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東日本大震災と塩屋埼灯台―震災を乗り越えた灯台守・小野季子さんの軌跡【福島県いわき市】

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太平洋を望む岬に立つ白亜の灯塔「塩屋埼灯台」。全国に約3,300基ある灯台のうち、ここは16基しかない「のぼれる灯台」のひとつだ。日本の灯台50選にも選ばれ、地域名をとって地元では「とよまの灯台」と呼ばれ親しまれている。

 この灯台は、1957年公開の映画『喜びも悲しみも幾年月』のモデルにもなり、長年にわたって地域住民や旅行者に愛されてきた。

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「灯台守」としての功績――小野季子さんに感謝状贈呈

塩屋埼灯台の「灯台守」として活躍する公益社団法人燈光会(とうこうかい)塩屋埼支所長の小野季子(おの・としこ)さん。

 2024年11月12日、福島海上保安部は「灯台記念日」に合わせて、小野季子さんの長年にわたる貢献をたたえ、感謝状を贈呈した。小野さんは10年以上にわたり、航路標識業務の広報活動などの普及に尽力してきた。施設の異常をいち早く察知し報告するなど、その役割は多岐にわたる。

2011年3月11日、東日本大震災が発生。この日に塩屋埼灯台で起きたことを小野さんは次のように振り返る。 

塩屋埼灯台は故美空ひばりさんの名曲「みだれ髪」の歌詞「塩屋の岬」でも有名。撮影:2024年12月15日

小野季子さんが体験した、塩屋埼灯台の東日本大震災

東日本大震災被災当時の様子を伝える資料。撮影日:2020年11月29日

2011年3月11日――。この日は朝から快晴で気温も高く、春の訪れを感じる陽気でした。早春の金曜日にしては珍しく、午前中から多くの参観者が訪れていました。「春の観光シーズンが近づいてきたな」と思いながら、灯台の業務をこなしていました。 午後2時20分頃、最後の親子連れのお客さんが灯台を後にし、参観者の人数を集計していた時でした。

突然、強い揺れが始まり、机の上の携帯電話から緊急地震速報のアラームが鳴り響きました。これまで経験したことのない、激しく、長い揺れ――私は机の角を両手でつかみ、身をかがめて必死に耐えました。

 その時です。「ガッチャーン!!」と、灯台の方からものすごい音が聞こえました。しかし、揺れが激しく、窓から身を乗り出すこともできず、何が起きたのか分かりませんでした。

 ようやく揺れが弱くなり外へ出て望遠鏡の横に腰を下ろし、灯台の方向を振り返ると、灯台上部にあるレンズ室の窓ガラスが全て割れ、はしごも外れていました。

 「この岬が崩れてしまうのではないか――」恐怖に近い感情に襲われました。

 少し落ち着きを取り戻し眼下の街に目を向けると、舞い上がる砂ぼこりの間から倒壊した家屋がたくさん見え、「大変なことが起きた」と全身が震えました。

 余震は断続的に続きました。資料展示室から灯台へ続く通路の側面の板が外れ、余震のたびに通路が徐々に砕けていくのが見えました。「灯台とこの岬はどうなってしまうのだろう」「自分は無事に戻れるのだろうか」と、不安な気持ちが次々とわき上がってきました。

それでも、なんとかか灯台の坂を下り、ふもとにある土産物店の2階に身を寄せました。しかし、津波の可能性が頭をよぎったので再び灯台に戻り、津波が落ち着くのを待つことに。

 その後、知り合いの車に乗せてもらい、ようやく帰宅したのです。

震災当時、小野さんが灯台から見た薄磯地区。写真左奥に見えるのが塩屋埼灯台。写真提供:いわき市

 復興のシンボルとしての塩屋埼灯台

震災により、灯台は大きな被害を受け、一時は消灯を余儀なくされた。しかし、約9カ月後には再び灯火が点され、復興のシンボルとしてその役割を果たし続けることとなる。倒壊した通路や法面(のりめん)の修復工事は困難を極めたが、多くの人々の尽力によって、2014年2月に灯台の参観は再開された。

  震災の記憶を「自分事」にすることの大切さ

塩屋埼灯台では、小野さんによる震災被災当時の様子を伝える資料が展示されている。

東日本大震災は、決して過去の話ではない。災害はいつ、どこで発生するかわからない。だからこそ、実際に体験した人々の話を聞き、学び、自分事として捉えることが重要である。

「灯台は、ただ海を照らすだけでなく、歴史や地域文化をも照らし続ける存在です」

小野季子さんが守る塩屋埼灯台。その光は、震災を乗り越えた人々の思いとともに、未来へ向かって輝き続ける。

 参考資料:公益社団法人燈光会(https://www.tokokai.org/)

昆愛

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