【子どもの誤飲・誤嚥】「喉に魚の骨が刺さったらご飯を丸飲み」は悪化の可能性 対処法と受診の目安〔小児科医が解説〕
子どもの誤飲・誤嚥。旧常識「喉に魚の骨が刺さったらご飯を丸飲みする」について小児科医・森戸やすみ先生が新常識を解説。子どもに多い病気やケガへの対処法の最新知識を伝える連載「令和の子どもホームケア新常識」第11回。
【画像で見る】子どもに多い「猫ひっかき病」とは?【旧常識】喉に魚の骨が刺さったらご飯を丸飲みする。現代の子育てやホームケアには、私たち親世代が子どもだったころとは大きく変わってきているものが多数あります。子ども時代の記憶を頼りに、古い常識のまま子育てをしていませんか?
本連載【令和の子どもホームケア新常識】では、子どもに多い病気やケガへの現代の正しい最新対処法などを、小児科医・森戸やすみ(もりと・やすみ)先生が解説。
第11回は「喉に魚の骨が刺さったらご飯を丸飲みする」という旧常識について。
ご飯の丸飲みで骨がより深く刺さることも
食事中に魚の骨が喉に刺さり、痛い思いをした経験がある人は多いでしょう。東北大学の調査(※1)によると、そうしたトラブルは4歳児以下に多いことがわかっています。
昔から「魚の骨が喉に刺さったら、ご飯を丸飲みするといい」とよく言われますが、この対処法は正しいのでしょうか? 森戸やすみ先生に伺いました。
「ご飯丸飲み」はせずに「耳鼻咽喉科」へ
「ご飯を丸飲みする」という方法は、昔からの習慣として言い伝えられていますが、おすすめはできません。丸飲みしたご飯が魚の骨を押し込んで、より深く刺さってしまう危険性があるからです。上手に骨が取れるケースは、稀(まれ)なのではないでしょうか。
喉や食道の粘膜に骨が深く刺さると、医療機関を受診しても、口の中を覗いてピンセットなどで取り除くのが難しくなります。局部麻酔の使用や、場合によっては内視鏡による摘出、全身麻酔による手術が必要になることも。ご飯に限らず、さらに何かを食べさせて無理に取ろうとするのはやめましょう。
骨が刺さった場合、小さい骨や浅く刺さった骨なら、自然に取れることもあります。少量の水を飲ませたり、うがいをさせたりして、少し様子を見てもいいでしょう。
違和感や痛みが続くようなら、耳鼻咽喉科を受診してください。小児科では、喉の奥まで診ることができません。耳鼻咽喉科なら、咽頭鏡(いんとうきょう)や専門の器具で骨を取り除いてくれますよ。
食べたり飲んだりしたもの、口の中で分泌された唾液には細菌が混ざっていて、魚の骨自体にも細菌が付着しています。刺さった骨をそのままにしておくと、傷口から細菌が入って感染症を起こし、赤い腫れや痛みを伴う炎症を起こす危険性があるので注意が必要です。
感染が広がると、膿(うみ)がたまった状態である膿瘍(のうよう)ができたり、細菌感染症のひとつ・蜂窩織炎(ほうかしきえん)を発症する恐れも。重度の場合、胸の中心部である縦隔(じゅうかく)が炎症を起こして縦隔炎(じゅうかくえん)になり、胸痛や呼吸困難などの症状があらわれることもあります。
このようなトラブルを防ぐには、魚の骨は大人が取って身をほぐす、急いで食べさせない、魚の骨を取る方法を教えるなど、お子さんの成長に応じて工夫をするといいですね。
孤食を防ぐ意味でも、小学生のうちは大人と一緒に食べたほうが安心ではないでしょうか。魚は肉とともに大事なタンパク源ですから、安全に食べてほしいと思います。
食べものによる誤嚥にも注意
食事中は、魚の骨のほかに、食べものによる誤嚥(ごえん)にも注意しましょう。誤嚥とは、食べものや異物が、空気の通り道である気道へ入ってしまうこと。保育園や小学校の給食中、誤嚥による窒息でお子さんが亡くなるという悲しい事故が起きています。いざというときのために、正しい対処法を知っておくといいですね。
昔から「食べものを詰まらせたら、掃除機で吸う」という通説がありますが、うまく吸い出せるのかは難しいところです。
誤嚥を疑ったら、以下の方法で対処してください。食べもの以外の異物が詰まったときにも使える方法で、母子手帳にも載っています。
お子さんがぐったりしているとき、突然声が出なくなったとき、顔色が悪いときなどは、窒息の危険性があります。窒息は1分1秒を争うので、すぐに救急車を呼びましょう。
▼1歳未満の場合
・背部叩打法(はいぶ・こうだほう)
子どもの体をうつ伏せにして、救護者の片腕や立てひざにした脚、椅子に座った状態の脚など、柔らかすぎないものにのせる。手のひらで子どものあごを支えながら頭がやや低くなる姿勢を保ち、もう一方の手のひらの付け根で、子どもの背中(肩甲骨の間)を数回強く叩く。
・胸部突き上げ法
子どもの体を仰向けにして、救護者の片腕にのせる。子どもの頭がやや低くなるような姿勢を保ち、手のひらで後頭部をしっかり支える。もう一方の手の指2本で、子どもの胸の真ん中を数回連続して強く圧迫する。
※背部叩打法と胸部突き上げ法を交互に繰り返す
▼1歳以上の場合
・腹部突き上げ法(ハイムリック法)
子どもの背後から胸のほうへ両腕を回し、片方の手を拳(こぶし)にして、みぞおちの下に当てる。もう一方の手をその上に当てて、両手で腹部を上方向へ圧迫するようにぐっと突き上げる。
4cm以下のものなら3歳児の口に入る
誤嚥しやすい代表的な食べものは、ミニトマト、ぶどう、こんにゃくなど丸飲みしやすいもの、パンやさつまいもなど唾液を吸ってしまうもの、餅など嚙み切りにくいもの、ピーナッツなどの豆類などです。日本小児科学会のガイドラインでは、ピーナッツなどの豆類は、5歳児以下には避けるよう記されています(※2)。
ただ、こうした食べもの自体が悪いわけではありません。食べもののひと口大を小さくする、一度にたくさん口に入れない、急いで食べない、よく嚙むことが、誤嚥を防ぐポイントです。給食でも短時間で完食をめざさないように、お子さんに伝えるとよいでしょう。
誤嚥しやすいものを食べるときは、大人がそばで見ていて、咳をしていないか、むせていないか、顔色が悪くなっていないかなど、お子さんの様子に十分注意してください。
食べもの以外でも事故は起こります。私が勤務していた病院にも、プラモデルのパーツを誤飲したお子さんがいらしたことがあります。
親御さんが「何してるの!」と声を上げたときに、驚いて飲み込んでしまったようです。レントゲンを撮ると気管支の途中に詰まっていることがわかり、外科の先生によって内視鏡で取り除くことができました。
このケースでは、プラモデルのパーツを誤飲したと親御さんが認識していましたが、何を誤飲したのかわからないときは、𠮟らずに正確に聞き出してください。食べものは、レントゲンに写らないので確認しづらいうえ、唾液で崩れてもっと奥に入り込むことがあります。
窒息するほど苦しそうではないけれど、咳き込んでいるとき、ゼイゼイしているときは、気道に何か引っかかっている恐れもありますので、すみやかに医療機関を受診してください。緊急性が高い場合は、救急外来を利用するのもよいでしょう。
母子手帳の後ろのほうに、直径39mmの穴が抜かれたページがあるのをご存知でしょうか。これは、3歳児の口の実物大のサイズです。この穴を通るものは子どもの口の中に入り、誤飲や窒息の恐れがあります。思いがけない事故を防ぐためにも、ぜひ参考にしてくださいね。
〔小児科医:森戸やすみ〕
【子どものホームケアの新常識 その11】
魚の骨が喉に刺さったときは、水を飲んだりうがいをして様子を見て、取れないなら耳鼻咽喉科へ。誤飲・誤嚥したときは、1歳未満は背部叩打法と胸部突き上げ法、1歳以上は腹部突き上げ法で、食べものや異物を取り出す。
取材・文/星野早百合
●森戸 やすみ(もりと・やすみ)PROFILE
小児科専門医。一般小児科、新生児集中治療室(NICU)などを経験し、現在は都内のクリニックに勤務。医療と育児をつなぐ著書多数