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範宙遊泳『心の声など聞こえるか』 座談会 ~より良い「つくり方」と「創作の場」を探す・『心の声など聞こえるか』再創造に懸ける想い

SPICE

範宙遊泳(前列左から)坂本もも 植田崇幸(後列左から)井神沙恵 福原冠 石原朋香 狩野瑞樹 木村友哉 山本卓卓

 劇作家・演出家の山本卓卓が代表を務める演劇集団・範宙遊泳。

 2021年12月に、外部の演出家・川口智子を迎えて上演した同集団の『心の声など聞こえるか』が、新たな俳優、スタッフに加え山本自身の演出・出演で再創造され、2024年7月6日に幕を開ける。劇場は21年と同じ東京芸術劇場 シアターイースト。

 夫婦という〝近しい他者〟の間に生じる愛憎と相克を描き、現代社会に鋭く突きつける戯曲を、座組全員が〝共にあること〟を意識しながら創作を進めているという。

 そんな創作の最前線から見える・感じているものごとについて、俳優の福原冠、井神沙恵、石原朋香、狩野瑞樹、植田崇幸(演出補佐、出演)、木村友哉(演出助手)、坂本もも(プロデューサー)に山本卓卓(作・演出・出演)を加えた、総勢8人に語ってもらった。


■共有したことの全てが創作につながっていく

――初参加から近年の範宙遊泳作品に出演していらっしゃる方、メンバーと、さまざまな立ち位置の方が混在する座組です。芝居づくり以外にも、多彩な〝ワーク〟を試し・共有していると伺いました。そんな、ここまでの稽古をどう感じているかからお話しいただけますか?

石原 大学生の時から範宙遊泳は拝見していて、卓卓さんのワークショップに参加させていただいたこともあったのですが、「完成された方法論のもと、創作している劇集団」というイメージを勝手に持っていたんです。それが今回、「スッキリしたいんだけど、誰かスッキリできるヤツ知らない?」みたいな(笑)、卓卓さんの抽象的な問いかけに、全員が自由にアイデアを出すところから始まって。子どもの頃、集まった友達と既存の遊びを混ぜて自分たち流の遊び方を発明していたような、のびやかな稽古を楽しくさせていただいています。

石原朋香

福原 実際、「オリジナルの遊びを発明しよう!」みたいなこともやったよね、序盤に。

石原 やりました! 3チームに分かれ、それぞれが〝遊び〟を発明してみんなでやってみるっていう。

福原 それぞれ、遊びのルールが違うので、見ているほうがわかるまでなんで盛り上がっているか分からなくて(笑)、その状況も面白かった。そういう〝ルールの共有〟は上演にも通じるところで、観客と〝ルール〟を共有できて初めて作品を楽しんでいただけるんじゃないか、という話もしたりして。

狩野 僕も上京前から範宙遊泳を拝見していて、「試行錯誤し続ける集団」というイメージがありました。実際、自分たちの集団でもあーでもないこーでもないやり続けていますが、既に成果を出している範宙も、今回のように新しい創作の場を模索し、色々試し続けている。そこに参加できたことが嬉しくてたまりませんし、希望を感じるなあと。(急にテンションを上げて)とにかく面白いっす!(全員笑)。

狩野瑞樹

石原 うん、面白いよね。

坂本 狩野さんはこの3月に大学を卒業したばかりで、自分でも劇団で作・演出をされているんです。

福原 高校生の時、スマホで僕らの公演映像を観てくれていたんだよね。そんな若い世代と一緒に芝居をやれる日が来るとは……「続ける」ってこういうことなんだなぁ、と。

井神 私は2021年、この戯曲を川口智子さんが演出した公演にも出演させていただいていたんです。考え方やアプローチは違って当然ですが、根幹にある〝遊びを大切にしながら創作する〟という精神性のようなものが、おふたりに共通しているのが嬉しい発見でした。また昨年の『バナナの花は食べられる』再演創作の時は、卓卓さんはじめメンバー全員で、〝(作品も役としても)生きているモノであり続ける〟ことをめざしていた感覚があって。それも、今回の創作に共通しているんじゃないでしょうか。みんなで遊び、みんなで体験する。そんなワークの時間が創作に直結していて、何をしても心強く感じられています。

井神沙恵

植田 僕は『バナナ~』の初演から参加させていただいていますが、卓卓さんとの創作は、何をしても否定されないんです。それは、創作の場でとても大きなことのような気がしていて。これまで経験したことのない豊かな創作環境だと思うし、作品も、参加している初めましての方々も、一瞬で好きになりました。このまま楽しく創り、その楽しさごとお客様に届けられたらいいですね。

植田崇幸(演出補佐、出演)


■「若い世代から学ぶ時がきた」という感慨

福原 今回は個人的に〝若い人から学ぶ〟という目標を立てていて。若手のつもりでいたけれど、気づけば演劇を始めてから15、6年経っていた。「明日は、次の作品は、来年はもっと良くなりたい」と思い続け、上の世代や先陣を追うこと多かったけれど、同時に時を経た分、自分では思いつけなくなったことを若い世代に教えてもらう時期にも来ているんじゃないか、と。僕にはないリアリティを年下の世代は持っているはずで、それを芝居に落とし込む様を間近に見られる今回のような機会は貴重なので。でも僕、おしゃべりなもので、聞こうとしつつもつい自分のほうが多く返しちゃうのが悩みです(全員笑)。稽古場の帰り道、駅までみんなと歩く時もしゃべり過ぎちゃったり、立ち話に誘ったりついしちゃって。

福原冠

石原 (福原)冠さんのおしゃべりに救われることもありますよ。

狩野 同感です。

福原 ありがとう!

木村 僕は演出助手が初めてなうえ、はじめましての方も多いのに、この現場では自分を着飾らせる必要がないんです。毎日がハッピーで健康的(笑)。余分なことは何も考えず、ただ楽しく稽古場に通っています。

木村友哉(演出助手)

山本 いや、こんな軽い感じでしゃべってますけど、木村君は稽古のことを誰よりも考えて、支えてくれているんです。稽古場に飾る花を買ってきてくれたり、僕が照れて言いづらい「みんな、すげぇ良かったっす!!」みたいなことも率先して言ってくれるし。

木村 フォロー入れてくれてます?(笑) でも、行動も口にすることも全部本当に心から出たことで、すごく素直な状態でいられるんです、この稽古場は。そういう環境を整えてくれている、卓卓さん、ももさんには本当に感謝しています。

坂本 稽古初日、初めての本読みを終えた後、「あ、大丈夫だ」と思えたんです。卓卓さんからも、「キャスティング成功していると思う。ありがとう」と言われて。公演ごとの区切りにはお互い「ありがとう」を交わしてきましたが、稽古はじめにそんな言葉があったのは初めてで、嬉しかったし手応えも大きかったのだという共有ができました。

 集団の在り方や創作の場の持ち方について長年考え続け、失敗も重ねてきましたが、ここ数年私が大学で教えるなど、若い世代に関わる機会が増えていて。後進育成への責任を感じると同時に、自分たちのクリエイションも大切にしたい。そんな想いをどう形にするか考えた末、「自分たちが若い人と一緒に創作の場を持ち、公演までを共にする。最終的な責任はうちの集団が持つ」というのが一番しっくりきて、今回の座組をつくりました。今話を聞いていると、みんなともそのことが共有できていると感じられて、私自身もハッピーで嬉しいです。

坂本もも(プロデューサー)


■誰よりもはしゃいでいるのは劇作家で演出家で俳優⁉

――山本さんは21年の創作の折、「演出を他者に委ねることで、劇作に注力したい」という意図で今作を書かれ、川口さんが演出されました。今回の取り組みのめざすところと、現状の手ごたえを伺えますか?

山本 今聞かせてくれたみんなの言葉、こういう時間が持てたことが既に成果なんじゃないかと感じています。今まではどうしても僕主導で劇集団が動いてきたけれど、そんな〝集団の顔〟的なあり方はもういいいんじゃないか、と。範宙遊泳は僕のライフワークなので、どんな状況でも続けていくと決めている。でも長く続けるならなおさら演出や集団の代表に付随する〝権力〟のようなものは手放し、書くこと創ることに注力したいという想いが年々強くなっていて。向いていないんですよ、偉くなることが(笑)。それよりも、創作に関わる全ての人と心地よくコミュニケーションをしていたい。

 プロデューサーのももちゃんは、今回そんな僕の求めるところを、新しい創作の形も探りながら実現してくれた。参加してくれるみんなにも、ももちゃんにも感謝しかありません。

 と言いつつ出演するのは矛盾しているようですが、単純に俳優がやりたかったから(笑)。共演のみんなからツッコミまくられる覚悟はしているので、そこは宜しくお願いします!(全員笑)。

山本卓卓(作・演出・出演)

坂本 でも出会った頃、活動初期は卓卓さん普通に俳優もしていたし、外部の公演で主演したりもしていて、私から見ても上手でしたよ(笑)。

山本 (笑)。「上手」って言われるとビミョウだけど、でも俳優の仕事、演技は僕にとって書くことよりずっと健全な自己表現なんです。作家の作業は立て込むと、どうしても心が病んでくる(苦笑)。自分が書いたものでも、台詞を相手と生で交わしていると、普段は見落としてしまうような細かい変化も拾えるし、表現にも反映できると思うんです。だから最終的には、観てくださる方にもそれらを感動として伝えられる。どの立ち位置で関わっても、〝演劇を世界一楽しむ〟という僕の目指すところは変わりません。

福原 作・演出家である卓卓の演技には、僕らとはまた違う自由な解釈や表現があって興味深いんですよ。それが新たな化学反応や飛躍になればいい。まあ、間近にしていると「なんか、はしゃいだ子どもがいるな」って感じですけど(全員笑)。

狩野 確かに自由ですよね。作・演出家の卓卓さんではなく、同じ俳優として芝居の中に立っているのが、不思議だけど面白いです。

石原 思いつきをポンとやっちゃう大胆さ、決まった出ハケに関係なく「こっから出て来たい!」と思ったらそうする、みたいな俳優・卓卓さんのスタンスには刺激をもらいます。考えて考えて、結果遠慮することも私は多いので。

井神 発散というより、「エネルギーそのものが目の前にいる」感じです、卓卓さん。それに負けず、しっかり受け止めようと必死になってますね。そのことで、私の中にもエネルギーが湧いてきますし。

植田 俳優の時、卓卓さんは目がキラキラしているんです。そんな目で、「爆裂していこうゼ!」と語りかけられている感じで(全員笑)。

木村 わー、そのアイコンタクト、リアルに想像できますね(笑)。


■作品を介して8人が観客に届けたい「モノ」

――ゴミ出しを巡る2組の夫婦の対立から環境問題、社会の歪みをあぶり出し、「近しい人同士だからこそ生まれる分断」や「他者を理解する不可能性」などを問いかける今作。川口版上演からまだ2年強ですが、今作の核になっているものの深刻さは増しているように思います。前回をご覧になっている方、今回初めて作品に出会う方の両方が劇場にいらっしゃると思いますが、皆さんそれぞれが作品を介して伝えたいことを最後に伺えますか?

坂本 戯曲を最初に読んだ時、「今日一日をより良くするために生きてみよう」という主旨の台詞が、強く心に残ったんです。「より良く生きるため、ハッピーでいるためには努力が必要だ」と私は解釈したんですが、そういう生き方を自分もしてみたいと思った。なので、この作品を観てくださる方にも、今日一日がより良く、明日がより幸せになるようなパワーを持ち帰っていただければいいな、と思っています。

井神 私は川口版にパパラッチ役で出演させていただいたのですが、とても色々な見方・感じ方のできる作品で、コミカルであると同時に哀しい部分もあると思っていたんです。けれど今回、卓卓さんがこの作品でめざしたい方向を言葉を尽くして伝えてくれる稽古を経て、前回とは違う心地よさがお客様に届けられる舞台になるような気がしています。

 さっき冠さんが話していた「目標」を、私は〝やればやるほど満ち満ちていく作品にする〟というふうに自分の中に持っていて。愛も希望もマシマシの作品なので、その〝満ち満ちる〟感覚をお客様にもお届けできたらいいですね。

石原 観て欲しいところは作品全体にあるんですが、私が演じる「1」の役は自分の中だけでなく、他人とも妄想を媒介に関わるようなところがあるんです。自分の思う自分の性格、自分の妄想した性格、他者から見た性格はそれぞれに違い、複数の別人を演じているような気持ちになるんですが、人間は本来そういうものですよね、きっと。そんな日常では忘れがちな、自分という人間の多面性に思いを馳せて観ていただいても面白いかな、と思っています。

狩野 僕が演じる「2」は、自分や相手を信じたいと思いつつ思うようにはいかない状況に直面し、それでも信じることを諦められないというか、信じたいと思ってしまうような人に今は思えているんです。自分のことでさえ思う通りにいかないのだから、他人がそうなることはさらに難しく、それでも信じたいと願ってしまう。だから演じる僕も役を信じ、共演の皆さんを信じて最後まで自分の役割をまっとうしたいです。そんな姿を見て、「信じるってなんだろう……」と、お客様が少し考えてくださったらうれしいです! すいません、取っ散らかりました‼

福原 僕は、もう観終えたお客様に「想像力を使うのって楽しい! なんだかスッキリしたぁ」と思ってもらえたらいいですね。

植田 最初に戯曲を読んだ時、僕の頭の中には悲劇のイメージが立ち上がったんです。でも卓卓さんのもと稽古している今、この作品は「大きな希望の話」になっていて。演出で戯曲が大きく変わることに感動しているんです。なので、観劇した方には是非戯曲も読んでいただいて、その違いやご自身の中でのイメージの違いなども味わっていただけたらいいな、と思っています。

石原 確かに、書いてあることと舞台上で行われることにギャップがあるように思えるシーンもありますよね。

福原 その点では、川口さんの演出版を観た方たちには是非今回の上演も観て欲しいです。きっと「こんなに変わるんだ!」と、新しい発見や驚きがいっぱいあると思います。

木村 きっと、どこの誰が観ても受け入れてくれる作品になるんじゃないでしょうか。卓卓さんも言ってたんですが、たとえ途中で眠ってしまっても、劇場に来て時間を共有してくれるならばそれだけで嬉しい、と。そんな懐深い作品になると思うので、一人でも多くの方に観て欲しいだけです。あと、観た方の話が聞きたいかな(全員うなずく)。

山本 言おうと考えてたことをみんなが言ってくれたので、もういいかなって。これでまた、シメっぽいことをズバッと言ったら「やっぱり山本で終わるのか」と思われたらすっごいイヤなので(笑)、みんなの言葉に僕の想いも託して終わります!

取材・文=尾上そら 写真撮影=荒川潤

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