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【伊藤ゴロー|インタビュー】豊かなライブ感を湛えた “坂本龍一トリビュート”アルバム発表

ARBAN

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photo/グレート・ザ・歌舞伎町

亡き坂本龍一(以下、教授と表記)との交流、共演経験があり、教授の長年の音楽仲間だったジャキス・モレレンバウム(チェロ)&パウラ・モレレンバウム(ヴォーカル)の夫妻と、教授の手引きで出会って共演を続けてきた、ギタリスト/作曲家/プロデューサーの伊藤ゴロー。2024年12月、パウラ&ジャキスとの共演で教授へのトリビュート・コンサートを日本と韓国で行ない、トリビュート・アルバム『TREE, FORESTS tribute to RYUICHI SAKAMOTO』を録音した。

伊藤ゴロー+パウラ・モレレンバウム+ジャキス・モレレンバウム 『TREE, FORESTS tribute to RYUICHI SAKAMOTO』(ユニバーサルミュージック)

参加したミュージシャンは前述の3人のほか、コンサートの参加メンバーでもあった佐藤浩一(ピアノ)、小川慶太(ドラムス、パーカッション)、角銅真実(マリンバ、ヴィブラフォン、パーカション、ヴォーカル)、伊藤彩(バイオリン)など。細野晴臣がゲスト参加してベースを弾いた曲もある。

ボサノヴァなどのブラジル音楽のマエストロというイメージが強いが、実は昔から教授の音楽もずっと聴いてきたという伊藤ゴローの思いをきいた。

“教授”が授けてくれたもの

──ゴローさんが教授の音楽と出会い、興味を持ったのはいつ頃で、どの作品でしたか?

いちばん印象が強くて、引きずられて突きつけられたアルバムは、10代の終わりに聴いた『音楽図鑑』(1984年)なんです。それ以前も『千のナイフ』とかも聴いたり、教授のラジオ「サウンドストリート」(NHK-FM)は、特に地方の人間にとっては重要な情報源だったんで欠かさず聴いてました。教授のいろんな音楽を知って、自分でなんか腑に落ちたというか、すごくこうフィットしたのが『音楽図鑑』でした。

──『音楽図鑑』のどういうところにフィットしたんですか?

『音楽図鑑』という名のとおり、いろんな音楽、クラシックからジャズからすごく先鋭的なものまで混然としてる、クロスオーバーっていうかハイブリッドな音楽ですよね。それがすごくフィットして、ドキドキ聴いてワクワクしたのを覚えてます。

その頃の僕は、ギターは弾いてましたが、知識も何もないんだけど音楽はずっとやるもんだって変な信念というか(笑)、根拠のない自信っていうか(笑)、なぜか “やるはず” って思ってたんですよね。そんな時の自分にいちばんフィットしたのが『音楽図鑑』だったと記憶に残ってます。

──ゴローさんの音楽のバックグラウンドにもクラシックもあるし、ブラジル音楽だけじゃない広さがあって、教授の音楽性にも共通項がありますね。

まさにそういう意味で、いちばん惹かれたのかもしれないですね。

初共演での驚き

──教授との直接的な交流が始まったのは2007年、ゴローさんがMOOSE HILL名義で企画・プロデュースした、ペンギン・カフェ・オーケストラへのトリビュート・アルバムに教授が参加したことから始まったと聞いています。

はい。教授はアルバムへの参加を快諾してくれました。

──しかもその時点ですでに教授は、ゴローさんのボサノヴァ・デュオ、naomi & goroの音楽を聴いて知っていたと。

そうそう。それはすごいびっくりしました。教授がグート・レーベルを作って、アート・リンゼイやヴィニシウス・カントゥアリアのアルバムが出て、教授がブラジル音楽に傾倒していた時期があったんで、naomi & goroを聴いたんだと思います。

──ゴローさんが教授と出会ったのは、教授がジャキス&パウラ・モレレンバウムとアントニオ・カルロス・ジョビン作品集CASA』(2001年)を作った6年後でしたが、ゴローさんがCASAを聴いた時の印象は?

初めて聴いた時、本当に教授の音楽って言ってもいいくらい、こんなに2人の音楽は共通するものがあって近しいものだっていうのを見せつけられた気がしましたね。こんなに同じ所に居る音楽なんだっていうのを実感して、ビックリしました。教授のピアノで聴くと、これは教授の曲なのか、ジョビンの曲なのかわからなくなるくらい。ジョビンの音楽へのアプローチとして、敵対心を燃やしてしまうぐらい(笑)、道筋を照らしてくれたアルバムだと思います。

国内外の精鋭たちと

──そしてゴローさんは、教授とレコーディングやライヴで共演し、教授の紹介でジャキスとパウラと知り合って共演し、そして昨年の教授トリビュート・ライヴと、このアルバムへと至りました。ライヴを発案したのはパウラだったんですね。

『CASA』もパウラが発案者だったと聞いてますけど、今回もパウラがジャキスと僕の背中を押してくれて、それがすごい重要だったと思います。パウラは、レパートリーを決める時、自分が歌わないインストの曲でも、この曲をやったらいいよって言ったり、「戦メリ」はみんな聴きたいからやりなさいって言ったり。重要なキーマンです。

そもそも今回は、ライヴの流れでレコーディングしたというのがあって、しかもツアーの途中でレコーディングを始めたので、もう、勢いがありますよね。韓国公演の前日に、ソウルのスタジオに入ってベーシックのレコーディングをしました。日本でのライヴの勢いもあって、ライヴ・レコーディングに近いテンションでした。しかも韓国では肉も食ってるし(笑)。で、ライヴが終わってから僕たちは東京で、パウラはリスボンとリオで、ジャキスはリオで、小川慶太くんはニューヨークで、それぞれレコーディングしました。

メンバーがライヴの息遣いを体験していたので、全員がそういう意識になってて、違うもんだなと思いますね。ライヴの勢いで録ったことが出ているアルバムだと思います。

──ゴローさんのアレンジは、いつも同様に緻密ですが、メンバーがとても自由に演奏していることが伝わってきます。でも、たとえば佐藤浩一さんはピアノですから、プレッシャーもあったんじゃないかと思います。

僕だったら絶対、嫌だなあ(爆笑)。確かにそれぞれ、すごいプレッシャーの中でライヴをやったと思います。「Rain」とかね、みんなの頭の中にあるじゃないですか、いろんなバージョンが。それを演奏するっていうのはね……。でも、ライヴでお客さんが喜んでくれて、それがすごい自信になったかもしれないです。

https://www.youtube.com/watch?v=ObPK1M-GruM

アルバムの中で、「Happy End」はライヴで演奏してないんですが、絶対にレコーディングしたい曲でした。ベールに包まれた曲というか、教授が作った曲をYMOではデフォルメというか解体して、抽象的になって、もとの形を失っていて。これは僕の想像なんですが、たぶん教授は、自分のロマンチストの面を嫌って、音楽の中の情緒的な要素を排除しようとした時期があって、だからベールをまとった形になったんじゃないかなと。そういう曲の典型だと思うんです。

後になって教授がこの曲を再演しているうちに、だんだんベールがとれて、形がハッキリしてくるんですね。それを聴いて、ああ、こんないい曲だったんだと発見する。晩年の教授の演奏を聴くと、対位法が出てきたり、よりクラシカルに、短いモチーフの繰り返しなんですけど、すごく美しい音楽に昇華してる。それでぜひ、そのバトンを受け取って、音楽の流れを自分たちのアンサンブルの中でやりたいなあと思って録音した曲なので気に入ってますし、あと細野晴臣さんがベースを弾いたことも大きいですね。細野さんが絶対に好きな曲だと確信があったのでお願いしました。聴き応えがある曲になったと思ってます。

美しく交錯するオマージュ

──ゴローさんのアレンジに関して、ぜひうかがいたい曲がSayonaraで、冒頭に、ヴィニシウス・ヂ・モライスが作詞作曲したPela Luz dos Olhos Teusをジョビンが録音した時、ジョビンがイントロで弾いたピアノのメロディーを引用してますね。

これは絶対に仁さんに聞かれると思って(笑)。アレンジしているときの状況を思い出してたんですが、ジャキスが言ってましたよね、今回のツアーの前の仁さんのインタビューで。あのメロディーが、教授が「戦メリ」のイントロで弾いたメロディーのヒントになったと。僕たちも前から “ジョビンが元ネタだよね~” なんて話してましたけど、ジャキスは断言してましたからね。ジャキスが教授から聞いたということでしょう。スゴいトピックじゃないですか。それがきっかけです。そして、「Sayonara」のイントロだったら可愛らしくてピッタリだと思いました。

──ライヴとアルバムを通じて教授の音楽と向き合って、今、思うことは何でしょうか? 

教授の音楽とは、なるべく距離を置いてきました。というのも、近くに引き寄せるとそれに飲まれて、自分を見失ってしまう気がして、少し離しておかないといけない音楽のひとつなんですよ。

でも今回、細かくスコアから作って、あらためて教授の曲を勉強できたわけです。そうすると、すごい緻密に、考えられて作ってる。さすがだなって思います。でも、その中にはラフに、偶発的に作られたところもあって。頭で知恵を絞って作るだけじゃなくて、なんかこう事故って出来ちゃうところもないと、ときめかないですよね。教授の音楽にもそういうところがあって。つまり、常に挑戦して作ってたということです。今回、自分もそういう部分を自然に教授の音楽の中からもらって、吸収してるものがたくさんあるんだなあって思いました。

だから自分の音楽に、また違う形で今回のアルバムみたいな要素が出てくるんじゃないかなと思いますよ。まあ、でもやっぱり、どう考えてもだいぶハードル高いですけどね、坂本龍一トリビュートは。

取材・文/中原 仁

伊藤ゴロー+パウラ・モレレンバウム+ジャキス・モレレンバウム
『TREE, FORESTS tribute to RYUICHI SAKAMOTO』
(ユニバーサルミュージック)

01. Happy End
02. Tango (Versão em Português)
03. Rain
04. 美貌の青空 (Bibo no Aozora)
05. Fragmentos
06. M.A.Y. in the backyard
07. Ongaku
08. Fotografia
09. Sayonara
〈Bonus Track〉
10. Merry Christmas Mr. Lawrence re-modeled by Goro Ito Ryuichi Sakamoto

伊藤ゴロー(Guitars, Sound Programming)
パウラ・モレレンバウム(Vocal)
ジャキス・モレレンバウム(Cello)
佐藤浩一(Piano)
小川慶太(Drums, Percussion)
角銅真実(Marimba, Vibraphone, Percussion, Vocal)
伊藤彩(Violin)
坂本楽(Flute, Alto Flute)
Guest:細野晴臣(Electric Bass)

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