【あの名建築は今!?】中銀カプセルタワービルのその後 〜2024年〜
中銀カプセルタワービル。かつて銀座8丁目の首都高沿いにあり、まるで宇宙船のような強烈な外観に、心を奪われた人も多かったであろう。
かくいう筆者もその一人で、2021年にはひょんなご縁で7ヶ月間滞在し、その時のさまざまなエピソードを随時レポートしてきた。
残念ながら中銀カプセルタワービルは2022年10月に解体されてしまったのだが、全140カプセルのうち23カプセルを、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトが取り外し、黒川紀章建築都市設計事務所監修のもと修復し、昨年から続々とその一部の再活用が公開された。気になる中銀カプセルタワービルのその後に迫る!
・中銀カプセルタワービル
まず中銀カプセルタワービルの基本情報から。1972年に竣工された建築家・黒川紀章によるメタボリズム建築の代表作。2022年に解体されるまで50年の歴史を刻んだ。
13階建てのA棟と11階建てのB棟のツインタワーで、それぞれエレベーターがあるコア部分を、螺旋状に総数140個のカプセルが配置されている。カプセルは積み上げられているように見えるが実際は独立している。
カプセル自体は約10平方メートル。ユニットバスがあり、その分を抜かすとスペースは約4畳半。昭和のかおりのする広さ。
・惜しまれつつ解体へ
本来ならば「古い細胞が新しい細胞になるように、古くなったカプセルを新しいカプセルに交換できるように」というメタボリズム思想の建築として建てられたのだが、さまざまな事情によりカプセルを取り替えることはなく老朽化により解体された。
私が住んでいたB704のカプセルは2022年6月22日に取り外され、そのまま解体。この目でカプセルが空を飛び、地上に降ろされバラバラになるところまでの一部始終を見届けた。
・希望とともに再生へ
その後、中銀カプセルタワービルの保存と再生を目的に活動する「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」により140カプセルのうち23カプセルが保存され、黒川紀章建築都市設計事務所の監修により修復された。
カプセルは一度、内装をすべて取り外し、綺麗に修繕され、再び1972年の状態に戻される。その再生作業を行っていた千葉県にある倉庫に一度お邪魔したのだが、23個のカプセルが並んでいる眺めは圧巻だった。
現在情報のみのものも含め、公開されているのが13カプセル、8プロジェクト。カプセルの新たな門出を一つずつ見ていこう。
1.淀川製鋼所(ヨドコウ)の「トレーラーカプセル」
再生カプセルの記念すべき第1号は大阪にある鉄鋼メーカー、淀川製鋼所(通称ヨドコウ)によるトレーラーカプセル。車と一体化させた、いわば「動くカプセル」である。
中銀カプセルタワービル関連の本を執筆している工学院大学の鈴木敏彦教授のアドバイスにより、移動可能なトレーラーカプセルとして再生。
この「動く中銀カプセル」を、ヨドコウのリモートで働き、多拠点で暮らすユーザーを対象としたデザインブランド「YODOKO+(ヨドコウプラス)」のシンボルとして活用していく。
また、建築木材CLTパネル構造に置き換えて、現代的にリデザインして製品化した「CLTカプセル」など、ヨドコウの考える新たなカプセルを続けて発表している。
2.東銀座のアートスペース「SHUTL(シャトル)」
2023年10月、松竹株式会社が東銀座にある東劇ビルの隣接地に、2カプセルを活用した多目的スペース「SHUTL(シャトル)」をオープン。アートスペースとして運営している。
1個はオリジナル内装のカプセルで、もう1個は内装を取り払った、いわば鉄骨のままのスケルトンカプセル。
展示中にはカプセルの中に入ることができ、2個のカプセルの違いも楽しめる。
2023年11月には元住人、コスプレ声ちゃんによる写真展「コスプレ声ちゃんのカプセルタワービルデイズ展」を開催。期間中にはカプセル内部でDJも行い、実際にカプセルからDJ配信をしていたコスプレ声ちゃんが、DJによってカプセルの過去と現在を繋げた。
その後も2024年5月には第1回東京建築祭の一会場として参加し、多くの人がカプセルに訪れた。
3.サンフランシスコ近代美術館
アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ市にある、サンフランシスコ近代美術館(通称SFMOMA)でもカプセルの展示が行われる予定で、既にカプセルは引き渡し済み。
はるばる海を渡ったのはA1302。元々、黒川紀章が所有していたカプセルで、140カプセルの中でも珍しい窓が開閉できるタイプのカプセルである。
4.和歌山県立近代美術館(MOMAW)
和歌山県和歌山市にある和歌山県立近代美術館(通称MOMAW)は、1994年竣工の黒川紀章が設計した美術館。和歌山城の天守閣の屋根にあわせた庇が重なり、ダイナミックな意匠を凝らした建築となっている。
黒川紀章の1990年代の比較的新しい建築に、1972年のカプセルが置かれる必然性を感じ、2023年8月よりカプセルが寄託・展示されている。カプセルはA908。
2024年4〜6月にはコスプレ声ちゃんが、「コスプレ声ちゃんのカプセルタワービルデイズ展 in 和歌山」を開催。最終日にはクロージングイベント「帰ってきたカプセルディスコ in 和歌山カプセル」にて、カプセルの前でDJを行い、MOMAWの館長や学芸員もDJとして参加。地元の人々と盛り上がった。
こちらのカプセルの寄託期間は2026年3月まで。そこでMOMAWではカプセルの収蔵(恒久的な保存)を目指し、「中銀カプセルA908保存プロジェクト」をスタート! MOMAWのA908カプセルのロゴを制作し、オリジナルグッズを制作・販売。和歌山の地元企業も協力している。
2024年8〜9月には代官山 蔦屋書店にて「中銀カプセルA908@和歌山県立美術館」フェアを開催した(現在は終了)。オリジナルグッズなどを展開し、一部商品はオンラインでも購入できる。
5.GINZA SIX
2023年末、銀座6丁目にある商業施設「GINZA SIX」のクリスマスプロモーションで、入り口にカプセルを展示。もともと銀座8丁目に中銀カプセルタワービルはあり、場所柄、懐かしむ人も多かった。
内装はリスニングルームをイメージし、70年代の音楽機材などが設置され、シティーポップなどのレコードが並ぶ様子を丸窓から楽しむことができた。
GINZA SIXの屋上には、中銀カプセルタワービルのオブジェを飾ったスケートリンクが登場し、70年代のBGMを聴きながら、過去と現在が交差するような演出がなされた。期間限定により現在は終了している。
6.INAXライブミュージアム
2024年4月より愛知県常滑市にある「INAXライブミュージアム」に1カプセルが展示されている。不定期で内部見学会が行われており、竣工当時の内装を見ることができる。
「INAXライブミュージアム」は水まわり製品や建材製品を開発・提供しているLIXILが運営する、土とやきものの魅力を伝える文化施設。INAXとはLIXILの前身。
中銀カプセルタワービル竣工当時のユニットバスの開発に挑んだのが、INAXのこれまた前身、伊奈製陶だった。伊奈製陶の100周年を記念する企画展「なんとかせにゃあクロニクル―伊奈製陶100年の挑戦―」の一環として、10月12日には中銀カプセルタワービルにちなんだトークイベントが予定されている。
7.宿泊できる「カプセルヴィレッジ」(ソレイユの丘)
美術館に展示するだけじゃなく、宿泊できるカプセルも! という解体前からの要望を実現。横須賀市ソレイユの丘にカプセル5個を並べた宿泊施設カプセルヴィレッジを2025年1月にオープン予定。
5個のうち1カプセルはオリジナルの内装を復元し、残りの4カプセルはデザインコンペにより、採用者のプランをカプセルに施す。現在、泊まれる「中銀カプセル」のオーナーになる【カプセルヴィレッジファンド】を募集中!
・8.香港M+
香港の西九龍文化地区にある現代美術館「M+」では2025年11月より展示予定。
展示されるカプセルはA806で、解体直前までマンスリーカプセルとして運営され、多くの人がカプセル体験をした、思い入れの強いカプセル。
・メタボリズム始動
以上が、13カプセル、8プロジェクトの全貌である。
残りの10カプセルも全て譲渡先は決定し、海外はヨーロッパ・アジア・アメリカ・中東を中心に8カプセルが海を渡り、有名美術館等で展示される。国内でも大型美術館をはじめ、なんと茶室仕様になったカプセルが近々お披露目される予定だ。
銀座から日本各地、そして世界各国に飛びだったカプセルたち。どこでどんなふうに再活用されるのかワクワク、ドキドキである。そしていつか、世界中のカプセルを巡るツアーなどもできたら! と、夢は膨らむ。筆者はこれからもカプセルの今後を追っていくつもりだ。
ここに来て、ようやく黒川紀章が構想していたメタボリズムが始まる!
参考リンク:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト、黒川紀章建築都市設計事務所、YODOKO +、SHUTL、サンフランシスコ近代美術館、和歌山県立近代美術館、GINZA SIX、INAXライブミュージアム、長井海の手公園 ソレイユの丘、香港M+
執筆:千絵ノムラ
Photo:RocketNews24.
▼私が住んでいたカプセルB703との最後の別れ。寂しさと感謝でいっぱいでした
▼千葉にある再生工場にお邪魔した時。並んでいるカプセルは圧巻!
▼中銀カプセルタワービルではできなかったカプセルに挟まれての記念撮影
▼ちょっと暗いのだけど、修復が済んだカプセルにて。新品ホヤホヤ
▼なんと住んでいたカプセルのブレーカーを発見! 今では貴重な思い出の品
▼ブレーカーはいただいて、自宅へ持って帰りました
▼SHUTLの内覧会にて、スケルトンカプセルで。再生ならではの剥き出しの内装に興奮!
▼こちらはSHUTLのオリジナルカプセル
▼SHUTLでの「コスプレ声ちゃんのカプセルタワービルデイズ展」
▼カプセル内にカプセル時代の写真が展示されてるのは感慨深かったな
▼DJで盛り上がるコスプレ声ちゃん!
▼黒川紀章パネルとカプセル人間(白い段ボールで作りました)
▼カプセルとカプセルの間でカプセル人間
▼GINZA SIXでのオシャンティなカプセルと
▼和歌山県立美術館での「コスプレ声ちゃんのカプセルタワービルデイズ展 in 和歌山」
▼中銀カプセルタワービルの嵐!
▼カプセルの前でDJ! 「帰ってきたカプセルディスコ in 和歌山カプセル」
▼私も和歌山まで遠征し、カプセルディスコ満喫しました!
▼声さんとカプセル。シュール
▼代官山 蔦屋書店で2024年9月13日に開催したトークイベント。ロケットニュース24での中銀カプセル記事も紹介させていただきました
▼2023年11月には文学フリマに中銀カプセル仲間と出店。2024年12月1日(日)の文学フリマ東京39にも出店します!
▼メタボリズムTシャツと中銀カプセルタワービルカチューシャで出没!
▼カプセルでの生活を写真とコラムで綴ったZINE、『Vinyl Paper 4 -千絵ノムラ in 中銀カプセルタワービル Eternal-』も販売中