高齢者の食の楽しみと見守りまで担う「配食サービス」 事業者負担は物価高で拍車も
和え物や魚が丁寧に盛り付けられていきます。
品数豊富で、見るからに栄養満点なお弁当!
その上には、「刻み」や「大盛り」の文字や、紙に「不在時連絡すること」と書かれています。
そんな大量のお弁当が向かう先は、高齢者の住宅です。
連載「じぶんごとニュース」
ただ届けるだけじゃなく…
高齢者用の弁当配達を行う『ライフデリ手稲店』のオーナー、清野秀明さん(49)。
札幌市手稲区と南区の高齢者に弁当を届けるとともに、手渡しすることで安否確認も行います。
昼食と夕食の1日2回。
下は52歳から上は101歳まで、のべ160人ほどに弁当を届けます。
「ただ弁当を届けるだけじゃなくて、お客さんと一言二言しゃべるだけで、何となくきょう調子良さそうだなとか毎日見てればわかる人もいるので、気をつけながらコミュニケーションを取っている」
最近、自宅で転倒することも多くなり、日常生活に不安を感じている99歳の男性も、弁当を楽しみに待つ1人です。
「負担を減らすためにお願いしたのさ。自分でやってたんだよね、だけどとってもかなわないから」
午後4時すぎ、弁当が到着。
配食サービスを使い始めて1年ほど、夕食の時間は毎日決まっています。
午後6時のこの鐘が夕食の合図。
取り出した弁当にはこの日が誕生日の男性に小さなサプライズがありました。
「99歳お誕生日おめでとう」
同居する娘が炊いたごはんを茶碗に盛りつけて、お弁当のおかずと一緒にいただきます。
栄養のバランスがとれた弁当は1食およそ600円。
高齢者の生活と健康を支える「配食サービス」は高齢化の時代に必要不可欠となっています。## 過去には「安否確認」をせずに死亡した例も…
この配食サービス、札幌市が業者に委託する事業もあります。
しかし2024年6月、札幌の中央区の業者が、安否確認を怠り、利用者が死亡状態で発見されたことがありました。
配達員が80代の女性の家を訪れたのに、応答がない…。
本来は緊急連絡先に連絡することになっていたのですが、配達員は連絡せず弁当をドアノブにかけて去りました。
翌日、別の配達員も弁当をドアノブにかけたまま去り、その日の夜に女性の家族が倒れているのを見つけて、病院に運ばれましたが死亡が確認されたのです。
この問題が起きて以来、安否確認などが徹底されていますが、いま別の問題で業者の負担が増えてきています。
物価高も重なり…サービスの現場は
『ライフデリ手稲店』のオーナー、清野秀明さんがその実態を教えてくれました。
「今はお米やガソリン、人件費などの方が上がっているので、お客様が増えてもそういうところはちょっと大変だなと思うところ」
店では、札幌市からの事業委託も受けていて、市からの委託料は1食424円。
事業者は利用者が支払う500円と合わせて924円で食材の調達から調理、配達、そして安否確認まで行います。
物価高も追い打ち…
過去5年間、札幌市の高齢者配食サービスを利用した人の月平均の推移です。
高齢化の進行とともに、利用者は年々増え、2024年はひと月で2400人が利用しています。
一方、配食の委託事業者は年々減少しています。
しかし、市から払われる『ライフデリ手稲店』への委託料は物価高騰が続く中、2024年から6円しか上がっていません。
「私の店はまだそんなに規模が大きいわけじゃないけど、それでも1週間で50~60キロの米を使っている。月にすると200~300キロぐらい使ってますけど値段が倍になっちゃっていますので…」
年金で暮らす高齢者のことを考えると、急に値段を上げられないのが現実です。
「この事業を疲弊するからやめたとかっていう風にはならないですよね、これだけ需要があると」
多くの利用者に少ないスタッフで配達するため、会話の時間を減らすなどでの効率化を余儀なくされています。
物価高と人手不足。
さらに利用者の増加が見込まれる状況で、事業者の負担がさらに増えるのは確実です。
しわ寄せが委託事業者にいかない仕組みを
社会福祉が専門の淑徳大学・結城康博教授は、「自治体は物価高騰に合わせて補助金を引き上げ、委託事業者が衰退しないような対応をすべき」と話します。
委託事業者が減少しているのが事実です。しわ寄せにならない構造を考え直さなければなりません。
連載「じぶんごとニュース」
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2025年6月27日)の情報に基づきます。