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「ずっと見ていたい」飲み込まれるような美しさと、苦しさ 『国宝』は映画館で見てよかった【映画感想】

Sitakke

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映画『国宝』 2025年6月6日(金)から全国東宝系にて公開中

気づけばスクリーンから目が離せなくなり、1秒も見逃したくないと思うような作品でした。3時間の長尺にもかかわらず、見終わったときの率直な感想は、「まだ、ずっと見ていたい」。

「映画館で見てよかった」と思う映画『国宝』について、「HBC演劇エンタメ研究会(通称“エンケン”)」のSitakke編集部IKUが、3つのポイントにまとめて感想をお伝えします。

映画『国宝』ストーリー

後に国の宝となる男は、任侠の一門に生まれた。

この世ならざる美しい顔をもつ喜久雄は、抗争によって父を亡くした後、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の世界へ飛び込む。
そこで、半二郎の実の息子として、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介と出会う。
正反対の血筋を受け継ぎ、生い立ちも才能も異なる二人。
ライバルとして互いに高め合い、芸に青春をささげていくのだが、多くの出会いと別れが、運命の歯車を大きく狂わせてゆく...。

誰も見たことのない禁断の「歌舞伎」の世界。
血筋と才能、歓喜と絶望、信頼と裏切り。
もがき苦しむ壮絶な人生の先にある“感涙”と“熱狂”。

何のために芸の世界にしがみつき、激動の時代を生きながら、世界でただ一人の存在“国宝”へと駆けあがるのか?
圧巻のクライマックスが、観る者全ての魂を震わせる―― 。## 魅力①圧倒的な美しさ

なんと言っても、とにかく美しい。

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

吉沢亮さん演じる立花喜久雄と、横浜流星さん演じる大垣俊介。女形として舞台に上がる2人の姿には、うっとりと見とれてしまいます。

その美しさにたどり着くまでには、痛々しいほどの努力があります。少年時代からの厳しい稽古の様子が描かれていて、どれだけ芸を極めることが険しい道のりなのかが伝わってきます。

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

そこから大人になるまでの年月を、吉沢亮さんと横浜流星さんは本当に子ども時代から1日も欠かさず歌舞伎に費やしてきたのではないかと思うほど、所作の一つ一つ、表情の一つ一つが美しく、圧倒されました。

白粉を塗り、紅を入れていくシーンから、2人がどんな美しさを見せてくれるのか期待が高まり、1秒も見逃せなくなります。

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

目に見えるものだけではありません。
息遣い、布のこすれる音。たたみかけるような華やかさの後に、突然の静寂。
映画館で見るからこそ体感できる、息を呑む美しさがありました。

ただ、単に映像的に美しい映画と言うにはもったいない気がします。
壮絶な人生の中にある、人の美しさ、人の苦しさに心を揺さぶられました。

魅力②人の苦しさ、そこから生まれる美しさ

人はどうしてこうも一面的ではなく、単純には生きられないのかと、胸が締め付けられるような「それぞれの人生」が描かれていました。

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

自転車に二人乗りして笑顔で走り抜ける少年時代。笑い合いふざけ合う友情も見え、ライバルとして切磋琢磨する青春物語の側面もたしかにあるはずなのに、きれいごとだけでは乗り切れない関係性に切なくなりました。

上方歌舞伎の名門の御曹司である俊介。生まれは任侠の一門で、才能を武器に世襲の歌舞伎界に飛び込む喜久雄。
その境遇から2人が抱えるであろう葛藤を予感しますが、想像を上回る展開が待っていました。

2人を分かつ「血」と「才能」を感じさせるシーンが何度も登場するのですが、同じ「血」でも、うらやむ場面もあれば皮肉に感じる場面もあり、単純ではない人の心に苦しくなります。

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

言葉では表せない複雑な心の内を、全身ににじみ出す俳優たちの演技がすごい。

特に忘れられないのが、喜久雄がガタガタと手を震わせ、目の奥を震わせ、俊介に語りかけるシーン。喜久雄の言葉がグロテスクなほどに響き、そしてそれを受け止める俊介の表情。
2人の目から、こぼれ出す切迫した思いが伝わってきて、飲み込まれるような感覚でした。

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

喜久雄と俊介だけではありません。渡辺謙さんと寺島しのぶさんが演じる、上方歌舞伎の名門を担う者として顔と、親としての顔。

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

高畑充希さん、見上愛さん、森七菜さんが見せる、女心と気品。

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

永瀬正敏さんと宮澤エマさんの任侠の世界も記憶に残る美しさ。

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

田中泯さんの、当代一の女形で「人間国宝」の歌舞伎役者・小野川万菊としての美しさは、もはや恐ろしいほど。
田中泯さんが出演する作品はこれまでも見たことがあり、知っている俳優のはずなのに、「小野川万菊役の人すごかったな〜本物の重鎮の歌舞伎役者なんだろうな」と思い込み、家に帰ってホームページを見てから「え?!田中泯さんだったっけ?!」と思うほど、取り憑かれたような妖艶さでした。

役に向き合うこの俳優たちだからこそ描ける「歌舞伎役者の生き様」が、映し出されていたように思います。芸に身を捧げる役者たちだけでなく、その生き方に翻弄されながらも支える周囲の覚悟や思いも伝わります。

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

視覚的・表面的なものだけではなく、人の苦しさから生まれた美しさだからこそ、胸に迫るものがありました。

魅力③歌舞伎と重なり合っていく

演じられる歌舞伎のシーンはごく一部なのに、その演目の内容が喜久雄や俊介らの人生と重なり合うように感じられる演出も魅力です。

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

説明的ではないのに、稽古や舞台上での言葉や表情だけで伝わってくるものがあり、歌舞伎の予備知識がなくても楽しめます。

原作の「国宝」(吉田修一著・朝日文庫/朝日新聞出版刊)も読んでみました。歌舞伎で描かれていることと、喜久雄や俊介らの人生の重なり合いがより深くわかり、映画にはなかった人生も見えて、また違った楽しみ方ができました。

時間的な制約がある中で、原作とまったく同じストーリーではないのですが、言葉で語り尽くさずにここまで映画としてまとめられたのかと、改めて演出に感激しました。

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

長々と語りましたが、苦しく切ないからこそ、とにかく美しいの一言。
内面からにじむ深い美しさに、目も耳も魅了され、心に残る映画体験でした。

ぜひ映画館で、体感してみてはいかがでしょうか。

映画『国宝』

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

2025年6月6日(金)から全国東宝系にて公開中。
詳細は公式サイトからご確認ください

出演

吉沢亮
横浜流星/高畑充希 寺島しのぶ 
森七菜 三浦貴大 見上愛 黒川想矢 越山敬達
永瀬正敏
嶋田久作 宮澤エマ 中村鴈治郎/田中泯
渡辺謙

原作

「国宝」吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)

監督

李相日

脚本

奥寺佐渡子

映倫区分

PG12

文:Sitakke編集部IKU

※掲載の内容は取材時(2025年6月)の内容に基づきます

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