【ヒカシューの「静岡ライブ2024」】 イリヤ・カバコフさんにささげた楽曲演奏
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は9月22日に静岡市葵区のライブバー「Freakyshow」で行われた巻上公一さん、佐藤正治さん(共に熱海市)が在籍するバンド「ヒカシュー」の「静岡ライブ2024」から。
ヒカシューの静岡市でのライブは8年連続だそうだ。主催者の尽力に頭が下がる。今年は浜松市の女性シンガー・ソングライターちひるねさんの弾き語り、浜松市出身のBOKUGOさん、格差社会さんによる「チュウソツシスターズ」のキュートでストレンジな「合奏」が、結成46周年の先輩バンドの演奏に花を添えた。
「Freakyshow」は掛け値なしの満席。鍵盤楽器奏者の清水一登さんが、ステージ下で演奏したため、客席と舞台の境界線が曖昧な、非常に親密な演奏空間となった。ミューズのようなたたずまいでステージに立つゲスト演者の纐纈雅代さん(サックス)が印象的だった。
冒頭、巻上さんから昨年5月に亡くなった美術家イリヤ・カバコフさん(旧ソ連ウクライナ出身、作品はイリヤ&エミリア・カバコフ名義で発表)への言及があり、彼にささげた最新アルバム「雲をあやつる」から表題曲など数曲を演奏。巻上さんの尺八、テルミン、コルネットと纐纈さんのサックスが交錯。生演奏で聴くと、このアルバムのメロディーがいかにキャッチーであるかが分かる。
後半は「謎の呪文」「丁重なおもてなし」「ゾウアザラシ」など1980~90年代の楽曲を連発。元メンバー井上誠さん作曲の「ドロドロ」(1979年)も披露した。近作からは「チンピーシーとランデヴー」(2021年)。間奏で清水さんがローリング・ストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」を差し込み、客席を驚かせた。
本編ラストは「ニョキニョキ生えてきた」で、アンコールは「パイク」。全体的に即興は抑え気味だったように感じたが、このバンドの歴史と幅の広さを存分に感じさせる約1時間半だった。
巻上さんと三田超人さんの苦笑に苦笑が重なるMC、佐藤正治さんの躍動感と気合いに満ちたドラミング、スプーンで弦をこすったりボトルネック奏法を敢行したりする坂出雅海さんのベースプレーも、このバンドの自由度の高さを物語っていた。(は)