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JR東日本は高輪ゲートウェイシティで総合エンタメ企業を目指す!? 松竹との包括提携の戦略を探る(東京都中央区)【コラム】

鉄道チャンネル

包括的業務提携を結んだ後、握手して成功を誓う喜勢JR東日本(左)、高橋松竹(右)の両社長(写真提供:JR東日本・松竹)

JR東日本の「TAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイシティ)」が、2025年3月27日のまちびらきに向け、いよいよ助走を始めました。

2024年11月18日に東京都中央区東銀座の歌舞伎座で開いた共同会見で、映画・演劇界の名門・松竹と今後10年間にわたる包括的業務提携を発表。JR東日本の喜勢陽一社長と松竹の高橋敏弘社長はエンタメの力で、ゲートウェイシティから地方創生などの社会課題に挑戦する姿勢を打ち出しました。

観光・地方創生、こころとからだの健康増進、ナイトタイムエコノミーの3方向からゲートウェイシティ発で活力ある社会の実現を目指すJR東日本と松竹の共創ビジョン(資料:JR東日本)

前回、まちびらき発表時の「地球益」に続き、「『文化の力』のアップデートによる心豊かで活力ある社会の実現」という若干振りかぶった目標を掲げる、JR東日本の戦略を探ります。

「東京物語」から「ガンダム」まで

2024年11月9日掲載の前回コラムでは、「さまざまな企業や研究機関と協業して、ゲートウェイシティをにぎわいあふれるまちに育てる」というJR東日本の戦略をご紹介しました。今回、新しくパートナーに加わったのが松竹です。

【参考】来年3月開業、JR東日本の「高輪ゲートウェイシティ」を深読みすれば(東京都港区)【コラム】
https://tetsudo-ch.com/12986367.html

明治~昭和期の実業家・大谷竹次郎(1877~1969)が1895年、京都阪井座を買収したのがルーツ。東宝、東映と並ぶ日本映画界ご三家の一つで、「東京物語」や「人間の條件」といった名作で知られ、最近は「宇宙戦艦ヤマト2199」、「機動戦士ガンダム」といった幅広い作品を制作します。

企業ミッションは、「時代のニーズをとらえ、あらゆる世代に豊かで多様なコンテンツを届ける」。最近の映画界、一つの映画館で複数スクリーンを持つシネマコンプレックスに代表される新機軸はあるものの、大きくはレジャー多様化で岐路に立たされます。突破口の一つが、今回のJR東日本との包括提携にあります。

ビジネス成長戦略に「エンタメ観光」

松竹はエンタメ企業。JR東日本にエンタメを掲げる事業方針がないか探したら、2024年6月に公表した中長期ビジネス成長戦略「Beyond the Border(ビヨンド・ザ・ボーター)」に、「エンタメや地域コンテンツにも目的地を拡大した観光」のフレーズが見付かりました。

エンタメや地域コンテンツによる観光推進方針を示した2024年6月発表の「ビヨンド・ザ・ボーダー」(資料:JR東日本)

ここを深読み。当たり前ですが、人は目的があって旅行します。景観、グルメ、祭り……。JR東日本は、エンタメや地域コンテンツ(知られざる地域イベントやグルメが考えられます)をデジタル技術も駆使しながら発信、旅行の目的をつくり出します。

高輪ゲートウェイシティに話を戻せば、JR東日本はまちびらき1年後の2026年春に、文化創造棟「MoN Takanawa : The Museum of Narratives(モンタカナワ)」開業をアナウンスします。施設内には多目的ホール、畳100畳敷きの和室などを設け、「展示会」、「ライブパフォーマンス」、「和のプログラム」、「実験プログラム」などを開催します。

各地の地域特性を活かした「名所歌舞伎」 など、新しい歌舞伎演目の創造に挑戦(画像提供:JR東日本・松竹)

これぞエンタメ。「モンタカナワで松竹のイベント」は少々フライングかもしれませんが、映画や歌舞伎のコンテンツ、ノウハウを生かした文化メニューを提供(上演・上映)すれば、国内外を問わずゲートウェイシティの認知度は大きく向上するはずです。

VRゴーグルで乗る「デジタルエンタメトレイン」

JR東日本と松竹との包括提携で、リリースにあった一枚の写真、タイトルは「デジタルエンタメトレイン」で、「デジタル技術を活用。新幹線などの移動空間でも、関連コンテンツを楽しめる没入体験を創出(大意)」の説明が付きます。

VRゴーグルで旅行目的地を先行体験する新幹線利用客=イメージ=(資料:JR東日本)

鉄道ファンには、「車窓の風景そのものがエンタメ」と考える方も多いと思いますが、いずれにしてもIT・デジタル技術は旅行の楽しみをワンランクアップさせてくれるかも。

リリース画像で思い当たったのが、2024年10月15~18日に千葉市の幕張メッセで開かれたデジタル総合展会「CEATEC(シーテック)」です。JR東日本は「鉄道車両VR(仮想空間)」を実演しました。最新のVR技術、上手に活用すれば「旅先の魅力がリアルに伝わり、旅行したくなる」効果を期待できます。

【参考】懐かしの115系や進化する大阪駅がデジタル空間に出現! 幕張メッセの「シーテック」でJR東日本とJR西日本が競演(千葉県千葉市)
https://tetsudo-ch.com/12982937.html

さらに、観光エンタメ化の実践策が「地域の聖地化」と「どこでもエンターテインメント」の2つ。

聖地化では、アニメ「けいおん!」の舞台の一つ、京都市内の出町柳に多くのファンが訪れ、京阪や叡電の利用客が増えたという成功例が知られます。どこでもエンタメはオンライン会議システムを活用、モンタカナワなどでの催しをリアルに発信して存在感を高めます。

聖地化やどこでもエンタメは、地方から東京への旅行需要創出効果が期待できます。

健康増進やナイトタイムエコノミーに挑戦

観光・地方創生と並ぶ包括提携の目標が、「こころとからだの健康増進」と「ナイトタイムエコノミー」です。

ゲートウェイを起点にしたJRの事業エリアは、高輪から竹芝、浜松町につながり、その先の東銀座には松竹用地に建てられた歌舞伎座があります。両社は、健康志向につながる街歩きプログラムを用意。ICカード乗車券Suicaデータも活用しながら、地域飲食店を紹介するなど地域経済振興に取り組みます。

そしてナイトタイムエコノミー。日本の観光は、欧米と違って夜間に楽しめるプログラムが少ないのが課題とされますが、両社はエリア内文化施設を夜間にオープンするなどで観光時間拡大に努力します。

今回、松竹はゲートウェイシティ複合棟への入居も発表。まちびらき直後の2025年3~4月には、JR東日本による歌舞伎鑑賞会や子どもたち向けの仕事体験プログラムが予定されます。

「旅が大好きでワクワクする」(尾上菊之助さん)

共同会見に華を添えたのが、歌舞伎俳優の尾上菊之助さん。2025年5、6月に八代目尾上菊五郎襲名を控え、「私も旅が大好き。JR東日本のまちづくりにワクワクしている」と期待を述べました。

共同会見にゲスト出演した尾上菊之助さん。航空会社の機内誌では、青森、秋田県境の白神山地への旅行記を披露します(写真提供:JR東日本・松竹)

JR東日本と松竹の包括提携をめぐるコラムは以上。鉄道を舞台にした松本清張の名推理小説「点と線」ばりに点を線につないでみましたが、いかがでしたでしょうか。ゲートウェイシティをめぐっては、今後も新着情報をお届けしたいと思います。

記事:上里夏生

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