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Galileo Galilei イントロが鳴るたびに歓喜が溢れた一夜限りのセットリスト、ライブ『あおにもどる』が証明したバンドとファンのつながり

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Galileo Galilei

Galileo Galilei『あおにもどる』


2025.3.15 東京ガーデンシアター

「新しいことをやりたいっていう自分たちと、過去にリリースした楽曲をやりたいっていう自分たちというのは全部、過去・未来の話じゃなくて、現在の話として自分たちは捉えていて」と、この3月にリリースした再録アルバム『BLUE』について、岩井郁人(Gt)が述べていたことに個人的には最も膝を打った。この再始動以前の楽曲を現在のGalileo Galileiのスキルやセンス、メンバー間の空気感で再録した『BLUE』リリース後のタイミングで開催された一夜限りのライブ『あおにもどる』は今やりたいことをやる、もちろんやるなら今のバンドのタフさをもって、という無言のエネルギーに満ちあふれていた。そして何より今回のライブはGalileo Galileiの音楽に青春のかけがえのない時間を支えられてきたファン、彼らのシーン不在時に出会ったファン、どちらにとっても遂に叶えられた約束の地だったに違いない。本編25曲、アンコール4曲、トータルタイム約3時間のあいだ、イントロが鳴らされるたびに歓声や感嘆の声が上がり、ガーデンシアターの高い天井まで歓びが上昇して、その空気に満たされていたのだから。

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それにしてもだ。『BLUE』リリース後のライブにも関わらず、同作収録曲を半分もセットリストに盛り込まないのはなぜなんだ? もちろん、アルバム未収のフェイバリットナンバーを聴けるサプライズもあるし、こんなに演奏したい楽曲がある事自体素晴らしいことだ。答えは本編ラスト前に尾崎雄貴が明かしてくれた。曰く「『BLUE』ってアルバムを出したけど、もう2枚作るとしたら?って考えたセットリスト」なのだという。全くテンプレートが存在しないバンドだ。例えばそれは前回の演劇要素を盛り込んだ『Tour M』とも根本的に同じだし、Galileo Galileiというバンドのオリジナリティだ。

楽器とアンプが並ぶだけのシンプル極まりないステージ。場内が暗転するとセンターにスポットライトが落ち、フロアランプが点灯する。そこで雄貴が歌い始めた1曲目に静かなどよめきが起こる「スワン」。キャリアの中でも最も急速に独自性を強めたアルバム『PORTAL』収録曲だ。それに関係はないだろうが、長いステージの初っ端なせいか少し歌に緊張が感じられたが、スマートにすら感じられるバンドアンサンブルが静かに耳に染み込む。じっくり噛みしめる間もなく、サポートメンバーの大久保淳也(Sax/Key)のフレーズが加わったライブアレンジが新鮮な「ロンリーボーイ」「Jonathan」と、アルバム『ALARMS』収録曲が続く。「Jonathan」のインディポップのマスターピースのような名曲感とフロアの歓喜は巨大フェスのヘッドライナーのようだ。“すずめちゃんペンライト”もここで上がる。「バナナフィッシュの浜辺と黒い虹」は最近のライブでも披露されていたが、よりロックバンド然としたタフさが際立ち、岩井が上段から降りてソロを弾く場面もあり、雄貴の声も強く伸びやかになってきた。そして尾崎和樹(Dr)の四分キックからギターイントロでまたもや驚きにも似た歓声が上がったのは「老人と海」。輝度の高い2本のギターが冴えまくる「サークルゲーム」と、聴きたかった曲が次々の演奏され歓びが広がっていく。

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正直、セットリストを配布してもらい次の曲がわかっている我々でも、イントロが鳴るたびに小さく声が出ているわけで、ファンの皆さんの感激やいかにと思うのだが、その感激がライブの中でも更新されていくのだ。特に待ってましたとばかりのリアクションが起きたのは「管制塔」のイントロで、ガリレオ初のオリジナル曲に横溢する青くささはそのままに、この日の6人で奏でるライブアレンジは当然、歳月を反映した豊かなものだった。

さらにライブで演奏されること自体レアな「ウェンズデイ」ではサポートギターのDAIKIのセンス溢れるリフに胸がすくような思いになり、同じくアルバム『Sea and The Darkness』からの「ブルース」での高音が続く歌メロに改めて尾崎雄貴というボーカリスト、ストーリーテラーの凄みにいい意味で固まってしまう。なんというカタストロフを1曲で作り出してしまうのだろう。1曲1曲、曲の強さを実感し続けるのだが、この「ブルース」と続く「Kite」での岩井のフィードバック・ノイズやブルーススケールのソロ、マイナーチューンでフォーキーな味わいもある「山賊と渡り鳥のうた」の流れには、この曲たちを作り上げてきた雄貴の内面の深さやメンバーのプレーヤービリティに深く感銘した。

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グッとステージの明度が上がったのは数少ない(!)『BLUE』からの選曲でもある「僕から君へ」。見事に決まったエンディングに悲鳴に近い歓声が上がった。さらにDAIKIのストロークから驚いたことにBBHFの「ホームラン」も披露してくれた。そして雷のSEから2本のギターアンサンブルがオレンジ色の照明とともに曲の景色を連れてくる「嵐のあとで」が演奏されたのだが、和樹が操るPCに不調が発生。「ここまでノンストップできたのにね。こう見えてテンションめちゃくちゃ上がってます」と、予定にない雄貴のMCを挟んだことで、幸せなムードがより色濃くなったのは間違いない。怪我の功名と言ったら言いすぎだろうか。

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中盤の白眉は雄貴の歌と岩井のアコギのみで届けた「くそったれども」、そして切望されていた「ありがとう、ごめんね」ではDAIKIのチョーキングが曲に新たな個性を加えていた印象だ。また、「カンフーボーイ」がそもそも持っていたテイストでもあるけれど、哀愁とアダルティなポップスの味わいはいいフックになり、場面転換的なインスト「Blue River Side Alone」では照明も青く、次のセクションへの自然な流れを作り、規則的なギターリフが「青い栞」を運んでくる。どのレパートリーでも曲の基盤を下支えする頼もしいベースを弾く岡崎真輝だが、この曲での空間の容積を感じる響きに圧倒された。そして再始動後のライブでも時々披露され、至上の愛ゆえの美しさと悲しさに毎回心を震わされる「オフィーリア」では、この日遂にライブで聴くことができた人はきっと溜息を漏らしていたんじゃないだろうか。それにしてもここまで、20曲を歌ってきた雄貴は傍目には歌うほどに調子を上げているように見えた。

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生で聴くこと自体の希少性を例えば「汐」や「青い血」に感じながら、大久保のサックスが冴える「汐」であったり、岡崎のニューウェーヴィーなベースラインに耳を持っていかれる「青い血」の演奏に、今ここで鳴らされるこのメンバーでのアンサンブルの至福がある。この曲もやってくれるのか!という驚きに続いて、ファンの大きな歓喜が溢れる曲もある。終盤に演奏された「星を落とす」の待望されていたムードが最高潮に達し、この日最も多くの手が上がっていた。そして再始動後のライブで本編ラストにセットされることが多かった「Sea and the darkness Ⅱ」で見せたバンドのスケールの大きさはこの日も締めくくりにふさわしいものだった。だが、この日はここで終わらない。

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ここで雄貴が前出の「もう2枚作るなら?」発言に続いて、「『BLUE』で昔の曲をやってるという気はしなくて。曲を書いたときのことはおぼろげだけど、でも改めて今日やってみて、今の曲と地続きだったんですね。Galileo Galileiってバンドにとって同じものなんだなって。だから変わってないねって言いに来た感じです」と、この『あおにもどる』というライブの核心に触れた。当然、この発言を受けての本編ラストは「あおにもどる」だ。あの頃と同じことはできないけれど、本質は何も変わっていない。同じ時間を別の場所で過ごしてきたバンドとファンにとって、こんなにリアルな曲があるだろうか。初披露と同時に、これまでの大切な曲と肩を並べてこの曲が歩き出した気がした。

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アンコールでは最近のライブのキラーチューンになった「SPIN!」をはじめ、「あそぼ」「恋の寿命」を披露。早くも次回ツアー『TRITRAL TOUR』も発表され、フロアが次の約束に湧く中、ラストはGalileo Galilei始まりの地を綴る「稚内」が披露される。楽隊の演奏のような自然なアンサンブルで届けたことも、雄貴が後ろ手を組んで歌う姿がなんだかリアム・ギャラガーのようだったことも長く記憶に残りそうだ。そしてGalileo Galileiの次の「今、やりたいこと」に思いを馳せている。

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文=石角友香
撮影=Masato Yokoyama

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