セクハラ要注意【セクシーソング TOP5】聴き手にもコンプライアンス的配慮は必要か?
連載【教養としてのポップミュージック】vol.6 / セクハラ要注意【セクシーソング TOP5】聴き手にもコンプライアンス的配慮は必要か?
セクシーソングの定義とは?
いきなりで恐縮だが、今回のテーマは “セクシーソング” である。でも “セクシー” と言ったところで、この言葉自体がそもそも相対的な概念だし、皆さんにとっては「はて?」かもしれない。そこで勝手ながら、ここではセクシーソングを次のように定義することにする。
▶︎ セックスについて歌っている楽曲、セックスに関する考え方を提案している楽曲
▶ 性的魅力を感じさせる楽曲、性的興奮を促すような楽曲
▶︎ 性的に興奮している様子を描写している楽曲
ただ、音楽を中心とするポップカルチャーの成り立ちを振り返ってみると、既存の社会体制への反抗とか、伝統文化に対するアンチテーゼから始まったという側面もあるので、不道徳であることがかえって作品の魅力を高める… みたいなことも決して珍しい話ではない。そう考えると、かつて “セックス、ドラッグ&ロックンロール” なんて時代があったように、セクシーは当初からポップカルチャー、ポップミュージックを構成する要素の1つだったと言えるかもしれない。
セクシーソングでは他人への影響を考えなければならない
今回、僕がなぜこのテーマを取り上げたかったかと言うと、最近はここ日本においても “性の多様性が広く知られるようになってきたこと”、“コンプライアンス違反やハラスメントに対する世間の目が厳しくなっていること” から、性的な表現・言動に無自覚でいることのリスクを、より感じるようになったからである。
実際、セクシーソングを無意識に口ずさんだり、カラオケで歌ったり、室内・車内でその音源や映像を流したりするだけで、そこにいる人たちに不快感を与えたり、傷つけたりしてしまっているかもしれないのだ。でも、だからと言って、性自認や性的志向は人それぞれなので、ひとりひとりがどう受け止めるかを事前に把握しておくのは現実的ではない。
加えてもう1つ、多くの日本人にとって心配の種がある。これは洋楽に限った話ではあるが、“英語力が乏しいが故に歌詞の意味が解らない問題” である。日本語しか通じない人だけのコミュニティにいる場合は気にしなくていいかもしれないが、今は日本で普通に暮らしていても、周りに外国人、ハーフやクォーター(父母・祖父母の中に外国人がいる)、帰国子女、海外留学・海外赴任経験者などがいることが、すっかり非日常ではなくなった。
僕はかつて結婚披露宴に招待された際に、新郎新婦が “さあ、感動しなさい” と言わんばかりに流した英語曲が、実は悲恋失恋の歌だったという場面に何度となく遭遇したが、これと同じことがセクシーソングにおいても十分に起こりうる。それに、披露宴なら自分たちが恥をかくだけで済むが、セクシーソングでは他人への影響を考えなければならない。
とすると、僕たちがすべきことは、あらかじめセクシュアルハラスメントになる危険性のある楽曲を抽出しておくことではないだろうか。これから紹介する5曲は、1980年代前後のセクシーソングの中でも特に強烈で、特に過激な、いわば要注意楽曲なので、ぜひ覚えておいていただきたい。そして、こうした配慮こそが、多様性の時代の「マナー」だと思うのである。
放送禁止ソングも!セクシーソングトップ5
【第5位】マドンナ 「ジャスティファイ・マイ・ラヴ」
1990年リリース。彼女にとって9枚目の全米No.1シングルで、ベストアルバム『ウルトラ・マドンナ〜グレイテスト・ヒッツ』(The Immaculate Collection)に収録。レニー・クラヴィッツが参加したことでも知られるこの曲は、数あるマドンナ作品の中でも群を抜いてミュージックビデオが強烈だ。
絵画のように美しいモノクロ映像はまるでフランス映画のようだが、その内容はと言えば、黒いコートに黒い下着を付けただけの彼女がホテルに迷い込み、性別問わず様々な人間と快楽を貪るという過激なもので、同性愛、ボンデージプレイ、乱交などが赤裸々に描かれている。MTV史上初の放送禁止になったのも仕方ないだろう。
【第4位】ジョージ・マイケル 「アイ・ウォント・ユア・セックス」
1987年公開の映画『ビバリーヒルズ・コップ2』の挿入歌で、ソロデビューアルバム『フェイス』の先行シングル。当時最先端かつ高額で知られた電子楽器 “シンクラヴィア9600” を導入しながらも抑えたデジタルサウンドが、彼の歌とメッセージを際立たせている。
曲名からして一目瞭然だが、性的欲求を直接的に表現していることから、BBCを始めとする世界各国の放送局で放送禁止になった。ミュージックビデオにも、当時の恋人であるキャシー・ユングの裸の背中に口紅で “EXPLORE MONOGAMY” と書くシーンが出てきたりするが、これは直訳すると “一夫一婦制を追求しろ” で、要は “たった1人と愛し合え” という彼のメッセージだろう。正直「どの口が言うか」という感じではあるが… 。
【第3位】ブルース・スプリングスティーン 「アイム・オン・ファイア」
1984年リリースのアルバム『ボーン・イン・ザ・USA』からの第4弾シングル。とても地味な曲で気づきにくいが、実は「I can take you higher. Oh oh oh I'm on fire」と女性に対する炎のような欲望が描かれている。
本人が自動車修理工を演じているミュージックビデオも面白い。白いフォードで乗りつけてくる女性からキーを受け取るところから始まる、不倫のお誘い的な、少々安っぽいドラマ仕立ての映像だが、85年のMTVビデオ・ミュージック・アワードでは『最優秀男性ビデオ賞』(Best Male Video)に選ばれた。この曲は意外と多くのアーティストにカバーされていて、2021年には映画『PIG / ピッグ』の中でカサンドラ・バイオレットが歌っているのだが、こっちのバージョンもオススメだ。
【第2位】マーヴィン・ゲイ 「セクシャル・ヒーリング」
1982年に長年の付き合いだったモータウンを離れてから初めての、そして生前最後のヒットシングル。アルバム『ミッドナイト・ラヴ』に収録。曲名を直訳すると「性的治療」となるが、要するに “悶々とした気持ちを抑えたり、火照った身体を冷ましたりするには、セックスするのが一番さ” というメッセージだ。
この曲はローランドから発売されたばかりのポリフォニック・シンセサイザー “JUPITER-8” とリズムマシン “TR-808” を駆使して制作されたが、この打ち込みサウンドがセクシーなムードを醸し出すのに貢献している。そして翌83年、彼にとって最初で最後のグラミー賞(最優秀男性R&Bボーカル・パフォーマンス賞と最優秀R&Bインストゥルメンタル・パフォーマンス賞)が、この曲によってもたらされた。
1位はグラミー賞「最優秀ビデオ賞」に輝いた「フィジカル」
【第1位】オリビア・ニュートン・ジョン 「フィジカル」
1981年リリースのアルバム『虹色の扉』(Physical)の先行シングル。全米シングルチャート(Billboard Hot 100)で10週連続1位。それまで清楚なイメージのあった彼女が、この曲では一転、トレードマークのロングヘアをバッサリ切って “Let me hear your body talk” と連呼するなど過激な性的表現が目立ったことから、一部の国・地域で放送禁止の扱いを受けた。
一方、83年のグラミー賞で『最優秀ビデオ賞』(Video of the Year)に選ばれたミュージックビデオでは、彼女がレオタードを着て腹の出たオッサンたちとエアロビクスに励んでいて、本当に何度観ても笑える。でも、ここで “女性が主体的に性を楽しむことを訴えたこと”、“ゲイカップルを肯定的に描いたこと" は、その後のエンターテインメントに大きな影響を与えたのではないかと思う。