『後藤輝基“ホイップ”ツアー2024 plus 藤井隆!』大阪・なんばHatch公演のオフィシャルレポート到着
藤井隆が設立した音楽レーベル『SLENDERIE RECORD』が、今年2024年に10周年を迎える。藤井プロデュースで、カバーアルバム『マカロワ』(2022年)・『ホイップ』(2024年)をリリースし、シンガーとしての新たな魅力を発揮し話題となったフットボールアワー・後藤輝基。藤井もアルバム『Music Restaurant Royal Host』をリリースし、細部にこだわったメニュー型CDジャケットが『CDショップ大賞2023』パッケージ・デザイン賞を受賞するなど話題となった。そこで周年を記念して、『後藤輝基“ホイップ”ツアー2024 plus 藤井隆!』というスプリットツアーで全国5都市を周ることに。ふたりを支えるバンド陣も、冨田謙(Key)・奥田健介(Gt)・小松シゲル(Dr)・南條レオ(Ba)と豪華なメンバー。ツアーは名古屋・仙台・福岡と始まり、ラスト東京の前に、7月5日には大阪の『なんばHatch』で開催された。
開場中はレイザーラモンRG、椿鬼奴、麒麟・川島明など『SLENDERIE RECORD』のレーベルメイトたちの楽曲が流れる。開演時間となり、バンドメンバー4人がステージに横一列に並び、とにかく凄く格好良い鉄壁の演奏を鳴らしていく。そんな中、客席後ろからバラの花1本を持って、藤井が走りながら現れる。1曲目は、ライブならではの躍動感と臨場感を感じるダンスナンバー「YOU OWE ME」。「さっきはお逢いできて嬉しかったです!立って~!!」と煽るが、その言葉通り、藤井は開演時間ギリギリまで会場入り口の物販コーナーに自ら立ち、物販購入者へのファンサービスを行なっていた。徹底的なファンファーストな姿勢に驚かされる。もちろん観客全員総立ちでグッズのペンライトを振り、藤井はステージで飛び跳ねて、より煽っていく。物販コーナーに立っていた時と同じTシャツとパンツ姿というラフな姿もリアルで素敵であった。続いては、24年前のデビューシングルであり、この楽曲で年末の紅白歌合戦にも出場した代表曲「ナンダカンダ」。当時を鮮明に想い出すダンスと華麗なるステップだが、ふと周囲を観ると観客も同じダンスを踊っている! 「もう1曲いいですか~?! ありがとう大阪~!!」と立て続けに「OH MY JULIET!」へ。その振る舞いは完全にスターであり、観客フロアの上にあるミラーボールの輝きが眩しい。
「いよいよ後藤輝基の登場です!いよいよ始まります!」と藤井は宣言して、ベース横のコーラススタンドマイクの位置へ移動する。そして、下手からセットアップスーツで首元にはスカーフを巻いた後藤が走りながら登場。後藤1曲目となる「スローなDanceは踊れない」はムーディーなダンスナンバー。曲終わり、「大阪に帰ってきたぞ~!てるきんは大阪から逃げたりしない~!」と続く楽曲「逃げたりしない」に繋いだつもりの後藤だが、すかさず藤井が「どういうこと?!」と茶々を入れる。この時点で、或る意味、当たり前ではあるが、単なるスプリットツアーライブで無い事が明確にわかった。ふたりの喋りなどのやり取りも、このライブの最大の楽しめるポイント。実際、後藤が歌い出しても、藤井は後藤にバラの花を渡しに行き、後藤も観客にバラの花を渡すサービスを行なうも、そのバラの花を藤井が観客のもとに取りに行き、また後藤に渡す。後藤も「戻すんかい!?」と思わず叫ぶが、これ全て曲中の出来事。なので、常に客席からは笑いが絶えない。その上、途中でバラの花がもげて枝だけになるハプニングもあり、尚一層、客席は沸きまくる。
曲終わり、すぐに藤井がてるきんコールをして、後藤は「そういう曲ちゃうやん!!」とツッコむが、それもそのはず! てるきんコールなので、すっかり後藤が続いて歌うと思いきや、何と藤井の楽曲「メモリフロア」へ。「『夜もヒッパレ』みたいに横から入ってくるな!」と往年の人気テレビ番組を例えに出して呆れ笑う後藤。ふたりが本当に楽しそうに歌って踊って喋り合っているから、こちらも本当にずっと楽しい。すぐ後藤の楽曲「ハートのIgnition」となり、「東京に力を残さず全部出し切りますんで、みなさんお願いします!」と訴えたのも束の間、続く楽曲は、これまた藤井の「未確認飛行体」! 「隆の曲やん!」と呆れる後藤に、藤井は「東軍がんばります!」と返しを! 他のライブでは絶対に有り得ない構成というか、展開というか、だからこそ最高のエンターテインメントショーを観てる気分になれる。
MCでは、藤井が自分の曲の間奏でてるきんコールをやっていた事や、藤井が急にバラの花を後藤に渡した件、そこから後藤の造園業の忘年会という謎の例えや、藤井がライブ中にテレビ局などから贈られたスタンド花の花を観客に配っていく宣言をしたり、昔のラジカセのCM、後藤が履くサルエルパンツのたるみが柴犬みたい、後藤の曲中の煽りが梅田コマ劇場の座長みたいなど、どんどん自由過ぎるトークが繰り広げられる。本当にアホみたいな表現しか出来なくて申し訳ないが、我々観る側はずっと笑わされている。ここで藤井は、次に後藤が歌う楽曲について、「どうしても歌って欲しくて、「ホイップ」の1曲目で歌ってもらいました! 今日は僕の夢がライブでも叶います!」ととある人物について話し出す。その人物とは…、後藤の実のお姉さん! お母さんと下のお姉さんは今までもテレビに出た事があると言うが、その上のお姉さんは大阪のインストアイベントで歌唱しているが、今回の様な大舞台には初登場だとも明かす。既に音源では歌っている上のお姉さんことYOKOは、学生時代に歌手への夢を抱き、弟の後藤を淀川の河原に連れて行きオーディション写真を撮るなどしていたという。
遂に「自由になって」でYOKOが登場! それもステージ後方の階段付きの高いステージから現れて、歌いながら階段を颯爽と降り、弟の後藤と見つめ合いながらデュエット。その光景を藤井が後ろから嬉しそうに眺めている。歌手への夢を諦めたお姉さんが、今やアーティストの弟と歌う姿は、気が付くと感動的なシーンに見えて、不思議と涙腺が緩んでしまう…。素人だから緊張しているに決まっているのに、プロの弟の横で一生懸命に伸びやかな歌声で歌う姉の姿は、やはり感動してしまう…。兎にも角にも舞台度胸が凄い…。藤井いわく弟より声が出ていたお姉さん。曲終わりの藤井と後藤とのやり取りも達者で、バンドメンバーの奥田と小松のバンドであるNONA REEVESの心斎橋Music Club JANUSでのライブにも足を運んでいる事も発覚する!
ここで突然ハッピーバースデーが演奏されたので、てっきり6月に誕生日を迎えた後藤のお祝いかと思いきや、まさかのYOKOのお誕生日お祝い!! 「YOKOの誕生日8月13日やで!」と後藤は絶叫していたが、いちいち全てで笑かされて本当に楽しい。バースデーケーキのロウソクの火を消す時に「何が願い事を!」と藤井からふられたYOKOは、「今日のこの瞬間がずっと続きますように!」とまるで超大物女性歌手みたいな一言を! 普段のライブレポートで、こんなに“!”(ビックリマーク)を付ける事は皆無だが、ともかく“!”を多発してしまうくらいに、ずっと楽しい出来事が続いていく。
YOKOも去り、後半戦へと差し掛かるところで、後藤の「そろそろ『夜もヒッパレ』みたいなのを止めよう!」と交代制で歌う事を止める提案があり、藤井が歌うことに。ペンライトの色を青にする事を観客にお願いする。少し喋り出したら、すぐに脱線して、それが面白く膨らんでいくという現象に慣れてきていて、こちら側もどこか脱線トークを期待してしまっている。
ひと段落ついて、藤井の楽曲「わたしの青い空」。KIRINJI堀込高樹作詞作曲のエレポップなサウンドが気持ち良く、続いて同じく堀込作曲で松本隆作詞の「代官山エレジー」へ。そして、堀込泰行作詞作曲(藤井作詞共作)「東西南北」へと歌い繋がれる。堀込兄弟楽曲が続くのは誠に豪華だし、しっとりでも、それぞれ色合いが違う素敵な楽曲…。ついつい喋りに気を取られていたが、とてつもなく音楽が上質であり、その上、上質な生演奏で歌われている事に改めて驚くしかない…。
藤井が3曲連続で歌いきったところで、姉のYOKOと同様に階段付きの高いステージから現れる後藤。先程の衣装よりシックな黒のジャンプスーツを着替えており、歌われたには宝生舞の名曲「Carnival」。27年前の楽曲だが、惚れ惚れするくらいにメロディーも歌詞も秀逸すぎるし、何よりも歌いこなす後藤が素晴らしい。そのまま「悲しみSWING」へ。「階段を駆け下りたの」という歌詞部分で、階段を駆け下りる仕草がコミカルながらも、ふとどこかセクシーでもあり魅入ってしまう。藤井と同じく3曲連続となり、「リズムとルール」へ。歌い終わり、場内は真っ暗になり、少し間が空くので、何事かと思いきや、またもやハッピーバースデーが演奏される。今度こそは後藤の誕生日と信じようとするも、何と後藤の母親えみさんのお誕生日お祝いに! 7月3日お誕生日のえみさんは、この日、2階席で鑑賞していた事もあり、その場で立ち上がって手を振る一幕も! 6月は後藤、そして子供たちや飼い犬、7月は母親、8月は姉YOKOと誕生日ラッシュな後藤家! 後藤家の誕生日ツアーと藤井に囃し立てられ、そこからも藤井による後藤のパフォーマンスへの細かい指摘が続きまくり、藤井は「みなさんにとって、この日も想い出にかわるまで…」と無理やりな曲紹介を! 後藤もツッコミまくるが、唐突に歌いながら花を観客に配る指令も出されてしまう! 後藤は「想い出にかわるまで」が気に入っている楽曲なだけに必死に抵抗するが、結局は歌いながら花を客席に投げることに…。曲終わり不満タラタラの後藤だが、そこから藤井は『SLENDERIE RECORD』10周年記念CD BOXリリースの話をしていく。丁寧に丁寧に説明していきながら、後藤に次の楽曲への流れをパスを出すが、後藤が真面目に曲紹介をしようとすると、たまらず観客は笑い出してしまう! 何とか気を取り直して「はじまりの予感」へ。「そろそろ終わりの時間が近づいてきました!」と、伊藤銀次作詞作曲の名曲「こぬか雨」も歌う。全ての楽器のフレーズが最高に良い魅力的すぎる楽曲…。
来月はYOKOがHatchソロライブをするといったいい加減な話や、後藤が中学時代にYOKOがずっとホイットニー・ヒューストンを歌っていたなど、鉄板の大脱線トークへ。そんな中、「僕も最後に歌わせて下さい!」と藤井が「ヘッドフォン・ガールー翼が無くてもー」へ。これまた堀込泰行作詞作曲の洗練された極上のポップス…。ラストちょうど20曲目は後藤の楽曲「Cat-Walk Dancing」。歌う後藤に藤井は花を持ちながら寄り添い歩き、後藤の後ろから客席に花を投げ込みまくる。ノリノリのナンバーなだけに、後藤も勢いづき、客席に降りて、観客とハイタッチしながら練り歩く! ステージに戻り、後藤もギターを弾き、見事なカッティングを魅せる。ここで何とギターを弾きながら、再度客席に降りていく。最後の最後は後藤のギターで〆られて、熱狂のままに本編は終わった。
アンコール。後藤が客席に降りても特にワヤクチャにならず、観客みんなが静かに後藤に接していたなど、ひとしきり喋りきって、本当のラストナンバー「てぃーんずぶるーす」へ。ここでも後藤はギターを弾きながら、楽曲アウトロでフットボールアワーも25周年を迎えるので、そちらのライブも考えたいなど観客にラストメッセージを語りかけていくが、その途中で楽曲が終わってしまう!
「終わってもた! ありがとう~!!」
全21曲2時間30分の大宴は、まさかの愉快な幕切れになってしまったが、そんな終わり方が、このライブにはとんでもなく似合っていた。メンバー全員が手を繋ぎ、その手を高く上げて観客に感謝を込めて挨拶をする。最後は後藤がひとりステージに残り、最後の最後も、この日の終始クライマックスシーンであった花投げを! 全ての花を投げ終わり、「また逢おう!」とステージから去っていく。充分に楽しませてもらったはずなのに、また今すぐに逢いたいと想うほど楽しすぎる夜であった。
文=鈴木淳史
撮影=ハヤシマコ