TSUKEMEN『Re:EMOTION』インタビュー――ヴァイオリンとピアノのいろんな可能性を感じてもらいたい
ヴァイオリンのTAIRIKとKENTA、ピアノのSUGURUによるTSUKEMEN。彼らのコンサートはエンターテイメント性を大切にしつつも、卓越した技巧で奏でるアンサンブルは美しく、生楽器の魅力を存分に楽しませてくれる。そんな彼らに2025年のツアーについて話を聞いた。
──今年も5月から始まって、来年3月まで全国ツアーが続くスケジュールのようですが、これは、TSUKEMENのルーティンですか?
TAIRIK「TSUKEMENが以前所属していた事務所から独立したのが3年前で、その頃から試行錯誤する中で今のルーティンが出来てきた感じですね。それまではツアーの切れ目が明確じゃないこともあって…」
SUGURU「ツアーの入れ替え期間が1週間しか取れないような大変なこともありました。でも、今は4月に少し時間が空くスケジュールになったので、照明などの演出を練る時間が取れるようになりましたね」
KENTA「その4月が今は楽曲を作ったり、リハーサルを詰めたりという時間になっています。あと、コロナ禍以降、ツアーとは異なるコンセプトのオンラインライブ(※)も開催したりしています」
※4/16(水)「TSUKEMEN春のオンラインライブ2025」開催 >>>
──コンサートを実際に観に行ける世の中になってからも、オンラインライブを続けているんですか?
KENTA「コロナ禍で外食も出来ない時期にはホテルとコラボして、ディナーをご自宅にお届けして、自宅にいながらディナーショーを、という企画をやってみたこともあります」
SUGURU「当時、こんな新しい試みをやっているアーティストがいるということで、ニュースで取り上げてもらったこともありましたね」
KENTA「そのオンラインライブを続けている理由のひとつは、主婦の方などは、全国各地へ足を運ぶのはなかなか難しくて、そうすると、地元でコンサートを観ていただけるのは年に一度くらいで。1年も間隔が空くのは寂しいですし、忘れそうになったり…ということもあるので、オンラインライブはそういう人達といい関係を保ち続けるという意味合いもありますし、自分達としても“応援していただける人達のそばにいたい“という気持ちがあって、今も続けています」
TAIRIK「子供がまだ小さいのでコンサートに行けないという人でも家でなら、子供が騒いでも気兼ねなく観られるし、最前列で観ている気分になれる、という声もたくさん届いています」
SUGURU「入院している方から“ベッドの上で観ています”という声も届いたりします。そういう人達のためにも年に1回か、2回はオンラインライブをやりたいという想いがあります」
──先日、全公演が終了したコンサートツアー『キャンドルのぬくもり』。3月の高崎公演を拝見させていただきました。MCもそうですが、いろいろな演出が考えられていましたが、そのひとつがヴァオイリンのおふたりが客席から登場するオープニングだったんですが…。
SUGURU「以前は、3人全員が客席から登場するという演出をやっていたんです。でも、そのうち観客の皆さんが慣れてきて、最初から後を向き始めてしまったので…だったら、一種の裏切りとして、ピアノの僕だけが先にステージに出て行くことにしたんです」
KENTA「僕ら2人は、客席から登場しながらもメロディーは弾いていなくて、あれは効果音で、演出のひとつでした。森の中の音のような演奏で会場全体を包む、という演出だったんです」
TAIRIK「オープニングの楽曲は、最初から“ステージの外から効果音を弾きながら入ってくる”みたいな指示が楽譜に書いてあって。それをさらに進化させて、遠く客席後方からやって来ることで、奥行きが広がりステージも一辺倒ではなく変化がつけられたので、こういう演出は、また入れていきたいと思っています」
KENTA「生音で想像できることはこれまでいろいろやってきたので(笑)。コンセプトが見えてきたら、それに準じて何かしらおもしろい遊びを考えていけるようになりました」
──そういう意味でもツアーに明確なコンセプトが掲げられているんですね。
SUGURU「大事なんですよ、コンセプトは」
TAIRIK「音楽を届ける上で世の中の動きとリンクさせることって重要な要素なので。それが会場に来て下さる皆さんの雰囲気、心情に寄り添うことにもなると思うので、コンセプトは今やるべきこと、その年じゃないと出来ないという意味でも大切です。2024年のコンサートツアー『キャンドルのぬくもり』も、能登の震災があったから生まれたものなんですよ」
SUGURU「ここ数年のツアーは、ファンのみなさん、観客のみなさんに寄り添うことが大きなコンセプトになっていたので、『キャンドルのぬくもり』もその延長上のツアーでした」
──そして、2025年は、『Re:EMOTION』です。このツアーにはどんな想いが?
SUGURU「ツアータイトルは”エモ“をもう一度という意味なんですが、まず3人で作った「Re:EMOTION」という新曲があります。この曲がTSUKEMEN史上最高難易度の曲で、今年はヴァイオリンとピアノのテクニックであったり、音楽の難しい面であったりをしっかり提示したいと思っています。僕らがどういう風に音楽をやっているのか、そのあたりに改めて注目していただきたいです」
──そのコンセプトをもとにセットリストを決められていくんでしょうか? セットリストはどのように決められていますか?
TAIRIK「セットリストの選曲は、SUGURUの担当で、基本、彼が決めています」
KENTA「SUGURUが”セトリ大臣“なので(笑)」
SUGURU「合議制でやったこともあるんですが、そうすると、3人それぞれベストな曲を持ち寄るので、なかなか決まらなくて…。それだと時間の無駄になるので、事務所を独立してからは役割分担を決めました。舞台の表に見える部分は僕が担当していますが、リーダーのTAIRIKはグッズ制作を担ったり、KENTAは裏の番長として?(笑)全体を俯瞰で捉えたりしています」
KENTA「ツアーの合間にご飯を食べながら、次のツアーのアイディアとか、いろいろな話をするので、それをSUGURUがまとめて、考えを煮詰めて決めた選曲なので、“なんでこんなおかしなことに!?”とは絶対にならないです」
SUGURU「今日のようなインタビューでも、普段の会話でも、2人が何を話したかをメモしています。“今、クラシックにハマっている”とか、“こんな音楽を求めている”とか、趣味趣向を常にチェックして、さらにそれをどんどん更新させていく中で、“これなら絶対にOKだろう!”という曲を決めています」
KENTA「いろんな角度からTSUKEMENの良さが出るような幅広く、バラエティに富んだ選曲をしてくれるので、全然いいというか、いつも大満足です」
──具体的に2025年 のコンサートツアー『Re:EMOTION』では、どんな曲を演奏するのか、一部ご紹介いただけますか?
SUGURU「TSUKEMEN流に、”時短”したり独自にアレンジした、自分達のルーツでもあるクラシック。原曲よりもずっと難しくなっていたりします。ほかにも様々なジャンルの曲も演奏しますし、さっき言ったようにオリジナルの新曲「Re:EMOTION」がとんでもなく難しく、今回は技巧的な曲が多くなる予定です」
TAIRIK「「Re:EMOTION」も最初から難しい曲にしようと思っていたわけじゃなくて、いい楽曲を作ろうと3人で作り始めたら、結果、難易度の高い曲になってしまいました(笑)。しかもひとりひとりは、そんなに難しいことはやっていないのに、3人が合わさると、すごく難しくなるんです。まさに長年やってきたアンサンブルじゃないと成立しないような楽曲なので、そこに今チャレンジできることが個人的にはエモいと思っています」
SUGURU「そこはみんなで兜の緒を締めながら、楽器と向き合っていく、そんな17年目のツアーにしたいですね」
──コンサートツアー『Re:EMOTION』のフライヤーの写真もそのコンセプトに基づいたビジュアルのイメージですか?
SUGURU「そうです。もう何年も黒を着ることはなかったんですよ。オーケストラと共演すれば、黒だと色が被るというか、同化してしまうので、ずっと避けてきました。でも、今回は音楽、演奏をしっかり楽しんでいただきたいという、3人の意思表示を含めてあえて黒の衣装にしています」
──ここで、もう一度高崎公演のお話をしたいのですが、メドレーの際に客席から“エ~~”という声が上がりましたよね。あれは、なんだったんでしょうか?
SUGURU「クラシックの有名な協奏曲を繋いだ「コンチェルト・メドレー」は、TAIRIKが特殊な奏法を披露するお決まりの箇所が途中にあるのですが、ボケ次第というか(笑)」
TAIRIK「僕が股に弓を挟んでヴァイオリンを弾くのですが、そこに行くまでのプロセスで毎回なんらかの小芝居をするんですよ。ところが、高崎公演ではKENTAも僕も普通に弾くかたちで終わってしまったので、“あれやってくれないの?”という意味で、“エ~~”となったんだと思います」
──もうひとつ、休憩の取り方もユニークですよね。舞台上で3人がトークしながら、“トイレに行きたい方はどうぞ”と呼び掛けていましたが、あれはどういうアイディアで?
KENTA「僕らのコンサートは、以前は二部構成で15分の休憩がありました」
TAIRIK「でも、一度休憩なしでやってみたら、観客の皆さんも僕らも集中力が途切れることなく出来たので、そこからこの3年間は色を付けて、休憩時間の代わりにトークしたり、ピラティスをやってみたり…。“トイレにどうぞ”というのも最初は冗談だったのですが、本当に行かれる方もいたので、“こういうゆるさを活かしていこう”となって、今や恒例になりかけています」
KENTA「僕も“ちょっと行ってきます!”と、消えてみたり(笑)。そうすると、僕以外の2人でトークを回していくことになるので、ファンの方からすると、そのイレギュラーなことがまた楽しいと思っていただけるようです」
──メドレーでのやりとりを見ていてもリピーターの方が多いと思ったのですが、そういう人達を飽きさせない、満足していただくために工夫していることはありますか?
SUGURU「コンサートの90%は演奏が決まっていて、残りの10%はアドリブなんです。推し活でTSUKEMENのコンサートに来て下さる人達は、大きな違いというよりは、アドリブでのちょっとした違いを楽しんで下さるので、そこは意識しています」
TAIRIK「やっぱり生なので、演奏も毎回同じではないですし、MCも違ってくるので、そこを楽しんで下さっているようです。その中でも新しいことをやって、見たことがないTSUKEMENだと客席が沸いてくれるんですよ。その反応がまた僕らの背中を押してくれて、“期待を超えていかなくてはいけない”という、いい刺激になっています」
──このインタビューの前にの収録をされていて、そこで“グッズのコーヒーが好評だ”と話されていましたが、そのコーヒーのことをもう少し聞かせて下さい。
TAIRIK「グッズで一番人気なのが3人でブレンドを考えた、オリジナルのコーヒーなんです」
SUGURU「みんなでテイスティングして選んだブレンドで、人気になりすぎて、僕らも手に入らないくらいで(笑)。2025年のツアーでは肝いりの商品が新たに出ます」
TAIRIK「長崎の五島うどんの乾麺です! “TSUKEMENの推し麺”ということで(笑)」
SUGURU「うどん、そうめん、僕TSUKEMENという(笑)。試食してすごく美味しかったうどんで、日持ちもします」
KENTA「コーヒーは、ロゴだけですが、五島うどんのパッケージには僕らの写真もばっちりプリントされています(笑)」
──新しいグッズが出るとなると、聞きたくなるのが新作の話です。2021年のアルバム『HAPPYキッチン』に続く新作の予定はありますか?
SUGURU「今EPを2タイトル、それぞれ3曲入りなのですが、5月の新ツアーに合わせてリリースする予定です。そこにはもちろん新曲「Re:EMOTION」も収録されます」
TAIRIK「ツアーの初日、神戸朝日ホール(5月3日開催)の公演から、会場限定販売していこうと思っています」
──さて、今年がデビュー17年ということで、20周年が視野に入ってきた頃かと思いますが、アニヴァーサリーという節目は、何かこだわったりすることはありますか?
TAIRIK「10周年の時は、それほど意識しなかったんですけど、20周年となると、ちょっと話は変わってくると思っています」
SUGURU「20周年に向けて、今年の『Re:EMOTION』ツアーがとても大事になると考えています。3年前の独立もあって、いろいろ動いていたものが一旦立ち止まって、そこから再び動き始めて、しっかり稼働する時間になると思っています。これから始まる『Re:EMOTION』ツアーを1年間やる中で、きっと20周年の何かが見えてくるだろうと、自分達でも期待しています」
──では、最後にそれぞれ読者の方へのメッセージをお願いできますか。
TAIRIK「今回のツアーでは、ヴァイオリンとピアノの演奏において、カッコよさを追求したいという想いがあるので、“こんなことも出来るんだ!?”とか、ヴァイオリンとピアノのいろんな可能性を感じてもらいたいです。ただ、ステージ自体は、演奏とのギャップがあるほわっとした朗らかなゆるいトークもありつつ、全体としてはエンターテイメントとして楽しめるコンサートにしたいと考えています。僕らの音楽を全然聴いたことがなくても、“ヴァイオリンとピアノのトリオってどんななんだろう?”という興味本位でもいいですし、またこのインタビュー記事が一期一会になるかと思うので、ぜひ会場に足を運んでいただきたいです」
SUGURU「ステージで3人が楽器を演奏している時、アンサンブルを含めて、演奏にしっかり集中し、音楽に没頭している姿、本気で取り組んでいる姿をこれまで以上にお見せしたいと思っています」
KENTA「伝統あるクラシックから民族音楽、圧倒的な歌唱力を誇る歌、最先端のEDMなど、世の中にはあらゆる音楽が溢れています。そんな時代だからこそPAを使わない、生音のコンサートホールの響きやヨーロッパの楽器の響き、3人のアンサンブルの素敵な音色がセンスの高い音楽の趣味になると思っています。もしかすると、クラシックの楽器にハードルの高さを感じる人がいらっしゃるかもしれませんが、コンサートに来てみたら、好きになっていく自分がきっと誇らしくなると思います。そういう音楽をお届けし続けますので、おひとりで楽しむのもいいですし、“気になっている音楽があるんだけど…”と、お友達を誘っていただいてもいいので、ぜひ会場にお越しください。最高の音楽の趣味になると思います!」
(おわり)
取材・文/服部のり子
写真/野﨑 慧嗣前編:TAIRIK、KENTA、SUGURU、3人のSPECIAL TALKradio encoreはこちら >>>
LIVE INFORMATION
5月3日(土祝) 兵庫 神戸朝日ホール
5月4日(日祝) 大阪 住友生命いずみホール
6月7日(土) 愛知 中電ホール
7月18日(金) 栃木 栃木県総合文化センター サブホール
7月20日(日) 長野 松本市音楽文化ホール メインホール
7月26日(土) 福島 キョウワグループ・テルサホール (福島テルサ)
7月27日(日) 茨城 水戸市民会館 ユードムホール (中ホール)
8月2日(土) 東京 第一生命ホール
8月29日(金) 北海道 カナモトホール (札幌市民ホール)
9月21日(日) 広島 広島県民文化センター
9月23日(火祝) 山口 下関市生涯学習プラザ(ドリームシップ) 海のホール
9月27日(土) 千葉 森のホール21(松戸市文化会館) 小ホール
and more...
TSUKEMEN CONCERT TOUR Re:EMOTION