「6年間、本当に幸せでした」ヤユヨ、解散ライブも笑顔で「あばよ」ーー全18曲で伝えた思いの丈と感謝
『ヤユヨのラストライブ』2025.1.31(FRI)東京・shibuya eggman
寝耳に水だった。昨年8月の「ヤユヨの日」には、結成日である1月19日に開催する特別ライブの意欲を語っていたじゃないか。それなのにどうして!? ヤユヨの解散発表は、あまりにも突然だった。解散を発表する9日前には、『TALTOナイト2024』で向こう意気あふれる演奏を見せてくれたばかりだったじゃないか。それなのに。もちろん、解散を決めるのは簡単なことではなかったと思うし、そもそも外野がとやかく言えることではないから、彼女達の決断を受け止めるしかないことはわかっている。それにしても、だ。
悲しさなのか、やるせなさなのか、理性とは別のところで堂々巡りしている気持ちを持て余しながら、1月31日(金)に東京・渋谷eggmanで開催される『ヤヨユのラストライブ』に出かけていったのだが、いよいよライブが始まって、6年に及んだ活動をベストな形で終わらせようとしている3人の姿を見ているうちに、おセンチになってんじゃねえよと自分が感傷的になりすぎていることを思い知らされたのだった。
なぜなら、3人揃って、笑顔でオンステージして、「めっちゃ楽しもう!最後の最後まで楽しんで、笑っていこう!」とリコ(Vo.Gt)が言いながら、その言葉通り終始、笑顔を絶やさずに演奏しつづける3人の姿に胸を打たれたからだ。そこに後悔はこれっぽっちも感じられなかった。葛藤や逡巡を経て、解散という答えに辿りつくまで、どれだけ時間がかかったのかはわからない。しかし、この日のヤユヨの演奏には、その時間をぶっ飛ばして、解散に戸惑っている人達の気持ちを、彼女達の現在の心境にまでぐいっと持ってこさせるだけの力があったのである。
超満員の観客が見守る中、「ヤユヨのラストライブ」は「愛をつかまえて」でスタートした。ライブの終盤、ダメ押しするように観客の気持ちを掴むために演奏することが多いこの曲を1曲目に持ってきたのは、<幸せだったよ 私 あなたもそうでしょ 私たち>という歌詞の一節を、まず観客に伝えたかったからか。
感情を押さえながら言葉に感情を込めるリコの歌はもちろんだが、バラードと言える曲調に跳ねるリズムを加えるはな(Ba.Cho)のベースプレイ、ぺっぺ(Gt.Cho)によるギターとピアノの二刀流も聴きどころだ。長めのブレイクを挟んで、ぐっと溜めるように感情を込め、ラスサビを歌いあげるリコの歌声が観客の気持ちを鷲掴みにする。1曲目に持ってきたことによって、曲の魅力がより際立った印象だ。
「ラストライブに来てくれて、本当にありがとうございます。6年間のみんなに対する感謝を伝えたいと思っています。しみしみした日ではなく、最後まで笑って楽しんでいきたいです。楽しみましょう!」(リコ)
改めて、そんな前置きをしながら、この日、ヤユヨが演奏したのは、その6年間の集大成と言える全18曲。ライブの流れに勢いを付けたアップテンポのポップナンバー「ここいちばんの恋」、メランコリーを滲ませた「メアリーちゃん」と序盤からヤユヨの曲が持つ振り幅を見せながら、サポートの石川ミナ子(Dr)の力強いドラムで繋げた「うるさい!」では、「行くよ!1-2-1-2!」というリコの掛け声とともに観客にタイトルコールさせ、スタンディングのフロアを1つにしてみせる。そして、その一体感は、そこに繋げたバラード「ユー!」で<ユー!ユー!ユー!ユー!>という観客のシンガロングに結実する。
「いいね!もっと来て!!」とリコが求め、観客のシンガロングがフロアに響き渡る。気づけば、ぺっぺもはなも笑顔で<ユー!ユー!ユー!ユー!>と歌っている。
「コロナ禍の真っ最中だったから、初めてのワンマンライブがeggmanからの配信だった。その時、TALTOに所属しますと発表したことをめっちゃ思い出します」(はな)
「そのTALTOの(代表の)江森(弘和)さんからの最初のコンタクトがライブで声を掛けられたとかではなく、ツイッターのDMだった。絶対に詐欺だと思って、初めて会った時もいつでも逃げられるように準備していた(笑)。私は特殊な訓練を受けているから大丈夫だったけど、みなさんはツイッターで声を掛けられてもほいほいついていかないでください」(ぺっぺ)
「渋谷CLUB QUATTROでワンマンをやったとき、自分の中でやっとボーカリストになれたと思えた。それが思い出としてすごい残っている」(リコ)
それぞれにこの6年の中で特に印象に残っている出来事を語ってからの後半戦は、さまざまなチャレンジを経て、タイトなアンサンブルに回帰したミッドテンポのロックンロールナンバー「エス・オー・エス」から、ヤユヨのディスコグラフィーにそのさまざまなチャレンジを刻み込んだ4曲を繋げ、バンドの成長の軌跡を観客に追体験させていく。
シックな曲調を、トラメガを使ったボーカルを含め、歪んだ音像に落とし込んだパンクなショートチューン「ピンク」。ロックンロールのニュアンスが滲むヤユヨのポップスにファンキーな魅力を加えた「チョコミンツ」。ディレイを掛けたギターリフをはじめ、リバービーなサウンドメイキングでバラードに差を付けた「このままじゃ」。キーボードとラップに加え、ベースのスラップ奏法も導入したノスタルジックなバラードの「POOL」。この4曲を聴いただけでも彼女達がどれだけ進化することに意識的に曲作りに取り組んできたかがわかるだろう。「めっちゃ濃厚なバンド生活」とリコが6年間を振り返ったのも頷ける。
「現状に満足するのではなく」と解散を発表した時のコメントの中で、ぺっぺは書いていたが、もちろん、それは曲作りだけにとどまるものではない。前述のeggmanからの配信ライブを筆者は見ているのだが、正直、その時はリコが華やかさや表現力を含め、ここまでカリスマを湛えたボーカリストになるとは思わなかった。きっとリコが言っていた渋谷CLUB QUATTROワンマンが転機になったのだと思うが、特にギターを持たずに歌う場面が増えてきてからのリコの成長ぶりにはライブを見るたびにわくわくさせられてきた。
そんなことを改めて思い出させるライブも気づけば、あっという間に終盤に。「6年間の思いや感謝を音楽で伝えようと思ってたけど、やっぱり言葉でもちゃんと伝えたい」と観客はもちろん、TALTOのスタッフも含め、これまでヤユヨの活動を通して、出会ってきたすべての人達にバンドを代表して感謝を伝えたリコ。すると続けて、ヤユヨを始めるキッカケになった、とある曲について語り始める。
「18歳の時に失恋をしました。その相手を後悔させてやるって作った曲です。それが私達の原点です。ここだけの話、後に後悔させましたが(笑)、それはキッカケにすぎなくて、その曲をみんなと一緒に歌って、育てていくことに夢中になって、強くなっていきました。今も私は弱虫のままだけど、この歌をみんなで歌って、悲しいことも笑顔に変えられるって私の実体験になったから、それはすごいことだと思います。音楽の力って偉大だと思いました。だから、今日も一番大きな声で歌いたい。この曲をキッカケにみんなに出会えたことを誇りに思って、しっかり届けたい」
その曲とは、もちろん「さよなら前夜」のことだ。結成間もないヤユヨが注目されるキッカケになった曲であると同時に6年間、ライブで観客と歌い続けてきたヤユヨのライブには欠かせないアンセムだ。
「みんな歌いたくてうずうずしてると思うけど、今日はマイクを譲らないから私に負けないように歌って!」
何とも心憎い一言だが、演出とは思わない。その時の本心なのだと思うが、リコのそんな言葉が観客の気持ちに火をつけたことは言うまでもない。観客のシンガロングとともに作り上げるクライマックスも、はなからぺっぺに繋げるソロ回し、リコのハーモニカソロという、これまで何度も見てきたこの曲の見どころも今日で見納めだ。
「すごく幸せでした。今日で終わってしまうけど、音楽は残り続ける。今日を一緒に過ごせたことをあなたが心の隅に置いてくれるなら、このバンドはヤユヨのまま消えないと思うので、ぜひ目に焼き付けて離れないように最後に1曲を歌います」(リコ)
本編の最後を飾ったのは……いや、ここはリコによる曲紹介をそのまま引用しよう。
「さよならを言うとき、何と言いますか? 私だったら、ちょっとおどけて、ぶっきらぼうにこう言うんだと思います。「あばよっ」」
不実な恋人との別れを歌いながら、別れは決して悲しいことではなく、希望にもなるというリコの人生観を歌い上げるオールディーズなバラードがこの日は、歌声に滲ませる情感のせいか、観客に対してちょっと強がっているようにも聞こえたのだった。そう思ったら、やばい。泣けてきた。あぁ! 彼女達が笑顔で有終の美を飾ろうとしているのに俺が泣いてどうする。
アンコールを求める観客に応え、ステージに戻ってきた3人はもちろん笑顔だ。しあわせな時間を過ごしているんだから、それは当たり前か。
最後に、それぞれに語った言葉からも後悔はもちろんだが、惜別を含めた感傷は感じられなかった。それは悔いのなさの表れである一方で、3人がヤユヨの音楽を誇りに思い、これからも残り続けると信じているからなのかもしれない。解散を決めた理由は、いろいろあると思うのだが、もしかしたら、これからもヤユヨの音楽は残り続けると思えたこともその1つだったのかもしれないと思ったりも。ちょっと長くなるが、3人の言葉を記しておく。ぜひ、そこからいろいろなことを読み取っていただきたい。
「すごく楽しかったです。ヤユヨを最後に見ようと思ってくれた人がこんなにいるっていうのがすごくうれしい。一生、心の支えになります。最後に最高のステージを用意していただいて、本当に感謝しかないです。ヤユヨの音楽はこの地球上に残り続けるので、ぜひいつまでも聴いてほしいですし、最高の音楽なので、元気になりたい時、ちょっと落ち込んだ時、いろいろな時に聴いてくれたらと思います。グッズも日常に寄り添うので丸ごと買っていってください(笑)」(はな)
「6年間、本当に幸せな時間を過ごせました。バンドを始めて、みんなからあたたかい声、応援、愛をもらうことで、自信のない私が自分のことを好きと思う瞬間が増えました。このバンドのボーカルとして生きられて、本当にうれしかったし、よかったと思います。2人に迷惑をかけてしまったこともあるし、ぶつかりあったりしたこともあるけど、同じ音楽、同じバンドを愛して、一緒に続けてくれたことに対して、本当に感謝しています。最後にこうやって3人揃ってライブができてよかったです。あなたに愛されて、私はすごく幸せでした。あなたが私達を忘れないかぎり、ヤユヨの音楽は生きていくと思うので、まだまだ愛していただければと思っております。これからもよろしくお願いします」(リコ)
「すごい簡単に言葉にするなら、めちゃくちゃありがとうございましたと、2人には迷惑もかけたので、めちゃくちゃごめんなさいという言葉が気持ちの大部分を占めているんじゃないかと思います。アーティストなので、ちょっとかっこいいことを言うなら、6年間、私達は音楽を続けたんですけど、続けることって本当に難しくて、大変なことがほとんどでした。だけど、続けたからこそ出会った人とか得られたものとかがたくさんあると思ってるし、こんな素晴らしい光景を見られるなんて、一握りの人だけだと思うから、それぐらい1つのことを続けるって素晴らしいことだと思ってます。今後、みなさんが何かがんばろうとか、続けてみようとかってことに出くわしたら続けてほしいし、そんな時に寄り添えるようにヤユヨの音楽はこれからも残り続けるので、これからもぜひヤユヨと一緒に人生を歩んでくれたらうれしいです」(ぺっぺ)
そして、「次の曲で最後です。今、私が言ったことを代弁した曲です。それで終わりたいと思います」とぺっぺが言って、アンコールに1曲だけ演奏したのは、「Stand By Me」。同期でシンセの音を鳴らしながら、空間系のサウンドにヤユヨ節を落とし込んだ、ヤユヨの一番の進化形を見せるロックナンバーだ。
最後はこれを聴きたかったという曲が観客ひとりひとりにあったと思うが、6年の活動を経てヤユヨは音楽的にここに辿りついたという成果を印象づけるという意味でも、悔いを微塵も残さない渾身の演奏という意味でも最後の最後を飾るにふさわしい曲だったと思う。
「本当に今日は幸せな時間をありがとうございました。大阪のバンド、ヤユヨでした! みんなで作った素晴らしい1日でした!」と締めくくったリコをはじめ、満面の笑みを見せるヤユヨの3人に観客が贈ったのは惜しみない、きっとこの6年で一番あたたかい拍手だった。
取材・文=山口智男 撮影=酒井ダイスケ