「原作ファンの方にとっても馴染みのある展開が多い映画になっています」──映画『山田くんとLv999の恋をする』 原作者・ましろ先生インタビュー|ゲームならではの素敵な出会い、茜にはモデルとなった人がいた?
マンガアプリ「GANMA!」(コミスマ株式会社)にて連載中の漫画を原作(作者・ましろ先生)とする実写映画『山田くんとLv999の恋をする』が2025年3月28日(金)に公開となります。
アニメイトタイムズでは、映画公開に際してコミック『山田くんとLv999の恋をする』原作者・ましろ先生にインタビューを実施しました。
山田秋斗と木之下茜を演じる主演の作間龍斗さん&山下美月さんの印象や演出で印象的だった部分など、実写映画の話題はもちろんのこと、原作漫画の誕生秘話やキャラクターと物語の創作についてなど幅広くお話を伺いました。
【写真】映画『山田くんとLv999の恋をする』ましろ先生インタビュー
先生がこだわったのは◯◯◯◯
――『山田くんとLv999の恋をする』の実写映画化が決定した際のご感想をお聞かせください。
ましろ先生(以下、ましろ):映画化が決まった時は本当に驚きまして、ありがたいという気持ちと、ただただ「びっくり!」という気持ちが入り混じっていました。シンプルに「楽しみだな」と。
実際に映画本編を観て、主演のお二人が作り出す空気感が良い感じに原作にフィットしていると感じました。
――山田秋斗役・作間龍斗さんと木之下茜役・山下美月さんのキャスティングに際しての印象をお聞かせください。
ましろ:キャスティングについては、かなり初期の段階で「この方になるかもしれない」と伺っていました。
実際に撮影に入る前にお二人とご挨拶させていただいたのですが、作間さんはクールな雰囲気が役にぴったり合っていると感じましたし、山下さんもとても気さくで話しやすく、優しくて綺麗な方でした。
役に合っているか合っていないかは個人の感覚があるとは思うのですが、個人的にはすごく好印象な方々でしたので、ありがたいなと思いました。
――印象に残っているシーンやお気に入りのシーンはありますか?
ましろ:個人的には、「ここ!」という特定のシーンというよりも、日常のさりげない会話のテンポ感が良かったなと感じました。ちょっとしたボケとツッコミのような軽いノリのやりとりがあるので、そういった部分が印象に残っています。
――ストーリーや演出について印象に残っていることもお伺いできればと思います。
ましろ:全体的な雰囲気でいうと、最初から「ターゲット層を中高生だけに限定せず、もう少し上の年代の方々にも楽しんでいただける映画にできたらいいよね」を、プロデューサーの方たちと話していました。
少女漫画としてのフレッシュさよりも、落ち着いた空気感を重視した映像作りにしよう、そういった部分に気を遣いながら丁寧にこだわって作っていただいています。
――本作の発表時、Xのポストにて「前段階の準備に少しだけ参加させていただきました!」とコメントされていましたが、準備の際のお話についてお聞かせください。
ましろ:安川有果監督とは最初に打ち合わせをさせていただいています。「こういう方向性の画面作りや空気感にしたい」と、いくつかの作品を例に挙げながら説明してくださったのですが、実際に完成した映画を見たとき「本当にその通りになったな」と感じました。
脚本についても、脚本家の川原杏奈さんと何度か打ち合わせをしました。脚本が固まる段階まで参加させていただきましたし、細かい部分でいうと山田の衣装なども関わっています。
衣装については、衣装担当の方やプロデューサーの方が衣装を決める現場から、オンライン中継でその様子を見せてくださったり、(衣装の)写真を撮って送ってくださったりして、「NGの衣装は教えてください」とか「衣装の雰囲気はこの方向性でいいですか?」といったチェックを常に行っていただきました。
――衣装に関しては、茜の衣装も同じように選ばれたのでしょうか?
ましろ:そうですね。
――部屋の装飾など、ほかにも何かリクエストはされましたか?
ましろ:お部屋の装飾には関わっていなくて、監督が元々「こういう画作りをしたい」という強いこだわりを持っていたので、そのビジョンにお任せしました。結果的に、すごく可愛らしい部屋の雰囲気に仕上がっていると思います。
――漫画連載から始まり、TVアニメ化、そして今回の実写映画化と、これまでにも大きな節目があったかと思いますが、ここまで作品を描かれてきた中で特に印象に残っている事や、ターニングポイントになったと感じる出来事がありましたらお教えください。
ましろ:連載初期は私自身の初連載作品ということもあり、あまり自分が描いている漫画を客観視できずにとにかく必死という感じでしたね。
客観視できるようになったのは、30話を超えたあたりだったと思います。その頃から周りの方の反応を気にしながら描ける余裕が出てきて、WEBでいくつか賞をいただくこともありました。そういった出来事が、この作品のひとつのターニングポイントになったのではないかと思います。
「ドラマを作るための不自然な展開を入れたくない」
――先ほどのターニングポイントのお話の続きでいうと、 アニメ化決定もひとつのポイントなのではないかなと思うのですが、当時を振り返ったお話もお伺いできればと思います。
ましろ:嬉しかったですね。少女漫画のアニメ化は、よりハードルが高いという印象があったので「本当にアニメにしてもらえるんだ!」と驚きました。おまけ程度でもゲームの要素を入れておいて良かったなと……(笑)。
――近年、プロゲーミングチームなどが話題になることも増えていますが、連載を始める際に「ゲームを題材にしよう」と考えたのは、ご自身がゲーム好きだったからなのでしょうか?
ましろ:そうですね。もともと私自身がゲーム好きでしたし、ちょうどゲーム関係で収入を得る方々もちらほらと出始めた時期だったので、「やってみるか」と思ったのがきっかけでした。
――作品誕生の際は、物語を作る上で最初から「こういうストーリーを書こう」と明確に決めていたのでしょうか?
ましろ:基本的には自分で(物語の)企画を考えて編集部に提出し、通るかどうかの判断を受けるという流れです。
『山田くんとLv999の恋をする』の場合は、当時はことごとく企画が通らない中で、「とりあえず締切に間に合わせなきゃ!」という気持ちで提出した企画だったんです……。なので、正直に言うと連載が決まった時は「本当に連載していいの?!」という驚きの気持ちがありました(笑)。
最初は細かい設定も決めておらず、誕生日を決めていないキャラクターもたくさんいたので、アニメ化のタイミングで改めて設定した部分もあります。
――ストーリー上で山田や茜を動かしていく中で意識した部分を教えてください。
ましろ:山田は無口な男の子という設定なので、あまりしゃべらせないようにはしてきました。その方が後々のギャップを際立たせやすくなりますし、連載中も山田の台詞にはすごく気を遣っていました。
それこそ、広告を出す時に「PRでこの言葉を山田に言わせていいか?」という確認は絶対にしますし、「山田じゃなくて、瑛太に言わせるか!」みたいな打ち合わせはすごくします(笑)。
逆にそういう面では、茜は快活な女の子なので台詞面に関しては自由度の高いキャラクターなんですけど、物語を動かす主人公でもあるので、ずばり反感を買わないように慎重に描きました。
――二人の恋愛模様を描く上で気をつけていることをお聞かせください。
ましろ:連載当初はとにかく必死だったので、できていない部分もあるかもしれませんが、連載を続けるうちに「ドラマを作るための不自然な展開を入れたくない」という考えが強くなり、頑張って避けようとはしていましたね。
わりと身近にある日常のストーリーを作ろうと意識していました。 例えば大きな別れだったり、事故、記憶喪失といった劇的な展開ではなく、コンビニに行く話や虫が出た話といった本当に身近にある出来事で(読者の)共感を得ることに挑戦してみよう、という縛りが自分の中にありました。
設定上だけでいうと、恋人としてステップアップをしていくなかで山田の年齢には気を遣いました。
あとは恋愛エピソードを描く際は2人だけの閉じた世界にならないように、外部的要因でちゃちゃを入れることも多かった気がします。2人がイチャイチャするとすぐにちゃちゃを入れにくる谷やん(谷口智也)を登場させてみたり(笑)。
――連載を通して、先生ご自身は山田と茜の成長をどのように感じられているのでしょうか?
ましろ:山田は茜が初めての彼女なので、40話あたりから明らかに成長したと思います(笑)。身近に女の子がいる生活になったわけですから、描かれていない以上の変化が私生活に細々あるんだろうな。
一方の茜は結構難しくて、連載初期からステップアップしていく余地のないキャラなんです。元々彼氏がいたこともあるし、空気も読める子ですし、人として何かが足りないという状態で大きな課題を持って生まれてきた主人公ではないので、山田と付き合うことによって成長したというよりは、山田に寄り添ううちに少しまろやかに柔らかくなったかなという印象です。
自分が甘えるだけではなく、年下の彼を気遣う恋愛の仕方を知っていくフェーズだなと思います。
――改めてにはなりますが最初にキャラクターを作るときは、どのようにイメージを膨らませていかれたのでしょうか?
ましろ:『山田くん』のキャラクター性に関しては身近な知り合いをモデルにしています。キャラクターを作る時はわりと知り合いの要素をいれることが多いですね。ただ、主人公の茜だけはいろいろな読者の方々が感情移入しやすいような癖のない子をつくりました。
実は「茜」という名前は、昔オンラインゲームで一緒に遊んでいた女の子からいただきました。ゲームの中で出会った茜ちゃんという子とずっと一緒にゲームをしていて、その子があまりにもゲーム慣れしていなくて、よく周りの人たちが教えてあげていました。
当時のオンラインゲームは、今よりも操作が複雑で自分でWindowsをいじらないといけないことも多くて。「プログラムファイルのこのフォルダを開いて、ここにスクリーンショットがあるからね」みたいなことを、一から十まで毎回毎回、茜ちゃんに細かく説明していました(笑)。
――(笑)。ましろ先生が山田くんだったんですね。
ましろ:山田くんというか、他の人が教えているのを見ていて、私は茜ちゃんの取り巻きのその1みたいな風に思われていましたね(笑)。
――名前のモデルになった方はご自身がキャラクターの元になっていることをご存知ですか?
ましろ:たぶん知らないと思います。「遊びに行くね」という話があったくらい当時はすごく仲が良かったんですけど、一緒に遊んでいたゲームのサービスが終了してしまって、それからは疎遠になってしまいました。
――本当にゲームならではの素敵な出会いだったんですね。
漫画家・ましろ先生の創作観
――プロット作りについてですが、先生はどのようにストーリーを組み立てていかれましたか?
ましろ:時間の関係上、連載中はじっくりとプロットを作る時間があまり取れないんです。
なので、2週間に1回×15P前後のページ数の中で、「どんな引きを作って今週は締めよう。その中で見せ場としては、どういう台詞を言わせたいかな」というふうに組み立てています。山田や茜の見せ場を先に考え、そこに繋がるように導入を作ることが多いです。パズルを組み合わせていくような感覚でやっています。
――連載を続ける中で、特に印象に残っている出来事を教えてください。
ましろ:印象的な出来事はたくさんあるなぁ……。いっぱいあるけれど、ただ単純に思うのは、連載は一度走り出すと本当に止まれないんだなと(笑)。
(漫画家生活を)何年も続けるうちに身体が慣れてきて心が落ち着き出した頃に、腰を悪くしてしまったんです……。だから、本当にがむしゃらに頑張って机に齧り付くことは良くないことなんだなと実感しました。
やっぱり定期的に走ったり1時間に一回はストレッチをするべきだったなとか、そういったことはたくさん思いました。
――漫画家さんといえば「締め切りがヤバい!」というエピソードも耳にしたこともありますし、そういったイメージがあります。
ましろ:締め切りが厳しくて健康を損ねるレベルで無理をするよりは、編集部と相談して休ませてもらう方が良いと思っています。 ただ、筆が乗っている時は無意識に机に齧りついちゃうんですよね。明日も今と同じ調子で走れるか分からないから、描ける時に描いておきたいという気持ちが強くて(笑)。
1日何ページがノルマだったとしても、「今日は調子が良いから何ページか貯金できる」と思ったらどんどん描いてしまうタイプです。ただ、それで腰を悪くしたので、反省して今はちゃんと気をつけなきゃと思っています。
創作意欲が高い時は一日中ずっと描いていられます。でも、逆に調子が悪い時は30分も集中して座っていられなくて。勉強と似ていて気分が乗っている時は勉強し続けられるけれど、ダメな時は30分ごとに集中力が切れてしまうんです。
――そういったオン・オフの切り替えのエンジンをかけるルーティンはありますか?
ましろ:前提として、その日の起きた時のコンディションの影響はみなさんあるとは思いますが、私の場合は自分の創作意欲を刺激するような好きな作品を読んだりします。そうすると、「おお!」となりますね。逆にゲームで遊んだ後に仕事をしたりするのは、わりと苦手かもしれないです(笑)。
オフの日もだいたい漫画や小説などの読み物をたくさん読んでいます。 漫画はわりと何でも読みますが一番はやっぱり恋愛ジャンルの作品が多くて、小説はホラーやミステリー系が好きでよく読んでいます。
昔から本が好きで、ただ連載が始まってからは漫画を1本描いていると脳が空っぽの状態になってしまうので、栄養吸収ではありませんが休みの日はできるだけ本を読むことが多くなりました。
ゲームだとSteamで気が向いたときに遊んでいて、サバイバルホラーゲームや、自分が市長になって国を防衛したり侵略したり、発展させていき街を作るシミュレーションゲームをたまにプレイします。
ゲームが得意というわけではなく、すぐに3D酔いするし、買ったはいいけどプレイできないみたいなことが結構あります(苦笑)。
――ましろ先生が影響を受けた作家・クリエイターや作品についてお聞かせください。
ましろ:小説だと、ホラーやミステリー作家の貴志祐介さんが特に好きです。すごく好きで作品を何度も読み返しています。小学生の頃、学校の図書室に村上春樹さんや宮部みゆきさんの本があって、作品を読んでいた記憶があるので、そういうところからホラーやミステリーにハマったのかもしれません。
漫画は好きな作家さんが多すぎて、1人には絞れないですね……。その時に流行っている作品を描かれている作家さんは大抵好きですし、昔の大御所さんも好きです。
幼少期から『ちゃお』や『りぼん』、『なかよし』、『花とゆめ』、『少女コミック』、『マーガレット』、『別冊フレンド』など、いろいろな少女漫画雑誌を読んでいました。
特に2000年代の少女漫画が好きです。少女漫画における「男性キャラの在り方」という部分では、くらもちふさこ先生や征海美亜先生のキャラクターは特に素敵だなと感じていて、影響を受けているかもしれません。
――普段の生活の中で、どのようなものをインプットとして作品作りに反映されているのでしょうか?
ましろ:自分が話す立場であっても他人が話している話も、わりと人の会話をよく聞いている方だと思います。別に意識して覚えているわけではないのですが、家に帰った時にふと思い出す人の会話とか、誰かの上手な切り返し方。あとは、人のちょっとした仕草や行動も覚えています。
さりげなくしてもらった親切とか、そういうことは長々と心に残りますよね。良い出来事はずっと覚えていたいので、何年かして漫画で描くということが多いです。わりと有機物を観察している感じがあります……(笑)。
――もしよろしければ、先生にとってのアニメイトでの思い出を教えてください。
ましろ:私は田舎に住んでいるので、アニメイトに行く機会があんまりないんです。初めて身近にアニメイトができたときは「これが噂のアニメイトか! すごいな!」と思った記憶があります(笑)。
私の地元の本屋さんは一般的な書店が多く、アニメに特化した本屋さんはなかったので、アニメイトの店内を見た時は、「階段にこんなにポスターが貼ってある?!」って驚きました。
――今後、本作関連でパネルジャックやスタンディパネルを大量に設置するなど、やってみたい企画があればお聞かせください。
ましろ:液晶のパネルジャック、ぜひ! そういったチャンスがいただけるのであれば、嬉しいなと思いますね。
――たくさんお話いただきありがとうございました。最後に、公開を楽しみにしているファンの皆さんへ向けてメッセージをお願いします!
ましろ:2時間の尺の物語ではありますが、原作とまったく別物というわけではなく、原作を読んでくださっている方にとっても馴染みのある展開が多い映画になっています。その中でも作間さんと山下さんが、また新しい「山田」と「茜」を作ってくださったことで、原作とはまた違った魅力が生まれています。
原作を知ってくださっている方は原作との共通点や違いを見つけながら、ぜひその細かい違いを楽しんでいただけたら嬉しいです。
[取材・文/笹本千尋]
「山田くんとLv999の恋をする」実写映画化記念フェア
開催期間:2025年3月28日~5月6日
開催場所:全国アニメイト(通販を含む)
開催内容:対象商品を1冊ご購入ごとに特典を1枚プレゼントさせて頂きます。
特典内容:<アニメイト限定特典>チケット風カード(全5種) <他法人共通特典>映画フィルムデザインしおり(全3種)
※特典はお選びいただけません。
※特典はなくなり次第終了となります。
※内容は諸般の事情により、変更・延期・中止となる場合がございます。
実写映画『山田くんとLv999の恋をする』作品情報
出演:作間龍斗 山下美月
NOA 月島琉衣 鈴木もぐら(空気階段) 甲田まひる
茅島みずき 前田旺志郎
監督:安川有果
脚本:川原杏奈
原作:ましろ「山田くんとLv999の恋をする」(コミスマ「GANMA!」連載)
主題歌:マカロニえんぴつ「NOW LOADING」(TOY’S FACTORY)
制作:角川大映スタジオ 配給:KADOKAWA
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