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【銀座線沿線を歩く・青山一丁目~渋谷編】今と昔を結ぶ街道を起点に歩く

さんたつ

江戸時代、大山道と呼ばれていた青山通り。人々がこぞってこの道を通り、相模国の霊山・大山を目指したからだ。当時、行楽を兼ねた大山参りがブームに。時は過ぎ、令和。我々も物見遊山といきましょうか。

なだ一

流行の先端を行く街で昔の名残が映える

敷地が南北に分かれる青山公園。元々は旧陸軍の射撃場と引揚者住宅があった。

現在、青山一丁目エリアには各国の大使館が点在。こんな国際色豊かになるなんて、江戸市民は想像もしなかったはずだ。『ゲーテ・インスティトゥート東京』の図書室には、以前読んだことのある小説があった。そうか、この本もドイツの作品だったのか。なんだかぐっと身近に感じるね。

江戸時代には大山参りの道として利用され、大山道と呼ばれた青山通り。

青山霊園を抜け、そばにある『青山紅谷』へ。大正12年(1923)に青山通りで創業し、2023年6月、現在地に移転した。売り場に掛けた看板は2代目の時に作ったと思われるもので、「倉庫に眠っていたものを内装に活かしました」と4代目の青木さん。それにしても、あんみつって派手さを競うものだと思っていたけれど、ここのはむしろ真逆を攻めている。すごい。

青山通り沿いのエスコルテ青山。外観は隈研吾による設計。

外苑前エリアに入ると、こぢんまりとしたギャラリーが増える。『うつわ 楓』もその一つだ。店主の島田さんは中庭を指差し、「この一帯は昔沼地で、そこに船着き場があったそうです」。言われてみれば、店は道路から一段下がったところにあって、橋の欄干の名残も見える。そんな話を聞いて、知らないはずの景色がふと思い浮かんできた。

1969年竣工のセントラル第二青山。色違いが3棟並ぶ。
解体を待つ都営青山北町アパート。表参道の華やかなイメージとは違い、哀愁が漂う。

きらめく街の光の中に古い記憶が潜む

昭和の建物の凝ったデザインを見て歩くのも楽しい(写真は神宮前)。

表参道交差点付近を歩くと、ピカピカのファッションビルがまぶしい。一方、路地に入ると……おお? こんなところに銭湯が。創業120年以上になる『南青山 清水湯』は、1964年の東京オリンピックの時、外苑西通り(キラー通り)を造るからと立ち退かされ、こちらに移ったそう。そして2008年に心機一転、「美容」「健康」をテーマにリニューアルした。軟水の風呂に浸かって、肌はしっとりふっくら! せっかく調子がいいので、このまままた寄り道しながら渋谷に向かおう。

東京メトロ銀座線渋谷駅ホーム。天井のアーチがまるでパブリックアート。
渋谷ヒカリエ側に新設された銀座線渋谷駅出入り口。

さて、締めに渋谷みやげを探すぞ。『渋谷 東急フードショー』は限定商品を探すのにうってつけだ。地元民御用達の生鮮食品フロアは活気があって、商店街を巡るように回っていたら、『北野エース』でハチ公ソースを発見。そういえば、昼間に通った青山霊園には、ハチ公と飼い主の上野博士が眠っていたな。今度また歩く時、こんないいお土産があったよって墓前に報告するのもいいね。

渋谷スクランブル交差点。世界屈指の混雑ぶりで、外国人観光客がよく記念撮影している。

『青山 紅谷』あんみつで気づく季節の移ろい[外苑前]

あんみつ 煎茶セット1620円。
青木龍之介さん(中央)と、先代である両親。

あんみつを作るのは4代目の青木龍之介さん。シンプルを極め、素材一つひとつを活かした滋味あふれる名品だ。季節で果物を替え、あんや蜜も一新(写真は栗で、白蜜ベースのこしあんソースをかける)。

・10:30~18:00(甘味処は~17:00LO)、月・火休
・☎03-3401-3246

モダンな店構えが周囲の景色に映える。

『ゲーテ・インスティトゥート東京』ドイツ文化に触れ、新たな発見も[青山一丁目]

語学講座や、催し物を通して文化を紹介するなど「日本でドイツに一番近い場所」と所長のペーター・アンダースさん。図書室は閲覧自由で、和訳書と原書が並ぶ一角や、ドイツ語を読めなくても楽しめる絵本も。

・13:00~18:00(金・土は11:00~16:00)、日・月・祝休
・☎03-3584-3201

『Connel Coffee(コーネル コーヒー)』コーヒー豆はイタリアから直輸入[青山一丁目]

ランチボックス(写真は鮭の塩焼き)880円。ホットのカフェラテ600円(セットの場合は450円)。

ランチボックスは和・洋・中からチョイス。食後は、濃いめのエスプレッソで淹れたカフェラテを片手にのんびりしたい。草月会館の中にあり、館内のイサム・ノグチ作品や、赤坂御苑の緑など借景が眼福。

・10:00~17:30、土・日・祝休
・☎03-6434-0192

「いちょう並木」風でひらひらと揺れるイチョウの葉が美しい[外苑前]

かつて青山練兵場があった場所が、大正15年(1926)、明治神宮外苑に。北正面には聖徳記念絵画館があり、そこから青山通りに向かっていちょう並木が真っ直ぐ伸びている。両側に146本のイチョウの木がずらり。例年12月上旬頃まで、黄金色に紅葉した姿も見事。

明治神宮外苑いちょう並木
住所:東京都港区北青山2/営業時間:見学自由/アクセス:地下鉄青山一丁目駅から徒歩7分

『うつわ楓』暮らしに自然となじむ温もりのある器[表参道]

建物は取り壊しが決まり、現店舗での営業は2023年12月27日まで。神宮前で来春再開予定。
器への愛が止まらない島田さん。

「思わず手に取りたくなる土物の器が好き」と店主の島田洋子さん。お客さんの願いを作家に伝えて新作を作ってもらい、それが定番として店頭に並ぶこともある。月2回ほど個展も開催。

・12:00~19:00、月・火休(個展会期中は営業。不定休あり)
・☎03-3402-8110

ガラスの器も揃う。

『麓堂書店(ろっかくどうしょてん)』こだわりを詰め込んだレトロな一室[表参道]

生前、この近くのマンションで暮らしていた脚本家・向田邦子のコーナーも。
なます皿は300~1500円と値頃。

レトロなビルの階段を上がると、そこは写真集や画集、随筆など古書を集めた一室。店主は以前飲食店も営んでいたため、食に関する本も多い。年代物のなます皿はどれも美品で、どう盛り付けようか想像が膨らむ。

・12:00~18:00、月・火休
・☎03-4400-5760

店の外から窓を見上げる。

『南青山 清水湯』創業120年の銭湯で健康&美容大作戦[表参道]

1964年、千駄ケ谷から現在地に移転。風呂の湯も蛇口の湯も軟水を使っているので、肌がふっくらして、翌朝もびっくりする。微細な泡を発生させ、柔らかい湯触りを作るシルク風呂が名物。

・12:00~24:00(土・日・祝は~23:00。最終入場は閉店30分前)、金休
・☎03-3401-4404

オリジナルグッズも豊富。新発売のIYASHIキーホルダー800円。

『喫茶サテラ』この場所に刻まれた記憶を引き継ぐ[渋谷]

2020年オープンとは思えぬ、趣ある店内。48年続いた「青山茶館」が店を畳み、元常連が場所を引き継いだ。店内の意匠は残しつつ、より落ち着ける空間に改装。サテラブレンド700円。

喫茶サテラ
住所:東京都渋谷区渋谷1-7-5 青山セブンハイツ1F/営業時間:11:00~18:30LO(木は8:00~、金は~18:00LO・19:00~21:30LO)/定休日:不定/アクセス:JR・私鉄・地下鉄渋谷駅から徒歩6分

『北野エース 渋谷 東急フードショー店』これぞ正真正銘渋谷みやげだ![渋谷]

ハチ公ソースはフルーツ、中濃、ウスター。各432円。

その土地ならではの品揃えが光る食料品専門店『北野エース』。店舗は全国にあるが、渋谷店にもよそではあまり見ないとっておきの商品が。ハチ公ソースの本社は渋谷にあり、社名を冠したソースは区内限定販売。せんべいも見逃せない。

・10:00~21:00、無休
・☎03-6455-3905

ハチ公ソースせんべい1袋184円。しっとり食感とほどよい塩気がクセになる。

『Whoopi Goldburger(ウーピー ゴールドバーガー)』炭火で香ばしく焼いた豪快な一品[渋谷]

ケビンベーコン(マッシュポテト付き)1890円。パテの粗挽き肉を店主の上嶋翔吾さんが手捏ね。

おすすめは十勝産ベーコンをスモークし、パテと一緒に挟んだケビンベーコン。パテは牛肉の異なる部位を混ぜ合わせ、店内で手ごね、成型。注文ごとに炭火で焼き上げていて、かじり付くと歯応えがよく、強いうまみが舞う。

ウーピーゴールドバーガー
住所:東京都渋谷区渋谷1-9-4 トーカンキャステール渋谷 1F/営業時間:11:30~21:00LO/定休日:不定/アクセス:JR・私鉄・地下鉄渋谷駅から徒歩3分

【名店をたずねる】『なだ一』染み染みのおでんで心まで温まる[渋谷]

4代目の渡邊秀さん。先代の叔母から店を引き継ぎ、7年ほどになる。

客が10人も入ればいっぱいになるくらい、『なだ一』の店内は狭い。もしも奥に座った人が外に出ようものなら、手前の人も全員席を立って、一度外に出ないと通れない。そんな面倒も、「すみません」「大丈夫ですよ」なんて言葉を交わすきっかけになると思えば、一人酒でも孤独じゃないね。「昔はもっと狭かったと聞いています。横丁は40軒弱の建物が3列に並んでいるんですが、うちを含む渋谷川沿いの店は、川に迫り出すようにして拡張されたらしいです」と、4代目の渡邊秀さん。

提灯に明かりが灯り始めた渋谷 のんべい横丁。

渋谷のんべい横丁は、JR山手線の高架と渋谷川に挟まれた細長い敷地にある。戦後、周辺で営業していた屋台がここに集まったのが始まりだ。その中に渡邊さんの曽祖父母、『なだ一』の初代がいた。なんと、横丁の初代組合長も務めていたとか。そして、今も昔も『なだ一』の自慢はおでん。元々は関東風の濃い口だったが、2代目(渡邊さんの祖母)の時にレシピを改良し、現在の透き通ったつゆになった。具は大きく、「『お前の体がデカイからだろ』ってよく言われるんですけど、僕が継ぐ前から大きかったんです」。大根は芯まで染み込ませるのに4〜5時間かかるので、自宅で仕込んでくる。

店で保管している古いアルバムにモノクロ写真が差し込まれていた。写っているのは渡邊さんの曽祖父母で『なだ一』の初代。

おでんはもちろんだが、『なだ一』は人も魅力的。語り継がれるエピソードにこんな話がある。

「ある日、ひいおばあちゃんが閉店時間を過ぎても帰ってこなかった。店に電話しても出ないし、ちょっとした騒ぎになったそうです。次の日帰ってきたひいおばあちゃんに事情を聞くと、お客さんに『田舎のおふくろに似てるから、どうしてもごはんをごちそうしたい』って言われたって。断っても引き下がらないから、付き合っていたそうです(笑)」。

勘定を済ませ、隣の人にまた「すみません」と言って通路を空けてもらい、外に出る。すると、「大丈夫ですよ。おやすみなさい」と見送ってくれた。『なだ一』で身も心もぽかぽか。帰り道も寒くないね。

おでんは大根、しらたき、はんぺんなど1品200~400円。焼酎600円。

なだ一
住所:東京都渋谷1-25-10 のんべい横丁/営業時間:18:00~23:30/定休日:日・祝/アクセス:JR・私鉄・地下鉄渋谷駅から徒歩2分

取材・文=信藤舞子 撮影=原 幹和
『散歩の達人』2023年12月号より

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