【横浜中華街】 媽祖廟の御祭神・媽祖(まそ)とは? 「実在した海の守り神の伝説」
横浜中華街の一角に鎮座する媽祖廟(まそびょう)。
関帝廟と並ぶ観光名所として、多くの人々が参詣しています。
関帝廟の御祭神である関羽(かん う。字は雲長)が、実在していたことは有名ですが、媽祖廟の御祭神・媽祖(まそ)もまた実在した人物です。
果たして媽祖とはどんな人物だったのか、今回はその生涯をたどってみたいと思います。
通玄の霊女
媽祖は、宋王朝の建隆元年(960年)3月23日、興化軍莆田県湄州島(現:福建省)で都巡を務める、林愿(りん げん)の娘として誕生しました。
生まれてから1ヶ月経っても泣き声を上げなかったため、人々からは林黙娘(りん もくじょう)と呼ばれたそうです。
林黙娘は幼少時から利発で知られ、10歳の時には朝夕念仏を唱えました。ここまでならちょっと変わった人というところでしょうか。
しかし16歳になると「神から銅の護符と神通力を授かり、人々の病を治した」と伝えられています。
変化の術を使い、護符の力をもって邪悪な者を退け、筵(むしろ)に乗って空を飛び回って各地の人々を救ったのだとか。
もはや人間業ではありませんね。
そんな彼女を人々は「通玄の霊女」と呼び称えたのでした。
通玄とは幽玄の領域に通じていることを表し、人々がいかに彼女を畏れ敬っていたかが分かります。
人々を救い続けた彼女は、28歳となった雍熙4年(987年)9月9日、現世におけるすべての修行を終えて天へ昇っていったのでした。
海の守り神として世界各地へ
かくして世を去った林黙娘。しかし、その後も彼女の目撃談が相次いだそうです。
紅い衣裳を身にまとった彼女が天を飛び回り、海難に遭った人々を救い続けたのだとか。
人々は林黙娘の活躍に感謝し、各地で廟を建立して祀りました。
その噂はやがて歴代皇帝の耳にも入るようになり、それぞれから諡(おくりな)を奉ります。
北宋の徽宗(きそう。第8代・趙佶)は「順済婦人」
南宋の光宗(こうそう。第3代・趙惇)は「霊惠妃」
元の世祖(せいそ。初代・クビライ)は「天妃」
清の康熙帝(こうきてい。第4代・愛新覚羅玄燁)は「天后」
清の道光帝(どうこうてい。第8代・愛新覚羅旻寧)は「天上聖母」
と、歴代皇帝たちは、彼女の偉大さを讃えました。
それがいつしか媽祖(偉大なる母)と呼ばれるようになり「海の守り神」として広く信仰を集めるようになったのです。
後に華僑が世界各地へ移住すると媽祖信仰も拡散、世界26ヶ国1500余ヶ所に廟が建立されたのでした。
日本でも船玉(ふなだま。船魂)信仰や弟橘比売(オトタチバナヒメ)信仰と結びつき、室町時代ごろから江戸時代にかけて、各地に媽祖信仰が根づいたと言います。
台湾では原初の媽祖信仰だけでなく、日本統治時代に天母教(てんもきょう)という神道系の新興宗教が起こりました。
媽祖は天照大御神(アマテラスオオミカミ)と同一であるとする教義で、台湾の民間信仰を取り入れつつ、日台民族の協和が図られたのでした(敗戦により解体)。
なお、媽祖は千里眼(せんりがん)と順風耳(じゅんぷうじ)という二柱の神を従えていますが、元々は悪神として人々を困らせていたそうです。
しかし、媽祖によって調伏されて改心し、人々を救う手伝いをするようになったのでした。
千里眼はすべてを見通し、順風耳はすべてを聞きつけて媽祖に報せると言います。
現代の横浜媽祖廟
通霊女神 湄州分身(つうれいのにょしん、びしゅうにぶんしんす)
扶桑金港 廟宇此新(ふそうきんこうに、びょううかくあらたなり)
天行海路 浪静風匀(てんをゆけば、かいろのなみしずかにかぜはならさる)
恩恵千載 保護萬民(おんけいはせんざいにして、ばんみんをほごす)
丁亥冬月 石川忠久 謹作
日本横濱媽祖神讃
【意訳】偉大なる女神の分身が、湄州に誕生した。
彼女が日本の横浜港に渡来し、新たな霊廟が建てられる。
彼女が天を舞えば、海路の波は静まり風は収まる。
彼女は万民を保護して多大の恩恵をもたらす。
※丁亥(ていがい)は平成19年(2007年)のこと。
横浜媽祖廟は平成18年(2006年)3月17日に落慶。横浜中華街の新たな名所として今日に至ります。
媽祖廟には媽祖の他にも以下の神様が祀られており、それぞれのご利益があるそうです。
玉皇上帝(ぎょくこうじょうてい):国家安泰
※天上におわすため神像はなし。
註生娘娘(ちゅうせいにゃんにゃん):子宝・子孫繁栄
臨水夫人(りんすいふじん):安産・母子健康
月下老人(げっかろうじん):良縁・人間関係
文昌帝君(ぶんしょうていくん):学業・出世開運
※公式HPでは文「晶」帝君に
福徳正神(ふくとくしょうじん):金運・財産保全
【神事・年中行事】
春節・厄除神輿くぐり(旧暦大晦日⇒元日)
媽祖祭(西暦3月。春分の日)
媽祖誕(旧暦3月23日≒4月)
良縁祭(西暦7月7日)
昇天の日(旧暦9月9日≒10月)
カウントダウン(西暦12月31日)
※参拝(開廟時間)は原則9:00~19:00(年中無休)
【交通】
電車ならJR石川町駅中華街口より徒歩10分/みなとみらい線元町中華街駅3番中華街口より徒歩3分
もし横浜中華街へ遊びに行く機会があったら、一度お参りしてみるのも楽しいですよ!
※参考:
横濱媽祖廟-横浜中華街・海の女神である天后媽祖を祀る廟
文 / 角田晶生(つのだ あきお)
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