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【第11回③】「じょうえつ東京農大と頸城野郷土資料室」くびき野の文化フィールドを歩む―1990年~2023年 石塚正英(東京電機大学名誉教授)

にいがた経済新聞

前回はこちら→ 11-2.埼玉県鳩山町での水車発電プロジェクト

11-3.じょうえつ東京農大と頸城野郷土資料室

くびき野と鳩山で水車発電に熱中していた頃、高校時代の同期生で東京農大の教員をしていた藤本彰三氏(写真は2000年高田高校同期会、後ろが藤本氏)は、上越市の山間部(梨平)で農大発のベンチャー企業「株式会社じょうえつ東京農場(J-nodai)」を経営していました。同社の創業理念は以下のようです。

「有機農業の試験研究成果を踏まえて、環境と健康に優しく、かつ付加価値の高い中山間地農業を確立するために、平成20年4月に株式会社じょうえつ東京農大を設立しました。弊社は 、東京農業大学、卒業生、地元地権者、地元産業界などの有志が出資して設立した会社です」(同社HPから)。

ちょうど同時期に私はNPO法人頸城野郷土資料室(KFA)を設立しており、いきおい、意気投合しました。彼は山間地の綺麗な水で有機米をつくり、私は私で山間地の綺麗な水でクリーンな電気エネルギーを創る、という連携です(写真はKFA入口に置かれたJ-nodai旗)。

ところが、藤本氏は病に倒れて急逝しました。2014年早春のことでした。それからしばらくして、2015年6月、藤本氏の夫人(新社長)から、私に取締役での経営参加依頼がありました。そのような経緯を経て私は、じょうえつ東京農大の役員に就任しました。農業技術的なことは経験もなく役立たずでしたが、社長を支えて社内外の交渉や取りまとめ、問題解決には貢献できるので、割り切って任務を遂行することとしたのです。幸い、この年はコメの実りが良好でした。けれども、私は電大の教員です。その後、2017年6月の株主総会で、本社が農大キャンパス(世田谷区)から上越農場に移転することが決定されたのでした。私は、これで会社のアドバイザー、コーディネーターの役目を果たしたと考え、取締役を辞任したのです。

それでも、役員在任中、私は以下の拡販方策を提案しました。

①ジェトロを通じて、フランスの地域産業振興策である「競争力拠点」(Pôle de compétitivité)となっている自治体にアプローチし、ジャパンエキスポなどの催事で商品のプロモートを行う。

②東京農業大学とフランスの大学との間に交換留学、共同研究や共同学位などの提携関係を樹立し、上記の「競争力拠点」への活動に対する学術的基盤を作る。

こうした方策を通じて、農大が開発した有機農法の技術を基に、地方文化の振興という目標を掲げている「じょうえつ東京農大」がフランスへの販路拡大を目指すことは、十分に可能性がありまた意義深いことだと考えたのです。

ところで、2015年3月に北陸新幹線が長野駅から金沢駅まで延長されたのに合わせて、私は鉄道建設理念の転換をはかり、くびき野での生活・文化維持再生の戦略を練り直しました(写真は建設中の新幹線上越妙高駅舎)。まずはこれまでの右肩上がりの時代に流行していた理念「人・モノ・カネ」の3点セットを解体し、「人」を優先させます。物流・金融は人と人の結びつきを疎遠にし、あるいは破壊するためでなく、これを円滑にするためにあるのです。鉄道はローカル間を結ぶインターローカルです。新幹線は上越と富山・金沢、そして関西などのローカル間を結ぶのですが、その意義はローカルを豊かにするサブ・インターローカル、すなわち地域の在来線や循環バス、レンタル交通網の拡充を前提にします。インターローカルにはこのようなハイブリッドが必要なのです。

さらにこう提言しました。ローカルテーマとして「駅の駅」構想を実現しよう。在来線にもう少し駅を増やし、そこに「道の駅」の駅バージョンを開設しよう。そこに行けば郵便局や信金や市役所の出先があり、買い物以外にも大概の用は足せる。利便性が高まれば人はそこへ内外からやってくる。上越には東京からやってきた「じょうえつ東京農大」(さまざまな農作物)「東京電大水車発電」(清流電池ピカリンほかの構想)などがある。

「駅の駅」でこれと連携し上越特産文化を生み出すのだ。また、富山とは<のどぐろvsホタルイカ>決戦、金沢とは<山城・平城>参勤交代ツアー、<能登・直江津・佐渡>北前船遊覧ユランユラン、といった交流イベントを立ち上げよう。もっと遠大に、韓国の慶州と頸城のK2連合で、慶頸K2メディフェスを企画しよう。こうして人・モノ・カネから、くびき野の生活・文化をめぐる<人と人>イニシアチブへ移行し、モノやカネは結果次第、大切なのは人、カネにならなくても人と人との出会いを楽しくする、というように発想を転換するのだ!

(第12回につづく)

石塚正英

1949年生まれ。18歳まで頸城野に育まれ、74歳の今日まで武蔵野に生活する。現在、武蔵野と頸城野での二重生活をしている。一方で、東京電機大学理工学部で認知科学・情報学系の研究と教育に専念し、他方で、NPO法人頸城野郷土資料室を仲町6丁目の町家「大鋸町ますや」(実家)に設立して頸城文化の調査研究に専念している。60歳をすぎ、御殿山に資料室を新築するなどして、活動の拠点をふるさと頸城野におくに至っている。NPO活動では「ますや正英」と自称している。

【連載コラム くびき野の文化フィールドを歩む】
#10-1.関川を遡る古代朝鮮文化の足跡をたどる

#9-1. 信濃川を遡る古代朝鮮文化の足跡をたどる

#8-1. 前曳きオガが高麗時代の半島にあった!

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