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What’s FAVOY ~ルーツと今を紐解き“ふぁぼい”を知る~ 第4弾:萩森じあ

SPICE

萩森じあ

『FAVOY』ー それは細分化されたネット音楽を網羅するために立ち上がったプロジェクトである

その第1章となるライブイベント『eplus presents FAVOY TOKYO -電鈴合図-』が、2025年8月7日(木)・8日(金)にZepp Shinjuku(TOKYO)にて開催される。
イベント名である『FAVOY』とは、FavoriteをFaveと略して推しと解釈する海外の若者文化に、2010年代に日本のSNSで流行した「ふぁぼる(いいねを押す)」を掛け合わせた「ふぁぼい(推せる!いいね!)」という造語。インターネットを超えリアルで推しを実感し、新たな推しとの出逢いに繋がるきっかけになってほしいという意味が込められている。
SPICEでは本イベントの開催に向けて、出演者であるSou、超学生、缶缶、DAZBEE、水槽、Empty old City、キービジュアルを担当したイラストレーター・萩森じあにインタビューを実施し、バイオグラフィを紐解く。
第4弾となる今回は、萩森じあが登場。活動の原点やネットカルチャーと触れあうことになったきっかけ、いまの“ふぁぼい”など、たっぷりと語ってもらった。

──『FAVOY TOKYO -電鈴合図-』のキービジュアルを手掛けられていますが、今回のお話が来たときにどう思われましたか?

出演されるアーティストさんを教えていただいたときに、私も知っているというか、好きなアーティストの方々で。特に缶缶さんとは一緒にお仕事をしたこともあったので身近に感じられましたし、すごくおもしろそうだなと思いました。私を選んでいただけて嬉しかったですし、(キービジュアルの)ご要望もしっかり決まっていらっしゃっていたので、電車で新しい世界に行く、別の世界に行くというテーマがおもしろいなと思って。私は“学生”と“不思議な世界”をよく描いているので、それとうまく融合させて、いいものを作れたらいいなと思ってましたね。

──じあさんは学生をよく描かれますが、それはなぜなんですか?

学生ってみなさんがだいたい経験してきたことだと思いますし、みなさんの心の中に核としてある時期は思春期とかその辺りかなと思っているので、自分の核みたいなものを思い出せるようにしているというのが大きいですね。あと、制服って日常の代名詞というか、日常的な服装としてすごく象徴的で。私はただただ現実の世界を描くわけではないので、日常のノーマルな感じと非日常の不思議な感じを合わせることで、非日常感が際立つというか。地に足がつきながらもちょっと不思議みたいな、自分たちの日常とリンクするような感じが好きなので、そういうふうに書いてます。

──そういったテーマで描こうというのは、結構早い段階からご自身の中で固まっていたんですか?

結構早かったですね。学生の頃は流行りに乗っかる形で制服を描いていたんですけど、ただの教室とか、そこにいる学生とかは描きたくなかったんですよ。もし描くならよくわからない雲とか、よくわからない花が浮いているとか、そういうものにしたかったですし、そういったものと学生服は合うなと思ったので。あと、思春期って憂鬱というか。ものすごく幸せな環境にいるのに、何かがちょっと気に入らなかったり、不安だったりするじゃないですか。なんとなくモヤモヤしたりして。そういう気持ちを肯定したくて、(自分が描く人物は)ちょっとだけ憂鬱な顔をしていることが多くて。

──確かに。少し物憂げで。

めっちゃ笑顔とか、めっちゃ泣き顔っていうのは少ないですね。私の学生生活はあまりキラキラしていなかったし、もちろんキラキラしている子もたくさんいますけど、そうじゃない人が大半だろうなと思って。めっちゃ幸せな環境でも、何かにずっと思い悩んでいるのが青春かなと思いますし、それを描いてる人って意外と少ない気がしたので、そういったものを描くようになりました。

──じあさんの絵は青色が印象的ですが、それは先ほどおっしゃっていた憂鬱のイメージだったりとか?

そうですね。よくリンクしてると思いますし、自分の得意な色だなと思います。

──好きというよりは得意なんですか?

好きも大きいですね。でも、普段の生活で青色が好きかと言われると、ちょっと微妙なんですけどね(苦笑)。普段は黒とか真っ赤が好きなので。

──意外でした(笑)。イラストレーターになりたい!と思ったキッカケのようなものってあったんですか?

なりたいと思ったのは、それが得意だったからですね。物心ついた頃からお絵描きが好きで得意だったので、仕事にできたらいいなと思っていたんですけど、現実の厳しさを知って、高校生の頃に一度諦めて、大学は普通の大学に通っていたんです。でも、どうしても就職したくなかったんですよ(笑)。就活をしたくなかったので、学生のうちにイラストレーターになれば誰も文句言わないかなと思って。

──それで実現できたのがすごいですよ。じあさんがネットカルチャーと触れ合ったキッカケというと?

最初はたくさんのイラストをインターネットで見られるのが嬉しくて、そこから始まったんじゃないかなと思います。その後にニコニコ動画を観たり、pixivに出会ったりしたんですけど、特にボカロは衝撃的でした。今みたいにプロが混ざっているような感じというよりは、本当にみんな素人同士で、絵も描いて、動画もつけて、曲も書いてっていう感じだったことにびっくりしました。なんというか、自分たちだけの秘密基地感があるなって。

──そういったところに惹かれた方はかなり多いと思います。

プロとなると、レーベルに入って、事務所がついていてないと曲が出せなくて、っていうイメージをガラッと変えられたんです。テレビとかCDとか、ウォークマンに入れないと聴けなかったものが、無料で動画を観れて、しかもみんな素人で頑張っているという。あれは仲間意識が出ますよね。

──イラストレーターとして活動し始めてから、気持ちの変化みたいなものはありましたか?

気持ちの面ではあまり変わってないですね。広く役に立てたらいいなと思っていますし、そういう意味では使いやすいイラストでありつつ、自分の表現をあまり曲げない感じで、上手いこと塩梅をとりながら続けられればなと思っていて。でも、言ってもまだ4年くらいしか経っていないので、これから変わるかもしれないですけど。

──最初に思い描いたものと変わることなくここまで続いている。

変わることなくというか、私、これ以外が本当にできないんですよ(苦笑)。得意なことと不得意なことがそれぞれズバ抜けているので、“続けよう”というよりは“やめれない”という感じではあるんです。これ以外に自信のあるものがないので。就活のときはまさにそういう気持ちだったんです。「私はこれ以外できない! 無理だ!」みたいな(笑)。

──ちなみに、じあさんが一番不得意なものって何ですか?

なんだろう……組織で長く働くことじゃないですかね(笑)。結局やっていないのでわからないところではあるんですけど。もしかしたらうまくいっていたのかもしれないけど、誰かに命令されるのがすごく嫌いなんです……絵に関してリクエストをいただくのは全然いいんですけど、私の行動を指示されたり、誰かの下につくのがすごく嫌いで。本当にプライド高くて最悪です!(笑)

──ご自身としては、自分はプライドが高いと。

思ってますね。バイトもしましたけど、“なんで言うこと聞かなきゃいけないの!?”って(笑)。部活は美術部だったので、上下関係もそんなになかったから誰かに指示されることもなかったし、なんなら私が部長だったので誰かを指示していて、むしろそっちは得意なんですけど、指示されるかとかもう本当に……(笑)。

──そうだったのですね(笑)。創作活動をしていく中でインスパイアを受けたりすることもありますか?

具体的なアーティスト名を挙げると、sasakure.UKさんからはかなり影響を受けています。

──どんなところに受けていると感じています?

なんていうか、不思議な世界観なんですよね。そこが共通しているのと、あとはやっぱり媚びていない感じですかね。そこがすごく好きなんだと思います。創作用のトラックリストみたいなものを作って、この曲を聴いたら思い浮かぶなと思うものをめちゃくちゃ入れています。

──他にも作業中に流す音楽やアーティストというと?

Galileo Galileiさんが多いです。昔からずっと大好きで、創作のときにも助けてもらっていますし、私の絵の核の中にいると思います。声に空気を感じたりとか、澄んだイメージを感じられるのも好きですし。でも、青春っぽく見えても“これが青春だ!”みたいなふうには意外と描いてなかったりするんですよね。

──それこそ影や憂いがあって。

本当にそうです。実はそんなにキラキラしたものじゃないんですよね、青春って。そんなにね、うまく成長することもないですし(苦笑)。少なくとも街で描かれる女子高生とか学生のイメージとはちょっと違うなって、ずっと感じてました。

──ちなみに、他のイラストレーターさんと交流ってあったりします?

ほとんどないです。他業種だとギリギリあるかなっていう感じですけど、今は趣味で繋がった方々のほうが多いですね。

──趣味というと?

イメージコンサルティングといって、イエベとかブルベとかってあるじゃないですか。ああいったパーソナルカラー診断とか、顔タイプ診断とか、骨格診断とか、そういう診断系をめちゃくちゃ受ける界隈があるんですよ。あらゆる診断を受けて自分を掘り下げる界隈があって。

──そうすることで自分を知る、みたいな?

そうです。他人に診断してもらって、自分の得意な色や形を知って、服を買ったりメイクしたりするときの参考にする感じですね。めっちゃ便利です。全人類にオススメしたい(笑)。

──たとえば、診断結果が自分の好きな答えじゃないときもあると思うんですけど、そういうときはどうされるんですか?

そういう自分を守るために受けないという選択ももちろんありなんですけど、個人的には、やりたい方向に寄せるために自分はどうすればいいのか、みたいな感じなんです。だから地図なんですよね。自分が今どこにいるのかをちゃんと分かっていないと、そこまでの行き方が分からないので。どういうルートでその道に行くのか目的地と自分の場所を明確にして、そこまでどうやって進んでいくのかを診断で教えていただくという。

──診断結果にただ従うというよりは、自分のなりたいものがあって、そこに行くための最適解を知るという考え方なんですね。

そうです。やっぱり自分のことを知るのは大切ですよね。

──ここからの活動で挑戦してみたいことや目標はありますか?

ありがたいことに夢を叶えさせていただいたので、まずはこの活動を続けることが目標ですね。

──続けることが一番難しいことではありますもんね。

本当にそうじゃないですか。やっぱり難しいんですよ。まずそれを目標にすれば、変に高いハードルを超えようとしなくても、ちゃんと地に足をつけることができるので。

──ご自身が活動していくことで伝えていきたいことはありますか?

やっぱり“悩んでいる自分も愛する”ことですかね。学生時代の憂鬱な気持ちが自分の核となっていることを忘れないでほしい。それを否定しないでほしいという思いがずっとあって。

──実際に学生時代のじあさんはご自身を否定することが多かったのでしょうか。

多かったです。別に親とも仲がいいし、友達もいっぱいいるのに、なんでこんなに憂鬱なんだろうとか。10代とか20代前半ぐらいまではそういうことってあるじゃないですか。私はめちゃくちゃ幸せだと思っていたけど、将来が不安で泣き明かしたりしましたし、何となく違和感を感じてモヤモヤしたりしていて。10代って言語化能力があまりにもないので、その悩みを消化できずに、フラストレーションとして溜まっていくことが多いと思うんですよ。それに寄り添えたらいいなと思っていて。

──素敵だと思います。

それこそGalileo Galileiさんが、私にとってその役割を果たしてくれたんです。あとはONE OK ROCKさんの存在も大きかったですね。Takaさんって毎回ライブで人の夢を突き動かすことを言うので、私も“そうだ! 私は絵が描きたいんだ!”って。そういう役割を持ってもらったり。あとは、ボカロ文化に自分が現実的にイラストと触れ合う機会をいただいたりとか、そうやって自分は作られていったなって思いますね。

──そういった様々な存在がありつつも、自分を愛せるようになったきっかけというか、突破口みたいなものはありましたか?

音楽にも助けられましたけど、私の場合は対話ですね。親がずっと話してくれたことが大きかったかもしれないです。話すことで自分はこういう気持ちなんだってだんだん言葉にできるようになって、表現もできるようになって。そうやって不安なことを自分で処理したり、周りに助けてもらったりして、その分、自分のことを好きになりました。だから、これが突破口というよりかは、周りとの対話をやめなかったというか。みんなと話して、音楽を聴いて、絵を描いて、私の土台が作られて、私を好きになっていく、という感じでした。

──そういう意味では、自分ひとりだけで自分のことを好きにはなるのは難しい?

そうだと思います。私は人が好きなタイプなので難しかったと思いますね。誰かから認識してもらって自分がいるというか……そこはさっきのイメージコンサルティングの話に繋がっていく感じにはなるんですけど(笑)。

──キレイに回収されましたね(笑)。では、イラストレーターの世界に憧れている人に向けてメッセージをお願いします。

まず、私も応援していますし、大成することを目標にせずに頑張ったほうが、個人的には楽しくやれるのかなと思っていて。やっぱり皆さん数字に囚われていたり、どれだけ大きな仕事を持ってきたのかとか、そういう話になってしまうんですけど、そういうことでもないんじゃないのかなって。イラストレーターになりたいって、要はお金をいただきたい、自分の価値を提供したいということなので、それならまずは数字に囚われないほうがいいのではないかなと思います。

──ありがとうございました。最後に、いまの“ふぁぼい”(推し)があれば教えていただきたいです。

私の中で、好きと推しって何が違うのかなって思ったりもするんですけど、推しという概念で言うと、『ときめきメモリアル』かなと思います。

──へぇー! 『ときメモ』ですか。

小学校のときから好きなんですよ。『ときメモ』はいいですよね。

──いわゆる箱推しな感じですか? この子が好きというよりも、『ときメモ』自体がいいという。

そうですね。あとは、(キャラクターの)名前を言うのが恥ずかしいので(笑)。自分の好きな人を言うような恥ずかしさがありますよね。

──(笑)。どんなところが推しなんです?

『ときメモ』って、特殊な設定が一個もないんですよね。実はアイドルを目指しているとか、この学園はちょっと特殊で……みたいなものが一切ない。ただの学校だから進路も普通だし、出てくるキャラはちょっと特殊かもしれないけど、普通の域を出ないんですよね。そういう現実的なところがいいんだと思います。そういう意味で私は現実の世界が好きなのかな……そういったところに自分の思想を加えていきたいのかもしれないですね(笑)。

取材・文=山口哲生

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