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台中市の刑務所跡地の廃屋は木の根に飲み込まれ、廃ビルはまだ営業していた【台湾“廃”めぐり】

さんたつ

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台湾“廃”巡りシリーズ、今回は台中市の緑空鉄道1908旧線跡の近くにあった旧台中刑務所跡地の廃屋と、有名スイーツ店の目の前に聳(そび)える廃ビルです。外観だけでも一見の価値があります。

刑務所跡地の博物館。そこにたたずむ菩提樹に飲み込まれた廃屋

前回紹介した台湾鉄路縦貫線の旧線跡「緑空鉄道1908」の終点から、少し街中のほうへ進むと、台中刑務所の跡地に出ます。

台中刑務所は1990年代に移転し、跡地は学校に転用されました。日本統治時代からあった官舎などの建物はリノベーションされ、2012年に市民の憩いの場として整備されたのです。官舎は『国家漫画博物館』という施設となり、建物内は台湾漫画の歴史と文化を伝える展示施設となっています。

『国家漫画博物館』の入り口。刑務所官舎をリノベーションして漫画を紹介する施設となり、官舎の周りは公園となっている。
官舎群には1937年築の演武場もあった。日本統治時代につくられた台中刑務所は、看守などが武道を鍛錬する場として演武場が設けられた。現在は展示場となっている。

官舎は主に大正~昭和時代の建物で、土間で靴を脱いで畳敷きの部屋に入る“日式建物”です。海外にいながらも、靴を脱いで畳部屋に入る安堵感を覚えました。

現代の日本でも少なくなってきた日本家屋の構造に興味津々です。その空間を生かしながら、台湾漫画家の作品が展示されています。

台中刑務所典獄(所長)官舎。この建物も漫画博物館の施設となっている。
台中刑務所典獄官舎内の縁側。異国で純和風建物に触れられるとホッとする。バスの停車する道路は刑務所移転後に整備されたと思われる。

建物は敷地内に点在しており、広場は立派な菩提樹(ガジュマル)が枝葉を広げています。ずいぶんと大きな樹だと見入っていると、その根の部分に違和感を感じました。近づいてまじまじと観察すると、根に取り込まれて樹木の一部と化したレンガ壁の廃屋でした。

広場で枝を広げる立派な菩提樹。だが根っこをよく見ると……。

廃屋が木に飲み込まれている!

菩提樹の裏側に回る。見事に廃屋を覆いつくす姿に感動した。

整然とリノベーションされた施設に現れた、木に飲み込まれた廃屋。突然の出会いにときめき、夢中で廃屋へ近づきます。しかし柵があって立入禁止。外観をじっくりと観察します。目の前の姿は樹木に飲み込まれる遺跡のよう。博物館の展示会場も大変面白いのですが、この廃屋に釘付けとなってしまいました。

廃屋はレンガ積み。かなり古い家だったのかもしれない。これも官舎だったのか。
菩提樹の根が不自然な形状で地に根を張る。この不自然な空間に家があって取り壊した結果、このようになったのだろう。トイレの便器が残っていた。
廃屋を覆いつくす菩提樹の根。自然の生命力の凄まじさを目の当たりにした。

根は廃屋を完全に飲み込んで覆い隠しています。木の重さに耐えきれなかったのか、廃屋は半分を残して崩れ去っており、根が建物のあった高さで不自然に平たくなっています。いつか自重に耐えきれず倒れてしまいそうですが、頑丈な根が地中まで伸びており、絶妙なバランスを保っています。自然のつくり出す逞(たくま)しさ、建物を飲み込む繁殖力に脱帽です。

屋根に支えられていた部分は取り壊され、不自然に平らとなっている。よく見ると、平たい根っこには屋根のトタンらしき波板が確認できた。
廃屋にはトイレが残されていた。生活空間は緑に没している。この光景は山中ではなく公園内にあるというのも不思議だった。

ちょっと近くを散策してみます。官舎の入り口にあったと思しき監視小屋の跡がありますね。小屋も菩提樹の根に取り込まれており、監視員が居たであろう小屋の内部もびっしりと根が張っていました。

監視小屋も菩提樹の根に飲み込まれていた。
監視小屋はもう遺跡の出で立ちである。

訪れたのは土曜日で、施設は大勢の人々でにぎわっていましたが、根に取り込まれた監視小屋はあまり注目されていませんでした。というよりも、樹木と一体化していて判別つきにくかったのかなと。

偶然訪れた施設でしたが、漫画と“廃”に興味ある方におすすめです。

廃ビルなのに営業している!?有名な廃スポットはついに……。

もう一つの物件は、台中駅前です。旧台中駅舎へと戻り、駅舎を背に振り返ると、ビルの合間からボロボロのビルがのぞけます。チラッと見えるだけでも異様なたたずまいの廃ビル、しかも相当な高さのビルだと分かります。

台中駅の広場から。ビルに挟まれてチラッと廃ビルが顔をのぞかせている。

廃ビルは「千越大楼(Qianyue building)」と呼ばれる、12階建て+展望フロアの商業ビルです。“ビルでした”と言ったほうが適切なのですが、実は2階までは個人商店として使用しているため、廃ビルなのだけど現役という微妙な立ち位置なのです。

千越大楼の全景。1階と2階が営業中で、その上階が朽ちているという異様な姿。屋上に突出しているのが回転レストランのあった展望フロア。

千越大楼は、飲食店やカラオケなどの娯楽施設が多数入店する複合商業ビルでした。台中駅前の新たな娯楽施設として1973年に建設され、A棟、B棟と2つの棟があり、A棟には回転レストランの入る円形の展望フロアが設けられ、千越大楼のシンボリックなフォルムとなりました。

しかしビル内で火災が発生したことがきっかけで営業休止となり、数十年間放置状態となってしまいました。その後、廃ビル状態となっていた千越大楼は、現代アート団体がアートの場として使用しはじめ、グラフィティなどのアートを展開していきます。

事前に知り得た情報だと、廃墟状態ながら立ち入ることができ、5階以上へ訪れる際は有料となり、アート団体へ入場料100元を支払って、廃ビル探索ができるのです。入場料はアート活動の維持費などに充てられるそうですが、100元払えば堂々と廃ビル探索ができるとあって人気なスポットとなっていました。

有料の廃ビルは是非とも入ってみたい。千越大楼を台湾の廃もの旅の予定に組み込んで訪れてみました。場所は台中駅から徒歩5分もかかりません。スイーツ店として国内外に有名な『宮原眼科』の真向かいにあります。

『宮原眼科』は日本統治時代に開業した眼科をリノベしたスイーツ店で、眼科のレンガ壁がそのまま残っています。そのレンガ壁の視線の延長に、昼間でもほの暗い千越大楼の廃ビルが聳え、屋上に独特な円形の展望フロアが望めるのです。

有名スイーツ店『宮原眼科』の壁面は戦前の眼科時代から残されている。その向こうには千越大楼の威容が。
川を挟んでひときわ、千越大楼の暗い空間があった。

廃墟に興味がない人にとっては得体の知れない怖さがあり、廃もの好きにとってはドキドキと心ときめく空間です。さっそく中に入ろう! と意気込んで入り口を探しました。店舗以外の階段から上るそうですが……。あれ、見つからない。

ところどころの階段部分には頑丈なバリケードで封鎖されています。これ以外にアクセスする階段があるのだろうと、千越大楼の1階廊下を歩いてみます。A棟とB棟の合間の空間も、じゅうぶんなほど“廃”な空気が漂いますが、ときおり人が行き来し、生活空間の延長線という感じです。

1階部分の中庭というのか、A棟とB棟の間は生活通路となっており、裏手の道へと出られる。限りなく廃墟に近い現役。
A棟とB棟の間は通行できる。上から落下物に注意とのこと。

ついにアクセスする階段を見つけられませんでした。あるのは封鎖された階段と「警告」の張り紙。こちらかな?と思ってビルの裏側に出て、ひと際暗い空間を覗いていると、けたたましく小型犬たちに吠えられて、不審者め!といった表情でこちらへ駆けてきます。

鳴き声に気づいて現れた飼い主のおじさんが、当然ながら中国語で尋ねてきたので、身振り手振りで上に行きたいと伝えたところ、警告文を指差し、「もう行けない」とバッテン印をしました。

ああ……。既に立入禁止となってしまっていたのです。

2023年以前はここがエントランスとなっていて、上階へ上がれたらしい。現在は厳重にバリケードがされており立入禁止だ。

警告文を翻訳すると、「この建物は構造上安全性に重大な懸念があり、公共の安全に重大な影響を及ぼす危険な建物であると特定されています」。直訳ですが、ようは崩壊の危険があるので立入禁止とのこと。2023年から立入禁止となったようです。2年遅かったか。

続いての文には「落下するタイルや破片にご注意ください!」。あ、それは危ない。1階は普通に商店が営業しているのだけど……。人通りの多い面はネットで覆うなど、それなりに落下防止策をしている様子。

この注意書きは、廃墟空間とは違う怖さがあるなぁ。A棟とB棟の合間で慌てて空を見上げたところ、たしかに何かが落下してもおかしくないボロさだ。あれ? 木が生えている? 屋上付近に木の姿を確認しました。このビルには木も生えてきているのか……。

あの木の場所へ行ってみたかったものの、もう行けないのは仕方ないですね。

屋上付近に木が生えている。それもかなり立派な木だ。気になって仕方ないが立入禁止なので諦めよう。
A棟とB棟の間から上を仰ぎ見ると、ここにも木の姿を確認できた。コンクリート構造物とはいえしっかりと根が張るのだろう。

残念ながら、千越大楼の上階は探索することが叶いませんでした。が、外観はじっくりと観察できます。ボロボロとなっているビルの屋上付近には木が生え、遠景の展望フロアも朽ち果て、でも1階と2階はお店が営業している。手前の川は綺麗に整備され、有名スイーツ点には国内外の人々で溢れ、限りなく廃ビルに近い千越大楼とのギャップが、日本では味わえない新鮮な感覚となりました。

千越大楼はやがて解体されていくのだと思いますが、商店が営業しているところをみると、もうしばらくこのままの姿だと思います。

街中から仰ぎ見る。立派な木が生えるビル。強烈なインパクトがある。屋上が気になるが、後ろ髪を引かれる思いで別れを告げて台中を去った。

取材・文・撮影=吉永陽一

吉永陽一
写真家・フォトグラファー
鉄道の空撮「空鉄(そらてつ)」を日々発表しているが、実は学生時代から廃墟や廃線跡などの「廃もの」を愛し、廃墟が最大級の人生の癒やしである。廃鉱の大判写真を寝床の傍らに飾り、廃墟で寝起きする疑似体験を20数年間行なっている。部屋に荷物が多すぎ、だんだんと部屋が廃墟になりつつあり、居心地が良い。

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