キャナルシティから徒歩1分。2人の女将が営む小バコで福岡の酒を愉しむ
江戸期には600以上の酒蔵があり、有数の酒どころとして知られた福岡県。現在も68社が酒造組合に加盟し(2021年時)、これは国内5指に入る数だそうです。そんな土地柄で生まれた酒を、のんびりゆったり楽しめる「小料理屋おぜん」。2人の女将が出迎える、日本酒愛に満ちた居酒屋を訪ねました。
「おぜん」は今年1月にオープン。キャナルシティ博多から徒歩1分の場所ですが、道1本挟むため喧騒とは無縁です。白い暖簾が闇に浮かぶ店構えはなかなかクール。暖簾の水引の絵も洒脱で、扉の先に待つ愉しみを予告しているようでした。
カウンター7席の店内はわずか5.5坪ですが、オープンキッチンの開放感もあって狭苦しさはゼロ。むしろ両隣との距離感が快く、座った瞬間リラックスできます。ほんのり懐かしくて温かい空気も良い感じ。
この上質な居心地を生むのは、中村優希さん(右)と原野多美子さん(左)です。それぞれ中村学園大学と同短大を卒業後、栄養士として勤めていた職場で意気投合。「いつか一緒に店がしたいね」という夢を、「おぜん」で叶えた2人の女将です。
テキパキ調理を行う洋装の中村さんと、おっとりした物腰で接客と酒を担当する和装の原野さん。一見真逆のキャラですが、「たみちゃん」「ゆうきちゃん」と呼び合う2人からは深い絆が伺えて、それが店内の和やかさに繋がっています。
「2人とも日本酒好きなのがきっかけで仲良くなったんです」と“馴れ初め”を語る中村さん。「おぜん」のテーマを尋ねると、おいしい料理と酒が値頃に楽しめる「自分たちが行きたい店」と答えてくれました。
それに続けて原野さんも「地元の酒蔵を応援したくて、福岡の日本酒ばかり仕入れてます」とニッコリ。たまに他県産も入りますが、現在12種以上が揃う銘柄は福岡産だけだそうです。
というわけで、料理は特に日本酒と相性抜群のアテばかり。カウンターには漆塗りの膳が置かれ、その上を中村さんお手製の料理が彩ります。なおメニューに「1人前」と記載のない料理は2人前の分量で、2人で1品頼むと2皿に分けてくれますよ。
さて、今日は定番の「おばんざい3種盛り」(1人前500円)からスタート。土佐酢で味付けしたうざく、明太卵焼き、ゴーヤの塩昆布和えと夏らしい内容です。この値段で鰻が入るとは驚きですが、「これはサービス品なのでドン!と出したいなって」と中村さんが笑います。
他の料理も仕込みが丁寧で味も繊細。時折見られる創作要素は、修業先の人気店「新日本料理 Assiette de MAKO(アシェット・ド・マコ)」のDNAでしょう。
次にいただいたのは「燻製卵のポテトサラダ」(650円/写真は1人前)。ポテサラに刻んだ燻製玉子を混ぜ、仕上げにもその玉子を乗せる人気メニューです。日本酒に合わせると、鼻腔を抜ける薫香がさらに膨らみました。「これはたみちゃんこだわりの一品です」と中村さんが言うように、料理は必ず2人でアイデアを出し合い決めるとか。
また、人気の点では「鳥手羽の昆布締め」(800円/写真は1人前)も譲りません。パリッと焼いた皮と、3日間昆布締めした身が絡み合い、もう1皿追加したいほどの旨味を感じました。
今後は「コース」(5500円/前日までに要予約)にも力を入れるそうで、内容は刺身、土鍋ご飯などを含む約8品。こちらも楽しみですね。
かくして住吉に現れた、酒好きのための新たなオアシス。温かい接客も、庶民派な値頃感も文句なしです。「開店当初は、男性のおひとり様主体の店になると思ってました」と中村さん。けれども女性の常連が増えたり、接待や貸切の場に選ばれたり、同僚と来た客が後日家族と再訪したりと、思いもかけず懐深い店に育っています。
そんな磁力の発信源は、言うまでもなく2人の女将。「たみちゃんに出会わなければ独立しなかったと思います。実は私の方が彼女に引っ張られてるので(笑)」と中村さんが言えば、「なんでも手際よくこなしてくれるゆうきちゃんのおかげ。1人じゃ心細いけど、2人だから頑張れます」と健気に応える原野さん。こんな微笑ましい掛け合いも、左党たちには極上の“アテ”なんですよね。
小料理屋おぜん
福岡市博多区住吉2-17-1大蔵ビル1F
050-1808-5764