【写真家・有賀傑さんインタビュー】伊東で県内初個展 「静謐さ」「さびしさ」「穏やかさ」
島田市出身の写真家有賀傑(ありが・すぐる)さんが5日から、伊東市の「Cafe&Gallery_IzuFlow(イズ・フロー)」で個展「たいらぐ」を開催する。都市や水辺、山林の風景を穏やかに捉えた作品群は、普遍的であることの強さを無理なく表出させている。5月にグランドオープンしたばかりのギャラリーで、県内初となる作品展を前にした有賀さんに、写真との向き合い方を聞いた。(聞き手=論説委員・橋爪充、9月3日収録)
-80点前後が出品されています。風景や静物が中心。ここに「たいらぐ」というタイトルが付いていますが、どんな考えだったのですか。
(有賀)今回の展示は3月に長野県松本市、5月に東京の下北沢でも実施することになっていたんですが、年明け早々に地震がありましたよね。あれがきっかけになりました。世の中にはやるせないこと、憤りを感じることがあるけれど、穏やかな気持ちになれば少なくとも争いごとはなくなる。おこがましいところはあるけれど、作品を見て穏やかな気持ちになっていただけたらと。
-穏やかさ、静謐(せいひつ)さ、優しさ。作品からは、社会が本来そうあるべき形が保たれているような安心感がありますね。どう撮っているのですか。
(有賀)シャッターを切る時は、そうしたキーワードは頭にありません。(こういうテイストになるのは)静かに撮っているからじゃないでしょうか。(紙媒体などの)仕事の写真は「見た人に理解してもらえる」という点が大事。一方で、今回展示した写真は好きに撮っている。ただ、影や光についての考え方はそこまで切り分けていないような気がします。
-キービジュアルにも用いている白鳥の写真が印象に残ります。
(有賀)DIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)の池にいた鳥を撮っています。人を怖がらず、近い位置からカメラを向けると首をクイッと曲げてぜんぜん撮らせてくれないんです。少し離れた位置から隠れて撮りました。「意地が悪いな、こいつ」といった気持ちでした。ただ、手前の葉っぱがうまくぼけて、いい世界観を作ってくれた。いい場面が撮れた、という実感がありました。
-動物、鳥類の動的な場面、例えば水しぶきを上げて飛び立つ瞬間といった場面ではなく、一見何も起こっていない場面を捉えていますね。ちょっと上を眺めているポーズは、物思いにふけっているようです。一瞬、時が止まっているような、不思議な伝わり方がある作品です。
(有賀)ありがとうございます。東京に住んでいるんですけれど、すごく都会な所って撮りたいと思わないんです。人工物であっても、自然であっても、どこかさびしい、さびれ
たような存在に引かれます。
-「寂」あるいは「淋」という漢字が醸し出す雰囲気ですね。
(有賀)「侘(わび)しさ」もそうです。そういうのが好きなんですね。胸が躍るとか、都会の強い感じには引かれません。いろんな場所で撮影しますが、足が向くのは人がいない、ちょっとさびしい雰囲気のある場所。その場所で時間がたったものには、特有の味、また実は「強さ」もあるんです。そちらにこそ引かれます。
-初めての県内での個展ですね。
(有賀)高校を卒業してから東京に出て行きましたが、静岡が好きなのでとてもうれしいです。実家に帰った時に撮影した写真も展示しています。例えば富士山。僕が生まれ育ったところからはこういう見え方をするんです。
-今後の活動において、目指す場所は。
(有賀)写真が好きなので、ずっと写真を撮っていたいですね。どんな職業でもそうですが、長く続けるのは難しいという自覚はあります。だからこそ、とにかく長く続けたい。
-新しい世界への興味関心はいかがでしょうか。
(有賀)今回、自宅で撮ったほおずきの作品を展示しています。仕事場の和室のふすまを細く開けて、少しだけ入ってくる自然光で撮りました。光、背景などを自分の意図したもので作らなくてはならない、こうした写真を増やしていきたいですね。
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■Cafe&Gallery_IzuFlow
住所:伊東市八幡野1183 やまもプラザ内
メールアドレス:IzuFlow3@gmail.com
営業時間:午前10時~午後4時
有賀さんの個展会期:9月5~30日(火・水曜定休)