1960年制作の「霧の野」です。

(山田)日本画なんですが西洋的なイメージもありますね。

(橋爪)全体的にダークなトーンですね。画面全体、特に背景が曇り空のような色になっていて、複数のイメージが組み合わさっています。葉を付けた木々だったり、葉を落とした木の枝だったり。注目すべき点は、全体的に静かな絵の中にたった一つの動的な存在としてキジがいることです。

このキジは両方羽を広げて、顔を前に突き出して何か言いたげなんです。だけど口は閉じられています。その顔の前には黒黒とした影がある大木があります。

この作品を説明抜きで見たときに、何か思いがけない出来事があって、世界に自分がたった1人取り残されたような。そんな感覚になりました。

(山田)いい感性ですね。

(橋爪)それで、答え合わせをするようにキャプションを見たら、この絵は堀さんのご主人で外交官だった箕輪三郎さんが死去した、まさにその年の作品だというんです。

(山田)へぇー。

(橋爪)堀さんは28歳で結婚した夫を42歳の時に亡くしています。キャプションによると、堀さんは悲しみにくれて、絵が描けなくなってしまい、長野県の万座や軽井沢の高原をさまよい歩いたというんです。その時に、どこからともなく聞こえてきたキジの声に触発されて、無心に仕上げたのがこの作品だそうです。

この絵には不安定な感じでキジが存在していて、何かを訴えようとしています。言葉にはできないもどかしさ、みたいなものを感じます。人間は大切な人を亡くした時に、一言ではいえない気持ちが湧いてくるじゃないですか。「悲しみ」だけでもない、「悔しさ」や「寂しさ」だけでもない。「しっかりしなきゃ」という気持ちもあります。いろんな感情が入り交じっていて、言語化しにくいですよね。そうした気持ちを、この絵に描かれたキジ1匹が表現している感じがするんです。

この絵を見たときに目頭が熱くなってしまい、その場でしばらく立ち尽くしました。ぜひ美術館で見ていただきたいですね。

(山田)なんかすごく静かな、音がないイメージなんですけど、エネルギーがすごくあるようにも感じますね。

(橋爪)そうですね、エネルギーも感じますし、人間の心の奥底に眠る一言では言えない感情みたいなものがこのキジの姿からじわじわ伝わってくるんですよね。

(山田)僕らは何かを伝えたくて言葉にしがちですけど、そうじゃなくてもいいというような感じを受けますね。

(橋爪)そうですね。言葉では到達できない表現がここにはあると思います。改めて、細見美術館のコレクション展は静岡市の静岡市美術館、堀文子展は三島市の佐野美術館で開催中ですので、ぜひ足を運んでいただけたらなと思います。

(山田)いろんなものを受け取れると思いますね。というわけで、今日の勉強はこれでおしまい!

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