怪我をしない体を作る!攻撃的サッカーを支えるフィジカルコーチ 【FC琉球 新シーズン開幕前 特別企画#2】 渡邉翔フィジカルコーチ(41)
2月15日に新シーズンの開幕を迎えるサッカーJ3リーグのFC琉球。【新シーズン開幕前 特別企画】と題し、J2返り咲きを目指す選手やスタッフの想いをシリーズでお伝えする。
第2弾は、今季からフィジカルコーチに就任した渡邉翔氏。去年までの7年間はJ1のセレッソ大阪でフィジカルコーチを務め、日本を代表する選手たちの体作りを支えてきた。 12月に行われた平川監督就任会見では、監督自身が「渡邉フィジカルコーチのもと若手の強化を進めたい。丁寧にフィジカルの部分を強化してシーズンを通して全員が活躍できる場を作りたい」と話すなど、新シーズンにおける渡邉コーチの存在の重要性がうかがえる。 琉球の攻撃的サッカーを裏側から支える渡邉フィジカルコーチに話を聞いた。
「監督が求めるサッカーに適応する選手を」
「今日は、練習試合後のオフ明けでリラックスして刺激が抜けている状態なので、そこにいろいろな刺激をしっかり入れて、監督が求める強度の高いトレーニングに持っていくことが僕の役目ですね」
ピッチ上で誰よりも大きな声を出し練習を進めていく渡邉コーチ。この日はラダートレーニングでクイックな動作を確認し、その後はロンド(鳥かご)で止まる動作を体に入れ込んだ。体の神経を起こした状態で後半の監督主導の試合形式のトレーニングへと移行する狙いだ。渡邊氏は自身を監督への「繋ぎ役」だと語った。 「強度の高いサッカーが世界で主流になっていますが、日本人と海外の選手は、筋肉の量や身体能力に差があると思っています。外国の選手たちは初速と減速がすごく強いんですよ。だからすごいスピードで行ってもしっかり止まれるし、そこからもう1回動き直せる。そういった体の使い方とそれに耐えうる筋力、パワーをつけることをイメージしてやっています。 そのためには筋トレだけではなく、フィールドのウォーミングアップで何をやるかがとても大事なんです」 渡邉コーチが意識しているのは、“監督が求めるサッカーに適応する選手を育てる”こと。 監督が求める強度の高いサッカーをするため、強度の高い練習を続ける。チームとしてシーズンを通して強度の高いサッカーを続けるためには絶対に怪我をしてはいけない。相反するこの2つを実現するため、計画を立てて選手の体を作っている。
セレッソ大阪での経験と新たな挑戦
去年までの7年間はJ1のセレッソ大阪に在籍し、国内トップのレベルを肌で感じてきた。 「世界に羽ばたく選手が多くいるチームでできたことは何にも変えられない経験でしたね。世界基準を知れた。J1の選手は自分の体に対してとてもデリケートで取り組みが全然違います。 香川真司選手なんかすごかったですよ。ここまでやるか、ちょっと抑えなよっていう時もありました。笑」 国内最高峰のJ1を経験しJ3へと活躍の舞台を移す渡邉コーチ。
「やっぱりトライですよね。セレッソで得たものももちろんありますけど沖縄でも同じような仕事ができたら僕の自信にもなりますし自分自身の存在価値を証明できますよね」 渡邉コーチの新たな挑戦には沖縄ならではの気候など、さまざまな壁が立ちはだかる。 「ほかの地域よりも夏が長いわけじゃないですか。10月くらいまで暑い。そこはもう未知の世界です。日差しを浴びているだけで目に見えない疲労が出てくるので。その分トレーニングにも気を使わないといけないと思います。テンポよく短く…。日に当たれば当たるほど体にとってはストレスになるので」 近年の夏以降に成績が落ちる傾向についても暑さが要因の一つにあると分析している。 「以前、セレッソでスペイン人監督が指揮をとっていた時に練習を夕方にしていたんです。 それはすごい良かったんです。日を浴びないだけで疲労の蓄積が減らせて、その期間は成績が良かったんですよ。ただ沖縄で夕方にグラウンドを使うのは 難しいと思うのでやはり午前中にしかできない。いろいろな工夫が必要になるので監督と密にコミュニケーションを取っていきたいと思います」 筋肉など体の内側だけではなく気候、環境など様々な要素が資本の体に影響を及ぼす。状況を見極め的確なトレーニングを行う渡邉コーチの指導を受け、選手自身もこの短期間で成長を実感しているという。 「まだ合流して数週間ですが、成長している実感もありますし、見た感じでもう全然違いますよ。動きが速くなりましたね。接触に対しても強くなってきましたし明らかに違いますね。 選手も体が動く!と言ってくれるので。これを長いシーズンで継続しなきゃいけない、加えて沖縄というコンディショニングが難しい環境、そこもまたトライですね」
前十字靭帯断裂のケガでトレーナーの道へ
神奈川県出身の渡邉コーチ。中学生まで部活動でサッカーに励んでいた。 「そこからは自分の道を探していろいろなジャンルの仕事をやりました。引っ越し屋とか体を使う仕事はもう一通りやりました。引っ越しの仕事をしながらも趣味レベルで楽しみながらサッカーは続けていました。その時に前十字靭帯を切ってしまったんですよ。怪我をして自分が好きなことが、好きなスポーツができなくなるきつさを感じて、トレーナーになろうと思ったんです」 専門学校で一から学び直し横浜清風高校でトレーナーの道をスタート。専門学校で非常勤講師として後輩たちを指導するなどさまざまな道を経験しながらトレーナーとしてのキャリアを築き上げてきた。 去年5月のルヴァンカップ3回戦・FC琉球対セレッソ大阪の一戦では渡邉コーチはセレッソの一員として来沖していた。 「あの日は午前中にバックアップメンバーのトレーニングをしてから向かって、飛行機が遅延していたので危うく試合に送れるところでした。あの時はまさかここがホームになるとは思ってもいなかったので不思議な縁ですよね。笑」
「戦う選手たちを見て欲しい」
「目標はJ2昇格以外に無いです。そのトライのために沖縄にきました。夏でも落ちない体力作りもそうですし、暑さの中でのコンディショニングが本当に大事なんです。そのなかでサッカーは1週間ごとにコントロールしなければいけないので、その部分で選手たちを支えていきたいです」 新シーズンは成長した選手たちの姿に目を向けてほしいと笑顔で話す。 「アップのときに僕も凄く大きな声を出して選手を鼓舞するんですが、それに選手が毎回応えてくれるんです。その分戦う選手になってきていると思うので。選手が戦っているところをぜひ見てほしいですね!」
☑取材メモ
攻撃的サッカーを貫くFC琉球のキーマンの一人である渡邉コーチ。 元々沖縄が大好きでいつか沖縄で働いてみたいな…と考えていたそうです! 好きな沖縄グルメは沖縄そばとのこと! 取材時も握手から始まり握手で終わる、ジェントルマン渡邉コーチ。 練習時は誰よりも声を出して選手を鼓舞しているので一目で渡邉コーチを発見できるはず! そんな渡邉コーチの奮闘ぶりが見られる公開練習は一見の価値あり! 取材・撮影・執筆:植草凜(沖縄テレビアナウンサー)