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【言語脳科学】ビジネスパーソンが、ラジオと紙で英語を 学ぶべき理由

NHK出版デジタルマガジン

【言語脳科学】ビジネスパーソンが、ラジオと紙で英語を 学ぶべき理由

「キャリアアップのため」、「異動で必要になった」、「世界で活躍できる人材になりたい」……

グローバル化がますます進む現代社会において、英語を身につけたいと考えるビジネスパーソンは増加の一途をたどっている。

ニーズの高まりにともない、選択肢も多様化している。英会話スクールは様々なサービスを打ち出し、アプリやYouTube、さらにはAIを活用した学習法も登場した。

しかし、多くのビジネスパーソンがいまだに直面する悩みがある。それは、いざ学び始めてもなかなかビジネスシーンで役立つ英語が身につかないこと。そして、続けられないこと。

意欲はある。選択肢も増えた。しかし身につかないのはなぜなのか。

言語脳科学的アプローチから、その根本的な原因に迫る。

キーワードは「脳に自然」に

──英語を学んでもなかなか上達しない。そんなビジネスパーソンの声をよく耳にします。何が原因なのでしょうか。そもそも勉強法が間違っているのでしょうか。

酒井 そもそもの原因は「勉強しようと思うこと」にあります。単語や文法を覚えようとすればするほど、正しい方向から遠ざかるものです。

勉強で得られる英語の表面的な知識は、聞く力や話す力の代わりにはなりません。音楽の知識がどんなに豊富でも、楽器が弾けないのと同じことです。

それに、他人が効果的だという英語のメソッドが自分にも役立つとは限りません。

たとえば「シャドーイング」は、耳に入ってくる英語に遅れないよう、そのまま模倣して発音する訓練法です。私たちの脳は本来、入力された情報から蓄積された記憶を参照し、構造化して理解してから、書く、話すといった出力をします。

しかし、シャドーイングには構造化や理解に使うだけの時間がないため、その大事な過程を封印せざるを得なくなります。

ですからこのトレーニングは、英語を瞬時に理解できるような上級者には効果的ですが、初心者や中級者にとっては構造化や理解を封印することにつながって、逆効果になってしまうこともあります。

──脳本来の働きを無視してしまうと、学習にはつながらないのですね。

自分の理解や記憶をもとに英文の構造化を意識しながら話すことを繰り返せば、英語は自然と身についていきます。自分の脳にとって何が自然なのか。それがわかれば、最良の英語の習得方法はおのずと明らかになります。不自然な方法で、無理に「勉強」しようと考えてはいけません。

──つまり、自分の英語レベルに合った脳の生かし方ということでしょうか。

「レベル」も勉強の進度のような人為的な基準にすぎません。赤ちゃんが自然に言語を獲得していく過程に、レベルもカリキュラムもありませんよね。大切なのは、何度繰り返しても飽きないような、自然な手法を取り入れること。そのためには自分の興味に合ったテーマを選べばよいわけで、長続きするようにもなります。

──興味が持てることは多忙なビジネスパーソンにとって重要だと感じます。長続きしそうですし、効率もよさそうです。

じつはその「効率」も落とし穴です。効率ばかりを求めると、脳の自然な働きを無理に速めることになり、やはり構造化と理解を封印して歪めてしまう危険が高まります。

ですから、短時間でマスターしようなどと、時間を惜しまないことです。加えて、力業もよくありません。たとえば、単語を一気に1万語覚えるような無理なやり方は、文の構造化を封印することにつながります。

──受験でやっていた、テストで高い点を取るための勉強法は逆効果なんですね。

その通りです。受験英語を繰り返しても、ビジネスに求められる英語にはなりません。

自然な脳の使い方と、聞く、読む、話す、書く

──では、実際にビジネスで使える英語を身につけるために、「聞く、読む、話す、書く」といった要素でどのようにして脳を自然に使えばいいのでしょうか。

基本は、あくまで「聞く」ことです。「聞く」ことで適切な構造化と理解ができるようになれば、英語は自然と話せるようになります。

まずは、英語を繰り返し聞いて耳コピに徹することから始めましょう。繰り返し聞けば脳にも繰り返し記憶されて、理解が深まっていきます。耳で聞いたことを忠実に脳にコピーして、再現できるようにする。

よく子どもがCMソングやお笑い芸人の掛け合いのマネをするでしょう。あれは飽きるほど繰り返し聞くうちに、正確に自分のものになった証拠です。英語も同じです。

次に大切なのが、大波から小波へ。最初は大波、つまり英文全体を大づかみにします。小波である単語や個別の発音は当面、忘れましょう。意味は後からで十分です。最初から細かい部分を意識してしまうと、先ほど説明した構造化が疎かになってしまいます。

──ビジネスパーソンに必要な英語は受験英語とはそもそも目的が違うので、アプローチから変わってくるんですね。

単語だけ知っていても、それを組み合わせて文や文章にしなくては使いものになりません。ビジネスシーンでよく使う文は、全体の表現として丸ごと覚えてしまいましょう。

──「読む」ときは何を意識すればいいのでしょうか。

英文をしっかり頭の中で音声に変えながら読むことが大切です。その上で、まずは単語より連語に注目しながら、大意をつかみましょう。

「大波から小波へ」と同じように、できるだけ文全体や文章の流れをつかむと、見通しが利いて楽に読めるようになります。逆に単語に注目して、間違った意味で理解してしまうと、大意にはたどり着けなくなってしまいます。

次に、英語は前から訳すことが原則です。これは、プロの翻訳者の鉄則でもあります。

──英語の授業では後ろから訳せと習った気がします……。

それは日本語に訳して書くための、便宜的な読み方です。英語の書き手は自分の発想の通りに前から順に文を書くわけですから、それに逆らってはいけません。和訳の語順にとらわれると、今度は自然に話したり書いたりできなくなってしまいます。

もうひとつ役立つのが、英文の大波の切れ目に「/」などの印を書き込みながら読むことです。

小休止すべき部分がわかれば、節や文の論理的なつながりがはっきりしてきます。小波まで意識できるようになったら、アクセントの位置や正しい発音などを書き込んでおきましょう。役者さんが台本に印をつけていくのと同じ要領です。

──これは「話す」ときにも重要なポイントになりそうですね。

その通りです。とくにビジネスシーンでは俳優になりきることも役立ちます。プレゼンでは、たとえば「この商品の一番の売りはここです!」と力が入るでしょう。ジェスチャーも交えて、英語の話者になりきって話せば、自然と説得力が増します。自分の真意をどのように相手に伝えるかが、結果を左右するわけですから。

──俳優になりきる以外に意識すべきことはありますか?

動詞から文をつくることを心がけましょう。日本人は名詞と形容詞が言えても、なぜか動詞が出てこない傾向があります。そうすると文がつくれません。単語だけで伝わるのは、以心伝心の間柄だけです。英語では動詞が述語の先頭に来ることもあり、動詞を後付けで話すことができません。

最後に、TPOに合わせた言い回しを意識すること。日本語でもTPOによって敬語の使い方が変わるように、状況で表現を使い分ける配慮がビジネス英語には必要です。

──最後に「書く」について教えてください。

じつは「書く」ことがいちばん難しい。これは日本語でも同じです。インターネットが普及して、書くことに神経を使わない風潮が広まりました。手紙を書くのとは大きな違いです。

なぜ私たちは「書く」のか。それは、誰かに届けたいメッセージがあるからです。ですから、まずは読み手を想像する。その上で、メッセージをどのように伝えるべきか考えましょう。独りよがりの文章や、まして思いついた単語をつなげただけの文では、適切な表現になりません。人によっては真逆の意味にとらえるかもしれないのです。

次に、連語に忠実に。これは「読む」の「単語より連語に注目する」の応用です。たとえ単語を文法的に正しく並べたとしても、英語としてちぐはぐな表現になってしまうことのほうが多いものです。自然な文を書くためには、連語に忠実であることが肝要です。

最後に、類語を使い分ける。日本語の単語にも類語がたくさん存在します。英語も同様で、それぞれの使い分けを知らなければ、妙な文になってしまいます。抑揚のない文字だけでメッセージを伝えることは、本当に大変なことなのです。

ビジネスパーソンに適した英語の学び方

──独学や英会話スクールに加え、最近はアプリやYouTube、AI(人工知能)を活用した英語学習など様々な選択肢があります。ビジネスパーソンに適した英語の学び方とはどういったものでしょうか。

それぞれに利点と問題点がありますが、できるだけ避けたいのは、AIと文字や音声をやりとりする方法です。

先日、「人前でしゃべるのが苦手だけど、AI相手だといくらでもしゃべれるので重宝しています」という話を聞いて驚きました。人との会話を避けていては、英語を身につけたとしても人前でますます臆して話せなくなってしまいます。

英会話スクールやオンラインの個人レッスンでは、ネイティブの人と実際に会話ができるという利点があります。自分の求める目的に合ったレッスンを選ぶことができれば、効果的だと思います。

ただし、グループ・レッスンは受け身になりやすい人には向かない方法です。「英語を教わる」「授業を聞く」という態度ではあまり効果が期待できないでしょう。これは、YouTubeのような映像を一方的に視聴するだけの方法にも言えることです。

もし選択肢で迷ったら、脳にとってできるだけ自然な方法を選ぶことです。この表現がわかりにくければ、「自分にとって自然な方法」と考えてみてください。

まずは自分のペースで英語に親しみたいという人には、音声データが付属した教材を何度も繰り返し使うような独学も効果的です。

ちなみに私は学生時代、NHKラジオの英会話番組などを聴きながら(録音して何度も聴きながら)、NHKテキストを使っていました。

──ここ数年、ラジオはリスナーの急増により復権し、オールドメディアという印象もなくなり、若いビジネスパーソンも親しんでいます。ちなみに、英語を学ぶにあたってラジオだから期待できる効果はあるのでしょうか。

ラジオや音声だけの教材は理解を想像力で補う余地が豊富にありますから、映像よりも受け身になりにくいのです。映像は情報が多すぎて、何となくわかってしまった気になりがちですが、しばらく経つと何も覚えていなかったりします。

ラジオは情報が少ないぶん、音声からイメージやシーンを映像化する余地が自然と生まれて、それが脳の理解や解釈を刺激してくれるのです。

───では、紙のテキストを使うことに利点はありますか?

何度もテキストを読み直したいときに、製本されている紙のテキストはすぐに前のページに戻れます。付箋をつけたり、余白に自由にメモなどを書き込んだりできるのも利点ですね。

英和辞典や和英辞典なども、大判の紙の辞書に敵うものはありません。電子辞書では、スクロールしているうちに、見出しや用例を見失ってしまいます。

脳には連想記憶というものがあって、文章がイラストや写真とともに構造化され、忘れにくくなります。紙のテキストやノートに書かれた文章の位置関係なども、記憶の助けにつながるわけです。

このように考えれば、紙のテキストや辞書は電子メディアにも負けない「ハイテク」製品なのです。

最大の課題は、いかに継続するか

───英語を学ぶ上で、最大の課題はいかに続けていくかだと思います。「継続するコツ」のようなものはあるのでしょうか。

自分の好きなジャンルやテーマで英語に触れ続けることが一番です。音楽でもドラマでも映画でもかまいません。何度も何度も繰り返し観るのがポイントです。

たとえば法廷ドラマが好きであれば、検察側と弁護側が対立するシーンのセリフを、それぞれの役になりきって英語で演じてみる。

初めは英語音声と日本語字幕で。次に英語音声と英語字幕で。最後の仕上げは英語音声のみで。そうやって、自分の好きな作品を通して少しずつ理解を深めていくと飽きないですし、自然と継続につながると思います。

ただ、無理をしないことも大事です。いくら好きな映画でも、2時間のシーンを丸ごと覚えるのは大変です。一番好きなシーンから少しずつ始めましょう。

その点、NHKテキストは自分で好きな講座を選べ、楽しむ気持ちで英語に触れることができますし、ラジオでの放送時間はどの講座も短くまとまっていて集中できるのがいいですね。私の学生時代と違って、いまはスマホなどでいつでも聴けるサービス(聴き逃し配信や音声ダウンロード)もあるようですが、リアルタイムで聴くライブ感もとても大切だと思います。

───たしかに、好きなラジオ番組はリアルタイムで聴きたいと思います。

まずはリアルタイムで聴き、繰り返し聴きたい回はスマホで聴くという使い分けもできますよね。それに、NHKのラジオ講座は毎回様々なテーマでリスナーの興味を惹くコンテンツを放送してくれるので、新鮮さが楽しめます。

優れた講師やネイティブスピーカーの方が多く参加されているので質が保証されていますし、それぞれの個性ある声が聴けるのもいいですよね。

───パーソナリティーの魅力も、ラジオの魅力ですよね。

その人の声が好きというだけで、聴くのが楽しくなります。それは自然な声の力によるものです。

───酒井先生にお話をうかがって、ビジネスシーンで役立つ英語学習の本質が見えたような気がします。

みなさん、どうしても勉強したがるのですが(笑)、そうではなく「気がついたら話せるようになっていた」くらいがちょうどいい。つまり英語は、「自然習得」が理想なのです。

時間はかかるかもしれませんが、どんな言葉も自然に、誰でも身につけることができます。少しずつ、できることを増やしていきましょう。

■制作: NewsPicks Brand Design
♦執筆:飯田菜々子
♦撮影:矢島慎一
♦デザイン:堀田一樹[zukku]
♦編集:増田謙治

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