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「芥見下々『呪術廻戦』展」の会場へ潜入レポート 惜しみなく展開される資料と、創造の術式

SPICE

「芥見下々『呪術廻戦』展」

『週刊少年ジャンプ』で連載中の芥見下々による漫画『呪術廻戦』の「創作秘話」を解き明かす大型展覧会「芥見下々『呪術廻戦』展」が、2024年7月6日(土)から8月27日(火)まで、渋谷ヒカリエ内のHikarie Hallで開催されている。本展はシリーズ累計発行部数9000万部を超える(2024年7月時点・デジタル版含む)超人気コミック『呪術廻戦』の、“創作の裏側”に迫るもの。昨今の流行りの「没入型」とは真逆をいく、「俯瞰型」とも言える展覧会だ。

エントランス付近には『呪術廻戦』のこれまでの歩みが (C)芥見下々/集英社

『呪術廻戦』が疾走感にあふれた作品だからこそ、あのシーンやこのシーンの裏側に作者のどんな意図があったのか、アシスタント諸氏を含めた作画陣がどのような離れ技を披露していたのか、一つひとつすくい上げていくこの機会は貴重である。会場内には驚くほど大量の作者解説コメントが掲示されており、さながら映画監督のオーディオコメンタリーのようだった。

来場者特典のオリジナルステッカー。背景のシーン(下書き)のチョイスが絶妙 (C)芥見下々/集英社

解説といえば、音声ガイドも見逃せない。本展の音声ガイドでは、アニメ『呪術廻戦』出演中の声優・榎木淳弥(虎杖悠仁役)、諏訪部順一(両面宿儺役)のふたりがナビゲーターをつとめる。ただでさえ膨大な量の情報が詰まった展覧会だが、音声ガイド(税込800円)を加えれば、さらに鑑賞体験が濃密になることだろう。

※本記事では会場内展示の詳細を含みます。ネタバレを避けたい方はご注意ください。

領域之壱 プロトタイプ&ネーム
〜『呪術廻戦』に、成る前〜

最初の展示エリアは「領域之壱 プロトタイプ&ネーム」。第1章ではなく領域之壱、というあたりに世界観が滲んでいてニヤリとする。

会場風景 (C)芥見下々/集英社

『呪術廻戦』に先駆けて連載され、のちにコミックス0巻として刊行された『東京都立呪術高等専門学校』、そしてその後に構想され、連載されることはなかった『呪術匝戦(じゅじゅつそうせん)』。この2作品をステップとして『呪術廻戦』は生み出された。ここでは、これまで未公開だった両作品の貴重なネームの一部(各々46ページ相当!)を見ることができる。『呪術廻戦』に引き継がれた部分と大胆に変化した部分、それぞれをじっくり味わってみよう。ちなみに、「匝」は、「めぐる・めぐらす」という意味だそうな。

会場風景 (C)芥見下々/集英社

壁いっぱいに広がったネームに飲み込まれるような感覚になる「秘匿絵図之間」のエリア。ここでは『呪術廻戦』の第1話〜第236話(26巻)までのネームと下書きがスライドショーのように上映されている。4400ページ以上に及ぶネームが次々に映っては消えていく様子に、ぎゅっと胸が熱くなる一角だ。

ケース内には、作者・芥見氏による手描きのネームが展示されているので要チェック (C)芥見下々/集英社


領域之弍 デジタル作画メソッド
〜デジタル漫画原稿ってこうなってたんだ!〜

続いてのゾーンでは、デジタル作画での漫画づくりがどのようなものなのか、工程をひとつずつ丁寧に紐解いていく。わかったようで実はよくわかっていなかった部分をパネルや映像で解説してくれる、非常に親切な解説パートだ。なるほど……と腑に落ちていくごとに、カノンのように終わることのない作家の創造作業、そしてそれを支えるアシスタント陣の凄さがひしひしと伝わってくる。

会場風景 (C)芥見下々/集英社

こちらはアクリル板を使って、それぞれのイラストが重なり、1枚のデジタル原稿となる様子を再現した展示。人物絵と重なって見えなくなる部分が多いけれど、背景画ってこんなにみっちり描かれていたのか! と衝撃を受けた。

会場風景 (C)芥見下々/集英社

会場の各所には、作品を支える6名の精鋭アシスタント(TEAM JUJUTSU KAISEN)を作者が紹介するスポットが。芥見氏からの愛情と感謝のこもったコメント(おもしろ裏話もあり)は必見である。それぞれのアシスタント氏が担当した超絶作画を背景に写真を撮れるので、来場の記念に掌印を結んで記念撮影してみては。

領域之参 連載原稿 総力解説
〜ここまで徹底的にやっていただけるとは〜

さて、このあとは本展の大部分を占める「領域之参 連載原稿 総力解説」に突入する。ここで展示されているのは、完成原稿出力とネーム・下書き・背景画、そして作者によるQ&A形式のコメントたちだ。

会場風景 (C)芥見下々/集英社

第1話「両面宿儺」に始まり、最新の「人外魔境新宿決戦編」まで、ストーリーを大まかに区切りながら振り返っていく見応え抜群のゾーンである。解説も作者コメントも本当に多いので、鑑賞時間をたっぷりと確保して臨みたい。

会場風景 (C)芥見下々/集英社

「京都姉妹校交流会〜起首雷同編」展示エリア。

会場風景 (C)芥見下々/集英社

「懐玉・玉折編」展示エリア。やっぱり青が澄んでいる。

会場風景 (C)芥見下々/集英社

「人外魔境新宿決戦編」展示エリア。

会場風景 (C)芥見下々/集英社

原画データ体感ディスプレイで、名シーンの原稿がどんなレイヤーで組み立てられているか観察。前章のおかげで、デジタル作画の仕組みを理解できた気がしてうれしい。強くなった主人公が、敵の動きを見切れるようになるのってもしかしてこういう感覚?

領域之肆 カラーイラスト
〜デジタルならではの出力全開〜

会場風景 (C)芥見下々/集英社

展覧会の最後は、色鮮やかな作品が並ぶ「領域之肆 カラーイラスト」のゾーンだ。コミックス表紙や連載時の巻頭カラーイラストが本展のために拡大出力されており、デザインの都合でトリミングされていた部分までまるごと堪能することができる。

会場風景 (C)芥見下々/集英社

ほか、本展のキービジュアルと、その作画工程を収めたタイムラプス動画の展示も見どころのひとつだ。そして……2024年春に実施された第4回キャラクター人気投票の上位3名の描き下ろしイラストが東京会場で最速展示されるのも、ファンから熱い注目が集まるポイントだろう。

作品愛を胸に

グッズ見本 (C)芥見下々/集英社

会場出口付近にある展覧会公式ショップでは、写真の見本をはじめ、オリジナルグッズが90点ほど用意されている。「展覧会公式図録」(税込2420円)や「デジタル原稿プリント2枚&ネームプリント1枚のセット」(各種・税込2530円)など、展覧会の記憶を鮮明に残しておけそうなアイテムも。個人的には、だんご三兄弟のような「九相図兄弟ラバーキーホルダー」(税込990円)に強烈に心惹かれた。

ヒカリエ入口付近 ちなみに会期中ヒカリエ内では「ヒカリエ事変」と銘打たれたコラボ企画も開催されるという。詳細はHPへ (C)芥見下々/集英社

展覧会をぐるりと鑑賞し終えて、『呪術廻戦』を作者とともに隅々まで解体し、再構築したような不思議な充実感が残った。作者である芥見氏、そして主催の熱量を感じるスウィートな企画である。きっとこの熱は訪れる誰しもに伝わるだろう。

「芥見下々『呪術廻戦』展」は、Hikarie Hall(渋谷ヒカリエ9階)にて、8月27日(火)まで開催中。なお本展は日時指定制で、チケットは完売次第終了となる。この貴重な機会をお見逃しなく。

(C) 芥見下々/集英社
文・写真=小杉 美香

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